#大阪都構想

★大阪都構想 票に滲むコロナ禍と報道と共感と

★大阪都構想 票に滲むコロナ禍と報道と共感と

    「反対50.6%、賛成49.4%」の僅差で否決された大阪都構想。その後の新聞・テレビ各社の報じる論評を読めば読むほど分からないことが増えてくる。同時に票にはさまざま思いや時のタイミングが滲んでいると思えてくる。

   大阪・朝日放送(ABC)の世論調査によると、10月24-25日調査では賛成46.9%、反対41.2%だった。ABCは9月19-20日から世論調査を始めているが、それまでの賛成が6回続けてリードしていた。7回目となる10月30-31日の調査で初めて反対46.6%、賛成45.0%と逆転した。これまで「未定・不明」と答えた人の割合が、3.5ポイント減って反対側に流れたようだ。そして、この7回目の調査結果がそのまま11月1日の住民投票の結果に反映されたかっこうだ。

   ABC調査で気になったデータがある。「新型コロナの拡大下でも住民投票を行うべきか」(10月3-4日調査)の問い。年代でもバラツキがあるが、全年代通しでは「予定通り行うべき」37.8%を「中止もしくは延期するべき」42.0%が上回っている。大阪市では、10月は第3波ともいえる新規感染者数が増加を始めたころだった。とくに終盤の27日から11月1日の投票日にかけては連日50人から70人の新規陽性者が出ていた(大阪市役所公式ホームページ)。

   実際にコロナ禍は投票行動に影響を与えたのではないだろうか。投票率が66.8%だった前回(2015年)より世論の関心度も高く盛り上がったにもかかわらず、今回投票率が62.4%と4.4ポイントもダウンしたのも、コロナ禍で投票場へ行くのを控えた人も多かったせいだろう。期日前投票が前回35万9千、今回41万8千と率にして16%も増えているのも、「3密」を避けた投票行動と読めるのではないか。

   ABC調査のデータが現実になったともいえる。「中止もしくは延期するべき」が声が上がっていたにもかかわらず、それを実施したことに対する、松井市長、大阪維新の会への批判が「反対」票となって表れたのではないだろうか。大阪都構想を推進する側にとっては、コロナ禍はタイミングが悪かった。

           さらにもう一つ「反対」票につながったと思われる数字がある。大阪市を4つの特別区に分割した場合、標準的な行政サービスを実施するために毎年必要なコスト「基準財政需要額」の合計が、現在よりも約218億円増えることが市財政局の試算で明らかになったと報道された(10月26日付・毎日新聞Web版)。市財政局の担当者は29日に緊急記者会見で、この試算を撤回した(10月29日付・同)。が、この数字が都構想のデメリットとして独り歩きを始めたのではないだろうか。

   きょう大阪維新の会のツイッターをチェックすると、吉村知事の囲み会見(11月2日)が動画で紹介されている。支持者のコメントが出ていた。「燃え尽き症候群のようになってしまわないか心配です。今はなかなか切り替えができないと思いますけど、違うやり方で少しづつ改革を進めることはできます。60万人以上の市民が賛成したのも事実です、これで都構想を諦めるなんて言わないでください!まずは一休みして」。やさしい励ましの言葉だ。都構想はある意味で市民の共感を得ていた政策だったのだ、と理解もできた。

⇒3日(祝)朝・金沢の天気     はれ

☆大阪都構想 僅差で「あかん」

☆大阪都構想 僅差で「あかん」

   「大阪都構想」という言葉はおそらく日本の多くの人が知っていただろう、そして住民投票で可決されると思っていたのではないだろうか。何しろ都構想を推進する松井一郎大阪市長と吉村洋文大阪府知事はテレビにもよく顔出しして、はっきりとした物言いでリ-ダーとして頼りになると誰しもが印象を持っていたのではないだろうか。一夜明けてニュースを見れば、この投票結果だ=写真=。「なぜ」と首をかしげる。

   都構想は、政令指定都市の大阪市を廃止して4つの特別区(北区、天王寺区、中央区、淀川区)に再編する構想で、特別区が教育や福祉といった住民サービスを提供して、道路や水道などのインフラ整備などは大阪府に一元化するという内容だと理解している。

   去年2019年4月の大阪市長選をテレビで見て、松井氏が「府と市の二重行政は効率が悪く弊害も大きい、これは不幸せ(府市合わせ)です」とマイクで叫んでいたのを覚えている。この選挙では自民推薦の候補に圧勝。同日選挙だった府知事選も吉村氏が自民推薦の候補に勝利した。なのになぜ、前回(2015年5月)と同様に都構想は否決されたのか。その民意は何だろう。

   敗因を数字で読んでみる。投票率は62%で反対50.6%、賛成49.4%だ。前回は投票率66%で反対50.4%、賛成49.6%と、今回も前回もまさに拮抗した数字だ(11月2日付・NHKニュースWeb版)。NHKが投票当日の出口調査の数字を公表している。それによると、10代と20代は賛成と反対が並んでいるが、30代は賛成が60%、反対が40%となっている。40代は賛成が50%台半ば、反対が40%台半ば。50代は賛成と反対が拮抗し、60代と70歳以上はそれぞれ賛成が40%台前半、反対が50%台後半となっている。いわゆるシニア世代に反対票が多い。性別では、男性では50%台前半の人が賛成に、女性は50%台半ばの人が反対したと答えている。

  シニア世代に反対が多いということは、「現状でよい」という意向だと読める。政令指定都市を廃止してまで改革をやって、どのようなメリットがあるのか見えない、ということだろう。もう一歩踏み込んで考えると、大阪市で上場する企業は339社と集中しており、市税収入の総額に占める法人税の割合は17%と、名古屋市(12%)や横浜市(7%)より高い(「大阪市役所公式ホームページ」平成31年度統計)。こうした財源の一部がインフラ整備などで府に移行する計画なので、住民サービスが低下するので「あかん」と意識した人もいたのだろう。

   さらに住んでいる地名にこだわる人たちもいただろう。特別区で消えてしまう「阿倍野区」や「住吉区」など。地名に愛着を持っている人は多い。そして、意外と市役所の関係者が反対に回ったかもしれない。都構想が実現して、特別区に分割されれば、市役所職員は「区役所」職員になってしまう。「格下げ」だと感じているのではないだろうか。

   大阪府と大阪市の不都合な関係性は、金沢市に住んでいて理解できなくもない。府における市は人口で3割を占める。金沢市も石川県では4割だ。県と市の二重行政は無駄、特別区を設けて、首長を市長ではなく、県知事に任せるとの構想が出てきたら、金沢市民にどのような反応が起きるだろうか。賛成する人もいるだろう。一方で「金沢をなくせば、都市力や住民サービスの低下につながる」と反対する人も多いだろう。行政の無駄では片付けられない、独自の歴史やプライドが地域にはあるものだ。

   大阪都構想の敗北。「維新の会」にとってはまさに一丁目一番地の政策だっただけに、松井市長も吉村知事も今期限りで辞任すると表明した。維新の会そのものの存在意義が問われ、大阪では政治の迷走が始まるだろう。来年に予想される総選挙はどうなるのか。2025年万博への影響はないのか。

⇒2日(月)朝・金沢の天気     あめ