#漂着物

★セミの鳴き声なき夏本番 海岸のゴミから見えること

★セミの鳴き声なき夏本番 海岸のゴミから見えること

   梅雨が明け、夏本番となったとはいえ、何かが足らない、何だろうと考えて思い出した。セミの鳴き声が聞こえないのだ。ミンミンゼミなどの初鳴きは金沢だと梅雨が明ける7月の中・下旬ごろから聞こえ、夏本番を感じさせる。ところが、ことしは梅雨が平年より25日も早く明けた。土の中でまだ幼虫のセミも戸惑っているのではないか。「そんなに勝手に早く明けるなよ、夏の本番はオレたちが奏でるんだぞ」と。

   きのう、能登半島の千里浜(ちりはま)海岸で行われた清掃ボランティアに参加した=写真・上=。海岸は全長8㌔だが、うち6㌔が車での走行が可能で「千里浜なぎさドライブウェイ」と称されている。砂のきめの細かさと、適度に海水を含んで引き締まったビーチだ。波打ち際を乗用車やバスで走行できる海岸は世界で3ヵ所あり、アメリカ・フロリダ半島ののデイトナビーチ、ニュージーランド・北島のワイタレレビーチ、そして千里浜海岸だ。

   この海岸を守ろうと生命保険会社が毎年企画している活動で、それに参加させてもらった。能登地区の高校生たちも加わり、300人がゴミ袋とトングを持って、ゴミ集めに励んだ。金沢の日中の予想気温は34度で、気象庁からは石川県に「熱中症警戒アラート」が出ていた。現地に来てみると、浜風が心地よく吹いていて暑さをしのぐことができた。

   海岸清掃は午前10時に始まり11時30分まで。自身が集めたゴミはライターや空き瓶、ビニールの紐など実に多様だった。漁具のロープも拾った。事務局のまとめによると、ゴミのトータル量は426㌔に及んだ。中には、針つきの注射器=写真・中=が合計3本回収された。これまでニュースで報じられているように、ロシア製ではないだろうか。驚きだった。ペットボトルの中にはハングル文字や中国語で書かれたものもあった。海岸のゴミから見える日本海の環境問題を目の当たりにした。

   能登半島の沖合には北朝鮮の木造船などが流れ着く。大陸側に沿って南下するリマン海流が、朝鮮半島の沖で対馬海流と合流し日本海側の沿岸に流れてくる=写真・下=。とくに能登半島は突き出ているため、近隣国の漂着ゴミのたまり場になりやすい。かつて、大陸から流れ着いた漂流物の中には仏像などもあり、能登では「寄り神」として祀られている神社もある。現在では漂着物のほとんどが対岸の国からプラスチックごみや漁船から投棄された漁具類だ。

   データがある。石川県廃棄物対策課の調査(2017年2月27日-3月2日)で、県内の14の市町の海岸で合計962個のポリタンクを回収した。そのうちの57%に当たる549個にハングル文字が書かれ、373個は文字不明、27個は英語、10個は中国語、日本語は3個だった。ポリタンクや上記の注射器などの医療系廃棄物の不法投棄は国際問題だ。

   対岸国の不法投棄をどう解決すればよいのか。ヒントは地中海にある。「地中海の汚染防止条約」とも呼ばれるバルセロナ条約は21ヵ国とEUが締約国として1978年に発効している。日本海にも沿岸各国との汚染防止条約が必要ではないだろうか。ただ、ロシアや北朝鮮、中国といった一筋縄ではいかない国々が相手なので、そう簡単ではないだろう。日焼けでヒリヒリと痛みが走る両腕をさすりながら、そんなことを考えた。

⇒30日(木)夜・金沢の天気     はれ

☆「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~4~

☆「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~4~

     「奥能登国際芸術祭2020+」では海の環境問題をテーマにした作品を鑑賞した。大陸と向き合う能登半島の海沿いは「外浦(そとうら)」と呼ばれる。その外浦の笹波海岸にインドの作家スボード・グプタ氏の作品「Think about me(私のこと考えて)」がある。大きなバケツがひっくり返され、海の漂着物がどっと捨てられるというイメージだ=写真・上=。プラスチック製浮子(うき)や魚網などの漁具のほか、ポリタンク、プラスチック製容器など生活用品、自然災害で出たと思われる木材などさまざまな海洋ゴミだ。ガイドブックによると、これらの漂着ごみのほとんどが実際にこの地域に流れ着いたものだ。

    日本海の海洋ごみ問題を訴える「Think about me」

           前回(2017年)の奥能登国際芸術祭でも同じ海岸で、深澤孝史氏が「神話の続き」と題する作品=で、この地域に流れ着いた海洋ごみを用いて、神社の鳥居を模倣して創作した=写真・下=。古来より、強い偏西風と荒波に見舞われる外浦の海岸には、大陸から流れ出たものを含めさまざまな漂流物が流れ着く。大昔は仏像なども流れてきて、「寄り神」として祀られたこともあるが、現在ではそのほとんどが対岸の国で発生したプラスチックごみや漁船から投棄された漁具類だ。

   データがある。石川県廃棄物対策課の調査(2017年2月27日-3月2日)によると、県内の加賀市から珠洲市までの14の市町の海岸で合計962個のポリタンクが漂着していた。ポリタンクは20㍑ほどの液体が入るサイズが主で、そのうちの57%に当たる549個にハングル文字が書かれ、373個は文字不明、27個は英語、10個は中国語、日本語は3個だった。ポリタンクだけではない。医療系廃棄物(注射器、薬瓶、プラスチック容器など)の漂着もすさまじい。環境省が2007年3月にまとめた1年間の医療系廃棄の漂着は日本海沿岸地域を中心に2万6千点以上あった。

   漂着物は目に見える。もっと問題なのは一見して見えない、大きさ5㍉以下のいわゆる、マイクロプラスティックではないだろうか。ポリタンクやペットボトル、トレーなどが漂流している間に折れ、砕け、小さくなって海を漂う。マイクロプラスチックを小魚が飲み込み、さらに小魚を食べる魚にはマイクロプラスチックが蓄積されいく。食物連鎖の中で蓄積されたマイクロプラティックを今度は人が食べる。単なるプラスティックならば体外に排出されるだろうが、有害物質に変化したりしていると体内に残留する可能性は高いとされる。

   ポリタンクや医療系廃棄物の不法な海洋投棄は国際問題だ。「地中海の汚染防止条約」とも呼ばれるバルセロナ条約は21ヵ国とEUが締約国として名を連ね、1978年に発効した。条約化を主導したのは国連環境計画(UNEP)だった。UNEPの研究員アルフォンス・カンブ氏と能登の外浦で意見交換したことがある。そのとき、彼が強調したことは日本海にも汚染防止条約が必要だ、と。あれから15年余り経つが、汚染はさらに深刻になっている。日本海の汚染防止条約が今こそ必用だと実感している。スボード・グプタ氏の作品は海洋汚染を「自分事」として考えることが必要だと訴えているのではないか。「Think about me」と。

⇒8日(水)午前・金沢の天気     あめ