#千枚田

★「奥能登あえのこと」田の神は何想う 耕す田んぼが激減

★「奥能登あえのこと」田の神は何想う 耕す田んぼが激減

  能登半島地震で伝統的な農村文化が失われるのではないか、そんな危機感が漂っている。前回ブログで、輪島市にある白米千枚田で多数のひび割れが入ったことから、1枚でも多く棚田を耕すことで復興の希望につなげたいと地元の愛耕会のメンバーが当初予定していた60枚を120枚に増やして田植えにこぎつけたいきさつを紹介した。

  白米千枚田は2001年に文化庁の「国指定文化財名勝」に指定され、2011年に国連世界食糧農業機関から認定された世界農業遺産「能登の里山里海」のシンボル的な存在。こうした評価の重荷を背負いながら愛耕会のメンバーは努力を重ねたものの、それでも「1000分の120」にとどまった。

  さらに、危機感を漂わせる事例がある。農耕儀礼の「あえのこと」。奥能登(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)の農家の家々では、田んぼの実りに感謝し、目が不自由とされる田の神をごちそうでもてなす行事がある。1976年に国の重要無形民俗文化財に指定され、2009年に単独でユネスコ無形文化遺産に登録されている。千枚田と同じく能登の世界農業遺産のシンボル的な行事でもある。(※写真は、能登町「合鹿庵」で執り行われた農耕儀礼「あえのこと」。田の神にコメの出来高などを報告する農業者=2016年12月5日撮影)

  この農耕儀礼は各農家がそれぞれの家で行う行事であり、一般公開を前提としたものでも義務でもない。そのため、世代の替わりで儀礼の簡略化や止める農家が多く、農耕儀礼の継承そのものが希薄となっていた。そこに地震があり、奥能登では農地の亀裂など538件、水路の破損655件、ため池の亀裂や崩壊が165件、農道の亀裂や隆起などの損壊が398件に上った(3月26日時点・石川県農林水産課のまとめ)。このため、奥能登の田植えの作付面積は去年の2800㌶から1600㌶に落ち込む見通しとなった(同)。

  田んぼを耕さなければ農耕儀礼はない。田の神はこの奥能登の現実をどう想っているだろうか。

⇒13日(月)夜・金沢の天気    くもり

★能登半島地震 GIAHSで評価される能登のレジリエンス

★能登半島地震 GIAHSで評価される能登のレジリエンス

          山林ではがけ崩れ、そして漁港では海底隆起で漁船が出漁できない状態が続いている。輪島の千枚田=写真・上、2011年6月撮影=も棚田にひびが入るなどの被害が起きている。能登の里山や里海を生業とする農林漁業の一次産業が手痛い打撃を受けている。「能登の里山里海」は2011年6月に国連食糧農業機関(FAO)から世界農業遺産(GIAHS)の認定を受け、世界各地から能登の農林漁業を視察に訪れるようになった。FAOは「能登の里山里海」について公式サイトで以下のように紹介している。

The communities of Noto are working together to sustainably maintain the satoyama and satoumi landscapes and the traditions that have sustained generations for centuries, aiming at building resilience to climate change impacts and to secure biodiversity on the peninsula for future generations.(意訳:能登の地域社会は、何世紀にもわたって何世代にもわたって受け継がれてきた里山と里海の景観と伝統を持続的に維持するために協力し、気候変動の影響に対するレジリエンスを構築し、将来の世代のために半島の生物多様性を確保しようとしている)

   2011年6月の認定のセレモニーに能登を訪れた、当時のGIAHS事務局長パルビス・クーハフカン氏は輪島市の棚田「千枚田」を見学した。そのとき、梶文秋市長はこの地域では1684年に大きな地滑り(深層崩壊)があり、山ごと崩れた。それを地域の人々が200年かけて再生した歴史があるとの説明を受した=写真・下=。するとパルビス氏は「すばらしい景観と同時に農業への知恵と執念を感じる。千枚田は持続可能な水田開発の歴史的遺産、そしてレジリエンスのシンボルだ」と応えていた。

   能登半島地震のニュースは世界でも広まっている。FAOは能登の世界農業遺産が被害を受けたことについて、共同通信の取材に対し、「被災地の復旧を奨励し、その状況を見守る」「農業遺産がこれほどの被害を受けた例は過去になかったのではないか」と応え、こうした場合でも認定取り消しの規定はないと説明した(2月15日付・北國新聞)。

   能登のGIAHSでは千枚田だけでなく、揚げ浜式塩田や海女漁、農耕儀礼「あえのこと」(ユネスコ無形文化遺産)、伝統的な祭りなど、人と自然が共生する持続可能な社会のモデルとして評価を受けている。それは、これまでの歴史の中でさまざまな自然災害と向き合いながら伝統遺産を繋いできた能登の人々のレジリエンス(困難を乗り越える力)の証しでもある。

⇒16日(金)夜・金沢の天気    くもり

★能登半島・輪島から「SDGs観光」の発信を

★能登半島・輪島から「SDGs観光」の発信を

   内閣府は国連のSDGs(持続可能な開発目標)に沿ったまちづくりに取り組む自治体を「SDGs未来都市」として選定している。ことし新たに能登半島の輪島市や新潟県佐渡市など30自治体が選ばれた。選定は2018年に始まり、今回含め154の自治体が選ばれている(内閣府地方創生推進事務局公式サイト「2022年度SDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業の選定について」)。

   輪島市のテーマは「“あい”の風が育む『能登の里山里海』・『観光』・『輪島塗』 ~三位一体の持続可能な発展を目指して~ 」。「“あい”の風」とは日本海沿岸で冬の季節風が終わり、沖から吹いてくる夏のそよ風を言う。ところによっては「あえの風」とも言う。キーワードに世界農業遺産「能登の里山里海」、観光、輪島塗の3つを入れている。ちなみに佐渡市のテーマは「人が豊かにトキと暮らす黄金の里山・里海文化、佐渡 ~ローカルSDGs佐渡島、自立・分散型社会のモデル地域を目指して~」。トキと佐渡金山がキーワードになっている。

   輪島市の提案書を読もうと思い、市役所公式サイトにアクセスしたがまだアップはされていなかった。後日、内閣府の公式サイトで一括して掲載されるようだ。多様な地域の特性をSDGsの視点で見直し、「誰一人取り残さない」「持続可能な社会づくり」に活かしていこうというまさに地方創生の実現に向けた取り組みだ。

   輪島の朝市や千枚田、海女漁を見ればSDGsが体現された地域であることが理解できる。朝市はもともと農村や漁村のおばさんたちが農作物や魚介類を持ち寄って物々交換したことがルーツとされる。作り、採ったものが余った場合、廃棄するのではなく、物々交換という取引で豊かさを共有する場だった。「もったいない精神」と言えるかもしれない。同時に、SDGs目標12「つくる責任つかう責任」である。

   そして、海女漁はまさにSDGs目標14「海の豊かさを守ろう」だ。現在200人いる海女さんたちのルーツは1569年、福岡県玄海町鐘崎から船で渡って来た13人の男女だったと伝えられている(1649年「海士又兵衛文書」)。24種もの魚介類を採ることで生業(なりわい)を立てているだけに資源管理には厳しいルールがある。アワビ漁については、貝殻10㌢以下の小さなものは採らない、漁期は7月から9月の3ヵ月、時間は午前9時から午後1時、酸素ボンベは使わず素潜り。こうした厳格な自主規制で450年余り経ったいまでもアワビを採り続けている。

   千枚田では自然災害と向き合ってき人々のSDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」の精神が見えてくる。1684年、この地区では大きな地滑りがあり、棚田があった山が崩れた。「大ぬけ」といまでも地元では伝えられる。いまで言う深層崩壊だ。その崩れた跡を200年かけて棚田として再生した。まさにレジリエンスだ。それだけでない、いまも地滑りを警戒して、千枚田の真ん中を走る国道249号の土台に発砲スチロールを使用するなど傾斜地に圧力をかけないようにと工夫をしている。

   持続可能な人々の営みというのは、その歴史を検証すことで見えて来る。輪島市には今回のSDGs未来都市の認定で、「SDGs観光」という新たな情報発信をしてほしいものだ。

⇒22日(日)午前・金沢の天気    はれ