#小松市

★團十郎の襲名酒の誉 農口杜氏の人生に酔う

★團十郎の襲名酒の誉 農口杜氏の人生に酔う

   今月で御年90歳、顔がつやつやしている。「酒蔵の階段の昇り降りが健康の素」と笑う。石川県小松市の造り酒屋で杜氏として蔵人たちを指導する農口尚彦さんは国が卓越した技能者と選定している「現代の名工」であり、日本酒ファンからは「酒造りの神様」と呼ばれる。「のど越しのキレと含み香、果実味がある軽やかな酒。そんな酒は和食はもとより洋食に合う。食中酒やね」。理路整然とした言葉運びに圧倒される。農口杜氏の山廃仕込み無濾過生原酒にはすでに銀座、パリ、ニューヨークなど世界中にファンがいる。

   きのう醸造所「農口尚彦研究所」を訪れ、杜氏が特別に造った酒を楽しませてもらった。そのブランド名は「十三代目市川團十郎白猿襲名披露 特別Ver」。歌舞伎俳優の市川海老蔵改め十三代市川團十郎白猿の襲名を記念した公式の日本酒だ。特別バージョンというのも、4年前から造りためた未発売の酒をブレンドしたもの。これまでの日本酒のイメージを超えた華やかな味わいだ。農口杜氏から「ブルゴーニュワインのロマネ・コンティをイメージして造った」と説明があった。低温で熟成させるため新鮮な香りがする。500本限定の特別Ver。御年90歳の杜氏のさらなる挑戦でもある。

   それにしても、十三代目市川團十郎白猿と結びつく、どのような縁があったのか。小松市の安宅海岸は「安宅の関」で知られる。源義経が都落ちして平泉に向かうとき、武蔵坊弁慶が杖で義経を叩いて検問をくぐり抜けたというこの地の伝説は、十三代目市川團十郎白猿のお家芸の歌舞伎十八番『勧進帳』として演じられる。来年3月には、襲名披露の巡業が小松市の「こまつ芸術劇うらら」である。うららは襲名を機に「小松市團十郎芸術劇場うらら」に改称されることも決まっている。こうした縁から襲名を記念した公式の日本酒を農口杜氏が造ることになった。

   先日、知り合いから写真を送ってもらった。東京の歌舞伎座の前では農口尚彦研究所の酒樽が積まれている=写真=。農口の「の」の字がデザインされた酒樽。「歴史がある市川家の襲名記念の酒を造れるのは光栄です。さらに、世界に通じる酒を造りたいと思いこの歳になって頑張っております」。まさに、酒造りのエンドレスな人生。ちなみに、「研究所」の名称は、この農口杜氏の技と発想を若い人たちに学んでもらいたいとの思いから付けられたそうだ。

⇒4日(日)午前・金沢の天気   あめ

★「災害級」大雨の被災現場から

★「災害級」大雨の被災現場から

   テレビやネットで最近よく「災害級大雨」という言葉が出て来る。気象庁では雨の降る量が1時間に80㍉を超える場合、予報用語として「非常に激しい雨」と説明して、「雨による大規模な災害の発生するおそれが強く、厳重な警戒が必要です」と注意を呼びかける。さらに、「記録的短時間大雨情報」という用語も、数年に一度、1時間雨量が100㍉の猛烈な雨を警戒するために使われる。

   今月4日、石川県の加賀地方は災害級の記録的な大雨に見舞われた=写真・上=。金沢地方気象台によると、4日午後8時30分時点の24時間降水量は白山河内で395㍉、白山白峰で274㍉、小松で251㍉とそれぞれ観測史上最大を記録した。金沢は132㍉だった。

   中でも被害が大きかった小松市では床上浸水220棟、床下浸水550棟、一部損壊や半壊が12棟など家屋被害が出た。きょう同市中海町を訪ねた。35度を超える炎天下の中で、重機が入りに道路を覆う土砂や流木の撤去作業が行われていた。また、各家々ではボランティアも入り、家の中の泥などの除去作業が行われていた=写真・中=。

   作業をしていた80歳の男性から話を聞くことができた。4日午後4時ごろには家の1階で胸あたりまで水につかった=写真・下=。「仏壇も水浸しになった。34年ぶりや」とあきらめ顔で語った。今回、集落が水につかったのは、梯(かけはし)川の支流の滓上(かすかみ)川の橋の欄干に次々と流木がひっかかり、まるでダムのようになって集落に水があふれたと話してくれた。

   酒店を営む80歳の女性もその日の午後4時ごろにひざのあたりまで水が来て、知人に助けを呼ぶと、消防隊のボートが救助に来てくれたと話した。店では、ビールなどを冷やす大型の冷蔵庫が倒れて使えない。「いまごろはお中元で忙しい時期なのに。店を続けるかどうか迷っている」と肩を落としていた。

   白山山系のふもとにある小松市の梯川や白山市の手取川ではこれまで洪水に見舞われた歴史がある。郷土史に詳しい人から聞いたことがある。「加賀の一向一揆は洪水がもたらした」と。洪水で田んぼが減収すると、加賀の農民は年貢が納められないと領主に直訴した。大雨に備えた排水溝などは百姓衆が造り、一向宗の門徒でもある共同体は「百姓の持ちたる国」とまで呼ばれた。

   話は横にずれた。中海町の現場で、腕章をした小松市の職員を見かけた。被災者から罹災証明書の申請が市役所に出され、その認定作業を行っている。外壁や屋内の被害の様子を写真で撮影していた。罹災証明書によって、公的支援を受けることができる。災害復旧に向けた動きも始まっていた。

⇒9日(火)夜・金沢の天気    はれ

☆現場を行く~海上の空で消えたF-15戦闘機~

☆現場を行く~海上の空で消えたF-15戦闘機~

   その現場は、源義経が都落ちして平泉に向かうとき、武蔵坊弁慶が杖で義経を叩いて検問をくぐり抜けたという歌舞伎『勧進帳』などの伝説で知られる「安宅の関」(石川県小松市)の沖合だった。31日午後5時30分ごろ、航空自衛隊小松基地を離陸したF-15戦闘機一機が基地から西北西におよそ5㌔離れた日本海上空でレーダーから機影が消えた。この戦闘機にはパイロット2人が搭乗していた。戦闘機から異常を知らせる無線連絡やパイロットが脱出する際に発せられる救難信号は感知されていない。パイロットはまだ見つかっていない。

   きょう午後2時ごろ、「安宅の関」近くの海岸に行き、捜索の様子を眺めた。目視で4隻の船が捜索に当たっていた。一隻は海上自衛隊の潜水艦救難艦「ちはや」だった=写真・上=。潜水艦救難のためにDSRV(深海救難艇)、ROV(無人潜水装置)など装備している。確認できたもう一隻は海上保安庁の巡視艇だった=写真・下=。また、海岸沿いでは基地の隊員数人が海岸を見回っていた。機体の残骸などが打ち上げられていないか、確認しているようだった。航空自衛隊は1日付の報道発表で、浮遊物として、航空機の外板等の一部と、救命装備品の一部を回収したと発表している。

   同じく1日付の報道発表「小松基地所属F-15戦闘機の航跡消失について(第3報)」で2人の搭乗員について氏名を公表している。「搭乗員(前席)は、航空戦術教導団飛行教導群司令1等空佐、田中公司52歳、搭乗員(後席)は同飛行教導隊1等空尉、植田竜生33歳」。「飛行教導群」は戦闘機部隊に対する技術指導を行うベテランパイロットが所属している。

   岸防衛大臣の会見(1日午前)では、すでに事故調査委員会を航空幕僚監部に設置。「今回の場合は純粋に訓練に向かう途中の単独の事故ということであり、そういった意味での飛行停止は求めていない」と語っていた。が、報道によると、きょう2日、小松基地の石引司令がF-15戦闘機の事故後初めて小松市役所に宮橋市長を訪ねて事故の件を謝罪し、「すべての訓練飛行を見合わせている」と説明した。

⇒2日(水)夜・金沢の天気      あめ

☆爆破予告の犯人を推測する

☆爆破予告の犯人を推測する

   きのう23日午後0時40分ごろ、所用で小松市役所を訪れると、ものものしい雰囲気が漂っていた。正面玄関には警察官が数人いて、玄関を入ったロビーでは市の職員数十人が集まっていた。中には、相手の動きを封じ込める「刺股(さすまた)」を手にしている職人も数人いた。市役所の職員に尋ねると、「市役所に爆破予告があり、警察と協力して警戒態勢に入っています。愉快犯だとは思うのですが、それにしても度が過ぎます」と不快感をあらわにしていた。20日に市役所にメールが届き、「23日午後1時半に火薬を積んだトラックを市役所に衝突させる」などと記載されていた。

   地元新聞などメディア各社の報道をまとめると、爆破予告は小松市役所にとどまらず、石川県庁、七尾市役所や金沢市役所にメールで届いていた。県の行政相談ウェッブサイトには20日午後4時13分、「23日に金沢大学、金沢工業大学、市内の高校計9校、小中学校19校を爆破し、県庁や金沢市役所に火薬を詰め込んだトラックを衝突させる」といったメールが届いていた。同様のメールが届いた七尾市役所では、23日に市内の小中学校14校を臨時休校とし、市役所も午後1時から同2時30分まで閉鎖した。また、庁舎の出入り口には除雪用のトラックを並べて警戒にあたった。

   警察は威力業務妨害で捜査をしているようだが、メディアの報道を読むと、爆破予告に一つの特徴があることが分かる。その一つは、県庁、金沢市役所、小松市役所、七尾市役所にメールを送るということは、県内の地勢(金沢、加賀、能登)をよく知り尽くした「バランス感覚」の持ち主だということだ。これは、県外の人では思い浮かばないだろう。さらに、ずいぶんと大人だ。小松市役所に宛てた爆破予告メールでは、小松空港もその対象に入れているので、空港の利用経験があるのではないだろうか。爆破だけでなく、金沢市役所には給食調理場と浄水場への毒物混入、七尾市役所には水道施設への毒物混入も記載されていた。おそらく、犯人はそれぞれの市の浄水場の場所がどこにあるのを知っている人物ではないだろう。

   石川県の地勢と行政、交通インフラ、水道インフラなどを十分に理解した人物。それは、かなり限られてくる。連休中の20日にメールを出したということは、休日でメールがチェックされないことを知った上で、連休明けの23日に一斉に騒ぎが始まることを楽しみたかった。それも、金沢・加賀・能登と県内一斉に動揺する様子を。「騒ぎをプロデュースする感覚」の持ち主、いったい誰だろう。

⇒24日(木)朝・金沢の天気    はれ時々くもり