#記者会見

☆「イチゴ農家の息子」 会見3213回の忍耐強さ

☆「イチゴ農家の息子」 会見3213回の忍耐強さ

   自民党の新しい総裁に選出された菅義偉氏は官房長官として記者会見に臨んだ回数は3213回に達したと報じられている。長官在職日数は歴代1位であり、会見回数もトップだ(9月14日付・時事通信Web版)。

   官房長官の会見は平日の午前、午後の定例会見と、大規模災害発生時などの臨時会見がある。有名な会見は令和の新元号を発表した2019年4月1日の会見だろう。会見には記者からさまざまな質問が飛ぶ。メディア業界でも有名なのは菅氏の「天敵」とも呼ばれる、ある新聞社の女性記者だ。記者は厳しい質問を繰り返しぶつけると、菅氏は正対せずに「指摘は当たらない」「承知していない」とあしらう。この繰り返しが続く。

    きのうが官房長官として最後の記者会見だった。「BuzzFeed News」(9月14日付)がその会見のコメントを記事として起こしている。最後のコメントだ。「報道陣:かなり質問させていただいたと思うんですが、こうした国民の疑問をですね、長官はどう感じてこられたか。率直な感想を教えてください」「菅氏この記者会見というのはご承知の通り、全く限られた中で10数名の記者の皆さんから様々の質問にお答えをするわけですから、なかなか納得のいくような説明はできないのかなということを常に気になりながら会見をしてきました。現実問題をかなり反映している、そういう質問だったという風に思います。ありがとうございました」。3213回の記者会見、継続はチカラなり。それにしても忍耐強い。

    では、海外のメディアは菅氏のことをどう伝えているのか。BBCニュースWeb版(14日付)=写真=は「Born the son of strawberry farmers, Mr Suga is a veteran politician.」(イチゴ農家の息子として生まれた菅氏はベテランの政治家だ)と紹介し、人柄として「精力的または情熱的な政治家とは見なされてはいないが、非常に効率的で実用的だとの評判がある」と伝えている。しかし、菅氏は、安倍総理の代表的な経済政策である「アベノミクス」を継続すると約束したが、新型コロナウイルスによって引き起こされたパンデミックのもとでは、経済不振でさらに苦しむことになるだろうと予想している。

   それにしても、菅氏のことを日本のメディアは「農家の息子」と紹介しているが、BBCは「イチゴ農家の息子」と紹介しているところが、ヨーロッパ風ではある。あす16日の臨時国会で第99代の総理に指名される。

⇒15日(火)午前・金沢の天気   くもり

★辞任表明、安倍総理のレガシーは何だ

★辞任表明、安倍総理のレガシーは何だ

   安倍総理の記者会見をきのう28日午後5時からのNHKテレビで視聴していた=写真=。8月上旬に持病の潰瘍性大腸炎の再発が確認され、安倍氏は「体力が万全でない中で政治判断を誤ること、結果を出せないことがあってはならない。総理の職を辞することにした」と述べ、辞任を表明した。拉致問題も憲法改正も北方領土もどれも道筋をつけられないままでの辞任表明。まさに断腸の思いだったに違いない。 

           会見ではいつも使っているプロンプターを今回使っていなかった。ということはコメントは会見直前まで練られていた。あるいは、予定していたコメントを直前になって大幅に書き換えた、のどちらかだろう。側近が辞任表明を知らなかったとのコメントを会見後に寄せているので、おそらく後者だろう。

   印象に残ったはコメントは拉致問題についてだった。安倍氏は2002年9月に当時の小泉総理が電撃的に北朝鮮を訪朝した際、官房副長官として同行している。「私がずっと取り組んできて、さまざまな可能性とアプローチで全力を尽くしてきた」「拉致問題はかつては日本しか主張していなかったが、国際的に認識され、トランプ大統領が金正恩委員長との会談でこの問題について言及した。習近平国家主席や、文在寅大統領も言及したが、今までになかったことだ」と述べた。

   しかし、この18年間の外交の成果は出ていない。「結果が出ていない中で、拉致被害者のご家族が一人、一人と亡くなられ、私にとっては痛恨の極みだ。何かほかに方法があるのではないかと常に思いながら、考えうるあらゆる手段を取ってきたことは申し上げたい」と無念の表情を浮かべた。

   会見では、記者が地方創生の取り組みへの自己評価について尋ねた。これに対し、安倍氏は「東京への人口集中のスピードを相当鈍らせることができた。地方にチャンスがあると思う若い人たちが出てきた」と。ただ、それは新型コロナウイルス感染拡大の影響でもあると認めた。「テレワークが進むと同時に、地方の魅力が見直されている。今回の感染症が、日本列島の姿や国土のあり方を根本的に変えていく可能性もあるだろう。ポストコロナの社会像を見据えて、こうした変化を生かしていきたい」と述べていた。

   また、記者からは「総理のレガシーは何だと思いますか」と問われた。この場合のレガシー(legacy)は後世に伝える業績と解釈する。安倍氏は「7年8ヵ月前に政権が発足した際に『東北の復興なくして日本の再生なし』と取り組んできた」「20年続いたデフレに3本の矢で挑み、400万人を超える雇用をつくり出すことができた」「助け合う日米同盟は強固なものとなり、アメリカ大統領の広島訪問が実現できた」と強調した。

   ただ、政治家の業績はそう簡単に評価されるものではない。政治はその後も変化し続けるからだ。安倍氏のレガシ-が後世の教科書に掲載されるとすれば、おそらく通算在職日数が、戦前の桂太郎(2886日)を上回り、憲政史上の「最長の総理」という評価ではないだろうか。政策としては、消費税を2回(2014年に8%、19年に10%)上げた「増税の総理」かもしれない。

⇒29日(土)朝・金沢の天気    はれ   

★記者会見、駆け引きの現場を読む

★記者会見、駆け引きの現場を読む

   むしろ問われるのは日本のメディアの姿勢ではないだろうか。韓国・平昌市の民間施設の植物園に、少女銅像に安倍総理が土下座したような銅像があることが報道されている。今月28日午前の記者会見で菅官房長官はこの銅像に対し、政府として事実確認していないとしたうえで、「そのようなことは国際儀礼上、許されない。仮に、報道が事実であるとすれば、日韓関係に決定的な影響を与えることになる」と強い不快感を示した(28日付・NHKニュースWeb版)。

   ニュースで取り上げられたこの銅像に関しては、気分のよいものではない。むしろ「韓国人のいつもの発想」とメディアが「嫌韓」を煽っているとの印象だ。さらに、なぜこれをニュースにするのか必然性が理解できない。民間施設の中に、どのようなモニュメントがあろうとそれをとがめることはできないだろう。もし、その銅像が公的な機関から設置を条件に譲られたものであるならば、もちろん話は別だが。民間施設の運営者が私費を投じて2016年設置したもののようだ。

   官房長官から「国際儀礼上、許されない」とのコメントを引き出した新聞各社は写真付きで記事にしている=写真=。そのような民間施設でのモニュメントのことを、なぜメディアはわざわざ官房長官の記者会見で意見を求めるのか、それがメディアの在り方なのかとむしろ考えてしまう。会見の席上ではおそらく、布マスクの再配布など優先すべき質問があっただろう。仮に、このモニュメントが国際問題になるほどのニュース価値があるとすれば、当事者である安倍総理に直接、コメント求めるべきではないのか。

   この日の安倍総理の動きを新聞の政治面でチェックすると午前中は「来客なく、東京・富ケ谷の私邸で過ごす」となっている。ここでピンときた。本来ならば、首相官邸で安倍総理への「ぶらさがり会見」で直接聞くべきだが、さすがに記者も気が引けた。そこで、午前中に総理が官邸で不在であることを奇貨として、官房長官の午前中の記者会見で政府見解として引き出した、のではないだろうか。俗な言葉で言えば「せこい」。

   その日の午後の記者会見で官房長官は記者団から、モニュメントの設置は表現の自由の範囲内か見解を問われたのに対し「表現の自由は確かに重要であることは申し上げるまでもないが、そのうえで申し上げれば、仮に像の設置が事実であれば、国際儀礼上、許されないというのが政府の立場だ。このようなわが国の立場については、韓国政府に適切に説明してきている」と述べた(28日付・NHKニュースWeb版)。

   この質問をした記者の質問内容の詳細を知りたいと思い、官邸公式ホームページをチェックしたが、28日の官房長官の会見(動画)はアップされていない(午前7時30分現在)。韓国の個人が設置したモニュメントについて、なぜ繰り返し官房長官の発言を求めるのだろうか。アップされる動画を見れば、その質問をした記者の意図が読める。もし官房長官からその個人を中傷するような発言を引き出せば、これは表現の自由問題という別のニュースとして展開できる。その意図が記者にあったのかどうか。それにしても、ベテラン官房長官はうまくかわしている。記者会見で質問を「する側」と「される側」の駆け引きの現場ではある。

⇒30日(木)朝・金沢の天気    くもり