#日本学術会議

☆裁判で問うべき、学術会議の任命拒否問題

☆裁判で問うべき、学術会議の任命拒否問題

   前回の続き。 日本学術会議が新会員候補に推薦したものの、菅総理が任命を拒否した6人が23日、外国特派員協会で記者会見した。この会見で、教授サイドから「独裁者」「恐ろしい話」という言葉が出た時点で、政権との敵対関係を宣言するために記者会見を開催した、と記者たちは解釈したのではないかと述べた。そして、この記者会見について、国民はどのようなイメージを持っただろうか。

   とくに、刑事法の教授が「ナチスドイツのヒトラーでさえも全権を掌握するには、特別の法律を必要としましたが、菅総理大臣は現行憲法を読み替えて自分がヒトラーのような独裁者になろうとしているのか」 と述べたことに、ネット上で批判的なコメントが集中している。

   「会見には何の関係も無いのに、独裁者とかヒトラーなどの用語を用いるのは、聞いている人達に菅総理や政府への悪印象を与える事が目的だからです。・・・」(ユーチューブ)、「自国の首相をヒトラーと同じだって。しかも外国記者クラブで世界に向かって宣伝。このようなおかしな”学者”が主導権を握っている学術会議ってなんだ。このよう組織を税金を使って持つ必要は無い。・・・」(ヤフーニュースのコメント)。それにしても、すさまじい数の批判コメントだ。

   この会見を仕掛けた側の意図がよく理解できない。当事者たちに思いや本音を自由に語らせるために開いた会見だとすれば、それは大間違いだ。会見の仕組みや意義を理解していないのではないか。会見で記者が読むのは、会見を開いた理由・意図・目的である。会見に臨んだ理由が、6人が総理の任命拒否について裁判で総理の権限をめぐって争うというのであれば、とても分かりよい。会見の開催は、目的性を持ったものである。言葉で「ヒトラーのような独裁者になろうとしているのか」などと政府批判を言うよりも、アカデミックな闘争として裁判を仕掛けた方が国民の理解を得るのではないだろうか。

   学術会議サイドは、学術会議の独立性は破壊され、学問の自由の制度的枠組みを破壊することになるので、憲法23条違反と主張している。 官邸サイドは、憲法15条1項の国民の公務員選定罷免権を根拠にして今回の措置が合法としている。だったら、裁判で決着するしかないだろう。

※写真は、FCCJ(日本外国特派員協会)公式ホームページの会見動画より

⇒25日(日)夜・金沢の天気     はれ

★記者会見で逆に問われること

★記者会見で逆に問われること

        日本学術会議が新会員候補に推薦したものの、菅総理が任命を拒否した6人がきのう23日、外国特派員協会で会見した。任命拒否は「学問の自由を破壊する憲法違反」「政治権力に左右されない職務の大きな妨げ」などと訴え、早期撤回を求めた。また、「会員の適否を政治権力が決められれば、憲法23条が保障する『学問の自由』の破壊になる」との主張もあった(10月23日付・共同通信Web版)。テレビでも会見のニュースを見たが、感想をひと言でいえば、「記者会見はもう少し戦略を持って臨むべき」ということだ。

   まず、この会見は誰に向けて発信したのだろうか。外国特派員協会なので、単純に世界に向けての発信なのだろうか。つまり、世界に向けて、日本の菅総理は「学問の自由を破壊する憲法違反を犯した」、あるいは「学問の自由の破壊者だ」と訴えたかった、のか。しかし、外国特派員はそう単純に受け取るだろうか。世界のメディアの目線は、政府批判を繰り広げた学者を捕捉し隔離する中国のケースならば、人権弾圧や「学問の自由」の侵害をとらえるだろう。海外メディアは、政府機関への任命拒否を単純に憲法違反や人権弾圧、学問の自由の侵害と解釈するだろうか。

   記者会見で記者サイドが読むのは相手の表情や言葉のバックボーンからにじみ出る思想信条だ。刑法専門の教授は「官邸側は憲法15条1項が定める国民の『公務員の選定・罷免権』を根拠にして、今回の措置は合法だと説明している。総理大臣は国民を代表しているからどのような公務員であっても自由に選び、あるいは選ばないことができる、その根拠は、憲法15条だと宣言したということだ。『独裁者になろうとしているのか』と思うほど、恐ろしい話だ」と述べた(同・NHKニュースWeb版)。

   おそらく学者から「独裁者」「恐ろしい話」という言葉が出た時点で、記者たちはこの言葉を発するために記者会見に臨んだに違いない、と読む。つまり、政権との敵対関係を宣言するために記者会見を開催した、と。

   動画(同・朝日新聞Web版)をチェックすると、ロイター通信の記者は「将来的に菅総理はどのように権力を使っていくか」と質問した。刑法専門の教授は「すべての公務員について自分が好き勝手に任命・罷免できるというところまで突き進む危険性がある。日本の国民の世論が内閣をどう評価するかが今後の行方を左右する」と答えていた。

   記者会見で述べれば、言いたいことすべてを記者が記事や放送で流してくれると勘違いしているのではないだろうか。ロイター通信が今回の会見をどのように報じたのかとWeb版をチェックしたが、この会見の模様はニュースになっていない(24日午前9時現在)。世界に発信するニュースではないとの記者判断なのだろう。国内メディア各社は報じている、が。

⇒24日(土)午前・金沢の天気    くもり

☆仰ぎ見る富士なれど、世間は騒々しく

☆仰ぎ見る富士なれど、世間は騒々しく

   共同通信社が17、18両日に実施した全国電話世論調査によると、菅内閣の支持率は前回9月の調査と比べて5.9ポイント減の60.5%、不支持率は5.7ポイント増の21.9%だった。日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命拒否問題を巡り、菅義偉首相の説明は「不十分だ」との回答が72.7%に達した(10月18日付・共同通信Web版)。

         NHKが今月9-12日で行った世論調査によると、菅内閣を「支持する」と答えた人は、政権発足後初めての先月の調査より7ポイント下がって55%、「支持しない」は7ポイント上がって20%だった。日本学術会議が推薦した新しい会員の一部を任命しなかったことについて、菅総理が「法に基づいて適切に対応した結果だ」と説明していることに、どの程度納得できるか聞いたところ、「大いに納得できる」が10%、「ある程度納得できる」が28%、「あまり納得できない」が30%、「まったく納得できない」が17%だった(10月13日付・NHKニュースWeb版)。

   各メディアの世論調査では内閣支持率が前回比で減っている。共同とNHKはそれぞれ6ポイント、7ポイントだ。日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命拒否となったことをめぐり、連日メディアで問題視されているにもかかわず、NHKでは支持率55%と高い。菅内閣とすれば想定内のことなのかもしれない。

   この日本学術会議問題をめぐってさまざまな視点から批判や意見があって当然なのだが、まったく解せないのが、静岡県の川勝知事の発言だった。知事は今月7日の定例記者会見で、「菅首相の教養レベルが図らずも露見した。学問をされた人ではない。単位を取るために大学を出た」などと発言した。その後、12日も報道陣に「訂正する必要は全くない」と強調し「(菅首相の)経歴を見ると、学問を本当に大切にしてきたという形跡が見られない」と述べていた(10月16日付・静岡新聞Web版)。このニュースを知って、まるで人格攻撃のようだと感じた。

   静岡県庁の公式ホームページで知事のプロフィルをチェックすると、「昭和50年3月 修士(早稲田大学大学院経済学研究科)」「昭和60年10月 D.Phil.(オックスフォード大学)」とあり、「私は学問を追求してきた」と言わんばかりだ。ただ、「言葉は人格を表す」とよく言われるが、学歴と人格の乖離が目に余る人は私の周囲にもいる。知事は去年12月19日にも、来年度予算に難色を示した県議会の自民党系の最大会派を念頭に「やくざの集団、ごろつきがいる」と発言。県議会2月定例会で撤回、謝罪し「今後、不適切発言はしない」と答弁したばかりだった(同)。

   知事は今月16日にようやく発言を撤回し陳謝した。静岡県公式ホームページには「『富士の国』づくりに向けて」と題したページがある。以下引用する。「富士」の「富」は物の豊かさを、「士」は心の豊かな徳のある人格者を意味しており、その字義をふまえ、我々は物の豊かさと心の豊かさの調和した国をめざして「富国有徳」をもって理念とする。知事には富士山のように仰ぎ見、畏敬の念に打たれる人格者であってほしいと願うのだが。(※写真は、静岡県富士市役所の「フリー写真素材集」より)

⇒19日(月)朝・金沢の天気   くもり

☆これは菅内閣の深謀遠慮か

☆これは菅内閣の深謀遠慮か

   日本学術会議は政府から独立して政策の提言などを行う日本の科学者を代表する機関だ。任命権は総理にある。その学術会議が菅政権ともめている。学術会議が、会員の候補として105人を推薦した学者のうち、菅氏が6人を任命しなかった。これを受けて、学術会議は任命されなかった理由の説明を求めるとともに、6人の任命を求める要望書を菅氏に宛てて提出することを決めた(10月3日付・NHKニュースWeb版)。

   学術会議のミッションは「科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること」「科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること」だ(日本学術会議公式ホームページ)。菅氏が任命を拒否した理由は一体なんなのか。今回任命されなかった6人はキリスト教学者、政治学者(政治哲学、政治思想史)、法学者(行政法)、法学者(憲法)、法学者(刑法)、歴史学者(日本近代史)だ(10月2日付け・同)。

   6人の中には、3年前の共謀罪の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する法案をめぐり、参院法務委員会に共産党が推薦する参考人として出席し、「何らの組織にも属していない一般市民も含めて広く市民の内心が捜査と処罰の対象となり、市民生活の自由と安全が危機にさらされる戦後最悪の治安立法となる」と述べた学者もいた(同)。6人はこれまで何らかの政治的な発言、あるいは自民党の政策に対して政治的に行動ならびに発言を繰り返してきた。

   別な角度からこのニュースを深読みする。日本学術会議法第7条2項で「会員は、第17条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」とある。さらに、第1条の2項で「日本学術会議は、内閣総理大臣の所轄とする」、3項で「日本学術会議に関する経費は、国庫の負担とする」とある。これを読み解く限り、総理に任命の拒否権があると読める。ちなみに、第2条は「日本学術会議は、わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的とする」とある。菅氏の理由はこの第2条にそぐわない人物ということなのだろうか。その理由を聞いてみたい。

   さらに別の視点で見てみる。日本学術会議は学者としての社会的な権威付け、つまり、日本学術会議の会員と称しただけで、社会の格付けが上がる。また、研究ファンドが取得しやすくなるランク付けではないか。この目線で言えば、日本学術会議そのものは果たして必要なのだろうか。2020年度の年間予算は10億5000万円。国家予算の規模からすれば微々たるものだ。が、行政改革の一つとして、この際だから権威付けのような機関を解散しようとの菅氏の深謀遠慮ではないだろうか。うがった見方ではある。(※写真は、首相官邸公式ホームページより)

⇒3日(土)午後・金沢の天気    はれ