#異次元緩和

★インフレの中で、日銀は異次元緩和を続行のナゼ

★インフレの中で、日銀は異次元緩和を続行のナゼ

   赤字は膨らむ。財務省がきのう報道発表した「令和4年分貿易統計(速報)」によると、輸出額は前年比で18.2%増の98兆1860億円だったものの、輸入額は前年比で39.2%増えて118兆1573億円だった。輸出額から輸入額を引いた貿易収支は19兆9713億円の赤字だった。比較可能な1979年以降で最大の赤字となった。

   輸入額が膨らんだ背景には、ロシアによるウクライナ侵攻で、中東からの原油のほかオーストラリアの液化天然ガスなどの国際価格が上昇し、さらに「有事のドル買い」で円安が進んだ。追い打ちをかけるように日本とアメリカの金利差から一時1㌦=150円を超えるなど円安が顕著になった。

   原油価格や円安は物価に跳ね返る。総務省が毎月発表している消費者物価指数によると、直近の数字(2022年11月分)は前年同月比で3.8%の上昇だった。食料品やエネルギーなど生活に身近な品目の値上がりが続く。

   物価高は身の回りで感じる。近所のガソリンスタンドでは1㍑167円から170円で高止まりしている=写真=。クリーニング店では、かつてワイシャツ1枚180円がいまは240円、コットンパンツもかつて420円がいま600円だ。クリーニング店で話を聞くと、クリーニング工場では石油系の溶剤が使われ、アイロンやプレス機で使う蒸気は重油ボイラーとさまざまなものに石油製品が使われていて、原油価格はクリーニング料金に直結している、ということだった。

          これだけ物価上昇、インフレが進んでいるのに不可解なことがある。日銀の黒田総裁はきのうの金融政策決定会合後の会見で、「長期金利の変動幅をさらに拡大する必要があるとは考えていない」と発言、大規模緩和を続ける考えを改めて強調した。すると、為替市場は反応し、それまで1㌦=128円だった円相場が131円と円安ドル高にぶれた。そもそも、異次元緩和を解除する前提はインフレ率は2%の物価目標ではなかったか。上記のように消費者物価指数が3.8%になっているにもかかわらず、日銀がかたくなに異次元緩和を継続する理由は一体どこにあるのか。

   黒田総裁はいまのインフレに疑問を持っているようだ。経団連での講演会(先月26日)でこう述べている。「ウクライナ情勢、感染症の影響など、わが国経済をめぐる不確実性も、きわめて高い状況です。消費者物価は、現在2%を上回る上昇率となっていますが、先行きはプラス幅を縮小し、年度平均では、来年度以降、2%を下回るとみています。こうした経済・物価情勢を踏まえると、金融緩和によって、経済をしっかりと支え、企業が賃上げを行いやすい環境を整えることが必要だと考えています」

   ことしは通年のインフレ率が2%を下回るので異次元緩和を続けるというのだ。このタイミングを見計らったかのように、経団連は今月17日、ことしの春闘で経営側の交渉方針を示す「経営労働政策特別委員会報告」を発表し、急速な物価上昇を受け、基本給を底上げするベースアップを「前向きに検討することが望まれる」と明記した。中小企業を含めて幅広く賃上げの動きが広がり、景気の浮揚につなげられるかが焦点となる(17日付・読売新聞Web版)。

   経団連が春闘で賃上げをすることを約束したという内容だ。私見だが、黒田総裁と経団連側の「密約」があったのだろう。賃上げをベースにして、物価上昇を2%に高めることで異次元緩和を解除していく。賃上げによって、日銀が掲げる「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けて動き出す。春闘本番は3月、黒田総裁の退任も3月、この時期に合わせたのだろう。

⇒19日(木)夜・金沢の天気    あめ時々くもり

★1㌦=150円目前、「悪い円安」なのか「良い円安」なのか

★1㌦=150円目前、「悪い円安」なのか「良い円安」なのか

   ドル・円のレートが急激に円安・ドル高に振れていて、きょうは1㌦=149円になった。去年の終盤は1㌦=115円台だったので、30%ほど円安になった計算だ。メディア各社は、アメリカの長期金利が再び4%台に乗せたことで日米の金利差が拡大し、円売り・ドル買いの動きが加速したと伝えている。

   きょう午前中のNHKの国会中継。衆院予算委員会で野党の議員が日銀の異次元の金融緩和が円安を加速させていると、黒田東彦総裁の責任を問い質していた。以下。

階猛議員(立憲民主党):「日銀は円安を加速するような異次元の低金利をやってる。金融政策を正常化したり、あるいは柔軟化したりするためにも、今すぐ退くべきだと考えます。総裁、どうですか」
黒田総裁 :「ご指摘のような量的・質的金融緩和がまったく失敗したというのは事実に反する」
階議員 :「だから、辞めるか、辞めないか、どっちなんですか」
黒田総裁 :「辞めるつもりはありません」

   怒りを募らせたような野党議員の質問には前段があった。きのう17日の衆院予算委員会で、野党側の質問に、黒田総裁は「(物価の見通しについて)エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、年末にかけて上昇率を高める可能性が高い」「円安の影響によって輸入品価格が上昇していることが影響している」と答えていた。物価はまだまだ上がると、まるで他人事のような答え方だった。

   「良い円安」「悪い円安」といった議論が沸き起こっている。「良い円安」は、金利低下により住宅景気を押上げ、かつ企業の投資環境もよくした。 円安は海外への工場移転を停止させ、雇用を国内に戻す効果ある。さらに、 輸出競争力も高まる、といった論拠だ。

   一方、「悪い円安」は、日本からの輸出が多かった時代は円安のメリットはあったものの、産業構造が変わり、日本企業の製品の多くが海外で生産されるようになった現在ではそのメリットはない。8月の貿易収支は2兆8千億円の大幅赤字となっており、このまま貿易赤字が定着すれば、日本経済は窮地に立たされる、などの論拠だ。

   アメリカが利上げを続け、日銀が異次元緩和を続行すれば、1㌦=150円も単なる通過点だ。ただ、懸念されているアメリカの景気悪化が進行すれば、ドル安・円高に振れる可能性もあるだろう。先が読めない。

⇒18日(火)夜・金沢の天気    はれ