#東京オリンピック

★政治の師匠・森喜朗氏の二の舞い 馳知事の「五輪舌禍」

★政治の師匠・森喜朗氏の二の舞い 馳知事の「五輪舌禍」

   官房機密費を使ったIOC委員へのアルバムをめぐって、馳浩知事についての報道が連日なされている。話はさかのぼるが、馳氏への石川県民の評価は高かった。馳氏は金沢市の私立高校で国語の教員をしていたときにロサンゼルス・オリンピック(1984年)のレスリング競技グレコローマンスタイルのライトヘビー級に出場。予選敗退だったものの、高校教諭でありオリンピック出場選手として県民は誇りに感じたものだ。

   それが一転、翌年85年にジャパンプロレスに入り、87年には新日本プロレスに入団してリングで戦う。北陸の精神風土は保守的だ。「教員辞めて、プロレスラーになり下がった」という思いで受け止めた人も多かった。馳氏のタレント性を政治家として引き出したのが当時、自民党幹事長だった森喜朗氏だった。

   1995年7月の参院選で石川選挙区に森氏からスカウトされて立候補し、民主改革連合の現職を破り当選した。その後、タレント議員の巣窟のように称されていた参院から鞍替えして、2000年6月に衆院選石川1区(金沢)で初当選。03年11月の衆院選で敗れるものの、比例復活で再選。05年9月の衆院選で3選。14年12月の衆院選で6選を果たし、15年10月には文科大臣に就任した。

   ここまで実績を積み上げると、石川県における政治的な地位は不動となり、17年4月には自民党県連会長に就任。同年10月の衆院選で7選。そして、21年7月に来る知事選への意欲を見せ、次期衆院選に出馬しないことを表明。22年3月の知事選で 前金沢市長を僅差で破り当選した。森氏の支援を後ろ盾にしていることは言うまでもない。

   今回のアルバム発言を、政治の師匠・森氏の二の舞いだと評する人もいる。2021年2月、東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長だった森氏はJOC臨時評議員会で、「女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて発言すると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。みんな発言される」と述べた。女性への差別的な発言であり、オリンピックへの女性参画の流れに逆行すると批判され、森氏は発言の責任を取って会長職を辞任している。

   森氏に続く馳氏のアルバム発言は「五輪舌禍」なのか。馳氏は聴衆を楽しませようとこの話をあえて持ち出したのかもしれないが、価値観の多様化や人権の視点から本人が込めた想いとは裏腹に誤解を生みやすい。そんな時代環境になっている。

⇒24日(金)夜・金沢の天気     あめ

☆「機密」もらす馳知事 東京五輪の誘致疑惑との関わり

☆「機密」もらす馳知事 東京五輪の誘致疑惑との関わり

   言葉は本人が込めた想いとは裏腹に誤解を生みやすい時代環境になっている。それだけ、価値観の多様化や、とくに人権には厳しい視線が注がれる。語る場にもよるが、政治家が聴衆に面白く話せば話すほど誤解を生むことにもなりかねない。石川県の馳浩知事が今月17日に都内でスポーツ振興の会合で講演し、自身が自民党の東京オリンピック・パラリンピックの招致推進本部長だった当時のことを語った裏話が物議をかもしている。

   メディア各社の報道によると、馳氏はこう語った。「当時、総理だった安倍晋三さんからですね。『国会を代表してオリンピック招致は必ず勝ち取れ』と。ここから、今からしゃべること、メモを取らないようにしてくださいね。『馳、カネはいくらでも出す。官房機密費もあるから』」 「それでね、IOCの委員のアルバムを作ったんです。IOC委員が選手の時に、各競技団体の役員の時に、各大会での活躍の場面を撮った写真があり、105人のIOC委員全員のアルバムを作って、お土産はそれだけ。だけども、そのお土産の額を今から言いますよ。外で言っちゃダメですよ。官房機密費使っているから。1冊20万円するんですよ」

   馳氏はこの発言が明るみに出でてすぐに撤回したものの、「官房機密費」(内閣官房報償費)を話題にした時点でアウトだろう。政府が「国の事務、事業を円滑、効果的に遂行するため、機動的に使える経費」と位置づける官房機密費は支払先や使途の詳細はチェックされない仕組みになっている。2023年度予算は14億6000万円。その機密費の使い方が具体的に明かされたことで、官房機密費の有り様そものが今後、国会などで問われるだろう。

   それにしも官房機密費を使って、開催都市決定の投票権を持つIOC委員全員にそれぞれのアルバムを作っていたとは、じつに違和感がある。と同時に新たな疑念もわく。東京オリ・パラを誘致する際に、電通の高橋治之元専務(※2022年8月に五輪に関連する受託収賄容疑で逮捕、その後保釈)はロビイストだった。ロイター通信Web版(2020年3月31日付)によると、五輪招致をめぐり招致委員会から820万㌦の資金を受け、高橋元専務らロビイストがIOC委員にロビー活動を行っていたと報じている。ロビー活動については、国際的にも問題が指摘されていた。この疑惑では、フランス司法当局の捜査対象となったJOCの当時の竹田恒和会長が2019年6月に退任している。

   では、馳氏のアルバムと高橋元専務の820万㌦のロビー活動はどのような関わりだったのか。素朴に考えれば、高橋元専務が馳氏が作ったアルバムを土産に携え、IOC委員105人を回り、現金を配っていたということだろうか。そもそも、アルバム作りを馳氏に指示したのは安倍元総理だが、誰が提案したのだろうか。高橋元専務が絡んでいるのか。五輪誘致活動の疑惑は深まる。あくまでも憶測だ。(※写真は、馳浩公式サイトより)

⇒21日(火)夜・金沢の天気  くもり

★またケチついた東京オリ・パラ組織委 その構造的な問題

★またケチついた東京オリ・パラ組織委 その構造的な問題

   オリンピックは汚職まみれ。これで札幌冬季五輪は絶望的になった。東京オリ・パラのテスト大会に関連する業務の入札をめぐる談合事件で、組織委員会の元次長や広告大手「電通」の元幹部ら4人が本大会の運営業務などを含めた総額400億円規模の事業を対象に、不正な受注調整を行っていたとして独占禁止法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。東京大会をめぐっては、汚職事件に続いて、今度は談合の疑いで組織委員会の当時の幹部が逮捕される事態となり、一連の事件で電通から逮捕者が出るのは初めて(8日付・NHKニュースWeb版)。

   今回の逮捕は、より金額が大きい本大会の業務の受注を視野にテスト大会の段階から談合していた、との疑いだ。逮捕された元次長は東京都出身で、大手鉄道会社に入社し、2004年に日本陸上競技連盟に転職した人物(同)。

   おそらくこれは構造的な問題だろう。ビッグイベントを仕切ることができる会社は数少ない。電通はその最大手だ。簡単に言えば、すべてを電通任せだったということだ。電通側とすれば、「談合」ではなく「調整」をしていたと釈明するだろう。メディア各社は電通の役割をよく理解しているはずだ。もちろん、この調整によって電通側が多額の利益を得ていたならば明らかな犯罪ではある。

   このニュースで怒っているのは、2030年の冬季五輪誘致を目指している札幌市民だろう。同市の秋元克広市長は「五輪・パラリンピックは極めて公共性の高い大会であり、その運営を担い、公正であるべき組織委職員から逮捕者が出たことで、30年大会招致への影響は避けられないと懸念している。市としてはクリーンな大会運営に向けた見直しを進めていく」とコメントを出した(同・朝日新聞Web版)。

   東京オリ・パラをめぐる一連の事件で国民も嫌気がさしているのではないだろうか。そもそも、大会組織委員会の会長だった森喜朗元総理がJOC臨時評議員会(2021年2月3日)で、「女性がたくさん入っている理事会は、理事会の会議は時間がかかります」「女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言われると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね」などと発言し、女性蔑視と批判され辞任することになった。ここがケチのつけ始めだった。オリ・パラはもう当分やらなくていい、そう思っている国民は多いのではないか。

⇒8日(水)夜・金沢の天気    くもり

☆感動の東京五輪から1年、ただあえて言うならば

☆感動の東京五輪から1年、ただあえて言うならば

   1年前のいまごろ、東京オリンピックで日本勢は金メダルラッシュだった=写真・上=。卓球の混合ダブルスで水谷隼・伊藤美誠選手が強豪・中国チームを破って五輪卓球で日本に初の金メダルをもたらした。シニア世代には卓球は中国のお家芸というイメージがあるので、この「チャイナの壁」を突破した快挙だった。

   卓球とは違って、オリンピックの醍醐味を新たな視覚で楽しんだのがスケートボードだった。当時はスケートボードがオリンピック競技になっていることすら知らなかった。女子ストリートで、13歳の西矢椛(もみじ)選手が優勝し、日本史上最年少の五輪メダリストになった。2位のブラジル選手も13歳、3位の中山楓奈選手は16歳、表彰台に10代の選手が並んだ姿は新鮮なイメージだった。

   地元選手の活躍もあっぱれだった。レスリング女子57㌔級の決勝で石川県津幡町出身の川井梨沙子選手がベラルーシの選手を下し、前回のリオデジャネイロ大会に続いて金メダル。さらに、川井選手の妹・友香子選手も62㌔級で金メダルを獲得。姉妹で「金」は日本勢初の快挙と讃えられた。

   ここから論調は一変する。いまさら論にもなるが、人口減少が続き、膨れ上がる赤字国債を誰が返済するのかという議論が出ている中で、1兆4530億円もの開催経費をかけてまでオリンピックを開催した意義はどこにあったのか。世界は「オリンピック・ノー」に動き始めている。2024年のパリ開催は決まっているが、立候補を表明していたドイツのハンブルグやローマ、ブタペストでは開催費が財政を圧迫するとの住民の反対が根強く、最終的に撤退している。28年のロス、32年のブリスベンも競争相手の都市がなくすんなりと決まったように思われているが、他の都市は住民の反対で立候補に至らなかったというのが経緯のようだ。

   日本も国民は東京オリンピックを待ち望んでいたのか。開催前のNHK世論調査(2021年2月8日付)で、オリンピックをどのようなカタチで開催すべきかとの問いで、「中止する」が38%で最も多く、「観客の数を制限」29%、「無観客」23%だった。コロナ禍でもあり、中止の声は3分の1を以上を占めた。世論が割れたことで、オリンピックの大口スポンサーだったトヨタは関連のテレビCMを見送らざるを得なかった。

   札幌市が1972年に続き2度目の開催を目指す2030年冬のオリンピック・パラリンピック。同市が作成した「2030北海道・札幌オリンピック・パラリンピック冬季競技大会 概要(案)」(2021年11月発行)=写真・下=によると、開催経費は最大で3000億円を見込んでいる。うち、大会運営費が2000億円から2200億円、施設整備費が800億円としている。巨額な経費はかかるにしても、オリンピック開催による経済効果はそれを払拭するというのが市側の建前論だろう。

   オリンピックの開催に反対ではない。ただ、イベントの開催でレガシーや経済効果を期待する時代はもう終わったのではないか。2025年の大阪・関西万博にしてもしかり。インターネットで情報が飛び交う時代に、万博で何か得るものがあるのだろうか。時代に合わなくなった「オワコン」(終わったコンテンツ)にしがみついて、「夢よ再び」の時代ではない。オリンピックや万博はもう他国に任せて、新たなグローバル・コンテンツを創り出すことに価値を見出すべきではないだろうか。

⇒28日(木)午後・金沢の天気    くもり時々はれ

☆2021 バズった人、コト~その1

☆2021 バズった人、コト~その1

  「人の噂(うわさ)も七十五日」という言葉はかつて使ったが最近は使わないし、聞くこともなくなった。時代が変わって、「人の噂」はネットやSNS、メールが本流になり、「バズる」という言葉が使われている。「バズってますね」などと自身もやりとりしている。ことしも残り9日。このブログで取り上げた話題を振り返る。題して「2021 バズった人、コト」。

          ~東京オリンピック、トヨタのテレビCMストップはなぜ~

  ことしはオリンピックイヤーだった。東京五輪(7月23日-8月8日)は地元石川県では何といっても、レスリング女子57㌔級の津幡町出身の川井梨沙子選手と、62㌔級の妹・友香子選手がともに金メダルを獲得したことが話題になった。地元紙は姉妹で「金」は日本勢初の快挙と讃えた。北國新聞は連日の特別紙面で「最強の姉 約束の金lと、本紙では「梨沙子連覇 川井姉妹そろって金」と。北陸中日新聞は「川井 姉妹で金 梨沙子連覇」とそれぞれ一面の通し見出しだった=写真=。東京オリンピックの日本勢で、姉妹による金メダルは初めてだったので、日本のオリンピックの歴史に新たなレジェンドをつくったのではないだろうか。     

   コロナ禍でのオリンピックの開催をめぐっては反対意見が盛り上がっていた。東京五輪の中止を求めるオンライン署名サイト「Change.org」の署名は45万筆を超えていた。署名の発信者は弁護士の宇都宮健児氏で、相手はIOCのバッハ会長だった。そして、強烈なメッセ-ジを発したのはトヨタだった。東京オリンピックの大口スポンサーでもあるが、新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない中での開催の是非について世論が割れていることを理由に、オリンピック関連のテレビCMをいっさい見送ると発表した。実際、五輪番組をテレビを見ていてもトヨタのCMを見ることはなかった。

   いまごろになって思うことだが、トヨタはなぜテレビCMを見送ったのだろうか。ワールドワイドな企業であるトヨタにとっては、オリンピックパートナーとしてメディアを通じてブランドイメージさらにアップさせるチャンスだった。そうした広告・ブランディング戦略にたけているはずだ。

   トヨタがCM中止を表明したのは開催4日前の7月19日だった。テレビと新聞による五輪開催へのマイナスな論調を見極めての決定だったのだろう。おそらく、この批判的な論調が開催期間中も続き、そうした論調のマスメディアにCMを出すのは企業にとってマイナスイメージとなると判断したのではないだろうか。ところが、オリンピックが始まると、開催に疑念を呈していたテレビも新聞もまるで「手のひら返し」をしたかのように、「ガンバレ日本」と選手たちの活躍を中心に報道を繰り広げた。トヨタはマスメディアの動向を見誤った。

   コロナ禍でのオリンピックは是か非かという論調は読者や視聴者に分かりやすいので、先頭だってマスメディアはそうした話題を提供する。身を張って五輪を阻止するというスタンスはもともとない。だから、オリンピックが始まってしまえば、マスメディアは五輪一色になる。別の視点から見れば、トヨタは「トヨタイムズ」という、タレントの香川照之が編集長となった自社メディアをホームページや「YouTubeチャンネル」で展開している。マスメディアの動向を観察しながら、自社メディアをどうカタチづくるか試行錯誤しているようだ。

   オリンピック競技を17日間視聴して、印象に残っているのはもちろんアスリートたちの姿だが、番組での解説やコメントなどスタジオのバックで流れていた桑田佳祐の『波乗りジョニー』だった。オリンピック競技場の無観客の状態は当初さみしいとも感じたが、毎日違和感なく視聴できたのもこの曲の高揚感のおかげだったのかもしれない。

⇒22日(水)夜・金沢の天気     くもり

☆夏の終わりによみがえるあの2曲

☆夏の終わりによみがえるあの2曲

   朝夕に肌寒さを感じるようになった。まもなく秋分の日(23日)だ。この夏を振り返ると、印象に残るのやはり東京オリンピックとパラリンピック、そして、耳に残るのが『マツケンサンバⅡ』と『波乗りジョニー』だろうか。

   俳優の松平健はテレビ番組『暴れん坊将軍』でおなじみだったが、歌っているとは知らなかった。オリンピック開会式のセレモニー楽曲を担当する作曲家グループの1人だった小山田圭吾氏が過去のいじめ告白問題で7月19日に辞任して大騒ぎになったが、そのとき、ヤフー・コメントなどで「マツケンサンバを開会式で」との書き込みを何度か目にした。検索して、『マツケンサンバⅡ』を動画で見て初めて知った。

   サンバのリズムに乗ってテンポよく歌い踊る松平健の後ろでは、腰元と町人風のダンサーたちが乱舞する。サンバは肌を露わにしたダンサーが踊る姿をイメージするが、赤い衣装を着た腰元ダンサーの方がむしろ艶っぽくなまめかしい。これが、正式にリリースされたのが2004年7月なので、17年も前の楽曲だ。さすがに、オリンピックの開会式では時間もなく無理だろうと思ったが、閉会式ではひょっとしてサプライズがあるのではないかと期待もした。家飲みのときにネットで楽しませてもらっている。
 
   テレビでオリンピック競技を17日間視聴して、印象に残っているのはもちろんアスリートたちの姿だが、番組での解説やコメントなどスタジオのバックで流れていた桑田佳祐の『波乗りジョニー』も、だった。この曲はもともと、テレビCMに流れる、日本の夏を象徴する曲だ。夏のテーマソングがそのままオリンピックのテーマソングのようになり、盛り上げてくれた。オリンピック競技場の無観客の状態は当初さみしいとも感じたが、毎日違和感なく視聴できたのもこの曲のおかげかもしれない。

   最後にこの夏を締めくくる言葉。東京オリンピックの閉会後にイギリスBBCのスポーツ編集長は「Tokyo Olympics : Sporting drama amid a state of emergency but how will Games be remembered?」との見出しで記事を書いている。最後の下り。「(意訳)パンデミックという事態であっても、オリンピックを否定することはできなかった。そのことに安堵した人も、失望した人もいたはずだ。そして、東京オリンピックの開催が正しかったのかどうかは、今後ずっと議論されていくだろう。しかし、不安に満ちた時代でも、スポーツ選手はこれまでと同じように、その元気な姿で我々を励ましてくれる存在であり続けた。それだけは確かなことではないだろうか」(8月9日付・BBCニュースWeb版)

⇒20日(祝)午前・金沢の天気      はれ

★東京オリ・パラの感動をパリへ

★東京オリ・パラの感動をパリへ

   足掛け3ヵ月にわたるオリンピックとパラリンピックが無事に閉幕した。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大、パンデミックの下で1年間の延期や、開催をめぐる議論がメディアを巻き込んで沸き起こるなど、IOCの存在意義も問われた。アメリカのワシントン・ポストWeb版(2021年5月5日付)のコラムで、IOCのバッハ会長が「Baron Von Ripper-off」(ぼったくり男爵)と名指しされ、この言葉は世界中に広まった。世界の歴史に記憶されるオリ・パラになったに違いない。

   では、オリ・パラを終えて、総括的にメディアはどのように評しているのだろうか。先述のワシントン・ポストWeb版は「Athletes from Afghanistan carry their country’s flag in Paralympics Closing Ceremonies」の見出しで、アフガニスタンの2人の選手がパラリンピック閉会式で国旗を掲げて行進したことを伝えている。タリバンが政権奪取して、2人の選手は開会式は欠席し、大会ボランティアが代わりに「連帯の証」として旗を持って行進していた。

   ワシンポストは記事で、タリバン支配下でアフガンの女性は伝統的な役割と服装にとどまることが強いられる。アフガンの女性テコンドー選手は、男性と一緒に訓練している姿を見るだけでも、タリバンは「私たちを撃ってくるだろう」とインタビューで語ったと伝えている。文中では「two athletes ended Sunday in a poignant scene」と表現し、アフガンの2人の選手によって(パラが閉会した)日曜日は痛烈な場面で終わったと評している。

   2024年に開催されるパリ五輪のおひざ元のAFP通信Web版は閉会式の写真グラフ(16枚)を掲載し、IPC(国際パラリンピック委員会)のパーソンズ会長が閉会の宣言で、1年開催が延期された大会は「歴史的であったのみならず、素晴らしかった」と述べたと簡単に報じている。

   NHKニュースWeb版(5日付)はパーソンズ会長の閉会宣言の言葉をさらに詳しく報じている。「新記録を打ち出す選手の姿などを通して、東京大会は世界に自信や喜び、希望を与えた。これができたのは、私たち世界中の人々を受け入れ、選手に競技する機会と場所を与えてくれた日本のおかげだ」と感謝の言葉を述べた。そして「スポーツは扉を開いてくれた。私たちを隔てている障壁を壊す時が来た。東京大会はこれで閉会する。次はパリで会おう」と述べた。

   以下は自身の感想だ。オリンピック、そしてパラリンピックは期待を裏切らなかった。記録破りのスポーツの醍醐味を味わった。エジプトの卓球のパラアスリートが口でラケットをくわえ、身体を左右に大きく振りながらラリーを続け、強烈なレシーブを決める姿を見て、「人に不可能はない」と教えられた。当初、無観客はさみしいとも感じたが、毎日テレビで視聴していると違和感がなくなってきた。もちろん、無観客のオリ・パラの損益は明らかにすべきだ。

   桑田佳祐の『波乗りジョニー』はいまでも耳に残っている。「そして笑って もう一度 せつない胸に波音が打ちよせる・・・」。2024年のオリ・パラもぜひ盛り上がってほしいものだ。(※写真は8月8日の東京オリンピック閉会式で映し出された2024年のパリ五輪の映像=NHKテレビ)

⇒5日(土)夜・金沢の天気     はれ

☆オリンピック打ち上げ宴会 テレ朝が問われること

☆オリンピック打ち上げ宴会 テレ朝が問われること

         オリンピックは強かった。ビデオリサーチ社Webサイト(10日付)の「オリンピック関連番組 視聴率・視聴人数」(関東地区)によると、7月23日の開会式は56.4%(NHK総合)、今月8日の閉会式は46.7%(同)だった。そして競技では、侍ジャパンが優勝した今月7日の野球、対アメリカ戦は37.0%(同)だった。はやり東京オリピック番組は視聴率を稼ぐのだと実感した。

   その視聴率と向き合い、オリンピックの番組制作に苦心したのがテレビ局の制作スタッフであることは言うまでもない。おそらく、オリンピックが終了し、一気に解放感が包まれたのだろう。気が緩んだようだ。テレビ朝日は10日付の公式ホームページで「当社社員の緊急搬送事案について」と題して、プレスリリースを掲載している。

   「今月8日夜、東京オリンピックの当社番組担当スタッフ 10 名が緊急事態宣言下における東京都の要請及び社内ルールを無視して打ち上げ名目の飲酒を伴う宴席を飲食店で開き、翌 9 日未明退店する際に当社スポーツ局社員1 名が誤って店の外に転落し、負傷して緊急搬送されました。当該社員は現在入院中で、事案の詳細は確認中です。」

   この事案はメディア各社もニュースとして大々的に報じている。NHKニュースWeb版(10日付)によると、東京オリンピック関連の番組を担当したテレビ朝日の社員6人と外部スタッフ4人の合わせて10人は、閉会式が行われた8月8日の夜から翌日の明け方にかけて、東京 渋谷区の飲食店で打ち上げの名目で飲酒をともなう宴会を開いていた。10人のうち社員1人が途中で帰ろうとした際、飲食店が入るビルの非常階段から誤って路上に転落して足の骨を折る大けがをし、救急搬送された。

   では、テレビ朝日のオリンピック番組を担当スタッフはどのような番組づくりをしていたのか。オリンピック映像の基本はOBS(Open Broadcaster Software)という国際組織が撮影を担当し、放映権を持つ各国の放送局へフィードバックしていた。つまり、映像は基本的に配信されていた。それを各放送局は独自の番組として報道をするためにアナウンサーやキャスターのほかにコメンテーターをスタジオに配置。また、試合の展開をある程度予想しながら過去の映像や関係者のインタビィーなどを行い番組を構成する役割を担っていた。多局との違いを出しながら、情報を抜かれないように、少なくとも五輪期間中の17日間は相当の緊張感を強いられていたことは想像に難くない。

   しかし、このような事態に陥った場合、テレビ朝日には当然容赦ない批判が浴びせられる。これまで同類の事案があった厚労省に向けて、テレビ朝日の「報道ステーション」や「羽鳥慎一モーニングショー」といった番組では痛烈な批判を展開していた。ところが逆の立場に追い込まれた。今回の社員の不祥事では、テレビ朝日の社長がまず釈明の会見を行い経緯の説明をすることが先決だろう。

⇒10日(火)夜・金沢の天気  くもり

★オリンピックを妙に盛り上げた選手たち

★オリンピックを妙に盛り上げた選手たち

          きのう閉会した東京オリンピックのことを海外メディアはどのように評価しているのだろうか。イギリスBBCのスポーツ編集長は「Tokyo Olympics : Sporting drama amid a state of emergency but how will Games be remembered?」との見出しで記事を書いている。印象の深いのは最後の下りだ。「パンデミックという事態であっても、オリンピックを否定することはできなかった。そのことに安堵した人も、失望した人もいたはずだ。そして、東京オリンピックの開催が正しかったのかどうかは、今後ずっと議論されていくだろう。しかし、不安に満ちた時代でも、スポーツ選手はこれまでと同じように、その元気な姿で我々を励ましてくれる存在であり続けた。それだけは確かなことではないだろうか」

   17日間、自身がテレビでオリンピック競技を視聴して、印象に残っているのは、番組での解説やコメントなどスタジオのバックで流れていた、桑田佳祐の『波乗りジョニー』だった。もともと、テレビCMに流れる、日本の夏を象徴する曲だった。夏のテーマソングがそのままオリンピックのテーマソングのようになり、盛り上げてくれた。

   逆説的な意味でオリンピックを盛り上げてくれたのは韓国選手団だったのかもしれない。選手団は選手村入りすると、さっそくにバルコニーに掲げた横断幕だった。豊臣秀吉の朝鮮出兵に抗した李舜臣将軍の言葉にちなんだと連想させる、「臣にはまだ5000万国民の応援と支持が残っています」とハングルで書かれていた。IOCは政治的宣伝と勧告し、横断幕は7月17日に撤去された。

   さらに韓国選手団は、選手村の食材は放射能で汚染されている可能性があるとし、独自に給食センターを設置して選手らに配給した。選手村の食材の一部が福島県から調達されたものであったことから、「放射能フリー弁当」を自国で調達すると、「復興五輪」のネガティブキャンペーンを展開した。

   世界から批判されたのは、7月23日の開会式を生中継した韓国のテレビ局だった。MBCは、ハイチの選手団が入場した際のテロップで「大統領の暗殺によって政局は霧の中」と、マーシャル諸島を選手団を紹介するテロップには「アメリカのかつての核実験場」と、ウクライナの選手が入場する際にはチェルノブイリ原発事故の画像が使われた。不適切放送として批判を浴びた(7月26日付・CNNニュースWeb版日本語)。

   メダル以外に大会をいろいろと盛り上げてくれた選手もいる。男子テニスのダニール・メドベージェフ選手(ロシア五輪委員会)は7月28日、東京の暑さの中で「オリンピックの試合中に暑さで死亡した場合、いったい誰が責任を取るのか」と審判に問いただした。世界2位ランクの選手のひと言で、国際テニス連盟は暑さ対策として、29日の第1試合の開始時間を当初予定していた午前11時からを午後3時に変更した。その29日の準々決勝で、メドベージェフ選手はスペインの選手にストレ-ト負けを喫した。ラケットを破壊し、無観客のスタンドに放り投げた(7月29日付・AFP通信Web版日本語)。何かと話題の多い選手だった。

   オリンピックを多様に盛り上げてくれた人たちだった。「そして笑って もう一度 せつない胸に波音が打ちよせる」。2024年のパリオリンピックもぜひ盛り上がってほしい。

(※写真は8日の東京オリンピック閉会式で映し出された2024年のパリ五輪の映像=NHKテレビ)

⇒9日(振休)午後・金沢の天気     はれ後くもり

☆オリンピックにARIGATO、あすから「五輪ロス」が

☆オリンピックにARIGATO、あすから「五輪ロス」が

           最後はビジョンに「ARIGATO」の文字が映し出された=写真・上=。この東京の暑い最中に選手たちはよく耐えた。「ARIGATO、よく頑張って、スポーツの醍醐味で見せてくれた」と国民の一人として思うことだ。新型コロナウイルスのパンデミックが広がる中での東京オリンピックの閉会式は静かに幕を下ろした。

   午後8時からテレビで閉会式の模様を視聴していた。注目していたことが一つあった。それは、広島市の松井市長がIOCのバッハ会長に書簡を送り、(原爆が投下された8月6日午前8時15分に)選手村などで黙とうを呼びかけてほしいと求めていた。これに対し、今月2日午後、IOCから、黙とうを呼びかけるなどの対応はとらないといった返答が広島市にあった。その理由についてIOCは「歴史の痛ましい出来事や様々な理由で亡くなった人たちに思いをはせるプログラムを8日の閉会式の中に盛り込んでおり、広島市のみなさんの思いもこの場で共有したい」と説明していた(8月2日付・NHKニュースWeb版)。それは閉会式でどのようなプログラムなのか。

   このことかと思ったのが、新型コロナウイルスで亡くなった世界の死者への葬送のパフォーマンスと日本各地の盆踊りだった。アイヌ古式踊や、沖縄県の琉球エイサー、岐阜県の郡上踊りなどの映像が新国立競技場のスクリーンで流された。確かに、旧盆に全国各地で催される盆踊りは亡くなった人々への供養や弔いの踊りである。しかし、普通に考えても、「ヒロシマの祈り」とは意義付けが異なる。

   そこで、今度はバッハ氏の閉会宣言に「祈り」の言葉が込められるのか、7分間のスピーチを最後まで聞いていた。「パンデミック以来初めて、全世界が一つになった。何十億の人が心を一つにし、喜びと感動の瞬間を共有した。これが希望をもたらし、未来を信じる気持ちを与えてくれた」との言葉には自身も心が動いたが、「祈り」「ヒロシマ」についてのワードは宣言になかった。結論、広島市長への回答は「葬送のパフォーマンスと盆踊りプログラム」だった。

   東京オリンピックの17日間はテレビを堪能した。スケートボード女子で13歳の西矢椛選手の日本史上最年少の金メダリストに=写真・下=、卓球の混合ダブルスで水谷隼・伊藤美誠選手が「チャイナの壁」を突破して日本の卓球界に初の金メダル、地元びいきかもしれないが、レスリング女子で川井梨沙子・友香子の姉妹選手がそろって金メダルを獲得した。そして、野球の日本とアメリカの決勝戦。この17日間は十分に楽しませてもらった。

   ほとんどの競技場が無観客での開催だったので、魂の抜けたようなひっそりとした大会ではないかと想像してもいたが、テレビの映像技術が臨場感を湧き立たせ、そして世界の選手たちがオリンピックに魂を吹き込んだ。あすからコロナ禍のニュースばかりに日々に戻り、「五輪ロス」が始まるかもしれない。

⇒8日(日)夜・金沢の天気       くもり