#武漢

☆目の当たりの『戦』この一年 ~その3~

☆目の当たりの『戦』この一年 ~その3~

   「オール・オア・ナッシング」の驚きの事態が中国で顕著になっている。メディア各社の報道によると、ゼロコロナ政策を掲げてきた中国政府が今月7日に大転換し、新型コロナウイルスの感染者数と死者数が急増しているようだ。緩和政策は、それまでの「白紙」抗議デモによる妥協との見方もあるが、変異ウイルスにより感染力が強まって、ゼロコロナ政策そのものが機能しなくなったことや、工場の生産停止などで「世界の工場」の地位が失墜するという経済的な不安の高まりなどが指摘されている。

    ~大気汚染とコロナ感染、中国の『戦』い~

   そもそも中国はゼロコロナ政策になぜこだわってきたのか。2019年暮れに発生した武漢市での新型コロナウイルス感染が、2020年1月の中国の春節の大移動で、日本を含め世界各地にコロナ感染者が拡大したとされる。さらに、その発生源について「2020年2月6日、華南理工大学の肖波涛教授は、このウイルスについて『恐らく武漢の研究所が発生源だろう』と結論付けた論文を発表した。しかし中国政府はコロナの発生源に関する研究を厳しく制限しており、同教授は論文を撤回した」(2021年5月27日付・ウォールストリート・ジャーナルWeb版日本語)。こうした流れから読めることは、ゼロコロナという独自の防疫政策の優位性を誇示し、発生源は中国ではないと言い逃れしたかったのではないか。

   それにしても、中国当局の発表では、政策を転換した今月7日以降の死者数は10人、2020年のパンデミック発生以降の公式な死者数は今月28日時点で5246人、という。メディアの報道によれば、基礎疾患があり死亡した場合はコロナによる死者数にカウントしないようだ。

   以下は、あくまでも憶測だ。コロナ感染で中国で死者が多数出ているとされる、その基礎疾患とは何か。気になる言葉がある。中国のコロナ患者が死亡でキーワードに上がっているが「白肺」だ。肺炎になると、レントゲンでは肺が白く写る。コロナ感染で呼吸系疾患が重症化し、機能不全に陥り死亡するケースだ。中国は大気汚染が深刻で、呼吸器系疾患の患者が多いと聞いたことがある。2012年8月に浙江省杭州市での国際ワークショップに訪れた折、ガイドの女性から聞いた話だ。(※写真は、2008年1月に上海を訪れたときに撮影したもの)

   中国の大気汚染の原因の一つは、石炭火力発電所に先進国では当たり前の脱硫装置をつけるが、中国では発電施設の増強が優先され設置が遅れている。発電施設の増強が優先され、その結果、上海などの大都市やその周辺では、肺がんやぜんそくなどを引き起こす微小粒子状物質「PM2・5」の大気中濃度が高まっているとされる。

   中国では大気汚染でもともと呼吸器系疾患が広まっている上に、新型コロナウイルスの感染で肺炎症状などが悪化、重症化するケースが増えているのだろうか。現在ではPM2・5を排出する工場の稼働率も下がっていることだろう。ただ、呼吸器系疾患を以前から持ち続けている人々にとっては気の抜けない日々と察する。

⇒30日(金)午後・金沢の天気   くもり時々あめ    

★バイデン指示「90日で結論を」動物感染か研究所漏洩か

★バイデン指示「90日で結論を」動物感染か研究所漏洩か

   ワクチン接種の遅れに自身もやきもきしている。ことし2月に接種が始まった医療従事者(480万人)ですら、2回接種を終えたのは282万人(5月27日現在・総理官邸公式ホ-ムページ)、率換算で58%、ようやく半数越えだ。65歳以上の高齢者3600万人のうち2回接種は24万人(同)、率ではわずか0.6%だ。もたもたしているうちに、変異株が多様化と進化を繰り返し、そのうちワクチンが効かなくなるのではないかと不安もよぎる。

   新型コロナウイルスの起源をめぐってニュースが相次いでいる。CNNニュースWeb版日本語(5月28日付)は、「フェイスブック社の広報はCNNに寄せた声明で、今後は新型コロナウイルス感染症が人工的に作られたとする主張を当社のアプリから削除しないことにした」と伝えている。フェイスブックは今年2月、WHOなどと協議し、ウイルスが人工的に作られたとの主張を削除すると発表していた。(※写真・上はThe White House公式ホームページより)

   ロイター通信Web版日本語(同27日付)は、アメリカのバイデン大統領は新型コロナウイルスの起源について、動物からの感染と研究所からの漏洩という2つのシナリオを国内の情報機関が精査しているものの、見解は割れていると明らかにし、声明で「明確な結論に近づくことができるよう、情報機関に対し情報の収集・分析に関する取り組みを強化し、90日以内に報告するよう要請した」と述べた、と報じている。 WHOは実施したコロナの起源を探る調査報告書を3月に公表し、ウイルスが武漢周辺の研究所から漏洩したとの見方は「最も可能性の低い仮説」と結論付けていた。

   ウォールストリート・ジャーナルWeb版日本語(同27日付)も「2020年2月6日、華南理工大学の肖波涛教授は、このウイルスについて『恐らく武漢の研究所が発生源だろう』と結論付けた論文を発表した。しかし中国政府はコロナの発生源に関する研究を厳しく制限しており、同教授は論文を撤回した」と研究所からの漏洩を報じている。 

   上記の一連の報道でいぶかったのは、研究所からの漏洩がは発生源とする分析はアメリカで相当進んでいるものとこれまで理解していたからだ。現に、アメリカ前政権の当時のポンペイオ国務長官は、中国科学院武漢ウイルス研究所に関する「新たな情報」として声明を発表している。NHKニュースWeb版(20121年1月16日付)によると、ポンペイオ氏は「アメリカ政府には、感染拡大が確認される前のおととし秋、研究所の複数の研究員が新型コロナウイルス感染症やほかの季節性の病気とよく似た症状になったと信じるに足る理由がある」と主張。加えて、「研究所は新型コロナウイルスに最も近いコウモリのコロナウイルスを遅くとも2016年から研究していた」「中国軍のための極秘の研究に関わっていた」と発表していた。

   ポンペイオ氏の声明には裏付けがあるものと自身も理解していた。この事件がきっかけだった。アメリカのハーバード大学教授が中国政府からの学術・研究協力の名目で多額の研究資金などを受け取っていたことを報告していなかったとして、アメリカ司法省は2020年1月、大学教授を「重大な虚偽、架空請求、詐欺」の容疑で訴追(逮捕は2019年12月10日、その後、21種類の生物学的研究を中国に密輸しようとした罪で起訴)している。教授はハーバード大学化学・化学生物学部のチャールズ・リーバー氏で、ナノサイエンス・ナノテクノロジーの分野で世界最先端の研究を行っている科学者。リーバー氏は中国の武漢理工大学の「戦略科学者」として2011-16年までの雇用契約を結んでいた。(※写真・下は2020年2月6日付・ニューヨーク・タイムズWeb版)

   つまり、武漢周辺の研究機関でのウイルス研究に詳しかったであろうリーバー氏から事情聴取が進み、かなり全容が見えてきた段階でポンペイオ氏が声明を出した、とニュースの流れを読めば誰しもそう考える。ところが、トランプ氏からバイデン氏へと政権交代がポンペイオ氏の声明から5日後の1月20日に行われたことで、武漢市でウイルス感染の起源についての調査は頓挫していたようだ。トランプ氏やポンペオ氏は新型コロナを「中国ウイルス」「武漢ウイルス」と叫んだため、コロナ禍をめぐる政権の失政を中国の責任に転嫁しようとする政治的な発言とバイデン政権は解釈したのだろう。解明調査はストップした。フェイスブック社もバイデン政権と連動するように武漢起源説やウイルス人工説に関する主張をアプリから削除した。

   このアメリカの状況を中国側は利用した。WHO報告書では武漢のウイルス研究所からの漏洩説を「可能性が低い」としているが、NHKの取材によると、インタビューした武漢担当の調査メンバーのオーストラリアの研究者は、感染拡大の初期の患者に関する詳しいデータを中国側に求めたが、提供されなかったと告白している(2月15日付・NHKニュースWeb版) 。

   このままだと武漢研究所からの漏洩説が消滅するはずだったが、すんでのところで調査再開の指示がバイデン氏から出た。動物からの感染と研究所からの漏洩という2つのシナリオの結論を90日以内に結論を出すことになる。遅くとも8月末には公表される。アメリカと中国の間で激しいコロナ情報戦も今後予想される。映画の『バイオハザード』のような展開になってきた。結論を待ちたい。

⇒31日(月)午後・金沢の天気    くもり

★静かなる年末年始(4)「水際の変異種コロナ」

★静かなる年末年始(4)「水際の変異種コロナ」

       変異種化した新型コロナウイルスがイギリスなど世界各国で確認されていることから、政府はあす28日から、外国人の新規入国を来月末まで停止すると発表した(内閣官房公式ホームページ・新型コロナウイルス感染症対策26日付「水際対策強化に係る新たな措置」)。政府間で合意している11の国・地域(中国、韓国、台湾、タイ、ベトナム、シンガポール、マレーシア、ミャンマー、カンボジア、ラオス、ブルネイ)の在留資格のあるビジネス関係者や教授職・留学生などについては例外的に新規入国を認める、としている。

         「水際対策強化」と銘打った措置だが、すでに後手ではないだろうか。そもそも、上陸する直前に防ぐことを「水際作戦」などと言ったりする。厚生労働省は今月26日に、イギリスから帰国したパイロットの男性と家族の女性(2人は東京在住)の変異種の感染を確認したと発表している。もう、国内で人から人への変異種の感染が初まっている。「水際対策強化」というのであれば、イギリスで変異種の感染が確認された時点で措置すべきではなかったろうか。イギリスは今月19日、ロンドンを含むイングランド南東部の大部分が対象に大規模なロックダウン(都市封鎖)に入った。日本も本来、このタイミングで措置すべきだった。1週間遅い。

   そもそも論だが、パンデミックとして広がった背景には、中国の旧正月の春節の大型連休(1月24日から)で日本を含め世界中に中国人観光客が訪れた。春節の前、1月20日、中国の習近平国家主席は武漢におけるコロナ禍の感染情報を直ちに発表するよう関係部門に直接指示を出した。習主席の指示は「感染拡大に関する情報を直ちに発表し、科学的な予防知識を広めるよう」と求めたものだった。それは、春節での海外渡航を全面的に禁止するものではなかった。 

          習主席の指示を受けた中国の衛生当局は1月24日、武漢での患者数が830人、死者は25人に達したと発表した。WHOは同23日の緊急会合で、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言は時期尚早との判断を下した。同月14日にWHOは武漢の新型コロナウイルス感染症で、主に家族を中心として限定的なヒトからヒト感染が起こっている可能性があり、広範囲なアウトブレイクが発生する可能性があることを指摘していた(国立感染症研究所公式ホームページ)にもかかわらず、である。

       日本で認められた新型コロナウイルスの発症例は、武漢に滞在中に発熱があり、1月6日に帰国した日本人男性が同15日になって陽性と確認された。感染第一例目となった。WHOに対しては翌日16日に国際保健規則に基づいて症例の発生を通告した。その後、春節の旅行で東京を訪れていた武漢に住む40代の中国人男性が、同22日になって東京都内の医療機関を受診したところ、肺炎の兆候がみられたため入院、24日に感染が確認された。

   これまでブログで述べてきた新型コロナウイルス感染をたどたってみると、パンデミックになるべくしてなったと思えてならない。春節に始まったパンデミックは止まない。(※写真は厚生労働省公式ホームページより)

⇒27日(日)夜・金沢の天気     くもり