#金沢21世紀美術館

☆震災から半年ぶり「21美」が全面再開 度肝を抜くフォルム

☆震災から半年ぶり「21美」が全面再開 度肝を抜くフォルム

  元日の能登半島地震で展示室のガラス天井が落下するなどの被害があった金沢21世紀美術館がきのう(22日)半年ぶりに全館で営業を再開した。たまたま21美の前を車で通ると、兼六園側の入り口に巨大なフォルムの作品が展示されていた=写真・上=。まるで恐竜か怪物か何かような度肝を抜くような作品で、全館での営業を再開を祝っているのかと想像を膨らませながら素通りした。

  その作品が気になり、きょう午前中に21美を訪れた。美術館のメインエントランスに鎮座するこの作品は『死の海』。説明書きによると、ブラジルの作家、エンリケ・オリヴィエラの作品(2024)。生命体のように曲がりくねるフォルムはオリヴィエラが20年来続けているシリーズの一つで、入り口という空間を支配する生き物のようにも感じる。

  さらに面白いのは、作品の素材だ。オリヴィエラは廃棄された家具や建設現場など捨てられた木材を集めて作品材料としている。人は広大な森林から自然の樹木を伐採し加工して、家具や建物といった消費財にしている。こうした工程から出た木材をあえて作品として展示することで、人間と環境問題を考察してもらいたいとの意味を持たせている。今回の作品も、ブラジルで拾った膨大な合板の廃材に芸術作品という新たな生命に吹き込んだものだ=写真・下=。

  『死の海』という作品名の勝手解釈を以下。本来ならば樹木が育つ森林こそが生命の海でもある。それが伐採され、廃棄された樹木が無残に捨てられた投棄現場は死の海、この意味を考えてほしいというのがオリヴィエラの訴えなのだろうか。

  21美の今年のテーマは「アートとエコロジー」。政治や社会・自然環境が大きく変動する時代にあって、美術館として何ができ、どう未来に進んでいくのか探究していくというテーマなのだろう。その意味で、作品『死の海』が美術館のメインエントランスで展示された意味は大きいのかもしれない。

  地震によって半年ぶりに開幕となった展覧会名は「Lines(ラインズ)─意識を流れに合わせる」。日本、ベトナム、オーストラリア、ガーナ、フランス、オランダ、デンマーク、チェコ共和国、アメリカ、ブラジルの10ヵ国から多種多様な文化的背景を持つ16作家(グループを含む)の35作品が並ぶ。会期は10月14日まで。再度ゆっくり鑑賞したい。

⇒23日(日)午後・金沢の天気    あめ

☆金沢名所めぐり~21美に友禅の五彩、白い布まとう男~

☆金沢名所めぐり~21美に友禅の五彩、白い布まとう男~

   先日久しぶりに金沢21世紀美術館に入った。中には観光客が大勢いた。21美は円形の建物になっていて、「正面」という概念はなく、いろいろな場所からの入り口がある。市役所側からの入り口で「チケットをください」と言うと、「きょうは休館日です」との返事。すかさず、「交流ゾーンでは作品が無料で見れますので、どうぞ」と丁寧な対応だった。休館日でもこれだけ人が入るのかと思うくらいのにぎわいだった。

   せっかくなので無料ゾーンで楽しんだ。館内の市民ギャラリ―の壁に描かれている、色鮮やかな花や植物の文様。台湾のアーティストであるマイケル・リン氏の作品=写真・上=。金沢市民だったら、おそくらイメージが沸く。加賀友禅の模様だ、と。推測だが、マイケル・リン氏が金沢を訪れて加賀友禅の着物に描かれた文様が気に入ったのだろう。模様は加賀友禅の中でも古典的な図案のモチーフだ。そして、「加賀五彩」と称される藍、臙脂(えんじ)、黄土、草、古代紫の5色を基調に描いている。かなりのめり込んだ作品だ。

   手前には壁と同じモチーフのロッキングチェアがある。この美術館を共同設計した妹島和世氏と西沢立衛氏によるデザインのイス。そして、このイスに座ると見えてくるアートが、空に向かって定規をあてる姿を描いたブロンズ像「雲を測る男」。ベルギーの作家ヤン・ファーブル氏の作品だ=写真・中=。作品目録によると、ヤン・ファーブル氏はあの有名な昆虫学者ファン・アンリ・ファーブルのひ孫という。

   作品は映画「アルカトラズの鳥男」(1961年・アメリカ)から着想を得た、とある。サンフランシスコ沖のアルカトラズ島にある監獄に収監された主人公が独房で小鳥を飼ううちに、鳥の難病の薬を開発したという実話に基づく。映画の終わりの場面で「研究の自由を剥奪された時は何をするか」と問いに主人公が答えたセリフが「雲でも測って過ごす」だったことからこの作品名がついたとか。昆虫学者の末裔らしい、知的なタイトルではある。

   これは自身の個人的な見立てなのだが、雲を測る男が白い布をまとうときがあり、これが空に映えてまるで生きた人物のような存在感がある=写真・下、2004年9月撮影=。何しろ屋上に設置されているので、大型の台風が接近すると倒れるかもしれないと、美術館のスタッフが布を胴体に巻いて、その上にワイヤーを巻いて左右で固定し、台風一過で取り外すそうだ。レアな日でしか見ることができない、「白い布をまとう男」になる。

⇒8日(水)午後・金沢の天気   はれ時々くもり

☆金沢の茶席で見たトンボ絵の茶器のこと

☆金沢の茶席で見たトンボ絵の茶器のこと

      きょうは3連休の初日。空模様を気にしながら、3年ぶりに開かれた「金沢城・兼六園大茶会」(石川県茶道協会など主催)に足を運んだ。「大茶会」と言うのも、4つの会場で茶道7流派の12の社中が日替わりで茶席を設ける形式。4つの会場は金沢城や兼六園の近くにあり、それぞれ趣きのある場の雰囲気にひたりながら茶の湯を楽しむことができる。

   最初に訪れたのは金沢21世紀美術館の敷地の一角にある茶室「松涛庵」。もともとは加賀藩主が江戸時代の末期に東京の根岸に構えた隠居所だった。その後、金沢に移築されて茶室に改装、平成13年(2001)に金沢市が取得して一般公開している。露地は枯山水の造り。モダンアートを展示する「21美」とは真逆の伝統的な和風空間でもある。

   ここで表千家の社中が立礼(りゅうれい)席を設けていた。立礼は椅子に座ってお茶を点てる作法=写真・上=。客も椅子に座り、抹茶碗はテーブルの上に置かれる。まさに和洋折衷の風景だ。一説に、明治5年(1872)に西本願寺などを会場として京都博覧会が開かれ、裏千家が外国人を迎えるために考案したものとされる。文明開化といわれた激変する時代に対応するアイデアだったのだろう。

   その立礼でお茶を点てる様子を眺めていた。すると、お点前の女性が手に持った茶器がキラリと光った。何だろうと思い、茶道具の一覧を記した会記を見ると、茶器の作者は「SUZANNEZ ROSS」、作品名は「KINDRED SPIRITS」と記されていた。「あっ、スザーンさんの作品だ」と心でつぶやいた。茶器は粉の抹茶を入れる漆器で、茶杓で抹茶を碗に入れ、お湯を入れて点てる。茶席に欠かせない道具の一つ。 

   スザーンさんには9年前、金沢大学の社会人講座で講演をいただき、輪島市の工房も訪問したことがある。ロンドン生まれのスザーンさんが漆器と出会ったのは19歳の時、美術とデザインを学んでいて、ロンドンの博物館で見た漆器の美しさに魅せられた。 22歳で日本にやって来て、書道や生け花、着付けなど和の文化を学んだ。その後、漆器を学ぶために輪島に移住。1990年から輪島漆芸技術研修所で本格的に学んだ。

   輪島塗には100を超える作業工程があり、分業システムが確立されていて「輪島11職」とも称される。ところが、スザーンさんは木地造り以降の作業をすべて自分一人で手掛けている。漆器の魅力をこう話していた。「器も木で出来ていて生きている、漆も生きているし、私も生きているから、3つの生き物を合わせて一つ。 うまくいく日と、いかない日がある。でも、それが楽しい」

   茶器には蒔絵で秋雲とトンボが描かれていて、トンボの羽には螺鈿(らでん)が施されている=写真・下=。キラリと光ったのはこのトンボの羽だった。では、「KINDRED SPIRITS」をどう日本語に訳するか。「心の友」だろうか。手塩にかけて仕上げた作品が心を癒してくれる、それは友のようでもあり、漆器という「生き物」に込めた想いかもしれない。チャンスを見つけて本人にお会いして作品名について尋ねてみたい。

⇒8日(土)夜・金沢の天気   くもり   

★「ワクチン3回、3連休」観光で金沢はにぎわうが・・

★「ワクチン3回、3連休」観光で金沢はにぎわうが・・

   新型コロナウイルスの感染対策として石川県内全域に適用さている「まん延防止等重点措置」はあす21日までで、ようやく「マンボウ」が解除される。ただ、感染者が減っているのかというとそうでもない。きのう19日の県内の新規感染者325人で、1週間の新規感染者は2430人と高止まりしている(19日付・石川県公式ホームページ)。今回3回目となったマンボウも長かった。1月27日から実に54日間だ。1回目は去年5月16日から29日間、2回目は8月2日から60日間だった。言葉は不謹慎かもしれないがすっかり「マンボウ慣れ」になった。

   そのマンボウが最近は少し脳裏から遠ざかった感じが個人的にはする。それは、新聞・TVメディアやネットにはウクライナ侵攻に関する情報があふれているからだろう。しかも、ウクライナとロシアをめぐ情勢は刻一刻と変わっている。そのせいか、コロナ感染情報は少なくなり、日常生活でもほとんど話題に上らなくなった。

   3連休の初日のきのう夕方5時半ごろ、金沢の繁華街・片町を車で通った。すると、おでん屋の前はどこも長蛇の列だった。金沢21世紀美術館=写真・上=や、「忍者寺」で知られる妙立寺=写真・下=などの観光名所もにぎわっていた。大学生の春休みも重なったせいかこのところ急に観光客が増えたという感じだ。うがった見方だが、16日に震度6強の地震あった東北では新幹線が一部区間で運休となっていて、東北観光から北陸観光にシフトがあったのかもしれない。マンボウが全国的に解除され、金沢の春の観光シーズンも到来する。自身もワクチンは3回打ち、3連休なのであすはどこかドライブにでも、と。 

   しかし、やはり気になるのは、人々が動き、密集すれば再びコロナ感染も再拡大するということだ。感染力が強いオミクロン株が世界的に流行して1月にピークとなったものの、再び増加の傾向にあるとメディア各社が伝えている。

   さらに、「デルタクロン」と呼ばれる新たな株による感染がアメリカ、フランス、デンマークなど欧米で確認されている。「デルタ株」と「オミクロン株」の両方の特徴を併せ持つ(3月16日付・朝日新聞Web版)。これが、日本にやってくると再び「コロナ恐怖心」が高ぶる。

   それにしても3連休だと言うのに近所の子どもたちの遊び声が聞こえない。石川県では感染者のほぼ4人に1人が10歳未満の子どもたちというから、おそらく学校などでは、外で遊ばないように子どもたちに呼びかけているのだろう。そして、きのうから金沢市では5歳から11歳へのワクチンの集団接種が始まった。3週間空けて2回接種する。今月25日から小中学校では春休みが始まる。しばらくは「じっと我慢の子」だ。

⇒20日(日)夜・金沢の天気    くもり時々はれ