#新しい資本主義

★「変化を力にする内閣」が問われる山積する課題

★「変化を力にする内閣」が問われる山積する課題

   2021年10月に岸田内閣が発足したときは「新しい資本主義」がキャッチフレーズだった。次に2022年8月の第2次岸田改造内閣を「政策断行内閣」と名付けた。そして、きのう第2次再改造内閣が発足したときは「変化を力にする内閣」だ。

   最初に掲げた「新しい資本主義」は成長戦略の旗印で、「科学技術によるイノベーション」「デジタル田園都市国家構想による地方活性化」「カーボンニュートラルの実現」「経済安全保障の確立」の目標だった。中でも、「デジタル田園都市構想による地方活性化」は、「地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていくことで、世界とつながる『デジタル田園都市国家構想』の実現」(内閣官房公式サイト)を目指した政策で、じつに斬新なイメージで期待感があった。

   ところが、国際情勢が急変する。新型コロナウイルスの感染再拡大や、2022年2月からのロシアによるウクライナ侵攻が始まり、これらに起因したインフレなど世界経済に動揺が走る。日本も円安の急速な進行などに迫られている。こうなると、第2次岸田改造内閣では喫緊の重要な課題への対応が迫られる。そこで、有事に対応する「政策断行内閣」を掲げた。

   そして、きょう本格始動した第2次再改造内閣で岸田総理は、「経済、社会、外交・安全保障の三つの柱で政策を進めていきたい」と官邸で記者団に強調。物価高対応や構造的な賃上げ実現、人口減少による少子化対策に向け、経済対策策定を月内に閣僚に指示する方針を示した(14日付・共同通信Web版)。

   きょうの朝刊各紙=写真=の一面のトップ記事は「旧統一教会 解散請求 来月にも 政府方針 首相『最終の努力』」(読売)、「女性抜擢 刷新感アピール 4閣僚、旧統一教会と接点」(朝日)、「首相『賃上げの流れ継続』 投資拡大へ税改正」(日経)など見出しにかなりのバラツキがある。読み方によっては、政界を巻き込んだ旧統一教会問題や物価高対応や賃上げなど課題が山積し、岸田内閣は臨機応変な対応が迫られている。それが、「変化を力にする内閣」なのか、と。   

   それにしても、「新しい資本主義」の目玉政策の一つだった「デジタル田園都市国家構想による地方活性化」はいつの間にか影が薄くなった。

⇒14日(木)午後・金沢の天気    くもり

★「機を逸す」ヒトとコト

★「機を逸す」ヒトとコト

   手を打つべきときのタイミングを逃したのではないか。アメリカのダウ平均株価が800㌦を超える値下げを受けて、きょう14日の日経平均も前日に比べ一時630円安い2万6300円台に落ち込んだ(午前10時過ぎ)。円安も強烈で、きのう外国為替市場で1㌦が135円台前半まで下落した。メディア各社は24年ぶりの円安は、金融不安で「日本売り」に見舞われていた1998年以来と報じている。

   この円売りの背景として上げられるのが、日本とアメリカの金利の差だ。アメリカは物価上昇を抑えるためにFRBが大幅な利上げを行うとの見通しが広まり、日銀が超低金利政策を継続させていて、それぞれの金利差がさらに広がるとの読みから円売りドル買いが加速している。

   ロシアのプーチン大統領もウクライナとの停戦のタイミングを失ったようだ。愛国心に訴えて、ウクライナに侵攻したもののきょうで111日目。むしろ、プーチン氏に誤算が目立つ。日米欧による経済制裁や外資の撤退でロシア国内の経済と雇用環境が悪化することは目に見えている。ソ連崩壊後に匹敵する大打撃を受けることは現実味を増しているようだ。側近の中に、この侵攻にひと区切りをつける提案する人物はいなかったのだろうか。

☆「新しい資本主義」その実現可能性はあるのか

☆「新しい資本主義」その実現可能性はあるのか

   前回の話の続き。岸田総理はきのう14日の衆院解散後の記者会見で、今回の衆院選挙を「未来選択選挙」と位置づけ、「コロナとの戦い、危機的な状況を乗り越えた先に、どんな社会を見ていくのか。これがまず大きな争点になるんだと思う」と述べた。具体策として、「成長の果実が幅広く行き渡る『成長と分配の好循環』を実現する」とし、数十兆円規模の経済対策を最優先で行うと説明した。成長と分配の好循環は岸田氏が総裁選でも繰り返し述べてきた「新しい資本主義」の基本理念なのだろうが、その仕組みや具体策が見えない。結局、数十兆円規模のバラまきとしか理解できなかった。

   そもそも、「新しい資本主義」と発言しているが、既存の資本主義を岸田氏はどう捉えていて、どのように改革するのか。もし、経済学者に新しい資本主義の理論を再構築せよと迫っても、おそらく逃げ出すだろう。「資本主義」という言葉そのものが重く深い。安易に「新しい資本主義」という言葉を使うべきではないと考えるのだが。それでも、岸田内閣は「新しい資本主義」に向けて一歩踏み出した。

   NHKニュースによると、きょう政府は、岸田総理を本部長にすべての閣僚が参加する「新しい資本主義実現本部」を設置し=写真、首相官邸公式ホームページより=、経済成長の具体策を検討してきた「成長戦略会議」を廃止して、本部のもとに「新しい資本主義実現会議」を設けることを決定した。会議のメンバーの有識者15人のうち、半数近い7人が女性。日本総合研究所の翁百合理事長やAIコンサルティングの会社「シナモン」(東京)社長の平野未来氏らが参加する。経済3団体と連合の代表、中小・新興企業の経営者も出席する。

   政府の肝いりで「新しい資本主義実現会議」を立ち上げのだから、今後のどのような議論の展開があるのか注目したい。課題はいくつもある。経済成長が止まってしまっている日本をどのように成長させるのか。さらに、日本は世界最速で高齢化と人口減少が進んでいる国だ。マーケットが縮小する中で、どのように成長と配分の好循環を産み出していくのか。

   日本は「低欲望社会」とも言われ、投資より貯蓄に励む。日本銀行がことし9月17日に公表した「資金循環統計速報」によると、6月末時点の家計金融資産残高は1992兆円だった。家計金融資産に占める現金・預金の割合は2020年度末が53%だった。つまり、1000兆円余りがそのまま眠っている。貯蓄が増えてお金が市場に回らないのだ。日本にはさまざま災害があるので、手元にキャッシュを置く指向があるとも言われている。岸田総理が新しい資本主義を唱えても、国民は投資しない、できない現実がある。

   日本が発した「新しい資本主義」は、おそらく世界の経済学者や投資家が注目している。途中で挫折すれば物笑いのネタになる。

⇒15日(金)夜・金沢の天気    はれ

★「争点なき解散」「選挙のための選挙」なのか

★「争点なき解散」「選挙のための選挙」なのか

   自宅近くのガソリンスタンドに行くと、1㍑163円の表示が出ていた=写真=。今月7日付のこのブログでも書いたが、その時は1㍑161円だったので、1週間で2円値上がりしたことになる。資源エネルギー庁が発表した石油製品価格調査(10月13日付)によると、今月11日時点のレギュラーガソリン価格の全国平均は1㍑=162円となり、前週の160円から2円値上がり。1年前の134円と比較すると28円(20%)もの急激な値上がりだ。パンデミックの緩和などで世界で原油の需給がひっ迫しているようだ。このペースで値上げが続けば来月中には1㍑170円を超えるのではないか。1970年代のオイルショックを思い出す。

   きょう14日午後1時すぎからの衆院本会議の様子をテレビ各社がニュースで伝えていた。紫色のふくさに包んだ総理の解散詔書が松野官房長官から大島議長に伝達された。大島氏は「日本国憲法第7条により衆議院を解散する」と解散詔書を読み上げ、衆院は解散した=写真・下、解散を報じる新聞各紙=。代議士は立ち上がりバンザイをした。解散のバンザイはいつもながらの光景だ。

   それにしても、今月4日に岸田総理が就任してから10日後の解散だ。衆院解散を受けて、政府は午後5時すぎに臨時閣議を開き、今月19日公示、31日投開票の選挙日程を決めた。戦後の衆院選挙は27回行われているが、議員の任期満了後に投票が行われるのは今回が初めて(10月14日付・NHKニュースWeb版)。とすると、選挙のために選挙をやるようなイメージだ。もちろん、コロナ禍の影響でここまで日程がもつれ込んだ事情は理解できる。

   では、岸田総理はこの選挙を何を問うのか。午後7時からの記者会見で、今回の衆院選挙を「未来選択選挙」とし、「新型コロナ対策と経済対策に万全を期した上で、コロナ後の新しい経済社会を創りあげなければならない。コロナ後の新しい未来を切りひらいていけるのは誰なのか国民に選択いただきたい」と支持を呼びかけた(10月14日付・NHKニュースWeb版)。「未来選択選挙」、この言葉で選挙の大義名分を感じることができるだろうか。「新しい資本主義」と同じで、具体的で戦略的なビジョンが見えて来ない。

   前回総選挙は2017年10月22日だった。このときは北朝鮮が弾道ミサイルの発射や核実験を行うなど情勢が緊迫化し、政治空白ができることに懸念はあったものの、安倍総理は少子高齢化が進む中で社会保障問題を争点に掲げ、「国難突破解散」と銘打って勝負をかけた。選挙に勝ち、それまで2度見送ってきた消費税率の引き上げを2019年10月から「10%」とした。

   小泉総理はさらに強烈だった。与党も野党も反対していた郵政三事業(郵便、簡易保険、郵便貯金)の民営化をめぐって、「今回の選挙はいわば郵政選挙。郵政民営化に賛成してくれるのか、反対するのか、それを国民に問いたい」と2005年8月に「郵政解散」を行い、9月11日の選挙では与党が3分の2を占め圧勝した。郵政民営化は2007年10月スタートした。

    上記の事例と比べれば、「未来選択選挙」や「新しい資本主義」は言葉遊びのようにも聞こえる。選挙で国民に問うことは一体何なのか。有権者が一票に託す争点は何なのか。さらに、候補者は一体何を選挙で訴えるのだろうか。31日選挙の投票率も気になる。有権者が「これは選挙のための選挙だ」と勘繰るようになれば、前回と比べ大幅ダウンは避けられないだろう。

⇒14日(木)夜・金沢の天気    くもり