#国連人権理事会

☆見て見ぬふりできない「ビジネスと人権」問題

☆見て見ぬふりできない「ビジネスと人権」問題

   今月7日付のブログでも述べたが、ジャニー喜多川の性加害問題でメディアやスポンサー企業が問われたのは「ビジネスと人権」の視点が欠如していたことだった。企業活動における人権尊重は社会的に求められる当然の責務であるにもかかわず、ジャニー社長による性的搾取が続いていた。テレビ局はそれを知りながら、ジャニーズ事務所と契約し、タレントを番組に起用していた。スポンサー企業も広告代理店を通じてCMにタレントを使っていた。

   ビジネスと人権は、2011年に国連人権理事会で合意された「ビジネスと人権に関する指導原則」がベースとなっていて、企業活動における人権尊重の有り様は国際文書にもなっている。ビジネスと人権は単に企業活動を重視するだけでなく、人々を弾圧する国・政府との貿易や企業活動も問題視することになる。たとえば、中国だ。

   新疆ウイグル自治区の強制収容所に入れられたウイグル族の女性らが、組織的なレイプ被害を受けていると、BBCニュース(Web版日本語、2021年2月5日付)が報じている。また、強制収容所では、宗教的・文化的信仰を理由にウイグル族などの少数民族100万人以上が拘束されている可能性がある(同)。ウイグルでの状況について、アメリカ国務省の報道官は、中国がウイグル人に対して「ジェノサイド(大量虐殺)」を行っていると発言、バイデン大統領もこの発言を認めている(AFP通信Web版日本語・同)。

   そしてアメリカは、2021年12月にウイグル強制労働防止法(UFLPA)を成立させ、翌年6月より新疆ウイグル自治区が関与する製品は強制労働により生産されたものとみなし、輸入を原則禁止とした。ビジネスと人権を一体化させた措置だ。ところが日本は「政冷経熱」の言葉があるように、人権侵害は政治の問題と見なし、経済とは無関係と見て見ぬふりをしてきた。「ビジネスと人権」が欠落した日本の姿ではなかっただろうか。

   2020年10月、日本政府は「ビジネスと人権」に関する行動計画を策定した。企業活動における人権尊重は、社会的に求められる当然の責務であるだけでなく、国際社会からの信頼を高め、グローバルな投資家の高評価を得ることにもつながる(経産省公式サイト「ビジネスと人権~責任あるバリューチェーンに向けて~」からの引用)。日本政府には「政冷経冷」の姿勢が問われている。

(※写真は、ヴァチカン美術館のラファエロ作『アテネの学堂』。上のプラトンとアリストテレスは論争を繰り広げているが、下のヘラクレイトス(左)とディオゲネス(右)は我関せずの素振り)

⇒9日(月・祝)午後・金沢の天気   あめ時々くもり

☆「ジャニーズ事務所」は廃業へ マスメディアは沈黙か

☆「ジャニーズ事務所」は廃業へ マスメディアは沈黙か

   ジャニー喜多川の性加害問題をめぐって、ジャニーズ事務所はきょう記者会見を行い、現在の社名を「SMILE-UP.」に変更し、この会社で被害者への補償を行ったうえで、将来的には廃業すると発表した。そして、タレントのマネージメントなどを行う新たな会社を設立し、社名はファンクラブで公募するとした。創業者であるジャニー氏の名前を完全に消去することで、この問題にけじめをつけるようだ。さらに詳しく会見内容をチェックする。

   ジャニーズ事務局の会見内容は公式サイトで掲載されている。以下、記事を抜粋。【社名について】 ジャニー喜多川の氏名に由来している以上、社名を変更する必要があるとの結論に達しました。新しい社名は、2018年7月に弊社が立ち上げた社会貢献活動「Smile Up!Project」に由来するものです。この活動は、常日頃応援してくださる皆様のために、どのように社会的責務や使命を果たすことができるかについて、タレント、社員が一丸となって考え、多くのファンの皆様のご支援の元に行動に移すことができたものです。

   【新会社の設立】 弊社は同族経営の弊害を排するとともに、ジャニー喜多川及び過去の弊社との完全な決別をするべく、今後新会社を設立の上、所属タレント(ジャニーズJrを含みます。)及び社員については希望者全員が新会社に移籍し、新会社がエージェント会社となり弊社は補償に特化することを想定しております。新会社には藤島家の資本は入れず、また藤島ジュリー景子は新会社の役員とはならず、経営に一切関与しません。

   【被害者救済】 9月13日付で「被害者救済委員会」を設置の上、同月15日に被害補償の受付窓口を開設いたしました。9月30日時点で478人の方からご連絡があり、そのうち被害を申告して補償を求めているのは325人です。現在、弊社に在籍されていたかどうかの確認を進めながら、被害者救済委員会による補償額の算定のための聞き取り等の手続を進めております。支払開始時期は11月を予定しております。

   この問題がクローズアップさせたのは国連の動きだった。各国の人権状況を調査する国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会の専門家チーム(2人)が7月24日から8月4日にわたり、省庁や地方自治体、企業の代表、労働組合、市民団体、人権活動家などと会談し、人権上の義務と責任にどう取り組んでいるかを聞き取りした。その中で、ジャニー喜多川の性加害問題について被害者から聞き取りを行ったことから、にわかにクローズアップされることになった。

   最終日の4日に日本記者クラブで記者会見した専門家チームは、エンターテインメント業界に「性的な暴力やハラスメントを不問に付す文化」があると言及。その事例として、ジャニー喜多川氏の性加害問題が2003年の東京高裁の判決で「性加害がある」と認定されたにも関わらず、事実を伝えてこなかったメディア業界、とくにテレビ、新聞などは「その罪は大きい」と指摘した。

   ジャニーズ事務所の会見内容は、「崖っぷち感」が伝わる改革案で本気度が見て取れる。では、一方の当事者でもあるマスメディアはどうするのか。改革案を示すのか。このまま沈黙を続けるのか。(※写真はWikipedia「ジャニーズ事務所」より)

⇒2日(月)夜・金沢の天気    はれ

★国連に届いた性加害問題 芸能界とメディアはどう対応

★国連に届いた性加害問題 芸能界とメディアはどう対応

   日本のメディアの問題点は国内で語られることが多かった。それが国連機関によって指摘されるとは意外だった。各国の人権を巡る状況を調査する国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会の専門家チーム(2人)は7月24日から8月4日にわたり、日本を公式訪問した。チームは東京や大阪、愛知、北海道、福島などを訪れ、省庁や地方自治体、市民団体、労働組合、人権活動家、企業、業界団体代表などと会談し、政府と企業が人権上の義務と責任にどう取り組んでいるかを聞き取りした。また、ジャニーズ事務所の創設者である故ジャニー喜多川氏の性加害問題についても被害者から聞き取りを行った。

   最終日の4日に日本記者クラブで記者会見した。以下、会見で印象的だった内容をいくつか。その一つが、「声明文」として出したコメントの中で、日本のエンターテインメント業界に「性的な暴力やハラスメントを不問に付す文化」があるとの言及した点だった。「文化」とまで言い切った声明文なので、相当の物証や根拠があったということだろう。確かに、「知ってはいるけど、関わらない」と見て見ぬふりする文化がある。

   そして、コンプライアンス体制の整備に「透明な苦情処理メカニズムを確保することが必要」と求めている。故ジャニー喜多川氏の性加害問題は2003年の東京高裁の判決で「性加害がある」と認定されている。この事実を知りながら一切伝えてこなかったメディア業界、とくにテレビ、ラジオ、新聞、雑誌は「その罪は大きい」と指摘されても当然だろう。

   作業部会の専門家チームは、2024年6月に国連人権理に報告書を提出すると伝えられているので、それまでにメディア各社は「透明性のある対応」と向き合っていくことで必要だ。たとえば、問題として指摘があった故ジャニー喜多川氏の性加害問題についてのメディアの責任と、経営者の受け止めについてまとめた文書を専門家チームに送付したほうがよいのではないか。

   専門家チームの記者会見後に、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」のメンバー7人も会見を行い、タレント数百人が性的搾取と虐待に巻き込まれる深く憂慮すべき疑惑が明らかになった。彼らの訴えが芸能界の体質を大きく変え、メディアの体質も変える「最後のチャンス」なのかもしれない。(※記事の作成にあたっては、「月刊ニューメディア」編集部・出版局長の吉井勇氏からいただたメールマガジンを一部引用)

(※画は、バチカン美術館のシスティーナ礼拝堂のミケランジェロの天井壁画『最後の審判』=撮影:2006年1月)