#農口尚彦

★「酒蔵の科学者」農口尚彦杜氏の仕事の流儀

★「酒蔵の科学者」農口尚彦杜氏の仕事の流儀

   どぶろくに続いて日本酒の話。けさの石川県の地元紙によると、能登杜氏の農口尚彦氏が文化活動で優れた功績を上げた人や団体に贈られる文化庁長官表彰に選ばれたとの記事が掲載されている。御年まもなく91歳、16歳から酒蔵に入った杜氏の超ベテランだ。

   小松市の里山にある酒蔵「農口尚彦研究所」をこれまで何度か訪れたことがあり、直近では去年12月。高齢ながら酒蔵の中をきびきびと動く姿やその腕の太さを見れば、いかに屈強な仕事人であるかが理解できる。そして、杜氏の部屋を訪れると、自らしたためた酒造りに関するノートが山のように積まれている。まるで研究室のようで、「酒蔵の科学者」だ。そして、農口杜氏の酒造り意欲はまったく衰えてはいない。この言葉から理解できる。「ブルゴーニュワインのロマネ・コンティをイメージして造っている」

   農口杜氏の酒造りは日本酒ファンからは「酒造りの神様」、地元石川では「能登杜氏の四天王」と尊敬される。「山廃(やまはい)仕込み」を復活させた「現代の名工」でもある。その神業はNHK番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」(2010年3月)でも紹介された。それでもなお、ロマネ・コンティをイメージして酒を造ると意欲を燃やしている。その心を尋ねると、「のど越しのキレと含み香、果実味がある軽やかな酒。そんな酒は和食はもとより洋食に合う。食中酒やね」。農口杜氏の山廃仕込み無濾過生原酒は銀座、パリ、ニューヨークなど世界中にファンがいて、22ヵ国に輸出されている。

   農口氏と初めて会ったのは2009年。自身が金沢大学で教員をしていたときで、担当していた地域学の講義科目「いしかわ新情報書府学」の非常勤講師として酒造りをテーマに講義をお願いした。それから3年連続で講義をいただいた。毎回自ら醸造した酒を持参され、講義の終わりには学生にテイスティングしてもらい、学生たちの感想に熱心に耳を傾けていた=写真=。

   農口氏自身はまったくの下戸(げこ)で飲めない。その分、飲む人の話をよく聴く。日本酒通だけでなく、学生や女性、そして海外から訪れた人からの客観的な評価に率直に耳を傾ける。それをノートにまとめ、「研究室」に積んでいる。時代感覚を意識した酒造り、世界で求められる味わいの探究、農口杜氏の仕事の流儀は果てしない。

⇒13日(水)午前・金沢の天気     はれ

★能登から世界へ 食のプロフェッショナルの仕事の流儀

★能登から世界へ 食のプロフェッショナルの仕事の流儀

   能登で生れ育った自身が今でも自慢げに話をする能登の食の職人が3人いる。「能登杜氏・農口尚彦」「パテシエの辻口博啓」、そして「ジェラートの柴野大造」だ。金沢大学の教員時代にこの3氏をそれぞれお呼びして講義や講演をしていただたことがある。

   農口氏は自ら下戸(げこ)で酒は飲めないが、酒飲みの話に耳を傾向ける。計算され尽くした酒造りは日本酒ファンからは「酒造りの神様」、地元石川では「能登杜氏の四天王」と尊敬される。「山廃(やまはい)仕込み」を復活させた名工でもある。まさにその神業はNHK番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」(2010年3月)でも紹介された。まもなく89歳だ。高齢ながら、酒蔵の中をきびきびと動く姿やその腕の太さを見れば、いかに屈強な仕事人であるかが理解できる。

   過日お会いした折、農口氏は「世界に通じる酒を造りたいと思いこの歳になって頑張っておるんです」と。そこで「世界に通じる日本酒とはどんな酒ですか」と尋ねた。「のど越し。のど越しのキレと含み香、果実味がある軽やかな酒。そんな酒は和食はもとより洋食に合う。食中酒やね」。理路整然とした言葉運びだ。山廃仕込み無濾過生原酒にはすでに銀座、パリ、ニューヨークなど世界中にファンがいる。

   辻口氏には世界最大のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」(パリ・2013年10月)でグランプリを獲得し帰国した直後の11月に講義をいただいた。カカオ豆やそのほかの素材をナノの粒子にまで粉砕して、それをチョコにする。歯ざわり、ふくよかな香りが広がり、チョコの可能性をさらに高めた、まさに「ナノ・ショコラ」だ。学生たちの質問に、高齢者やあごに障害があり、噛むことができない人たちのためにこのスイーツを考案したと答え、学生たちを驚かせた。米粉を使ったスイーツも定評がある。当初、職人仲間から「スイーツは小麦粉でつくるもので、米粉は邪道だ」と言われた。それでも米粉のスイーツにこだわったのは、小麦アレルギーのためにスイーツを食べたくても食べれない人が大勢いることに気が付いたからだとの説明に、学生たちは納得した。

   能登には人に気遣いをする文化風土があり、「能登はやさしや土までも」との言葉が昔からある。食は「うまさ」というより、作り手の「やさしさ」から生まれるのかもしれない。

   柴野氏はジェラートの本場、イタリアのパレルモで開催されたジェラートコンテスト祭「2017 sherbeth Festival」で初優勝を果たし、一躍「ジェラートの風雲児」と注目された。東京からの出店の誘いには応じず、能登でのジェラートづくりにこだわる。一方で、異業種の企業とのコラボや製品開発も行う。2019年5月の大学での講演のタイトルは「地域素材のジェラートで世界発信 ~ブランド価値の創造で人生を切り拓く~」。家業の酪農が苦しい経営に追い込まれ、ジェラートの世界に飛び込んだ。「牧場経営の助けになればという思いで、加工品の製造を考えた。生クリーム、バター、ヨーグルトといろいろ考え、幅広い年齢の方に好まれるということでジェラートにしたんです」。それまでスイ-ツづくりの経験はなく、イタリアからジェラートに関するレシピを取り寄せるなど、すべて独学だった。

   アイスクリームよりも乳脂肪分と空気の含有量を押さえたジェラートは素材の味をダイレクトに伝えることができる。能登へのこだわりは、食材へのこだわりでもある。能登の食材を次々にジェラートのフレーバーとして試した。能登産の塩を使った「天然塩ジェラート」は最初のヒット作となり、寿司屋やレストラン、居酒屋のデザートとして人気を博すことになる。そのジェラートの新たな味覚との戦いぶりもNHK番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」(2019年7月)で放送された。

   きょう朝刊を見ると、柴野氏が能登町などで経営する店舗「マルガジェラート」がイタリア政府公認の機関「国際パティスリー・アイスクリーム・チョコレート連盟」が選定する「世界最高のジェラートショップ」に選ばれたとの記事があった。本人はジェラート発祥の地イタリアで2024年開催の「ジェラートワールドカップ」での金メダル獲得に向けて意欲を燃やしていると記事で紹介されている。

⇒17日(水)午前・金沢の天気      はれ