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☆賭けマージャンなのか取材なのか

☆賭けマージャンなのか取材なのか

    東京高検の黒川検事長がきのう夜、安倍総理あてに辞表を提出したとメディアが各社が報じている。緊急事態宣言の中で産経と朝日の新聞記者らと興じた賭けマージャンのニュース(20日付・文春オンライン)が急浮上し、辞表提出につながった。

   「安倍(総理)はうまくすり抜けたな」と直感した人も多いのではないだろうか。黒川氏は63歳で、ことし2月に定年を迎えるところだった。総理官邸の信任が厚く、さらに半年間(8月7日まで)の勤務延長が国家公務員法の規定で閣議決定し、さらにそれを後付けするように検察庁法改正案を国会に提出した。ことし7月に勇退予定の検事総長の後任になるのではないかとも取り沙汰され、「三権分立の原則を壊す不当な人事介入」との批判が沸き起こった。今月18日に政府は法案成立を見送ったが、国会での追及は止まらなかった。このタイミングでのいわゆる「文春砲」だった。

   この問題はさまざまに波及するだろう。賭けマージャンの事実認定だ。当事者である朝日新聞は賭けマージャンに加わった社員(元検察担当記者)から事情を聴き、詳細を以下公表している。「13日は産経新聞記者と社員が数千円勝ち、産経の別の記者と黒川氏がそれぞれ負けた。1日は社員が負けた。4人は、5年ほど前に黒川氏を介して付き合いが始まった。この3年間に月2、3回程度の頻度でマージャンをしており、集まったときに翌月の日程を決めていた。1回のマージャンで、勝ち負けは1人あたり数千円から2万円ほどだったという」「2017年に編集部門を離れ、翌年から管理職を務めていた。黒川氏の定年延長、検察庁法改正案など、一連の問題の取材・報道には全くかかわっていない」(21日付・朝日新聞Web版)

   もう一方の当事者である産経新聞もコメントを発表した。「東京本社に勤務する社会部記者2人が取材対象者を交え数年前から複数回にわたって賭けマージャンをしていたことがわかりました。賭けマージャンは許されることではなく、また、緊急事態宣言が出されている中での極めて不適切な行為でもあり、深くおわびいたします。厳正に対処します」としている(22日付・NHKニュースWeb版)

   賭けマージャンは刑法の賭博罪(50万円以下の罰金)となる。飲食代など「一時的な娯楽に供するもの」を賭けた場合だと処罰されないという例外規定もある。今回、朝日新聞は賭けた金額も発表しているので事実関係は明らかだろう。黒川氏がいちやはく辞表を提出したのも、はやめに法務省から処分(訓告)を受けた方が、今後、刑事告発などを受けたとしても、罪は軽微で済むとの判断ではなかった。

   ここからは憶測だが、これが記者たちによる「接待マージャン」だとしたらどうなるだろう。事実、黒川氏の帰りのタクシー代を産経の記者が負担している。話の場を持たせるために、賭けマージャンという接待をしていたのだと記者たちが主張したら、賭博罪に問えるだろうか。むしろ贈収賄罪かもしれない。この場合、その対価は検察の内部情報だが、これは記事を検証すれば証明できる。黒川氏は「マージャンを通じて、メディアの知りたい情報とは何かを確認したかった」と主張するかもしれない。単なる賭けマージャンなのか、あるいは接待マージャンという取材なのか、そこが問題だ。

   朝日側は「一連の問題の取材・報道には全くかかわっていない」とコメントを発表している。卓を囲んだ社員は確かに記事は書いてはいなかっただろう、しかし、担当記者に黒川氏からの情報を流していたと考える方が自然ではないだろうか。

⇒22日(金)午前・金沢の天気    はれ

★文春が突いた「虎穴」取材の盲点

★文春が突いた「虎穴」取材の盲点

   「虎穴(こけつ)に入らずんば、虎子(こじ)を得ず」という諺(ことわざ)がテレビ・新聞メディアの記者たちの間で今でも使われている。権力の内部を知るには、権力の内部の人間と意思疎通できる関係性をつくらならなければならない。そこには取材する側とされる側のプロフェッショナルな仕事の論理が成り立っている。その気構えがなければ記者はつとまらない、という意味だ。

   「文春オンラン」(Web版・20日付)が報じた記事にメディア関係者は戸惑ったことだろう。「黒川弘務東京高検検事長 ステイホーム週間中に記者宅で“3密”『接待賭けマージャン』」。東京高検の黒川氏が緊急事態宣言によって不要不急の外出自粛が要請されているさなかの今月1日と13日夜、産経新聞社会部記者の自宅マンションを訪れ、産経のもう一人の記者と朝日新聞社員で元検察担記者の4人で賭けマージャンに興じた。黒川氏の帰りのハイヤーは産経記者が手配した。

   この記事で気になる一文がある。「産経関係者の証言によれば、黒川氏は昔から、複数のメディアの記者と賭けマージャンに興じており、最近も続けていたという。その際には各社がハイヤーを用意するのが通例だった」。「産経関係者の証言」と記述しているので、この記事のソースは産経新聞社の関係者と言っているに等しい。うがった見方かもしれないが、記者は取材源を秘匿するが、あえて「産経関係者」と出したところに何か隠された意味がありそうだ。   

   けさ新聞をコンビニで購入し、賭けマージャンの記事を各紙がどのように掲載しているかチェックした。読売新聞と中日新聞は関連記事を一面、中面、社会面の3ヵ所で記載している。これに比べ、当事者は扱いが小さい。朝日新聞は第2社会面、産経新聞は3面で報じている。

   文春の記事の論点は、ジャン卓を囲む3密と賭けマージャンの賭博罪の2点である。ただ、これは記事の本流ではない。政府がことし1月に黒川氏の定年を延長し、さらに4月に今国会で検察庁法改正案を提出。これが、黒川氏の定年延長を後付けで正当化するものではないかと議論になった。今月18日に政府は成立を見送り、議論は収束した。が、文春は3密と賭けマージャンで追撃をかけた。

   テレビ・新聞メディアは、当事者の産経と朝日以外も黒川氏の3密と賭けマージャンを知っていたはずだ。では、なぜ報じなかったのか。それは、冒頭の「虎穴」の論理だ。産経と朝日の記者は、法案に対する黒川氏の本音を知りたいとの思いを持って卓を囲んだ。3密の状態で賭けマージャンをすることで、黒川氏からさりげなく言葉を引き出すことにある。おそらく、読売や毎日の記者も賭けマージャンをともに行っていただろうと憶測する。こうした取材の一環として行った賭けマージャンについて、メディア各社はお互いに知る手の内なので記事にはあえてしない。文春はこの虎穴の取材の論理を上手に横から突いた。

   ここからはあくまでも憶測だ。黒川氏との賭けマージャン仲間である記者たちはお互いに卓を囲むスケジュールを把握していたはずだ。その記者の1人がうっかりと、あるいは意識的に1日と13日の予定を文春の記者にばらした。文春もばらした記者の社名を伏せるため、あえて「産経関係者の証言」と記述したのではないか。

   記者すべてが虎穴を肝に銘じているわけではない。躊躇する記者もいる。「権力を監視する立場の記者があえて権力の懐(ふところ)に飛び込んでよいものか」と問うている。

   黒川氏はきょう法務省の調査に対し、事実関係を認め、辞職の意向を示した。法務・検察関係者が明らかにした。森法務大臣は報道陣に「21日中に調査を終わらせ、夕方までに公表し、厳正な処分も発表したい」と述べた(21日付・共同通信Web版)。

⇒21日(木)午後・金沢の天気    くもり