#珠洲焼

☆群発地震で古陶「珠洲焼」が転がる無残

☆群発地震で古陶「珠洲焼」が転がる無残

   震度6弱の揺れなど群発地震が続く能登半島・珠洲市のニュースをテレビで視聴して、地域工芸のシンボルである珠洲焼に相当な被害が出ているのではと察している。震度5強の地震があった日、NHKニュース(20日付)では、珠洲市立珠洲焼資料館の展示作品50点のうち半分ほどが倒れ、ガラスケース内にあって落下は免れたものの、中には破損したものもあったと報じられた=写真・上=。

  珠洲焼の古陶の多くは民家の土蔵に眠っている。家宝として、大切に保管されている。多くはしっかりとした棚の下段に並べられている。上段に置くと、誤って手が触れて落ちる可能性があるのであえて下段に置いている。ところが、震度6弱、震度5強と連続すると棚から転がり落ちる。それは、珠洲焼資料館を見れば一目瞭然だ。底に固定する下支えを入れたとしても、ヨコ揺れタテ揺れには耐えられないのだろう。民家の蔵の中では相当数の作品が被害を受けていることは想像に難くない。

   珠洲焼の魅力に見入ったのは、2007年暮れごろだった。珠洲市のあるお宅に招かれ座敷に上がると、現代作家の手による珠洲焼の花入れに一輪の寒ツバキが活けてあった。黒い器と赤い花のコントラスに存在感があり、しばし、見とれてしまった=写真・中=。そういえば、玄関にもさりげなく珠洲焼の一輪挿しがあった。「お宅にお茶やお花を嗜(たしな)まれる方がいらっしゃるのですか」と無礼を承知で尋ねると、「いやおりません。先代からこんな感じで自己流で活けております」と主(あるじ)は笑った。

   そして、珠洲焼の古陶が眠っているという土蔵に案内された。還元炎でいぶされ、艶やかになるまで焼き締められた黒色の壺は、荒々しい能登の気候風土の中でどこか厳粛さを感じさせる。それでいて、自己主張せずにどっしりとした能登の家構えに合う。中でも、主が大切にしていると語っていたのは、「海揚がり」の壺だった。珠洲は室町時代にかけて中世日本を代表する焼き物の産地だったが、各地へ船で運ぶ際に船が難破。海底に眠っていた壺やかめが漁船の底引き網に引っ掛かり、古陶として揚がってくることがある。壺にへばりついた貝類がそのままになっていて、時空を超えた作品に仕上がっている。この家の主は、先祖が明治時代に引き揚げた家宝だと、うれしそうに話していたのを覚えている。

   先に述べたように、各民家の土蔵などに仕舞われた珠洲焼の古陶は落下して相当の破損を被っているのではないか。さらに、珠洲焼の現代作家の人たちが創って展示している作品や、焼き上げ窯にしても損傷を負っているに違いない。今回の震災はさまざまな分野の人々に相当なダメージをもたらしているのだろう。(※写真・下は海揚がりの珠洲焼=「奥能登国際芸術祭2020+」公式ホームページより、文中の海揚がりの壺とは別の物)

⇒22日(水)午後・金沢の天気    くもり

★「失われゆくモノ」に見出す新たな芸術価値

★「失われゆくモノ」に見出す新たな芸術価値

   あと3週間で「奥能登国際芸術祭2020+」(9月4日-10月24日)が石川県珠洲市で開幕する。16の国と地域から53組の芸術家たちが参加する。ローカルメディアによると、現場ではすでにアーティスト・イン・レジデンスによる作品づくりが市民も巻き込んで盛り上がっている。

   自身も開幕の日から現地に赴き芸術の秋を堪能することにしている。楽しみにしているのは「大蔵ざらえプロジェクト」。能登半島の先端に位置する珠洲市は古来より陸や海の交易が盛んだった。珠洲にもたらされた当時の貴重な文物は、時代とともに使われる機会が減り、多くが家の蔵に保管されたままになり忘れ去れたものも数多くある。市民の協力を得て蔵ざらえした文物をアーティストと専門家が関わり、博物館と劇場が一体化した劇場型民俗博物館「スズ・シアター・ミュージアム」が新たに開設される。芸術祭の総合ディレクター、北川フラム氏のアイデアで、「失われゆくモノから新たな社会共通資本をつくろう」と新たなアートの可能性を創造する。

          大蔵ざらえで回収された文物は日用品のほか、農具や漁具、膳や椀、キリコ灯籠、屏風や掛け軸など、まさに行き場のなくなったモノが美術や民俗、人類学、歴史学などに分類される。さらに、アーティストたちの手が施されることによって、現在から数百年余り昔への時間の旅、そして海を越えてつながる各地の風景を感じさせる旅へと誘ってくれること楽しみにしている。「スズ・シアター・ミュージアム」そのものも廃校となった小学校を活用している。

   ただ心配しているのは、このところ続いている地震だ。14日午後10時38分ごろ、能登半島の先端東側を震源とするマグニチュード4.1の地震が発生し、珠洲市で震度3の揺れを観測している。この地域では7月に地震活動が活発になり、7月11日には最大震度4が観測されている(15日付・ウエザーニュース公式ホームページ)。アーティストが丹精込めて制作した作品群に被害が及ぶのではないかと、芸術祭ファンの一人として気がかりではある。

(※写真は「海揚がりの珠洲焼」。珠洲は室町時代にかけて中世日本を代表する焼き物の産地だった。各地へ船で運ぶ際に船が難破。海底に眠っていた壺やかめが漁船の底引き網に引っ掛かり、幻の古陶が時を超えて揚がってくることがある=「奥能登国際芸術祭2020+」公式ホームページより)

⇒16日(月)午前・金沢の天気     くもり