#帰省

☆されど墓参り

☆されど墓参り

          政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の会長がきのう夕方、臨時の記者会見で、政府として盆帰省に関する提言を出すべきと述べた。「盆と正月にはふるさとに帰る」とよく言う。ファミリーの絆(きずな)を確かめ合う場であり、とくに盆の墓参りは肉親を亡くして初盆を迎えるなど個々人によって意味合いがまったく異なる。それを政府に対して自粛や「オンライン帰省」を求めるというのは、こればかりは「おせっかい」の領域ではないだろうか。それぞれが考えて行動すればよいだけの話だ。 

   もし実家に祖父や祖母といった高齢者がいれば、接する機会を少なくし、飲酒・飲食の機会もなるべく避けた方がいい。基本的な感染防止策(手指の消毒やマスク着用、換気など)で気をつけることは、国から言われるまでもなく、すでにニューノーマルだ。

   そもそも盆帰省に国が関与する権限はない。墓参りをして先祖に感謝し自らの心の安寧を得るのは、憲法が保障する基本的人権の一つ、幸福追求権(第13条)ではないだろうか。国がとやかく言うレベルのものではない、と考える。

   盆の帰省について、西村経済再生担当大臣はきのう4日の記者会見で、政府として一律に控えることまでは求めない考えを重ねて示したうえで、帰省先で重症化するリスクの高い高齢者に感染を広げないよう感染防止策の徹底を呼びかけた(8月4日付・NHKニュースWeb版)。また、大臣は帰省について「県をまたぐ移動については、国として『一律に控えてください』とは言ってはいない」と述べた(同)。その通りだ。盆帰省と旅行は趣が異なる。墓参りは個々人にとって年に1度の格式ある行事なのだ。

   個人的には墓参りで帰省したいと思っている。その場合、墓参をし、実家にあいさつし、「このご時世ですので」と飲食などを避け金沢に戻る。それでよいと思っている。

   ところで、知人から聞いた話だが、「ゴーグル墓参り」という有料サービスを石材店が実施しているという。ネットで検索すると、このサービスを行っているのは一般社団法人「全国優良石材店の会」で、依頼を受けた地域の加盟店のスタッフが墓参りを代行し、周囲360度を撮影したデータを依頼者に送る。依頼者はその動画データをスマホに入れ、VRゴーグルに接続して見る。墓参りを自宅で疑似体験することになる。

   体が不自由なシニアにとってはこのようなゴーグル墓参りであっても、墓参りをすることで安堵を得るだろう。墓参りも時代とともに変化する。たかが墓参り、されど墓参りではある。

⇒6日(木)朝・金沢の天気     はれ

☆コロナ禍「ふるさとは遠きにありて思うもの」

☆コロナ禍「ふるさとは遠きにありて思うもの」

   あと1週間もすれば旧盆だ。この時季は能登はにぎやかだ。観光客と帰省客がどっと訪れ、キリコ祭りといった祭礼も各地で盛り上がる。例年ならば8月の14日か15日に能登の実家を訪れて墓参し、キリコ祭りを見ながら親戚や旧友たちと杯を重ねながら近況を語る。真夏のこの光景を心に刻んで金沢に帰る。で、コロナ禍のことしはどうするか。

   「4月13日」の緊迫した状況ならば、帰省を見合わせざるを得ない。この日は、金沢市の10万人当たりの感染者が15.3人と東京都の13.6人を超えて全国トップとなったことから、石川県の知事が県独自の緊急事態宣言を出した。知事は「改めて危機感を共有し、社会全体が一致結束しなければならない」と不要不急の外出や移動の自粛徹底を要請した。この危機感のアピ-ルが奏功したのだろうか、いまは10万人当たりで金沢市は31.9人(8月2日現在)、東京都の96.7人(同)と比べると感染者数は増えてはいるものの随分とペ-スダウンしている。

   冒頭で述べた能登各地で執り行われるキリコ祭りは、今年ほとんどが中止となった。キリコ祭りは巨大な奉灯を1基当たり気数十人で担ぎ上げて街を練り歩く神事でもある。少ない地域でも数基、多いところは数十基もあり、金沢ほか遠来からの帰省客や観光客がキリコ担ぎや見学にやってくる。まさに「3密」を招くので、それを避けるための中止だ。つまり、「ことしは来てほしくない」という地元の人たちの正直な気持ちが痛々しく伝わる。キリコ祭りが行われる能登の6市町のうち、感染者ゼロは5市町だ。相手の気持ちを考えると気軽に帰省してよいものか。

   キリコ祭りを考えると、複雑な気持ちがもう一つある。能登は過疎高齢化の尖端を行く。帰省客らが来てキリコを担がないとキリコそものが動かせないという集落も多い。今回のコロナ禍でキリコ祭りを止めたことをきっかけに、来年以降も止めるというところが続出するのではないか。すでに、高齢化でキリコを出すことも止めた集落もあり、伝統祭礼の打ち止めに拍車がかかるのではないかと案じる。

   このキリコ祭りの日を楽しみに能登の人たちは1年365日を過ごす。帰省する兄弟や、縁者、友人たちを自宅に招いてゴッツオ(祭り料理)をふるまう。その後、夜を彩るキリコの練り歩きを皆で楽しむ。そのキリコ祭りがなくなれば、地域の活気そものが失われる。

   金沢出身の文人・室生犀星は『ふるさとは遠きにありて』の詩を詠んだ。今回はあえて帰省を止め、「帰るところにあるまじや」「ふるさとおもひ涙ぐむ」のか、あるいは「Go To ふるさと」か。迷いは続く。

(※写真は能登のキリコ祭りを代表する一つ、能登町「あばれ祭り」。40基のキリコが街を練る)

⇒4日(火)朝・金沢の天気     くもり時々はれ