#能登かき

★「能登かき」は生育不良、「かきまつり」中止の衝撃

★「能登かき」は生育不良、「かきまつり」中止の衝撃

   ちょっと日本海の魚介類の様子が変だ。能登半島の穴水湾はカキの養殖が盛んで、例年2月には「雪中ジャンボかきまつり」が開催されている。自身も家族で何度もカキを食べに行ったことがある。地元メディアによると、カキの生育不良のため例年並みの数量を確保するのが難しいとして、来年予定していた「かきまつり」は中止となった(7日付・北國新聞)。

   かきまつりは、毎年2月10日と11日に町営の広場で延長400㍍の炭火焼きコーナーにコンロを並べ、採れたてのカキを焼いて味わう=写真=。例年数万人が訪れる町の一大イベントだ。それが開催中止となった。

   報道によると、カキの殻が例年の出荷サイズになっておらず、先月下旬から主催者の町観光物産協会と生産者の間でかきまつりの開催をめぐって協議してきた。まつりで用意する8万個余りのカキが確保できないと判断し、中止を決めた。猛暑などで半分ほどのカキが死滅しているという。コロナ禍で中止はあったものの、生育不良による中止は1988年にかきまつりが始まって以来初めてのこと。

   能登半島の養殖カキは「能登かき」と呼ばれブランドになっている。里山の栄養分が川を伝って流れ、湾に注ぎこむ。その栄養分が植物プランクトンや海藻を育み、海域の食物連鎖へと広がり、カキもよく育つとされる。とくに、里山の腐葉土に蓄えられた栄養分「フルボ酸鉄」が豊富にあるとされる。

   ところが、ことしは夏から秋にかけての猛暑がたたり、石川県水産総合センターの9月時点の調査で、湾全体の深度10㍍の水温は過去5年の平均と比較して2.6度高くなった。海水温が高い影響で死滅するカキが激増した。さらに、もう一つの原因として指摘されているのが、クロダイによる「食害」だ。2年ほど前から湾内でクロダイが増え始め、カキの稚貝をクロダイが食べることが問題となっていた。クロダイは釣り人に人気で、「遊漁船業」を営む業者が稚魚を放流している。

   能登の名物のカキをめぐる問題は複雑だ。優先順位としてはまず、少々の海水の高温に耐える、高温耐性の種苗生産の準備が必要ではないだろうか。能登のカキ養殖の再生を願う。

⇒8日(金)夜・金沢の天気     はれ

✰「能登かき」シーズン到来も激減 海の異変とは

✰「能登かき」シーズン到来も激減 海の異変とは

   あすから10月。いつもこの時季、いよいよ「能登かき」のシーズン到来と心をわくわくさせるのだが、ちょっとした海の異変が起きているようだ。

   能登半島の七尾西湾と穴水湾は「能登かき」で知られる養殖カキの産地でもある。里山の栄養分が川を伝って流れ、湾に注ぎこむ。その栄養分が植物プランクトンや海藻を育み、海域の食物連鎖へと広がり、カキもよく育つとされる。とくに、里山の腐葉土に蓄えられた栄養分「フルボ酸鉄」が豊富にある(2010年5月・金沢大学「里山里海環境調査」)。能登かきのファンにとって、秋は気になる季節なのだが、きょう30日付の地元紙・北陸中日新聞の一面の見出し「能登かき『大不作』 クロダイ食害 猛暑影響か」に少々驚いた。

   以下、記事を引用する。まもなく出荷が本格化する能登かきの生産量は例年より3、4割の減少が見込まれていて、生産者は過去最悪の不漁になると懸念している、という。詳しく読み込む。養殖のカキは稚貝を付着させたホタテガイの貝殻を針金に固定して海中にロープでつるし、1、2年かけて育てる。針金1本に10枚ほどのホタテの貝殻を付けると、1枚に15個ほどのカキが育つはずが、今季は0~4個が目立つという。このため、生産者は収量の激減を受けて、出荷を遅らせている。

   この不漁のいくつかの原因の一つが、クロダイによる「食害」。2年ほど前から湾内でクロダイが増え始め、カキの稚貝をクロダイが食べることが問題となっていた。もう一つの原因として、猛暑がある。石川県水産総合センターの9月時点の調査で、湾全体の深度10㍍の水温は過去5年の平均と比較して2.6度高い。海水温が高い影響で死滅するカキも多い、という。地元の養殖業者の声として、「高水温の影響なのかクロダイが増えすぎている。このまま続いては将来的に(カキ養殖)産業が廃れてしまう」と紹介している。

   一方で、能登でのクロダイ放流を記事で紹介している。穴水湾にある地元の「釣りイカダ組合」では、釣り客に人気のクロダイの稚魚を30年ほど前から毎年1万匹を放流している。釣り客を船に乗せて沖合の釣りイカダに運ぶ、いわゆる「遊漁船業」だ。記事では、「放流をやめると資源がなくなって、客もいなくなる。共生する方法を考えたい」との業者の声を紹介している。

   以下、つらつらと私見を。水槽にいるクロダイを何度か見たことがある。強そうな顎と歯が特徴で、カキの稚貝などは容易に噛み砕き食べると想像がつく。かつて、クロダイの塩焼きは金沢の居酒屋では人気商品だった。ところが、2014年のテニスの全米オープンで準優勝した錦織圭選手が記者会見で、「ノドグロが食べたい」と答えたことがきっかけで、焼き魚と言えばノドグロが「出世魚」となり、クロダイは影が薄くなった。このままいくと、カキ棚を荒らす悪い魚、顔つきもいかつく、居酒屋で人気のない魚となってしまう。

   今後、養殖業者はカキ棚を防護網で囲う新たな対策が必要となるのだろう。一方で、クロダイを漁獲して、カキといっしょに飲食店へ販売してはどうだろうか。店では「B級グルメ」に加工する。カキの稚貝を食べるクロダイのカルパッチョなどはけっこう受けるかもしれない。

⇒30日(土)午後・金沢の天気 くもり

☆能登大雨で熊木川の氾濫 大伴家持が詠んだ「熊来」伝説

☆能登大雨で熊木川の氾濫 大伴家持が詠んだ「熊来」伝説

   きょうから7月、その初日は能登半島は大雨に見舞われた。とくに中能登と呼ばれている七尾市中島地区の熊木川の一部流域では、氾濫危険水位を超えて農地や道路が冠水し、住宅では床下浸水の被害があった。中島地区など5800世帯・1万4100人を対象に避難指示が発令された=写真、1日付・夕刊各紙=。

   このニュースが気になったもの、中島地区で激しい雨を自身も経験したことがあるからだ。ちょうど6年前、2017年7月1日だ。能登へ乗用車で出かけ、自動車専用道「のと里山海道」の中島地区で、大雨に巻き込まれた。雨がたたきつけるようにフロントガラスに当たり、ワイパーの回転を一番速くしても前方が見えず、しばらく車を停車し小降りになるのを待った。再び出発すると、たたきつけるような雨に再び見舞われた。3度運転を見合わせた。波状的な激しい雨は初めてだった。このとき能登では1時間で53㍉の非常に激しい雨が観測され、七尾市の崎山川や熊木川などが一部氾濫した。   

   話は変わるが、熊木川にはちょっとした思い入れもある。川の河口の七尾西湾は「能登かき」で知られる養殖カキの産地でもある。里山の栄養分が熊木川を伝って流れ、湾に注ぎこむ。その栄養分が植物プランクトンや海藻を育み、海域の食物連鎖へと広がり、カキもよく育つとされる。とくに、里山の腐葉土に蓄えられた栄養分「フルボ酸鉄」が豊富にあると現地で学んだことがある(2010年5月・金沢大学「里山里海環境調査」)。学習的なことは別として、能登かきのファンにとっては気になる場所なのだ。

   和歌をたしなむ人々にとっても気にかかるのが「熊来」(のちに熊木村、現在の中島地区)かもしれない。天平20年(748)に越中国の国司だった大伴家持が能登を巡行している。そのときに詠んだ歌が万葉集におさめられている。「香島より熊来をさして漕ぐ舟の梶取る間なく都し思ほゆ」。以下、自己解釈で。(七尾の)香島から熊来の在所に向かって舟を漕いでいく。舟舵を取るのも忙しいが、それ以上に都のことがひっきりなしに思い浮かんでくる。

   作者は不詳だが、万葉集にはさらに2つの「熊来」が出て来る。「梯立の熊来のやらに新羅斧堕入れわし懸けて懸けて勿泣なかしそね浮き出づるやと見むわし」「梯立の熊来酒屋に真罵らる奴わし誘い立て率て来なましを真罵らる奴わし」(※七尾市「能登国府」パンフより)

   ある愚か者が鉄斧を熊来の河口の海底にうっかり落とした。海に沈んでしまえばもう浮かび上がることはないのに泣いてばかりいるので、しかたなく「そのうち浮かんで来るよ」とみんなでなだめた。熊木の在所の酒蔵でえらく怒鳴られている従業員がいたので、誘って連れ出そうかと思ったが、「怒鳴られているあんたはどうする」と。

   8世紀に成立した日本最古の和歌集に、おそらく当時の最先端の言葉であったであろう「酒屋」と「新羅斧」が出てくる能登はどのような風景だったのか。豪雨の熊木川から連想した。

⇒1日(土)夜・金沢の天気     あめ