#放鳥

☆能登の風力発電とトキの放鳥を考える

☆能登の風力発電とトキの放鳥を考える

     前回のブログの続き。では、再生可能エネルギーはどこまで可能なのか、問題点を含めて考える。たとえば風力発電だ。石川県内には既存の風力発電は74基で、能登地方に73基が集中している。能登半島は風の通りよく、面積の7割が低い山と丘陵地であることから、大規模な風力発電の立地に適しているとされる。

   能登半島の尖端、珠洲市には30基の風車がある。2008年から稼働し、発電規模が45MW(㍋㍗)にもなる有数の風力発電の地だ。発電所を管理する株式会社「イオスエンジニアリング&サービス」の許可を得て、見学させてもらったことがある。ブレードの長さは34㍍で、1500KWの発電ができる。風速3㍍でブレイドが回りはじめ、風速13㍍/秒で最高出力1500KWが出る。風速が25㍍/秒を超えると自動停止する仕組みになっている。風車1基の発電量は年間300万KW。これは一般家庭の8百から1千世帯で使用する電力使用量に相当する。(※写真・上は珠洲市提供)

   カーボンニュートラルの政府方針を受けて、東北や北海道で風力発電所の建設ラッシュが続く。能登半島でもさらに12事業、170基の建設が計画されているという。ここで気がかりになってきたことがある。バードストライク問題だ。

   国の特別天然記念物のトキについて、環境省は野生復帰の取り組みを進めている新潟県佐渡市以外でも定着させるため、2026年度以降に本州でも放鳥を行うことを決めた(2021年6月13日付・NHKニュースWeb版)。 これにさっそく名乗りを上げたのが、石川県だ。ことし2月1日の県議会本会議で当時の谷本知事は「能登地域は放鳥にふさわしい」と述べ、関係市町や団体などと受け入れの協議を始める意向を示した(2月3日付・毎日新聞Web版)。

   能登半島は本州最後の1羽のトキが生息した場所。オスのトキで、能登では「能里(のり)」の愛称があった。1970年1月に捕獲され、佐渡のトキ保護センターに送られた。佐渡にはメスの「キン」がいて、人工繁殖が期待されたが、能里は翌1971年に死んでしまう。環境省は1999年から同じ遺伝子配列である中国産のトキで人工繁殖を始め、2008年9月から放鳥を行っている。石川県は全国に先駆けて2010年に分散飼育を受け入れ、増殖事業に協力してきた。県が能登での放鳥に名乗りを上げた背景にはこうした思い入れがある。

   佐渡では野生のトキが480羽余り生息しているが、1500KWクラスの風力発電はなく、これまでバードストライクの事例は報告されていない。しかし、能登半島で今後、現在の73基に加えてさらに170基が稼働し、トキが放鳥されるとバードストライクの懸念は高まるのではないか。再生可能エネルギーの切り札としての風力発電、そして生態系の再生のシンボルとしてのトキの共生は可能なのか。日本野鳥の会は事業会社にバードストライクについて調査し公表するよう求めている。(※写真・下のトキは1957年に岩田秀男氏撮影、場所は輪島市三井町洲衛)

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★トキが能登の空に戻るとき

★トキが能登の空に戻るとき

   環境省は国際保護鳥であるトキについて、新潟県佐渡島の以外でも放鳥を検討するため、生息環境を本年度から5ヵ年かけて調査する、とメディア各社が伝えている。トキの生息についてはこのブログでも何度か取り上げた。1970年1月、本州最後の1羽だったトキが能登半島で捕獲された。オスで「能里(のり)」の愛称があった。能里は佐渡のトキ保護センターに繁殖のため送られたが、翌1971年に死んだ。2003年10月、佐渡で捕獲されていたメスの「キン」が死んで、日本のトキは絶滅した。その後、同じ遺伝子の中国産のトキの人工繁殖が佐渡で始まり、2008年から放鳥が行われている。現在、野生で約450羽が生息している(2021年6月現在、環境省佐渡自然保護官事務所調べ)。

   順調に繁殖してきたトキだが、佐渡だけで定着が進んでも病気が広がるなどして一気に数が減ってしまうおそれがある。そこで環境省は、複数の場所で野生繁殖の取り組みを進める必要があるとして、2026年度以降で本州での放鳥を行う方針を決めたようだ。これまで佐渡のトキが能登をはじめ本州に飛来することはあったが、定着してはいない。

   では、どこで放鳥が始まるのか。やはり、本州最後の一羽が生息していた能登ではないだろうか。奥能登(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)には大小1000ヵ所ともいわれる水稲用の溜め池がある。溜め池は中山間地にあり、上流に汚染源がないため水質が保たれている。ゲンゴロウやサンショウウオ、ドジョウなどの水生生物が量、種類とも豊富である。これらの水生生物は疏水を伝って水田へと流れていく。

    また、奥能登はトキが営巣するのに必要なアカマツ林が豊富だ。また、リアス式海岸で知られる能登には平地より谷間が多い。警戒心が強いとされるトキは谷間の棚田で左右を警戒しながらドジョウやタニシなどの採餌行動をとる。豊富な食糧を担保する溜め池と水田、営巣に必要なアカマツ林、そしてコロニーを形成する谷という条件が奥能登にはある。

   佐渡の西側から能登は距離にして100㌔余りで、気象条件もよく似ている。トキのつがいを奥能登で放鳥すれば、第二の繁殖地になるのではないか、などと夢を描いている。(※写真は輪島市三井町で営巣していたトキの親子=1957年・岩田秀男氏撮影)