#輪島大祭

★明かりのないキリコ、ガレキの境内 それでも祭りの心意気

★明かりのないキリコ、ガレキの境内 それでも祭りの心意気

  輪島大祭を見学に行ってきた。これまで何度か学生たちを連れて「能登スタディ・ツアー」と称して能登の祭り文化に触れてきた。今回は震災のあった輪島でどのように祭りを開催するのかと急に思い立って、きょう(24日)現地へひとりで車で出かけた。

  輪島大祭は毎年8月22日から25日までの4日間、キリコ祭りが連日開催され、同市の奥津比咩神社、重蔵神社、住吉神社、輪島前神社の順で地域の人たちがキリコや神輿を担ぐ。輪島大祭の中日となるきょうは住吉神社の大祭だ。同神社に行く前に、23日に祭りを終えた重蔵神社に立ち寄ると、若い人たち10人ほどがキリコを担いだときに使った法被を天日で干していた。重蔵神社では神輿とキリコ9基が例年より短いコースで巡行した。「ごくろうさまでした」と声がけすると、東京から参加した祭りボランティアの男子学生だった。「震災があった輪島でキリコが担げたことは一生の思い出」と顔をほころばせていた。

  震災の影響でことしの大祭でキリコが出るのは重蔵神社だけと報じられていた(23日付・地元メディア)。ところが、住吉神社に行くと、神社の氏子の人から「ことしはキリコは出ないと聞いていたのですが、さきほど何とか1本は出そうということで若い衆が頑張ってくれているようです」と聞いた。午後6時から祭りの神事が始まったが、キリコ担ぎが決まったのは午後3時ごろ。地域の若い衆が「やっぱりキリコが出んと祭りにならん」と、3時間前に急きょ巡行が決まったようだ。金沢の避難先や仮設住宅からキリコ担ぎの仲間たちが集まって来て、「やれる」と判断したようだ。

  午後7時ごろ、若い衆が担ぐキリコが神社に到着した=写真・上=。ところが、キリコに明かりが灯っていない。周囲から暗くなったので明かりをつけてと声が上がった。世話役らしい人が「すみません。急に決めたものですから、キリコに備え付けるバッテリーの用意が間に合いませんでした」とわびていた。明かりのないキリコだったが、若い衆の威勢のよい掛け声が境内に響き渡っていた。

  住吉神社の境内は震災で本殿が全壊し、高さ7㍍もある総輪島塗の山車や曳山も倒壊、鳥居や石灯籠も倒れた。そんな中でも、若い衆がガレキの山をバックに祭り太鼓を披露していた=写真・下=。祭りを盛り上げる地域の若い衆の心意気が伝わって来た。

⇒24日(土)夜・金沢の天気     くもり   

★夏の夜のキリコ祭り、ここに能登ある

★夏の夜のキリコ祭り、ここに能登ある

  きょうから金沢市内の学生たちと能登をめぐるツアーに出かけた。題して「能登を学ぶスタディ・ツアー2022」。一日目は歴史と伝統的な祭り、アート作品など多様な能登の側面が学びのテーマだった。

  最初に訪れたのは国史跡「雨の宮古墳群 」(中能登町)=写真・上=。文化財の学芸員から解説を聞いた 。北陸地方最大級の前方後方墳と前方後円墳が隣接する。4 世紀から5世紀(弥生後期)の古墳で、眉丈山の山頂にある。邑知(おうち)地溝帯と呼ばれる穀倉地帯を見渡す位置に古墳はある。能登の王は自ら開拓した穀倉地を死後も見守りたいという思いで山頂にピラミッドを築いたはなかったか。

   この地域は能登における稲作文化の発祥の地でもある。1987年、雨の宮古墳近くにある「杉谷チャノバ タケ遺跡」の竪穴式住居跡から、黒く炭化したおにぎりが発掘された。化石は約2000年前の弥生時代のものと推定され、日本最古のおにぎりと話題になった。稲作とともに仏教などの文化ももたらされ、奈良時代の718年に「能登国」が置かれることになる。雨の宮古墳群はそうした能登の歴史を刻むルーツの一つでもある。

   学生たちが目を輝かせたのは、珠洲市で去年開催された「奥能登国際芸術祭2020+」の展示作品だった。予約によって鑑賞が可能な作品の中から主に3つを選んだ。一つは、「スズ・シアター・ミュージアム『光の方舟』」。家の蔵や納屋に保管されたまま忘れ去られていた民具1500点を活用し、8組のアーティストと専門家が関わって博物館と劇場が一体化した劇場型民俗博物館をオープンした。音、光、民具がアートとなって見る側に感動をもたらす。

   芸術作家・山本基氏の作品『記憶への回廊』は旧・保育所の建物にある。真っ青に塗装された壁、廊下、天井にドローイング(線画)が描かれる。奥の遊戯場には塩という素材を用いた立体アートが据えられている=写真・中=。かつて、園児たちの声が響き、にぎわったこの場所は地域の人々の幼い時の記憶を呼び起こす。金沢美術工芸大学の教員・学生60人余りで市内の広々とした旧家の屋敷を借りて、作品を展示している。客間に能登産材の「アテ」(能登ヒバ)を持ち込み、波と手のひらをモチーフに全面に彫刻を施したもの。学生らがチェーンソーやノミでひたすら木を彫り込んだ力作に圧倒される。

   夜は「輪島大祭」を見学に行った。市内の重蔵神社の境内ではキリコが4本立てられ=写真・下=、太鼓や鐘の音が町なかに響き渡っていた。新型コロナウイルスの感染拡大で今年は3年ぶりの開催。ただ、コロナ禍は続いているので、本来ならば20本のキリコが巡行するが、4本に簡略化された。それでも、子どもたちの威勢の良い太鼓打ちに学生たちは圧倒されていた。夏の夜のキリコ祭り。ここに能登ある。

⇒23日(火)夜・金沢の天気    くもり