#谷本正憲

☆知事28年、グローバルスタンダードな花道

☆知事28年、グローバルスタンダードな花道

    石川県の谷本正憲知事が今月26日に退任する。7期28年にわたって県政をまとめ引っ張ってきた。就任は1994年3月、まさに日本のバブル経済が崩壊し、後に「失われた20年」と称された低成長期に入ったころだった。企業は競争力が問われ、コスト削減や非正規雇用などを進めた。一方で時代の価値観も多様性や個性の重視へと変わり始めた。そして、谷本氏も時代のニーズを県政に取り込もうと動いた。

    その意欲をキーワードで表現すれば、「グローバルスタンダード」ではないだろうか。1990年代半ごろからトレンドとなり、「世界に共通する理念」という意味で今でもよく使われている。谷本県政のその手始めが、金沢市と共同で1996年に設立した「いしかわ国際協力研究機構(IICRC)」だった。日本の里山・里海を科学的に評価し、伝統的な農林水産業や生態系の保全および再生に関する政策立案や情報提供を行う研究者の組織。さらに、このIICRCが前身となり、2008年に国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(OUIK)が設立された。世界で6番目の国連大学の研究所であり、「里山・里海」「持続可能な農林水産業」「都市と生物多様性」の3つを研究テーマとしている。

   このころ、環境問題のグローバルスタンダードの一つに「生物多様性」が国際的にクローズアップされていた。谷本氏は2008年5月、ドイツのボンで開催された生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)に乗り込んだ。各国200人が集まったハイレベル会議でスピーチを行い、生物多様性と里山里海、持続可能な農林水産業を国連大学と協働して取り組んでいくとアピ-ルした。あわせて、アフメド・ジョグラフ条約事務局長を訪ね、名古屋市で2010年に開催されるCOP10で関連会議を石川で開催してほしいと要請した=写真・上=。ジョグラフ氏はその4ヵ月後に能登の里山里海を下見に訪れた。2010年10月にはCOP10公認のエクスカーションに石川が選ばれ、世界17ヵ国50人の政府関係者や研究者、環境NGOメンバーらが訪れた。

   このCOP9、10の成功体験をベースに谷本氏の目線は国際認証や国際会議の開催・誘致へと展開していく。次なるグローバルスタンダードの目標は「世界農業遺産(GIAHS)」だった。2011年6月に中国・北京で開催されたFAO国連食糧農業機関のGIAHS国際フォーラムで、能登と佐渡が申請した「能登の里山里海(Noto’s Satoyama and Satoumi)」と「トキと共生する佐渡の里山(SADO’s Satoyama in harmony with the Japanese crested ibis)」が認定された。日本で初めての認定だった。

   北京でのフォーラム閉会式で、次回は2013年にカリフォルニアワインの代名詞となっているアメリカのナパ・バレーでの開催が発表されていた。それがひっくり返って能登で開催されることになる。谷本氏が動いた。2012年5月、知事としてヨーロッパ視察に訪れた谷本氏はローマのFAO本部にジョゼ・グラジアノ・ダ・シルバ事務局長を訪ね、能登での開催を提案したのだ。FAOは次回開催が1年後に迫っていたにもかかわらず変更を決断した。谷本提案は説得力があった。「認定地でフォーラムを開催すべき」と。それ以前は2007年がローマ、09年がブエノスアイレス、11年が北京、そして13年はナパ・バレーだが、いずれも認定地ではない。認定地からの強い要望であり、FAOとしても受け入れざるを得なかったのだろう。

   2013年5月に能登半島の七尾市和倉温泉でGIAHS国際フォーラムが開催され、11ヵ国19サイトの関係者が集まった。能登で初の国際会議だった。GIAHSというグローバルスタンダードは現在、日本では11サイト、世界では22ヵ国62サイトに広がり、イタリアやスペインなどヨーロッパでも認定を求める動きが広がっている。

   去年11月、能登半島の和倉温泉で能登の世界農業遺産認定10周年を記念する国際会議が開催された。これには、国連大学高等研究所OUIKが主催した「GIAHSユースサミット2021 ㏌ NOTO」も併せて開催された=写真・下=。国内の3つの認定サイトから5校40人の高校生が集い、「世界農業遺産を未来と世界へ~佐渡と能登からつながろう~」をテーマに話し合った。開催の1週間前の11月17日、谷本氏は任期満了に伴う知事選には立候補せず、今期限りでの退任を表明した。自ら手掛けたGIAHS国際会議とOUIKのユースサミットは「知事の花道」になったのかもしれない。

   知事のグローバルスダンタードはこのほかにも小松空港の国際線化や金沢港の国際コンテナの取扱、ユネスコ無形文化遺産の登録など多岐にわたって貢献している。

⇒21日(月・祝)夜・金沢の天気     くもり時々はれ

★「能登GIAHS」10周年の国際会議から~下~

★「能登GIAHS」10周年の国際会議から~下~

   能登の世界農業遺産「能登の里山里海」が認定されて10年周年を記念する国際会議(11月25-27日)と連携して「GIAHSユースサミット2021 ㏌ NOTO」が26日に開催された。国連大学サスティナビリティ高等研究所OUIKが主催し、GIAHS認定サイトの能登地区から飯田高校、鹿西高校、日本航空高校石川、新潟県から佐渡総合高校、そして宮崎県から五ヶ瀬中等教育学校の5校が参加、生徒40人が集った。テーマは「世界農業遺産を未来と世界へ~佐渡と能登からつながろう~」。

        ユース宣言の力強さ、そして「知事の花道」

   ちなみに、OUIKのフルネームは「いしかわ・かなざわオペレーティングユニット」。国連大学サスティナビリティ高等研究所が世界に6ヵ所設けているフィールド研究拠点の一つで、2008年4月に金沢市で開設された。里山里海と生物多様性などを研究テーマとしている。

   生徒たちは8つのグループに分かれて世界農業遺産をテーマに生物多様性や農業の発展、産業の発展、伝統文化、食文化、教育、発信などについて、それぞれの地域(サイト)の特徴や課題を話し合った。その内容を「GIAHSユース宣言」(13項目)としてまとめた。以下抜粋。

   将来の農業に向けては「3. 小さなアクションが積み重なれば世界はかわっていくはずです! 地域経済をより身近なものとして、問題について考え続けます」「4. GIAHS地域に密着した商品やブログラムのアイデアを考えます」、認定地の大人たちへは「11. 私たちは、GIAHS地域の自然環境を守るために、開発の抑制や、その代替えとなる案を、共につくり出すことを希望します」、世界の認定地のユースへは「13. 私たちと一緒にGIAHSのことをもっと知り、地域とつながり、積極的に行動して、GIAHSの輪を広げて行きましょう」。生徒自らが作成した台本で宣言した=写真・上=。

   能登の世界農業遺産は10年を経て、さまざま課題も浮き彫りとなっている。それは、少子高齢化と人口減少によって能登が持続可能な地域社会であり続けられるのかどうかだ。里山里海の保全や農林水産業の事業継承、祭り文化の担い手を養成していくことが課題となっている。しかし、高校生が授業で自分たちの地域の世界農業遺産について学ぶチャンスはほとんどないのが現状だ。OUIKが「ユースサミット」を企画した狙いは、GIAHS地域の「サスティナビリティ」を高めることだ。自身も同じ想いでユースサミットを傍聴していたので、生徒たちのユース宣言を聴いて、その力強さに心が励まされた。

   話は変わる。この国際会議開催の提唱者は谷本正憲県知事と県庁関係者から聞いている。前々回のブログで述べたように、2013年5月の「GIAHS国際フォーラム」の能登誘致も、知事がローマのFAO本部に事務局長を訪ね、直談判で開催にこぎつけた。今回の国際会議の基調講演で、「能登GIAHSは国内で初めて認定された。トップランナーとしてさらに深化させていく」と強調していた。政策としてSDGsやカーボンニュートラルを先取りして、能登GIAHSをバックアップしていくと具体的な政策を述べた。国際評価を得ても、情報発信を続けなければ価値はないとの趣旨だった。

   谷本氏は現在7期目。76歳。今月17日には来年3月の任期満了に伴う知事選には立候補せず、今期限りでの退任を表明した。今回の国際会議はある意味で、「知事の花道」のようにも思えた。うがった見方だが。(※写真・下は「GIAHSユースサミット」で生徒たちに国際会議の開催について述べる谷本知事)

⇒28日(日)夜・金沢の天気     はれ