#羽咋市

★「必要は発明の神さま」で祭り復活

★「必要は発明の神さま」で祭り復活

   「必要は発明の母」と言われる。この場合は「必要は発明の神さま」かもしれない。新型コロナウイルスの感染拡大で、昨年に引き続きことしも各地域の祭礼や神事などの恒例行事の中止が相次いでいる。インターネット調査で、コロナ禍で失われる可能性が⾼い⽇本⽂化として、「祭り」がもっとく高く42.3%、「花⽕⼤会」32.8%、「屋形船」29.0%、「花⾒」24.3%と続く(⼀般社団法⼈マツリズム、有効回答:男女400人、調査:2021年02月27日-3月1日)。祭りについては以前から高齢化や少子化で担い手不足が指摘されていたが、コロナ禍が拍車がかけたとも言える。

   多くの祭りは、神輿を担ぎ、その先導に獅子舞などがいて、それを見学する人々がいる。いわゆる「3密」の状態になることから、祭りが中止となるケースが多い。このような中、伝統の祭りを絶やしてはいけないと、神様を神社から外にお連れする神輿の代わりにミニ台車を手作りした神社の宮司がいる。きょう神社を訪れる機会に恵まれ、その想いを聞いた。

   石川県羽咋(はくい)市にある深江八幡神社。羽咋は祭礼の獅子舞が盛んな土地柄だが、昨年ほとんど中止となった。宮司の宮谷敬哉氏は3密を避けるために神輿を出せないとなれば、一人で押せる台車を作れないかとホームセンターに何度も通い、高さ150㌢ほどのものを完成させた=写真=。みこしに欠かせない鳳凰(ほうおう)は手作りが難しかったので、通販で小型のものを購入し飾り付けた。「神座(みくら)台車」と名付けた。

   昨年7月12日の例祭「祇園祭」では、神のより代である御霊代(みたましろ)を台車に収め、獅子頭だけを乗せた手押しワゴンが先導した。宮谷宮司が神輿の代わりに1人で台車を押して後に続いた。各家を1軒1軒回った。例年ならば神輿と獅子舞でにぎやか祭礼だが、簡素ではあるものの中止することなく続けることができた。

   この地区は500年ほど前に疫病が流行したことから、京都の八坂神社から神を招いて七日七夜祈祷したところ疫病が収まり、それを機に祇園祭が始まったと伝わる。宮谷宮司は「苦労して疫病を鎮めた歴史が地元にあり、『できない』ではなく、『どうしたらできるか』と考えた末にアイデアが浮かんだ」と。

   この神座台車と獅子頭の手押しワゴンが意外な展開を見せる。1965年(昭和40)年前後に神輿の渡御が途絶えていた集落から復活させたいと申し出があった。10月18日に地元の子どもたち6人が中心となって、神座台車と獅子頭の手押しワゴンで町内を歩いて回った。少子高齢化で担い手が少なくなり中止していたが、実に55年ぶりに祭りが復活したのだ。

   宮司は「祭りの復活で地域の様子が活き活きとしていることを一番感じたのは地域の人たちだと思う」と。この秋も神座台車と獅子頭の手押しワゴンの出番となる。

⇒17日(木)夜・金沢の天気     くもり

★個性と物語「在来イネ品種」にほれ込む

★個性と物語「在来イネ品種」にほれ込む

    能登半島の尖端にあり、小学校の廃校舎を活用している金沢大学能登学舎で、2007年に始めた人材育成事業はことし14年目を迎える。スタートの第1フェーズでは「能登里山マイスター養成プログラム」との名称で、そして現在は第4フェーズに入り、「能登里山里海SDGsマイスタープログラム」と改称し、国連のSDGsの考え方をベースに里山里海の持続可能性を学ぶカリキュラムとして社会人受講生に提供している。

   能登は自然環境と調和した農林漁業や伝統文化が色濃く残されていて、2011年には国連の食糧農業機関(FAO)から「能登の里山里海」として世界農業遺産(GIAHS)の認定を受けるなど、国際的にも評価されている。一方で、能登は深刻な過疎・高齢化に直面する「課題先進地域」でもある。新しい地域の仕組みをつくり上げる、志(こころざし)をもった人材が互いに学び合い切磋琢磨することで、未来を切り拓く地域イノベーションが生まれることをこの人材育成プログラムに込めている。

   これまで13年間で修了生は196人。面白い取り組みで注目されているマイスターがいる。能登半島の付け根に位置する羽咋(はくい)市で農業を営む越田秀俊・奈央子さんから「今月号の『現代農業』(2月号)に在来イネ品種のことを投稿しました」とメールで便りが届いた。二人はマイスタープログラムで学び、その後結ばれた。

   『現代農業』で「在来イネ品種に惚れた!」とのタイトルで投稿記事が紹介されていた=写真=。かつて、日本には多様な在来イネ品種があった。歴史の中で淘汰され、今はコシヒカリなどが主流だが、在来品種にはそれぞれ個性と物語があり、復活の兆しがある。就農5年目の二人が取り組んでいる水稲は「銀坊主」「関取」「農林1号」など。

   中でも、銀坊主は明治時代に富山の農業者が1株だけ倒れないイネを発見したことがきっかで北陸などでかつて普及した。この倒れにくい耐倒伏性は荒れ気味の天候にも強く、二人はこの品種に生命力を感じている。さらに、素朴で主張しない味は、濃い味付けのおかずに合うそうだ。奈央子さんは「銀ちゃん」と親しみを込めて栽培に工夫を重ねている。

   秀俊さんは投稿記事の中で、在来品種について「私たち新規参入者にとってはありがたい側面があります」と2つのメリットを上げている。栽培者が少ないので競合を避けることができること。そして、品種そのものに物語があるため、購入者に説明しやすい。何より、「古い品種の栽培はとても面白い」と。芒(のぎ)の長さや葉の鋭さ、太さ、収穫量、野性味など品種ごとに違いがあり、「こんなイネがあったんだ」と新鮮な驚きを届けてくれる。在来品種にほれた二人が懸命に栽培に取り組む様子が目に浮かぶ。

⇒16日(土)午後・金沢の天気     あめ