#椿発言

☆メディアの政治的公平性とは 「椿発言」で問われたこと

☆メディアの政治的公平性とは 「椿発言」で問われたこと

   このところ問われている「メディアの政治的な公平性」で思い出すのが、あの「椿発言」だ。1993年9月21日、テレビ朝日の取締報道局長だった椿貞良氏が日本民間放送連盟の勉強会「番組調査会」で、「反自民の連立政権を成立させる手助けになるような報道をしようではないかと報道内部で話した」などと発言した。当時、7月の総選挙を経て非自民連立政権が樹立され、8月に細川内閣が発足していた。この内輪の会合の椿氏の発言が産経新聞=記事、1993年10月13日付=で報じられ、テレビ報道の政治的な公平性が問われた。

   その後、メディア関係者として初めて国会に証人喚問(同年10月25日)という前代未聞の展開となった。このとき、放送法違反による放送免許取消し処分が本格的に検討されたが、視聴者へのインパクトも大きいとして、行政処分にとどまった。当時自身もテレビ朝日系列局の報道担当だったので、椿発言の一連の流れが脳裏に刻まれている。

   椿発言が問われた背景に、テレビ報道の政治的な公平性と同時に、「テレポリティクス」というテレビ報道の台頭があった。テレビが政権交代へ世論をリードするとう現象だ。テレビ朝日の「ニュースステーション」は、久米宏氏と小宮悦子氏がキャスターとなり、いわゆる都市型選挙の世論をリードした時代だった。93年の総選挙では候補者を改革派と守旧派に分け、改革派に多くのスポットライトを当てていた。さらに、田原総一朗氏がキャスターとなった「サンデープロジェクト」は当時の宮沢総理の政治責任を追及するという先兵役を担った。

   番組調査会での椿発言では、「55年体制を突き崩して細川政権を生み出した原動力、主体となった力はテレビだ」「テレビのワンシーンは新聞の一万語に匹敵する」とテレポリティクスを自賛したのだ。このことで、自民党は「偏向報道」と激しく反発し、また、新聞メディアからの批判も招いた。

   産経新聞の報道を受けて、当時の郵政省放送行政局長は緊急記者会見で、放送法に違反する事実があれば電波法に基づく停波もありうると初めて示唆。直後に椿氏は取締役と報道局長を解任された。衆院の証人喚問で、椿氏は民放連番組調査会での軽率な発言を陳謝したが、社内への報道内容の具体的な指示については否定し、偏向報道は行なっていないと一貫して主張した。椿発言は、テレビメディアが政治を主導することへの危機感だった。

⇒26日(日)夜・金沢の天気    くもり    

 

☆番組の制作意図をさらけ出した、あの一言

☆番組の制作意図をさらけ出した、あの一言

    テレビ朝日公式サイトの「社長定例会見」のページに今月4日の会見の内容が記載されている。その中で、篠塚社長は報道局の社員3名の懲戒処分を当日付で行ったと以下述べている。報道局情報番組センター所属で『羽鳥慎一モーニングショー』のコメンテーター、玉川徹を謹慎(出勤停止10日間)とした。玉川は先月28日、番組で事実に基づかない発言を行い、その結果、番組および会社の信用を傷つけ、損害を与えたことによりと処分した。番組担当のチーフプロデューサー2名を譴(けん)責とした。

   記者からの「出勤停止の後は番組に復帰するのか。また、どのような再発防止策を講じていくのか」との質問に、篠塚社長は関係者のヒアリングなども含めて、会社の規定に従って処分を決定した。出勤停止が明けた段階では番組に復帰するという予定だ。番組も本人も含めて深く反省しているので、改めて指導を徹底して、と返答している。

   舌鋒鋭い玉川コメンテーターだが、今回問題となった発言はネット上のユーチューブ動画に数々上がっている。安倍元総理の国葬(9月27日)で菅元総理が友人代表として弔辞を読み上げ、感動的だったとの絶賛の声がSNSで広がっていた。これについて、翌日の番組で玉川氏は、「演出側の人間として、テレビのディレクターをやってきましたから、それはそういうふうにつくりますよ。政治的意図がにおわないように、制作者としては考えますよ。当然これ、電通が入ってますからね」などとコメントした。

   素直に聞けば、菅氏の弔辞は電通が作成したとも受け取れ、「電通黒幕」のような物言いだ。それが一転して、玉川氏は翌日の番組で「事実ではなかった」と謝罪した。社とすれば、この事実誤認を単に番組で詫びるだけでは済まなかった。テレビ業界と密接につながる電通側に対し、社として陳謝するという意味を込めて今回の処分になったのだろう。

   以下は憶測だ。経営陣にはもう一つ、憤りがあったのではないかと。玉川氏の発言の「政治的意図がにおわないように、制作者としては考えますよ」の部分だ。思い起こすのが、あの「椿発言」だ。1993年、テレビ朝日の取締報道局長だった椿貞良氏(2015年12月死去、享年79)が日本民間放送連盟の勉強会で、総選挙報道について「反自民の連立政権を成立させる手助けになるような報道をしようではないかと報道内部で話した」などと発言した。当時、非自民政権が樹立され、細川内閣が発足していた。この内輪の会合の椿氏の発言が産経新聞=写真・下、1993年10月13日付=で報じられ、テレビ報道の公平公正さが問われた。同氏は責任をとって辞任。その後、国会に証人喚問されるという前代未聞の展開となった。

   玉川氏の発言は椿発言とは真逆の立場ながら、表に出すべきでない番組制作の意図というものをさらけ出してしまった。椿発言がトラウマとなっている経営陣にとってはなおさら気に障ったのではないか、とも憶測した。

⇒12日(水)午前・金沢の天気    くもり時々あめ