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☆ガソリン1㍑177円から学ぶ デフレ不況後の経済新局面

☆ガソリン1㍑177円から学ぶ デフレ不況後の経済新局面

   ことし6月22日付のブログで自宅近くのガソリンスタンドの価格が会員価格で1㍑170円(一般価格172円)にアップした、と書いた。きょう給油に行くと、会員価格で1㍑177円(同179円)になっていた=写真=。以前聞いたスタンド店員の話だと、政府が石油の元売り会社に支給している補助金が徐々にカットされていて、補助金がなくなればあと10円ほど高くなるとのことだった。ガソリンだけでなく、物価が全体的に上がり出している。

   そこで気になるのが、日銀が先週28日の金融政策決定会合で10年来続けてきた「異次元緩和」を柔軟にすると決めたことだ。長短金利の操作(イールドカーブ・コントロール)で長期金利を「0.5%程度」としてきたが、1.0%へと事実上、引き上げることに修正した。この日銀の判断をどう評価すればよいのだろうか。高まるインフレ圧力に抗しきれないとの判断なのだろうか。あるいは、デフレ脱却と経済が好循環に向うチャンスと読んでの判断なのだろうか。素人感覚では評価が難しい。

   そこで、日経新聞(31日付)をチェックすると、なるほどと納得する記事があった。「オピニオン」のページに「600兆円経済がやってくる」の見出しで、特任編集員の滝田洋一氏が書いている。以下、記事の引用。「日本経済は長期にわたるデフレ不況を克服し、インフレの下で新たな成長に向いつつある」「601.3兆円。内閣府は7月20日、2024年度の名目国内総生産(GDP)の見通しを発表した。600兆円といえば、15年に当時の安倍晋三首相が打ち出した新3本の矢の第1目標である」「物価が上がり出したことで、名目GDPが押し上げられるのだ。GDPばかりでない。企業の売上、利益、働く人の給与明細、株価、政府の税収。目に見える経済活動を含む『名目』だ」

「1990年度から2021年度にかけて、大企業は売上高が5%増にとどまるなか、経常利益を164%伸ばした。リストラで利益を捻出したのである。企業による設備と人件費の抑制は、経済のエンジンである投資と消費を失速させてきた。インフレの到来でその舞台は一変した」「23年度の設備投資は名目ベースで100兆円台に乗せ、過去最高となる勢いだ」

   最後にこう締めている。「バブル崩壊後の日本は経済が軌道に乗りかけると、財政政策か金融政策かでブレーキを踏み、経済を失速させてきた。その轍(てつ)を踏まぬよう細心の注意が必要だ」

   この締めの言葉は実に経済ジャーナリストらしいひと言である。防衛費や少子化対策予算として増税が議論されているが、経済が拡大すれば税収が増えるのだ。増税しか頭にない政治家や官僚にぜひ目を通してもらいたい記事である。

   1㍑177円のガソリン価格からふと思ったことが、日本の新たな経済局面を学ぶチャンスにもなった。これがブログの醍醐味かもしれない。

⇒31日(月)午後・金沢の天気     くもり

★インフレの中で、日銀は異次元緩和を続行のナゼ

★インフレの中で、日銀は異次元緩和を続行のナゼ

   赤字は膨らむ。財務省がきのう報道発表した「令和4年分貿易統計(速報)」によると、輸出額は前年比で18.2%増の98兆1860億円だったものの、輸入額は前年比で39.2%増えて118兆1573億円だった。輸出額から輸入額を引いた貿易収支は19兆9713億円の赤字だった。比較可能な1979年以降で最大の赤字となった。

   輸入額が膨らんだ背景には、ロシアによるウクライナ侵攻で、中東からの原油のほかオーストラリアの液化天然ガスなどの国際価格が上昇し、さらに「有事のドル買い」で円安が進んだ。追い打ちをかけるように日本とアメリカの金利差から一時1㌦=150円を超えるなど円安が顕著になった。

   原油価格や円安は物価に跳ね返る。総務省が毎月発表している消費者物価指数によると、直近の数字(2022年11月分)は前年同月比で3.8%の上昇だった。食料品やエネルギーなど生活に身近な品目の値上がりが続く。

   物価高は身の回りで感じる。近所のガソリンスタンドでは1㍑167円から170円で高止まりしている=写真=。クリーニング店では、かつてワイシャツ1枚180円がいまは240円、コットンパンツもかつて420円がいま600円だ。クリーニング店で話を聞くと、クリーニング工場では石油系の溶剤が使われ、アイロンやプレス機で使う蒸気は重油ボイラーとさまざまなものに石油製品が使われていて、原油価格はクリーニング料金に直結している、ということだった。

          これだけ物価上昇、インフレが進んでいるのに不可解なことがある。日銀の黒田総裁はきのうの金融政策決定会合後の会見で、「長期金利の変動幅をさらに拡大する必要があるとは考えていない」と発言、大規模緩和を続ける考えを改めて強調した。すると、為替市場は反応し、それまで1㌦=128円だった円相場が131円と円安ドル高にぶれた。そもそも、異次元緩和を解除する前提はインフレ率は2%の物価目標ではなかったか。上記のように消費者物価指数が3.8%になっているにもかかわらず、日銀がかたくなに異次元緩和を継続する理由は一体どこにあるのか。

   黒田総裁はいまのインフレに疑問を持っているようだ。経団連での講演会(先月26日)でこう述べている。「ウクライナ情勢、感染症の影響など、わが国経済をめぐる不確実性も、きわめて高い状況です。消費者物価は、現在2%を上回る上昇率となっていますが、先行きはプラス幅を縮小し、年度平均では、来年度以降、2%を下回るとみています。こうした経済・物価情勢を踏まえると、金融緩和によって、経済をしっかりと支え、企業が賃上げを行いやすい環境を整えることが必要だと考えています」

   ことしは通年のインフレ率が2%を下回るので異次元緩和を続けるというのだ。このタイミングを見計らったかのように、経団連は今月17日、ことしの春闘で経営側の交渉方針を示す「経営労働政策特別委員会報告」を発表し、急速な物価上昇を受け、基本給を底上げするベースアップを「前向きに検討することが望まれる」と明記した。中小企業を含めて幅広く賃上げの動きが広がり、景気の浮揚につなげられるかが焦点となる(17日付・読売新聞Web版)。

   経団連が春闘で賃上げをすることを約束したという内容だ。私見だが、黒田総裁と経団連側の「密約」があったのだろう。賃上げをベースにして、物価上昇を2%に高めることで異次元緩和を解除していく。賃上げによって、日銀が掲げる「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現に向けて動き出す。春闘本番は3月、黒田総裁の退任も3月、この時期に合わせたのだろう。

⇒19日(木)夜・金沢の天気    あめ時々くもり

☆利上げせず、さらなる円安、その先の危機シナリオ

☆利上げせず、さらなる円安、その先の危機シナリオ

   日米の金利差が拡大し、円よりもドル建てで運用する方が有利になり、ドルが買われて円安になる。当たり前のことだ。世界が見つめる日本はさらに厳しい。日本は賃金上げができないほど経済が弱体化している。なので利上げができず、円安が続く。世界で日本だけが成長から取り残されている、という世界の論調だ。「2000年時点では日本の平均賃金は米国より高かったのに、今では日本の平均賃金は米国の半分だ。国益とは何を指していたのだろうか」(4月22日付・ロイター通信Web版日本語)。

   メディア各社によると、政府・日銀は急激な円安を止めるためきょう22日未明にかけて、円買い・ドル売りの為替介入を実施した。これにより、円相場は1㌦=152円から146円まで円高に振れた。円安による為替介入は9月22日以来で2度目。ただ、今回は介入の事実を公表しない、「覆面介入」だった。

   ということは、投機筋に対して円相場の動きを読みにくくさせる、忍法「目くらまし」術のようなものだ。政府・日銀がこのような奇襲作戦を今後も続ける、円安で損をするのは投機筋だと宣言したようなものだ。

   では、なぜ日銀は利上げをしないのか。黒田総裁は参院予算員会(今月19日)で「金融緩和を継続することで経済をしっかりと支え、賃金上昇を伴うカタチで物価安定目標の持続的・安定的な実現を目指すことが適当」と答弁している。利上げによる経済への悪影響で巷(ちまた)でよく言われているのが、住宅ローン破綻の急増だ。変動金利で住宅ローンを組んだ購入者にとってローン金利が上がると打撃だ。ましてや、賃金上げがない中では現実的な話だ。

   もう一つ、日銀が利上げをしない理由。メディアでもよく報じられているのが、「利上げをすると国債暴落が起き、日銀のバランスシートが債務超過になるので、日銀は利上げができない」という論調だ。確かに、利上げをすると債券価格は下落するとは定説になっている。日銀は長期国債537兆円、国庫短期証券9兆円の合計546兆円の「国債」を資産として保有している(10月10付・日銀「営業毎旬報告」)。この数字をみれば、利上げで国債価格が下落すると日銀のバランスシートが崩れ、債務超過に陥るのではないかと考えてしまう。

   では、国債価格の下落に含み損が生じたとして、そのことによって日銀の業務に支障が出たり、金融市場が混乱するだろうか。民間の金融機関だったら、いわゆる預金者による「取り付け騒ぎ」が起きて混乱するだろう。中央銀行ではそれはない。雑ぱくな言い方だが、含み損が生じたとしても、いわゆる現金というのは日銀券のことであり、日銀にとっては痛くもかゆくもないだろう。   

   ただ、日銀が真に恐れているのは、いわゆる「キャピタルフライト(資本逃避)」かもしれない。覆面介入が奏功せずに投機筋による円安が続き、1㌦=200円ということになれば、国民はむしろ危機感を募らせる。2000兆円ともいわれる個人金融資産が安全資産への買い替えとしてドル買いに動き始めると、どうなるのか。おそらく政府は外貨購入に制限を設けるだろう。この時点で、政治も経済も信頼を失って、キャピタルフライトがさらに加速する。通貨危機のパターンでもある。

⇒22日(土)夜・金沢の天気     くもり

☆先が読めないニュースあれこれ

☆先が読めないニュースあれこれ

   日々のニュースに接していて、この先どうなるのだろうかと考え込んでしまうことがある。きょうもふとそのような心境に陥った。NHKニュースWeb版(27日付)によると、北朝鮮はきょう午前8時ごろ、南道ハムン(咸興)周辺から日本海に向けて短距離弾道ミサイルと推定される飛しょう体2発を発射した。北朝鮮は、ことしに入ってからミサイルの発射を極めて高い頻度で繰り返していて、5日と11日に飛しょう体を1発ずつ発射し、その翌日に「極超音速ミサイル」の発射実験を行ったと発表したほか、今月14日と17日にも日本海に向けて短距離弾道ミサイルと推定される飛しょう体を2発ずつ発射している=写真・上は1月6日付・朝鮮新報Web版=。

   直近では25日午前に巡航ミサイルを2発したと報じられていた。射程距離が2000-1万3000㌔の弾道ミサイルに比べ、巡行ミサイルは1500㌔と射程は狭く速度も遅いが、日本や韓国では脅威だ。北朝鮮は今月19日に開かれた朝鮮労働党の政治局会議で「アメリカ帝国主義との長期的な対決に徹底して準備しなければならない」とする方針を決定し、2018年に中止を表明していた大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験や核実験については見直しを検討するとしている(同)。ICBMが発射されれば、アメリカ西海岸のロサンゼルスなどが射程に入る。かつて、アメリカのトランプ大統領が国連総会(2017年9月)で「ロケットマンが自殺行為の任務を進めている」と演説したが、その状況が蘇ってきた。

   新型コロナウイルスの感染拡大が止まない。全国で7万人の新規感染者(26日)が出て、石川県内でも一日の新規感染がついに500人を超えた(504人)。ここまで人数が増えてくると感染経路そのものが多様化して、防ぎようがない。県内の504人のうち感染経路調査中が337人、感染者の濃厚接触者などが122人、残りがクラスター関係で7件45人だ(県発表)。 また、入院や宿泊療養などの療養先が決まっていない人は1000人を超えて1013人となっている。感染者が確認された保育園や小学校など学校では臨時休校が相次いでいる。中学では高校受験を控えた3年生はオンライン授業に切り替えているが、生徒たちは感染と受験の「二重苦」にさいなまれているに違いない。県内ではきょうから「まん延防止等重点措置」の適用に全県域が入る(2月20日まで)=写真・下=。

   もう一つ先が読めないニュース。きょうの東京株式市場は、日経平均が午前中、一時700円を超える値下がりとなった。午前の終値は前日の終値より690円安い2万6321円。アメリカのパウエルFRB議長がきのう理事会でインフレ抑制を優先する姿勢を打ち出し、量的緩和の3月終了を決定したことで金融引き締めへの警戒感、それに伴う経済の回復傾向にマイナスになるという懸念が広がった。ダウ平均もこのところ一時800㌦を超える大幅な値下げがあるなど乱高下が続いている。

   では日銀はどうか。黒田総裁が2013年に就任以降、2%の消費者物価指数を政策目標に掲げて大規模な金融緩和策を粘り強く続けている。ここにきて、物価上昇が顕著になってきた。これに賃上げが加われば、ひょっとして「金融政策の正常化」へと回帰するのではないかとも考えたりする。ただ、中国不動産開発の中国恒大のデフォルト問題が象徴するように中国経済が今後どうなるかによって暗雲が漂うかもしれない。経済の先も読めない。

⇒27日(木)午後・金沢の天気     はれ

★いつでも誰でもどこででも日銀のデジタル通貨

★いつでも誰でもどこででも日銀のデジタル通貨

   このブログでも何度か取り上げてきた中央銀行が発行するデジタル通貨について、きのう日銀が欧米の中央銀行との共同研究報告書を公表した。日銀の公式ホームページをのぞくと、来年2021年度から実証事業を始めるとある。いよいよデジタル法定通貨が経済のコアとして浮上してきた。

   このブログで、政府と日銀はアフターコロナの政策として、2024年に予定している新札発行をデジタル通貨へと舵を切るのではないかと憶測してきた。以前から紙幣や硬貨は非衛生的だとの指摘があり、新型コロナウイルスの感染拡大にともなって一気にキャッシュレス化が進んだ。もちろん紙幣や硬貨を粗末にするという意味ではない。  

   以下、日銀ホームページの共同研究報告書から引用する。日銀は、現時点でデジタル法定通貨(Central Bank Digital Currency、以下CBDC)を発行する計画はないと前置きしながしなら、決済システム全体の安定性と効率性を確保するよう準備する、としている。CBDC役割について、1.現金と並ぶ決裁手段の導入、2.民間決裁サービスのサポート、3.デジタル社会にさわしい決済システムの構築、の3点を上げている。

   現金に対する需要がある限り、現金の供給についても責任をもって続けていく。CBDCが発行されると、民間企業や金融機関によるデジタル通貨と競合し、民間の活力を損なう懸念もある。たとえば、銀行預金からの引き出しが容易になって金融危機時に銀行経営が揺らぎやすくなるといったことも想定され、そうした事態が起きないよう民間決裁サービスをサポートする。

   CBDCが持つべき特性をまとめている。現金や預金などとの交換性や現金払いやスマホ決済のような決済時の容易さ(ユニバーサルサービス)、取引の即時決済性といった強靱性、セキュリティを上げている。つまり、現金のように「誰でも使える」「安心して使える」「いつでも、どこでも使える」との位置づけだ。

   日銀は21年度の早い時期に実証実験を始め、1.中央銀行と民間事業者の協調・役割分担のあり方、2.CBDCの発行額・保有額制限や付利に関する考え方、.3.プライバシーの確保と利用者情報の取扱い、4.デジタル通貨に関連する情報技術の標準化のあり方などの点について検討を進めていく、としている。

   菅内閣が進めるデジタル化の促進はまさに日銀のこの動きと連動するものだろう。これと選挙のデジタル投票が同時に進めば、日本のデジタル化は政治と経済の両面でかなり加速するのではないだろうか。

⇒10日(土)朝・金沢の天気   くもり

★日銀「デジタル円」の可能性へ実証実験も

★日銀「デジタル円」の可能性へ実証実験も

   政府と日銀はアフター・コロナの政策として、2024年に予定している新札発行をデジタル法定通貨へと舵を切るのではないかと憶測する、と5月24日付のブログで書いた。以前から紙幣や硬貨は非衛生的だとの指摘があり、新型コロナウイルスの感染拡大で一気にキャッシュレス化が進んだ。もちろん紙幣や硬貨を粗末にするという意味ではない。キャッシュレス化になじんできた国民もデジタル法定通貨を歓迎するのではないだろうか。

   日本銀行の公式ホームページをチェックするとその段取りが着々と進んでいることが分かる。デジタル法定通貨(Central Bank Digital Currency、以下CBDC)を発行する場合の技術的な課題についてまとめたリポート(報告書)が2日付で掲載されている=写真=。題して『中銀デジタル通貨が現金同等の機能を持つための技術的課題』。

   報告書で特に重視しているのは、誰でも使えるユニバーサル・アクセス(Universal access)の確保だ。現状のデジタル決済はスマホを使うことが浸透しているが、国内のスマホ普及率は2018年時点で65%にとどまっている(総務省「令和元年版 情報通信⽩書」)。スマホを持たない子どもたちやシニア世代は利用できないため、CBDCを受け渡しできるよう専用端末の開発も必要だとしている。

   リポートがもう一つ強調しているのが強靭性(Resilience)だ。日本は地震や津波、台風、大雨といった自然災害が多く、通信や電源が確保できなくなる状態ではスマホも使えなくなるので、オフラインの環境でもCBDCを受け渡しできる機能の確保が必要だとしている。たとえば、送金先や金額などの情報を暗号技術を使ってスマホのアプリなどで記号や番号にして、受け取る人に口頭で伝える仕組みなどを示している。

        ⽇銀としては、「現時点で発行する計画はない」としているが、今後、実証実験を行う予定でリポートの最後をこう締めくくっている。「技術⾯からみた実現可能性(フィージビリティ)を確認していくとともに、海外中銀や内外の関係諸機関と連携をとりながら、CBDC に関して検討を進めていく⽅針である」

   CBDCをめぐっては、中国が「デジタル人民元」の準備を進めている。アメリカのFRB(連邦準備理事会)も独自研究を進める。また、フェイスブックが独自にデジタル通貨「リブラ」の構想を打ち上げている。

⇒3日(金)午後・金沢の天気   くもり時々あめ