#金継ぎ

★「金継ぎ」の発想で能登復興の10年先、20年先をつなぐ

★「金継ぎ」の発想で能登復興の10年先、20年先をつなぐ

   輪島市や珠洲市など能登半島地震の被災地をめぐると、これまで行き来した能登での思い出などが蘇って来る。輪島で倒壊した7階建ての建物は、輪島塗の製造販売(塗師屋)の大手「五島屋」のビルだ=写真・上=。倒壊した内部の様子を外から見ると、グランドピアノが横倒しになっている。展示場で飾られてあった、輪島塗のピアノだろうと察した。

   もう40年も前の話だが、当時、新聞記者として輪島支局に赴いた。そのとき、当時の社長の五島耕太郎氏(1938-2014)と取材を通じて知り合った。チャレンジ精神が旺盛で、「ジャパン(japan)は漆器のことなんだよ」と言い、海外での展示販売などに積極的だった。また、「輪島塗は器や盆だけじゃない。ピアノも輪島塗でできる」と話していたことを覚えている。バブル景気の走りのころで、輪島塗業界には勢いがあった。その後、五島氏は1986年に輪島市長に就き、3期12年つとめた。そして漆器業界はバルブ経済絶頂には年間生産額が180億円(1991年)に達した。横倒しになったグランドピアノはそんなころに作られたものかと憶測した。

  話は変わるが、輪島塗は塗り物だが、焼き物との接点もある。「金継ぎ」と呼ばれる、陶器の割れを漆と金粉を使って器として再生する技術のこと。2022年1月に珠洲市の国際芸術祭の会場の一つ「スズ・シアター・ミュージアム『光の方舟』」にある大皿にも金継ぎが施されていた。松の木とツルとカメの絵が描かれ、めでたい席で使われたのだろう。それを、うっかり落としたか、何かに当てたのだろうか。中心から4方に金継ぎの線が延びている=写真・下=。大正か昭和の初めのころの作か。金継ぎの皿からその家のにぎわいやもてなし、そして「もったいない」の気持ちが伝わってくる。  

  「kintsugi」という言葉が世間に、そして世界に広がったきっかけは、東京パラリンピックの閉会式(国立競技場・2021年9月5日)でアンドリュー・パーソンズ会長が発した言葉だった。日本の金継ぎの技術について、「不完全さを受け入れ、隠すのではなく、大切にしようという発想であり素晴らしい」と述べた。その背景には、サステナビリティやサーキュラーエコノミー(循環型経済)を各国が推し進めていることもある。

  輪島で受け継がれている金継ぎ技術から連想するのは、震災で壊れた能登の復興だ。壊れた皿に漆と金箔を使うことでアートを施して芸術的価値を高める。能登の復興も単なる復興ではなく、不完全さを受け入れながらも住み易さや、未来への可能性を確信させる街づくりに向っていく。金継ぎの発想で能登の復興の10年先、20年先をつなぐ。そうあってほしい。

⇒13日(土)午後・金沢の天気    はれ

☆高騰する金の価格 金を楽しむ金沢という街

☆高騰する金の価格 金を楽しむ金沢という街

   金沢では金箔は体によいとされ、金箔を入れた日本酒、化粧品、金箔をまいたソフトクリーム、うどんもある。かつて、金沢の子どもたちが頭にたんこぶをつくると、金箔が熱の吸収によいことから膨らんだ部分にはっていた。

   「金沢は金箔で持つ」と言われるくらいに、金沢は伝統的に金箔生産量を誇り、全国シェアは98%だ。金を極限まで薄く伸ばしたのが金箔であり、この「縁付(えんつけ)金箔」と呼ばれる製法は「伝統建築工匠の技」の一つとして、2020年にユネスコ無形文化遺産にも登録されている。(※写真は、金沢金箔伝統技術保存会ホームページより)

   その金の価格が高騰している。日経新聞Web版(8月29日付)によると、国内小売価格が税込みで1㌘1万円の大台に初めて乗せた。地金商最大手の田中貴金属工業が29日発表した販売価格は前日比28円高の1㌘1万1円と、連日で最高値を更新した。外国為替市場で円安・ドル高が進行し、円建ての国内金価格が上昇。世界景気の減速懸念から「安全資産」とされる金が選好されていることも後押ししている。

   こうなると金箔生産が盛んな金沢では、業者は材料が難しくなるのではと思ったりもする。ところが、そうではないようだ。知人からかつて聞いた話。「金箔製造業者は潰れない(倒産しない)」と。なぜなら、インゴット(地金)の価格が安いときに大量に仕入れ、高くなれば売って経営を安定させる。「良質な金を見極める目利きであり、金箔業者は金のトレーダーだよ」と知人は妙にほめていたことを覚えている。

   金沢では金箔製造業者の店舗は観光地スポットでもある。店に入ると、工芸品や化粧品、食用金箔、建築装飾、箔材料、観光などさまざまな商品が並ぶ。最近では「金継ぎ」が国内外で知られるようになった。東京パラリンピックの閉会式(国立競技場・2021年9月5日)でアンドリュー・パーソンズ会長が発した言葉だった。日本の金継ぎの技術について、「不完全さを受け入れ、隠すのではなく、大切にしようという発想であり素晴らしい」と述べて、金継ぎという言葉が世界でもトレンドになった。さらに、金継ぎは一度は壊れてしまった製品を修復するだけでなく、金箔を使うことでアートを施し、芸術的価値を高める。

   金の価格高騰もさることながら、その金をどのように生活で使い、楽しみ、新たな価値を創造するか。金沢という街はそのショーウィンドーかもしれない。

⇒4日(月)夜・金沢の天気  くもり  

★「チャールズ・パッチ」と「金継ぎ」の循環型経済

★「チャールズ・パッチ」と「金継ぎ」の循環型経済

   最近何かとイギリスの王室の話題がテレビの情報番組などで紹介されている。気になった言葉があった。「チャールズ・パッチ」。9月に即位したイギリスのチャールズ国王は皇太子時代から、愛用していた革靴や衣類にパッチを施して使い続けたことから、この言葉が広がったようだ。丁寧な修繕という意味だろうか。靴の場合、ただの革のパッチではなく、張り合わせた革を縫いつけ固定することで、ひび割れなどを隠して補強するという丁寧な補修を指す。

   検索すると、イギリスのメディア「デイリーメール」Web版(2018年4月8日付)に「The penny pinching prince! Charles reveals that he is still wearing a pair of shoes he bought in 1971 – and is holding on to a 50-year-old jacke」の見出しで、チャールズ・パッチのことを紹介している=写真・上=。皇太子(当時)は1971年に購入し、パッチした靴を47年間も履いていて、50年前のジャケットをまだ着ていると話した、と報じている。

   このチャールズ・パッチという言葉を知って、「金継ぎ」という言葉を連想した。陶器のひび割れを漆と金粉を使って器として再生する技術のこと。知人から見せてもらった金継ぎの茶碗は紅葉の絵の抹茶碗に細かく金継ぎが施されている=写真・下=。若いころ茶道を習っていて、茶碗をうっかり落としてしまった。茶道の先生からいただいた思い出のある茶碗だったので修復を依頼したそうだ。

   金継ぎという言葉が世界に広がったきっかけがあった。東京パラリンピックの閉会式(国立競技場・2021年9月5日)でアンドリュー・パーソンズ会長が発した言葉だった。日本の金継ぎの技術について、「不完全さを受け入れ、隠すのではなく、大切にしようという発想であり素晴らしい」と述べて、金継ぎという言葉が世界でもトレンドになった。さらに、金継ぎは一度は壊れてしまった製品を修復するだけでなく、金箔を使うことでアートを施し、芸術的価値を高める。

   もともと、欧州やアメリカでは「kintsugi」が知られていた。その理由の一つが、サステナビリティとサーキュラーエコノミー(循環型経済)を各国が推し進めていることが背景にある。サーキュラーエコノミーとは資源や製品が高い価値を保ったまま循環し続ける社会経済だ。このサーキュラーエコノミー実現において、製品をできるだけ長く使い続けることは特に重要視されており、修繕はその要となる。SDGs「17の目標」とも調和がとれる。

⇒26日(月)夜・金沢の天気   あめ  

☆「金継ぎ」「kintsugi」に読む世界の潮流

☆「金継ぎ」「kintsugi」に読む世界の潮流

    器のひび割れを漆と金粉を使って器として再生する金継ぎのことを今月23日付のブログで書いた。能登半島の珠洲市にある「スズ・シアター・ミュージアム『光の方舟』」で展示してあった松の木とツルとカメの絵が描かれた大皿だった。東京パラリンピックの閉会式でのアンドリュー・パーソンズ会長の言葉「不完全さを受け入れ、隠すのではなく、大切にしようという発想であり素晴らしい」が日本人の心にも響いて、金継ぎという言葉が世界でもトレンドになったと述べた。

   このブログを読んでくれた知人女性が「金継ぎの茶碗を持ってます」と写真添付のメールを送ってくれた。写真は、紅葉の絵の抹茶碗に細かく金継ぎが施されている=写真=。メールによりと、若いころ茶道を習っていて、茶碗をうっかり落としてしまった。茶道の先生からいただいた思い出のある茶碗だったので修復を依頼したそうだ。そして、メールには「パーソンズ会長の発言以前から世界ではkintsugiがトレンドになっています」と、Forbes JAPANのWeb記事「ビジネスマインドとしても注目 なぜ今、世界はキンツギに魅了されるのか」(2021年12月12日付)を紹介してくれた。記事を読むと、欧米人がkintsugiをどのように考察しているのか丁寧に書かれてあった。以下記事をかいつまんで紹介する。

   Googleトレンドによると、「kintsugi」の検索数は2012年頃から徐々に増え続けいるが、2015年に飛び抜けて検索数が増加した。アメリカの人気インディーロックバンドDeath Cab for Cutieが楽曲アルバム「Kintsugi」を発売した頃に重なる。前年に1人の重要なメンバーが離脱してから初めてのアルバムとなったが、過去を受け止め、自己を修復し、この先も活動していく意思を示したものとなった。楽曲についての賛否は様々だったようだが、金継ぎという哲学について世界の多くの人が知るきっかけとなった。

   2017年にはハイエンドファッションブランドのヴィクター&ロルフが金継ぎをテーマにした春夏のクチュールを発表。2019年後半にはGoogleトレンドの注目度が加速する。これは同年12月に公開された映画『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』によるものとみられる。本編の中で印象的なのは、メインキャラクターのひとり、カイロ・レンの壊れたマスクが修復され、再び登場するシーン。前作で本人によって破壊されたこのマスクだが、傷を隠したりなかったことにするのではなく、傷跡やヒビが赤いラインで縁取られている。これは過去の物語を受け止め、自分の一部として受け入れ、前に進むための象徴として描かれており、日本の金継ぎにインスピレーションを受けたものだという。

   2020年には玩具メーカーLEGO社がグローバルマーケティングキャンペーン「Rebuild the World」の中で、金継ぎをテーマにした「レゴツギ」キャンペーンを展開。壊れたものを直す楽しさと創造性を、金継ぎの考え方とともに世界に向けて発信した。

   ではなぜ、欧州やアメリカを中心に世界はkintsugiに注目しているのか。その理由の一つとして、サステナビリティとサーキュラーエコノミーを各国が推し進めていることが背景にある。サーキュラーエコノミーとは資源や製品が高い価値を保ったまま循環し続ける社会経済だ。このサーキュラーエコノミー実現において、製品をできるだけ長く使い続けることは特に重要視されており、修繕はその要となる。金継ぎは、一度は壊れてしまった製品をただ巻き戻して壊れていない状態にするだけではなく、美しいアートを施し、歴史というストーリーとともに芸術的価値をともなった製品に仕立て上げる。その発想がサーキュラーエコノミーと符丁が合う。

   以上、Forbes JAPANの記事で感化されたことは、金継ぎの発想はサーキュラーエコノミーに代表されるように世界の潮流になりつつあるということだ。ひょっとしてSDGsの「18の目標」として追加されるのでは。

⇒25日(火)午後・金沢の天気    くもり

☆「光で再生した古い家」と「金継ぎの皿」

☆「光で再生した古い家」と「金継ぎの皿」

   能登半島の珠洲市で開催された「創造都市ネットワーク日本(CCNJ)現代芸術の国際展部会シンポジウム」の続き。2日目(最終日)はバスで常設作品を見学するエクスカーションだった。印象的だったのは中島伽耶子作『あかるい家   Bright  house』。珠洲は珪藻土で屋根瓦や七輪などを生産する工場がいまもある。使われなくなった相当古い戸建ての事務所に入ると、まるで銀河の世界のようだった=写真・上=。外壁や屋根に無数の穴が開けられていて、穴から太陽光が差し込んでくる。

    よく見ると、穴の一つ一つには穴と同じ直径の透明の円柱のプラスチックが埋め込まれていて、雨や風などが入ってこないように工夫されている。それにしても、星空のごとく無数の穴を創るだけで相当の労力だ。柱や梁がしっかりと造られているものの、古いこの家をアートとして再生させた作家のモチベーションを聴きたくなった。

   6作品をめぐるエクスカーションの最後は「スズ・シアター・ミュージアム『光の方舟』」。このミュージアムのコンセプトは「大蔵ざらえプロジェクト」。半島の尖端にある珠洲は古来より農業や漁業、商いが盛んだったが、当時の民具などは時代とともに使われなくなり、その多くが家の蔵や納屋に保管されたまま忘れ去れていた。市民の協力を得て蔵ざらえした1500点を活用し、8組のアーティストと専門家が関わって博物館と劇場が一体化した劇場型民俗博物館としてミュージアムがオープンした。日本海を見下ろす高台にある廃校となった小学校の体育館だ。

   奥能登は「キリコ祭り」という伝統的な祭り行事がいまでも盛んで、人を料理でもてなすことを「ヨバレ」と言う。そのヨバレで使われたであろう古い食器などが展示されているコーナーを見学した。目に止まったのが「金継ぎ」の大皿だった=写真・下=。松の木とツルとカメの絵が描かれ、めでたい席で使われたのだろう。それを、うっかり落としたか、何かに当てたのだろうか。中心から4方に金継ぎの線が延びている。

   東京パラリンピックの閉会式でアンドリュー・パーソンズ会長が発した言葉を思い出した。器のひび割れを漆と金粉を使って器として再生する日本の金継ぎの技術について、「不完全さを受け入れ、隠すのではなく、大切にしようという発想であり素晴らしい」と述べて、金継ぎという言葉が世界でもトレンドになった。

   この家の大正か昭和の初めのころの皿だろうか。金継ぎの皿からその家のにぎわいやもてなし、そして「もったいない」の気持ちが伝わる家風まで見えてきたような思いだった。

⇒23日(日)夜・金沢の天気        くもり