#輪島朝市通り

☆輪島朝市通りの焼け跡に咲くスイセンの可憐な花

☆輪島朝市通りの焼け跡に咲くスイセンの可憐な花

  きのう奥能登2市(輪島、珠洲)の震災地をめぐった。最初に地震と火災の複合災害に見舞われた輪島の朝市通りを歩いた。3ヵ月経っても変わらぬ無情な光景に切なさを感じた。焼け跡を見ると。黄色い花のスイセンが咲いていた=写真=。不思議でならなかった。かつての商店街の焼け跡でどのようにして花を咲かせたのか。花鉢ではなく、盛り上がった土に咲いていたので、この商店には中庭があったのだろうかと想像した。黄色のスイセンの花言葉は「私のもとに帰ってきて」。焼け跡のスイセンはそう訴えているのかと想像を膨らませた。

  石川県がまとめた避難所の開設状況(今月5日現在)によると、市町が設置した1次避難所には146ヵ所・3597人が身を寄せている。県が開設した1.5次避難所(スポーツセンター)には80人、県が手配した2次避難所(金沢市などのホテルや旅館など)は167ヵ所・2671人となっている。2月1日現在の状況は、1次避難所は285ヵ所・8232人、1.5次避難所は3ヵ所・288人、2次避難所は217ヵ所・4944人だったので、2ヵ月でそれぞれ半数に減っている。

  では、減った分の人たちは自宅に戻ったのか。そうではないようだ。被害がとくに大きく出た奥能登4市町(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)の今年1月から3月の転出超過は計1582人に上り、前年同期比の3.8倍になった(今月3日付・読売新聞Web版)。奥能登の人口はこの10年で2割以上減っていて、過疎化が問題となっている。そこに拍車をかけるように震災が起きた。能登をあきらめ、金沢市やその周辺に住所を移す家族などが増えているのだ。

  住まいと生業(なりわい)が確保できなければ、特に子育て世代を中心に流出は止まらないだろう。きのう珠洲市の被災地で感じたことは断水状態が危機的ということだった。水道管の漏水などで、市全域の約4000戸でいまでも断水が続いている。同市は5638世帯(3月末現在)なので単純計算で7割の世帯で水道が使えない状態が続いていることになる。そして、上水道がこの現実ならば下水道管の損傷も相当なものと憶測した。人口が戻らなければ生業も成り立たなくなる。

  人々が戻りたくなる能登を、人々を呼び戻す能登をどのように構築していくのか。冒頭に述べた黄色のスイセンの花言葉はギリシア神話に由来しているという。農業の女神デメテルの娘ペルセポネが冥界の王プルトンに連れ去られた。このとき、ペルセポネが落とした白いスイセンが黄色く色づいた。デメテルは黄色いスイセンを愛で、「私のもとに帰ってきて」と深い悲しみを込めた。母なる能登の大地から多くの人々を連れ去った地震。また耕しに戻って来てと能登の大地が叫んでいる。スイセンの花言葉からそんなことをイメージした。

⇒6日(土)夜・金沢の天気    くもり

☆能登半島地震 焦土と化した「能登のトト楽」朝市通り

☆能登半島地震 焦土と化した「能登のトト楽」朝市通り

   「能登のトト楽」という言葉がある。妻がよく働くので夫が楽をするという意味で使われる。NHKの連続テレビ小説『まれ』(2015年)では、主人公の希(土屋太鳳)が輪島塗店の女将とケーキ店のパティシエの二つの仕事をこなしながら、双子の子育てもこなしていくという、頑張るお母さんの物語で、「能登のトト楽」をイメージした番組だった。実際には、輪島の朝市のおばさんたちや海女さんたちが頑張る能登の女性たちではないだろうか。メディア各社の報道によると、今回の地震で朝市通りの周辺の200棟が焼損し、10人の遺体が見つかっている。

   その火災の様子をNHK中継番組で視聴していた=写真・上=。なぜこんなに燃える広がるか少々疑問に思った。元旦だったので、消防士の人数が不足していて消火活動が十分にできないのかといぶかった。その後、消火栓が断水で使用できず火災が広がったと報じられていた。そのときも、それなら朝市通りは海岸に近いので海の水をポンプでくみ上げて消火に使えばよかったのではと、またいぶかった。ところが、津波警報が出ていて、海に近づくことすらできなかったとことも後で理解した。さらに、朝市通りの近くを流れる河原田川も地震による地盤の隆起で当時は干し上がった状態になっていたようだ(2月1日付・NHKWeb特集)。

   いろいろな悪条件が重なって焦土と化した朝市通り周辺に行った(今月5日)=写真・下=。1ヵ月以上経ってはいるものの、焼けごげた臭いがした。トラロープの結界を超えて、朝市通りに入ると懐かしさもこみ上げてきた。おばさんたちの「買うてくだぁー」「買うてくだぁー」の呼び声があちらこちらから響いてくるようだ。海の幸と山の幸の物々交換がルーツとされ、千年の歴史を有する輪島朝市。確かここには蒸しアワビを売るおばさんのテントの店があった。1個1万2千円の「蒸しアワビ」(120㌘)を思い切って買った、6年前のことを思い出した。

   朝市通りの露店の場所は母親から嫁、娘へと代々受け継がれている。なかなか商売上手だ。別の店で1個700円のカラスミ(ボラの卵巣の塩漬け)を「2個ください」と言うと、おばあさんが「3個でおまけ」と差し出したので手に取ると、すかさず「100円おまけで2000円」と請求された。2個買ったので1個はおまけだと受け取ったのに、「100円まけるから3個買って」という意味だった。かなり高齢に見えたが、言葉の手練手管には舌を巻いて買ってしまった。

   朝市のおばさんたちから「亭主の一人や二人養えないようでは、一人前の女ではない」や「亭主の一人や二人養えない女は甲斐性なし」と聞いたことがある。冒頭の「能登のトト楽」を地で行く女たちではある。その活躍の場が消失したと思うと胸が痛む。

⇒6日(火)午後・金沢の天気   くもり時々あめ