#受信料

☆イギリスに受信料廃止の風は吹くのか

☆イギリスに受信料廃止の風は吹くのか

   NHK受信料制度の見直しにつながる動きになるかもしれない。イギリスの「デジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)」が4月28日に発表した放送政策全般を見直す年次報告書(白書)『Up Next The Government’s vision for the broadcasting sector』が注目されている。その中にはことし100年の歴史を刻む公共放送BBCの改革の方針が述べられている。そのホワイトペーパーがDCMS公式サイトにアップされているのでチェックした=写真、人物はナディーン・ドリスDCMS担当相=。

   前置きで「The UK’s creative economy is a global success story, and our public service broadcasters (PSBs) are the beating heart of that success. (イギリスのクリエイティブな経済は世界的なサクセス・ストーリーであり、公共放送局はその成功の脈動する心臓に相当する)」と評価しながらも、改革は避けられないとそのポイントを上げている。

   直面するのはネット環境だ。イギリスの視聴者の「メディア消費」のあり様が大きく変化していることを数値を紹介している。イギリスでは79%の世帯がネットに接続されたテレビを所有している。このため、放送局の番組を視聴する時間の割合は2017年の74%から2020年の61%に減少。逆に有料制の動画サービスの視聴時間における割合は2017年の6%から2020年の19%に増加している。さらに、コンテンツのグローバル化問題を指摘している。アメリカ発の動画配信サービス「ネットフリック」などはイギリスの放送業者よりもはるかに大きな予算でコンセンツ制作を展開している。

   このような時代の変化にも関わらず、国民は世帯当たり年間で159ポンド(およそ2万5000円)の受信料(ライセンス料)をBBCに払い続けている。国民の間では不公平感が募っている。また、ライセンス料の支払いを拒んだ場合は刑事裁判がある。件数は示されていないが、2019年に支払いを拒否して有罪判決を受けた人々の74%は女性だったと白書で記載されている。イギリスでは、テレビを見たい視聴者は近くの郵便局で1年間有効の受信許可証を購入する。この許可証がなければ、電気屋でテレビそのものが買えないシステムだ。ネット時代で、この受信許可モデルは不公平感を増長するだけではないだろうか。

   BBCの放送事業の認可であるロイヤルチャーター(女王の特許状)は2027年にいったん切れる。それまではライセンス料の徴収は継続する。白書では、「BBCの受信料制度について見直しを進める」、さらに「BBCの商業部門の限度額(広告枠)を2倍以上に増やす」などと記載されてはいるが、具体案はない。「We will set out more details in the coming months.」と数か月後に詳細を提示すると述べている。

   ジョンソン首相は、BBCの受信料の廃止と視聴する分だけ金を払う有料放送型の課金制(サブスクリプション)への移行を公約として掲げてきた。一方で、受信料が廃止されることで、収入が不安定になり報道の質の高さや公共性が失われるという懸念もある。公共放送の経営と安定、視聴者の不公平感の解消、次なるメディアのコンテンツのあり様、さまざまな課題が凝縮されている。そして他人ごとではない。

⇒20日(金)午後・金沢の天気    くもり

★テレビ嗜好と司法判断

★テレビ嗜好と司法判断

   この判決でテレビ離れがさらに進むのではないだろうか。 NHKの放送だけ映らないように加工したテレビを購入した東京都の女性が、NHKと受信契約を結ぶ義務がないことの確認を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は24日、請求を認めた一審の東京地裁の判決を取り消し、請求を棄却した (2月24日付・共同通信Web版)。

   放送法では、NHKの放送を受信できるテレビの設置者に契約義務があると規定している。受信料制度に批判的な考えだった女性は2018年、フィルター付きテレビを3千円で購入した。1審の東京地裁は原告の訴えを認め「NHKを受信できる設備に当たらない」と判断して、契約を結ぶ義務はないとする判決を言い渡し、NHKが控訴していた。控訴審判決で裁判長は「加工により視聴できない状態が作り出されたとしても、機器を外したり機能させなくさせたりすることで受信できる場合は、受信契約を結ぶ義務を負う」と判断し、受信契約を結ぶ義務があるとする判決を言い渡した(同)。

   人には好き嫌いの嗜好というものがある。例えば食に限っても、漬物は食べない、ネギは嫌いだ、刺身は食べない、など様々だ。テレビも同じだ。あのチャネルは嫌いだ、ドラマは見たくない、あのキャスターは見たくもない、など。嫌いな人にとっては見たくもない、それが嗜好というものだ。NHKを受信できないようにするためわざわざフィルター付きテレビを購入するのは、相当なNHK嫌いだ。上記の高裁判決は、受信料の公平負担を重視する視点から、そのような機器をテレビに取り付けたのは受信料を払わない口実と判断したのだろう。人のテレビへの嗜好というものを理解していないのではないだろうか。

   今回の判決でNHK嫌いの視聴者の中には、「それだったらテレビを見ない」と反感を持った人もいるのではないだろうか。これを機にテレビ視聴そのものを止めるという人もいるだろう。また、NHKをスクランブル化し、契約者だけが視聴できるようにすればよいと主張する人たちの声も高まるだろう。それでなくても若者を中心にテレビ離れは進んでいる。これは金沢大学での調査だが、テレビをまったく見ないという大学生は17%(2019年・金沢大学での調査)もいる。3年前の16年では12%だった。その理由は、ネットで動画やニュースを見ることができる、と。この判決をきっかけに、さらに若者のテレビ離れが進むのではないだろうか。

   おそらく原告の女性は上告するだろう。最高裁の判断に注目したい。自身はNHK嫌いではない。このニュースの流れを読みたいと思っている。

⇒25日(木)朝・金沢の天気   はれ

★NHKの「在るべき方向」とは

★NHKの「在るべき方向」とは

   このブログでも何度かNHKの受信料をテーマに取り上げてきた。先月10月16日、受信料制度の在り方などを検討する総務省「放送を巡る諸課題に関する検討会」で、NHK側が家庭や事業所でテレビを設置した場合はNHKへの届け出を義務化するよう放送法の改正を要望したというニュース(10月17日付・共同通信Web版)があった。受信契約を結んでいない世帯の居住者の氏名や、転居があった場合は転居先などの個人情報を、公的機関などに照会できるようにする仕組みの導入も求めた。受信契約の対象者を把握することで不払いを減らし、営業経費の削減にもつながるというのだ。

   今月20日、総務省は11月20日、NHKが求めていたテレビ設置届け出の義務化は「不適当」として見送る方針を示した(11月20日付・日経新聞Web版)。NHKは特殊法人として受信料に支えられ、法人税は免除されている。この環境で、さらにテレビ設置届け出の義務化では視聴者・国民の反発を招くと判断したようだ。このいきさつについて詳しく知りたいと思いネットで検索したところ、関西テレビ公式ホームページ「東京駐在 キーパーソンに訊く!」で、高市早苗・前総務大臣へのインタビュー記事が参考になった。以下記事を引用する。

   NHKの2019年度決算の営業経費(徴収経費)は759億円だった。同年度の受信料収入は7115億円なので、営業経費が10.6%を占めたことになる。徴収コストが高い。それは強制徴収の制度も罰則もないので、「NHKの苦労」はある意味で同情する。ちなみに、フランス、ドイツ、韓国では受信料は強制徴収で、支払わない場合は罰金や追徴金が課される。イギリスは強制徴収制度はないが、罰則規定はある。

    NHKの営業経費の中で「訪問要員による係わる経費」が305億円。訪問要員は、未契約者や入居者の入れ替わりを把握するための「点検」、「面接」、「(テレビの)設置把握」、「説明・説得」という手順を踏んで、「契約取次」にいたる。が、未契約者からは「急に訪ねてきたNHKの訪問員が、テレビの有無を確認すると言って無理やり部屋に上がりこんで・・・」といった苦情が寄せられることになる。こうしたクレームやトラブルを解消するために、NHKは公共料金や税金との共同徴収を可能にする「放送法」の改正を望んでいる。

   しかし、地上波のみの地上契約で年額1万4700円、地上波を含む衛星契約で年額2万6040円の受信料。衛星アンテナが設置された集合住宅に入居すると、衛星放送をまったくに視聴しないのに年額2万6040円の受信料負担は納得できないと感じている視聴者も多い。ましてや、(上記の)放送法の改正をするのであれば、受信料を相当安い水準にしなければ視聴者の支持と信頼感は得られない。また、コスト的に、地上波2波、ラジオ3波、衛星4波は「放送波の肥大化」との批判もある。受信料の引き下げは放送波のコストカットと連動して行うべきだ。さらに、2019年度の「繰越余剰金」、つまり内部留保は1280億円もある。繰越余剰金を受信料に還元する会計上の仕組みが必要であるが、これは実現性が高い。

   インターネットと地上波の同時配信で問題もある。テレビは持っていないが、ネットでNHKを視聴したいというニーズに対応できていない。放送法の受信料制度は「テレビ受信機の設置」が基準になっている。放送法の抜本的な見直しも必要となるだろう。

   最後に高市氏が述べていること。「そもそも企業スポンサーが不要なのですから、民放と競って視聴率狙いの番組制作をする必要はない」「『伝えるべき方向』に向けて進んでいただきたい」と。同感である。

⇒29日(日)夜・金沢の天気     はれ

☆NHKの「義務化を」の背景を読む

☆NHKの「義務化を」の背景を読む

   自家用車に乗っていてもNHKラジオで時刻ごとの5分ニュ-スをよく聴く。仕事から自宅に戻れば、午後7時や同9時のNHKのニュース番組を視聴する。受信料を払っているからという理由ではないが、自身のNHKへの接触度は高い方だと思っている。そのNHKで違和感があったのが、受信料制度の在り方などを検討する総務省「放送を巡る諸課題に関する検討会」で、NHK側が家庭や事業所でテレビを設置した場合はNHKへの届け出を義務化するよう放送法の改正を要望したというニュースだ(10月17日付・共同通信Web版)。

   NHKは受信契約を結んでいない世帯の居住者の氏名や、転居があった場合は転居先などの個人情報を、公的機関などに照会できるようにする仕組みの導入も求めた。受信契約の対象者を把握することで不払いを減らし、営業経費の削減にもつながるとみている。NHKはテレビがない場合の届け出も求めており、今後、有識者会議で検討する(同)。このニュースを見た視聴者は「NHKの上から目線」を感じたのではないだろうか。

   このNHKの要望で不快感を露わにしたのは民放サイドだ。いわゆる「テレビ離れ」。今月26日、日本テレビの小杉社長は定例会見で、テレビを設置した際のNHKへの届け出を義務化の要望した件について、「テレビ離れに拍車をかけるようなことになってはいけない」と懸念を表明(10月26日付・産経新聞Web版)。また、受信契約を結んでいない世帯の居住者氏名や、転居した際の住所などの個人情報を公的機関などに照会できる制度の導入についても、小杉社長は「視聴者には心理的なハードルがある」と指摘。「(総務省の有識者会議で)有識者の反対の意見が多かったと聞いているが、注視していかないといけないことだ」と述べた(同)。

   NHKも不評を買うことをある程度予想して要望を出したに違いない。その背景にNHKの相当な「焦(あせ)り」というものを感じる。それは、公共放送の有り様が国際的に見直されようとしているからだ。

   たとえば、イギリスの公共放送であるBBCについて、イギリス政府はTVライセンス料(受信料)を廃止し、希望者のみが視聴料を払う課金制(サブスクリプション)の導入など見直し作業を始める意向だという(2020年2月16日付・「The Sunday Times」Web版)=写真=。ジョンソン首相(保守党党首)は昨年12月の総選挙を前に、BBCの受信料制度の廃止と、視聴する分だけ金を払う有料放送型の課金制への移行を検討すると表明していた(2019年12月11日付・時事通信Web版)。選挙に勝利したジョンソン氏はその公約の実行段階に入ったと言える。

   イギリスの場合は、テレビを見たい視聴者は近くの郵便局で1年間有効の受信許可証を購入する。この許可証がなければ、電気屋でテレビそのものが買えないシステムだ。ところが、インターネット時代で、この受信許可モデルは果たして妥当なのか、その見直しがイギリスで起きているのだ。NHKの焦りというのは、日本でも受信料の見直し議論が起きる前に、NHKへテレビ設置の届け出を義務化するなど受信許可モデルを制度として早々に確立したいという意向ではないだろうか。

   BBCは世界の公共放送のモデルのような存在である。NHKにとってはギョーカイの大先輩であり大御所だ。そのBBCが直面する大問題を自らも焦燥感を持って成り行きを見守っているのだろう。NHKの「義務化を」の言葉の背景を探ってみた。

⇒31日(土)午後・金沢の天気    はれ