#北京オリンピック

★雪桜のような冬季五輪だったが

★雪桜のような冬季五輪だったが

   ふと見ると、満開のヨメイヨシノのようにも見える。落葉した桜の木に雪が降り積もり、まるで満開の桜のようだ=写真=。北陸では「雪桜(ゆきざらく)」と言ったりする。ネットで調べると、「雪降桜(ゆきふりのさくら)」という言葉もあった。雪が桜の枝に積もり、風が吹くとまるで桜が舞い散るように雪が舞う。さらに、「桜隠し(さくらかくし)」という言葉もある。桜の咲く頃に雪が降ることを表現する。風流な言葉ではある。

            雪桜のように冬に「満開の花」を咲かせたのが、北京オリンピックでの日本勢の活躍ではなかっただろうか。冬のオリンピックで最多となる18個のメダルを獲得した。金が3個、銀6個、銅が9個で、これまで最多だった平昌大会の13個を上回った。カーリング女子の決勝はイギリスに3対10で敗れ、銀メダルだったが、「氷上のチェス」とも称される理詰めの試合展開にはテレビで観戦する側も息をのんだ。そして、スノーボード男子ハーフパイプで金メダルを獲得した平野歩夢選手は難度の高い大技「1440(斜め軸に縦3回転、横4回転)」を披露した。実況アナが「人類初めての公式戦での演技」と称賛していたのにも納得した。

   北京オリンピックをテレビで観戦していて、今ごろ気がついたことがある。それは、テレビのCMがなかったことだ。「がんばれニッポン」のCMを見かけなかった。平昌大会ではコカ・コーラやJALなどがCMを流していた。去年の東京オリンピックのとき、オリンピックの大口スポンサーでもあるトヨタは新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない中での開催の是非について世論が割れていることを理由にテレビCMを見送り、今回の北京オリンピックでもCMを流していない。ウイグル族への強制労働など、中国の人権状況に対して「外交的なボイコット」を展開したことも背景にあるのだろうか。逆にCMを流せば、「東京で流さなかったに、なぜ北京で」とバッシングが起きたかもしれない。

   ともあれ、北京冬季五輪の17日間は幕を閉じた。開催国の中国は大会を盛り上げようと努力したが、前述の「外交的なボイコット」や新型コロナウイルスによる選手の「バブル」隔離、スーツ規定違反やドーピング問題や、ウクライナ有事などが複雑に絡んでいつの間にか幕を閉じた。次回オリンピックは2024年夏のパリ、26年冬のミラノ・コルティナダンペッツォだ。ここでも、「Baron Von Ripper-off(ぼったくり男爵)」こと、IOCのバッハ会長がしゃしゃり出て来るのだろう。IOCは公的な国際組織ではなく、非政府組織 (NGO) の非営利団体 (NPO)だ。そろそろ国連機関に所管を委ねるべきではないだろうか。

⇒21日(月)夜・金沢の天気      くもり時々ゆき

★ニュース悲喜こもごも

★ニュース悲喜こもごも

   残念なこと。今月2日付のブログ「☆現場を行く~海上の空で消えたF-15戦闘機~」の続報。先月31日、航空自衛隊小松基地のF15戦闘機1機が訓練のために基地を離陸したあとにレーダーから機影が消え、小松市沖の日本海に墜落した。この事故で戦闘機に乗っていた飛行教導群司令の田中公司1等空佐52歳と飛行教導隊隊員の植田竜生1等空尉33歳の2人が行方不明になっていた。田中1佐が前席、植田1尉が後席に乗っていた。捜索できょう14日までに2人の遺体が発見された。

   地元紙の報道によると、11日午前11時50分ごろ、海上自衛隊の隊員が潜水して捜索していたところ、機体がレーダーから消えた基地からおよそ5㌔の海域で一人の遺体を発見。そしてきのう13日午前9時10分ごろ、現場海域で海自の隊員が新たに一人遺体を見つけ、それぞれ身元を特定した。航空自衛隊のこれまでの捜索で、水平尾翼やエンジン排気口、燃料配管などの一部がそれぞれ見つかっている。空自が委託した民間のサルベージ船が近く機体を引き揚げ、原因究明を進める。

   あっぱれ。北京オリンピックのあのダイナミックな演技は冬季五輪の歴史に輝くだろう。平野歩夢選手が11日にスノーボード男子ハーフパイプで金メダルを獲得した。テレビで協議の中継を見ていた。言葉も初めてだった。「トリプルコーク」。最高難度の大技で「1440(斜め軸に縦3回転、横4回転)」を決めた。2回目で2位の91.75点は物議を醸したが、3回目に96.00点をマークして逆転で金メダルを獲得した。このトリプルコーク1440というのが人類初めての公式戦で演技だったというので納得した。

   危うい。紛争は2014年からあったが、今もっとも緊張が高まっている。ロシアがウクライナを侵攻すれば、エネルギーの需給がひっ迫するとの見方から原油価格も上昇している。アメリカの政府高官が11日に、「ロシアの侵攻が北京オリンピックの期間中にもありうる」と発言したあたりから世界に緊張感が高まった。日本の外務省はウクライナの危機情報を最高度の「レベル4」(退避勧告)に引き上げ、滞在する日本人にただちに退避するよう指示している。

⇒14日(月)夜・金沢の天気       くもり

☆IOC声明 中国との妙な関係性を裏読み

☆IOC声明 中国との妙な関係性を裏読み

   北京オリンピックをはじめとして連日のように「中国」が日本のメディアをにぎわせている。「たかが中国、されど中国、やっぱり中国」と感じたニュースを。北京五輪で中国を訪れているIOCのバッハ会長は、中国の前の副首相から性的関係を迫られたことをSNSで告白したとされるプロ子テニスの彭帥(ペン・シュアイ)選手と5日、夕食をとりながら会談したとIOCが発表した(7日付・NHKニュースWeb版)。新型コロナの感染対策として北京オリンピックの大会関係者が外部の人と接触しないようにしているいわゆるバブル内で、別のIOC委員を含め3人での会食だった。会談で話した内容についても詳しくは言及されていないが、3人はそれぞれオリンピアンとしての経験を話し合ったとしている(同)。

   さっそくIOC公式ホームページをチェックした。サイドの「ニュース」覧に「IOC statement on meeting with Peng Shuai」の見出しで掲載されている=写真=。読んで感じたことは、なぜ3ショットの写真を掲載していないのか、そもそもこの会食はIOC公式ホームページで「声明」として取り上げるべき話題なのだろうか。さらに奇妙に感じたのはこの下りだ。

「In this context, she also shared her intention to travel to Europe when the COVID-19 pandemic is over, and the IOC President invited her to Lausanne to visit the IOC and The Olympic Museum, to continue the conversation on their Olympic experiences. Peng Shuai accepted this invitation.」(意訳:彭選手はパンデミックが治まったらヨーロッパを旅行したいと話題にすると、バッハ会長はスイス・ローザンヌにあるオリンピック博物館に彼女を招待したいと述べ、引き続きIOCとの対話を続けることを提案した。彭選手も承諾した)

   文面を読めば、和やかな雰囲気が伝わってくるのだが、このホームページの記事を読んだ世界の多くの人は、「IOCのバッハ会長はなぜペン・シュアイ選手と会食したり、誘ったりしているのか。彼女がSNSを発信して一時消息が分からなくなっていた。それが問題ではないのか」と勘繰っているに違いない。

   世界ではすでにIOCのバッハ会長は「Baron Von Ripper-off」(ぼったくり男爵)で知られている。IOCは公的な国際組織ではなく、非政府組織 (NGO) の非営利団体 (NPO)で、4年に1回のイベントで得た収入で運営される。収入の73%は放映権料、最上位スポンサーからの協賛金は18%を占める。収入の9割を各国・地域のオリンピック委員会(NOC)や国際競技団体(IF)に分配し、残り1割は運営費。金額で5.7億㌦(2013-16年収入実績)がIOCの手元に残る。なので、バッハ会長はパンデミックになろうと人権侵害・ジェノサイドがあろうと、オリンピックは簡単に中止にはしない。

   以下裏読みだ。IOCと中国の間で「密約」があるのではないか。中国は彭選手をIOC委員として送り込もうとしている。彭選手はオリンピック3回出場(2008年北京、12年ロンドン、16年リオ)のベテラン選手でもあるので、バッハ会長もこれに同意した。オリンピック博物館に彼女を招待するのはその雇用契約のためではないのか。中国側の狙いはバックヤードからIOCをコントロールするためではないか。このように憶測すると話のつじつまが妙に合ってくる。

⇒8日(火)午前・金沢の天気     くもり

☆北の五輪不参加と極超音速ミサイルは何を潰したのか

☆北の五輪不参加と極超音速ミサイルは何を潰したのか

   きのう11日に北朝鮮が発射した極超音速ミサイルについて防衛省は公式ホームページで落下地点を推定した図=写真・上=を掲載し、「詳細については現在分析中ですが、通常の弾道軌道だとすれば約700km未満飛翔し、落下したのは我が国の排他的経済水域(EEZ)外と推定されます」とコメントを書いている。この図を見て、ミサイルの発射角度を東南に25度ほど変更すれば、間違いなく能登半島に落下する。さらに、朝鮮新報(12日付)は「発射されたミサイルから分離された極超音速滑空飛行戦闘部は、距離600km辺りから滑空再跳躍し、初期発射方位角から目標点方位角へ240km旋回機動を遂行して1000km水域の設定標的を命中した」と記載している=写真・下=。この記載通りならば、北陸がすっぽり射程に入る。

   さらに、朝鮮新報の記事は金正恩朝鮮労働党総書記が発射を視察し、「国の戦略的な軍事力を質量共に、持続的に強化し、わが軍隊の近代性を向上させるための闘いにいっそう拍車をかけなければならない」と述べと伝えている。

   NHKニュース(12日付)によると、岸防衛大臣はきょう12日午前、記者団に対し、11日に北朝鮮が発射した弾道ミサイルについて、通常よりも低い最高高度およそ50㌖、最大速度およそマッハ10で飛しょうしたと分析していると説明した。今月5日に発射した極超音速ミサイルはマッハ5の速さで飛行したと報じられていた。去年9月28日の「火星-8」はマッハ3とされていたので、ミサイル技術が格段に高まっていると言える。

   そして、岸大臣が述べたように、今回の弾道ミサイルは通常より低く飛び、最高高度およそ50kmだった、非常に速く低く飛ぶ弾道ミサイルに日本は対応できるのだろうか。これまで北朝鮮のミサイル発射は、アメリカを相手に駆け引きの材料だと思い込んでいた。どうやらそうではないようだ。日本やアメリカの迎撃ミサイルなどはまったく寄せ付けない、圧倒的な優位性を誇る弾道ミサイルの開発にすべてを集中する。国際的な経済封鎖下でも、東京オリンピックと北京オリンピックをボイコットしてでも開発を急ぐ。そして、ダメージを受けたのは韓国だった。

   韓国の大統領府関係者は、北京オリンピックについて「慣例を参考にして、適切な代表団が派遣されるよう検討中」と語り、文在寅大統領の出席は検討していないと明らかにした(12日付・時事通信Web版)。文氏は「外交的ボイコット」を検討していないと訪問中のオーストラリアでの首脳会談後の記者会見で表明していた(12月13日付・朝日新聞Web版)。

   以下裏読みだ。文氏は北京オリンピック期間中に中国の仲立ちで北京での南北首脳会談を構想し、水面下で交渉していた。ところが、北朝鮮は今月5日に極超音速ミサイルを発射。同じ日に「敵対勢力の策動と世界的な感染症の大流行」を理由にオリンピックに参加しないことを中国側に通知した。そして11日にマッハ10の極超音速ミサイルを発射した。これで文氏の「北京での南北首脳会談」の構想は完全に潰えてしまった。というより、ひょっとして、北朝鮮は文氏の夢を潰すためにあえて発射と不参加をセットにしたのか。「敵対勢力の策動」とはこのことを指すのか。

⇒12日(水)夜・金沢の天気      あめ

☆2021 バズった人、コト~その3

☆2021 バズった人、コト~その3

   来年2月の北京オリンピックについて、アメリカが問題を提起した「外交的なボイコット」。中国・ウイグル族への強制労働や、女子プロテニスの選手が前の副首相から性的関係を迫られたと告白した後に行方がわからなくなった問題、香港における政治的自由や民主化デモへの弾圧など、中国の人権状況に対して国際的な批判は強い。オーストラリア、イギリス、カナダが同じように政府関係者を送らないと表明し、アメリカに同調している。

       ~北京オリ・パラの外交的ボイコットには日本流で参加~

   日本政府はどうなのか。岸田総理は第2次内閣の発足に合わせて新たに国際人権問題担当の総理補佐官を置き、中谷元・元防衛大臣を起用。また、来年から外務省に国際的な人権問題を担当する企画官を設置することを決めている。中国を念頭に、政府として人権問題に厳しい対応をとる方向性を示したと言える。北京オリンピックについて、岸田総理は「国益の観点からみずから判断していきたい」と繰り返すだけだった。が、ようやく態度を決めたようだ。

   総理官邸公式ホームページに松野官房長官のきょうの記者会見(24日)の動画が掲載されている。それによると、来年の北京オリンピック・パラリンピックへの対応については、閣僚など政府関係者の派遣を見送り、オリンピックには東京大会の組織委員会の橋本聖子会長とJOCの山下泰裕会長、そしてパラリンピックにはJPCの森和之会長がそれぞれ出席すると述べている。事実上の外交的ボイコットだ。

   記者団から質問が浴びせられる。「アメリカなどが行う外交的ボイコットに当たるのか」と。これに対し、松野官房長官は「政府として日本からの出席の在り方について特定の名称を用いることは考えていない」と述べ、別の質問でも、「アメリカ政府も外交的ボイコットという言葉は用いていない」と答えていた。
 
   記者団から中国の人権問題を問われ、松野官房長官は「わが国としては国際社会における普遍的価値である、自由、基本的人権の尊重、法の支配が、中国でも保障されることが重要だと考えており、わが国の立場については、さまざまなレベルで中国側に直接働きかけている。オリンピック・パラリンピックは世界に勇気を与える平和・スポーツの祭典だ。北京冬季大会への日本政府の対応はこれらの点も総合的に勘案してみずから判断を行った」と述べていた。北京オリンピックを外交的にボイコットするまっとうな理由だろう。

   このニュースを海外メディアも伝えている。CNNニュースWeb版は「Japan says it won’t send government officials to Beijing 2022 Winter Olympics」との見出し=写真=で、官房長官による日本政府の方針を報じている。本文では、岸田総理は与党内で中国に対してより厳しい姿勢を取る圧力の高まりに直面しており、アメリカの緊密なパートナーであるが、アジアの隣国とも強い経済的関係を持つ日本にとってデリケートな問題だと日本メディアの論調として伝えている。また、韓国の中央日報Web版日本語も「中国の北京オリンピックに対する米国・英国などの『外交的ボイコット』が広がる中、日本もこれに加わった」と報道している。

   2024年夏にパリオリンピックを開催するフランスは外交的ボイコットには同調しないとし、韓国も検討しないとしている。来年は日中国交正常化50周年に当たるが、ようやく日本は中国に「No」を言える国になったのか。

⇒24日(金)夜・金沢の天気    くもり

★「キシダクーポン」に時間かけすぎ

★「キシダクーポン」に時間かけすぎ

   このような単純な施策に時間のかけすぎだ。18歳以下に10万円相当を給付する政府の指針が揺れている。政府が5万円分を子育て関連に使途を限定した期限付きのクーポン給付とする方針にしたのは、全額現金だと貯蓄に回り、経済対策につながらないという問題意識からだろう。しかし、クーポンが消費に使われても、それによって浮いた金額が逆に貯蓄に回るであろうことは誰もが考える。消費刺激の効果は限定的にならざるを得ない。むしろ、このクーポン給付の必要経費に900億円もかかることを国民は問題視した。

   きょう政府が新たに示した方針は、3パターンの給付方法だ。一つめが現金10万円を一括給付する。二つめが現金5万円を2回給付、そして三つめが現金5万円とクーポン5万円分を2回に分けて給付する。15日までに自治体に通知する(14日付・毎日新聞Web版)。この政府の方針を受けて、松井大阪市長は18歳以下への10万円相当の給付について、今月27日に現金で一括支給すると発表した(14日付・時事通信Web版)。

   しかし、この3パターンの給付方式は何も新しいことではない。そもそも、一つめの現金10万円の一括給付は大阪市だけではなく、多くの自治体が求めてきたものだ。二つの現金5万円の2回給付は、三つめと一つめの折衷案であり、三つめはそもそも政府の原案である。ここまで来るの一体どれだけ時間がかかったことか。時間がかかり過ぎだ。

   自治体はもっと現実的だ。すでに大阪の箕面市は8日、迅速な給付の実現や事務費の削減などの観点から、10万円を全額現金で給付する方針を決めている。同市の上島市長は「市民の使い勝手やクーポンの準備にかかる時間などを考慮すると全額現金で給付するのが市民のニーズに適している」とコメントした(9日付・NHKニュースWeb版)。

   もたついている政府だが、急ぐべきは来年2月の北京オリンピックについて、「外交的なボイコット」をどうするかの議論だ。日本政府は中国からの招待の有無にかかわらず、政府代表団の派遣をどうするのか。時間をかけて議論すべきはこの問題ではないだろうか。

⇒14日(火)夜・金沢の天気       あめ

★外交的ボイコット相次ぐ アスリートの憂うつ

★外交的ボイコット相次ぐ アスリートの憂うつ

   中国の人権弾圧へのアメリカの本気度が分かる。そして、アメリカは来年2月の北京オリンピックへの「外交的ボイコット」も発表している。ホワイトハウスのサキ報道官は6日、バイデン政権は北京オリンピックに政府の公式代表団を派遣しないと表明した。アメリカの選手は五輪参加を許可されるが、政府当局者を派遣しない。北京で開催されるパラリンピックについても同様の方針を適用する(CNNニュースWeb版・6日付)。政府代表団を派遣しない外交的ボイコットの方針は、アメリカに次いでオールストラリア、イギリス、カナダも表明している(BBCニュースWeb版・9日付)。

   では、日本政府はどうなのか。岸田総理は7日午前、官邸で記者団に対し「アメリカが北京オリンピック、パラリンピックを外交的にボイコットするということを発表したことを承知している。わが国の対応は、オリンピックの意義、さらには、わが国の外交にとっての意義などを総合的に勘案し、国益の観点からみずから判断していきたい。これがわが国の基本的な姿勢だ」と述べた(NHKニュースWeb版・7日付)。対応を明確にしていない日本に対し、中国外務省の汪副報道局長は9日の記者会見で、「中国は東京五輪の開催を全面的に支持した。今度は日本の基本的な信義を示す番だ」とけん制している(時事通信Web版・9日付)。

   IOCのバッハ会長は彭選手とテレビ電話で無事を確認したと述べているが、本人が海外メディアの記者団の前で自由に語る場面が設定されない限り、バッハ会長の言葉に信ぴょう性が裏打ちされない。そして、アメリカの連邦議会下院は8日、IOCの彭選手への対応について、「北京オリンピック・パラリンピックに参加する選手の権利を守る能力と意志に疑問を抱かせる」と批判する決議を全会一致で可決した(NHKニュースWeb版・9日付)。議会もIOCを信用しない中で、アメリカのアスリートたちの混迷は深まっているのではないか。

☆テレビ的な和みのストーリ-の裏を読む

☆テレビ的な和みのストーリ-の裏を読む

   これは「メンツと利権のマッチング」なのか。このブログで何度か取り上げている中国の前の副首相から性的関係を迫られたことをSNSで告白したのち、行方が分からなくなっていたプロ女子テニスの彭帥(ペン・シュアイ)選手の問題。IOCのバッハ会長は先月21日、彭選手とテレビ電話で対話をしたとIOC公式ホームページで発表した=写真=。さらに、今月1日にもIOCチームが彭選手とテレビ電話でコンタクトを取り、「彼女と定期的に連絡を取り合い、1月に個人的な会合を持つことで合意した」との「IOC Statement」をホームページで発表している。

   バッハ会長のテレビ電話は不評だった。ロイター通信(日本語版、11月22日付)は、女子テニスのツアーを統括するWTAの広報担当者の「この動画で、彼女の性的暴行疑惑について検閲なしに完全かつ公正で透明な調査を行うという、われわれの要求が変わることはない。それがそもそもの懸念だ」とIOC批判のコメントを、BBCニュースWeb版(同22日付)もアスリートの声として「IOCが中国当局の悪意のあるプロパガンダと基本的人権と正義に対するケアの欠如に加担している」とのコメントを紹介し、不評を煽った。

   IOCはなぜ彭選手とテレビ電話にこだわったのか。IOCは北京オリンピックをぜひ開催してほしい、そのためには彭選手問題を鎮静化させたいとの思いがあるのだろう。何しろ、オリンピックの放映権料と最上位スポンサーからの協賛金がIOCに入る仕組みになっている。また、中国としては北京オリンピックを是が非でも開催したいというメンツがある。双方の思惑が絡んでのマッチングが「テレビ電話」だった。

   では、誰が仕掛けたのだろうか。最初は中国側がバッハ会長に持ち掛けたのではないかとの印象だった。ところが、IOC側はホームページで2度も彭選手とのテレビ電話での対話を掲載している。こうなると、IOC側の積極的な意図を感じる。

   以下は憶測だ。前述したようにIOCが簡単に五輪を中止しない理由は、IOCの収入は放送権料が73%、スポンサー料が18%だ。その放送権料の50%以上をアメリカの民放テレビ局、NBCが払っている。東京オリンピックと韓国・平昌冬季大会(2018年)を合算した数字だが、NBCの供出額は21億9000万㌦にも及ぶ。そのNBCが東京オリンピックの開催をめぐって、アメリカ国内では批判にさらされた。「NBC Approaches “Moral Hazard” Amid Tokyo Olympics Push During Pandemic」(週刊誌「ザ・ハリウッド・リポーター」6月23日号)、モラル・ハザード(倫理観の欠如)のレベルだ、と。さらに今回の北京オリピックではもともと新疆ウイグル自治区などでの人権問題に加え、彭選手問題が起きた。NBCに対するアメリカの世論は相当厳しいに違いない。

   ある意味でIOCと一心同体の関係にあるNBCはバッハ会長に対して、テレビ電話での対話を入れ知恵した。なぜそう勘繰ったかというと、テレビ電話を使い、会食の約束をするという和みのストーリーは実にテレビ的な発想、演出方法なのだ。ところが、バッハ会長の起用には誤算が生じた。そこで、2回目の対話ではIOC選手委員会のエマ・テルホ委員長(アイスホッケー)ら女性を起用したのではないだろうか。あくまでも憶測だ。

⇒4日(土)午前・金沢の天気     あめ

☆IOCバッハ会長の「悪あがき」

☆IOCバッハ会長の「悪あがき」

   これはIOCバッハ会長の悪あがきだ。IOC公式ホームページをチェックすると、「IOC Statement on the situation of Peng Shuai」の見出しで、先月21日に引き続き、今度はIOCチームが中国の女子プロテニス、彭帥(ペン・シュアイ)選手とテレビ電話で話したと掲載している。しかし、不思議なのは会話した人物が明記されていない。「We share the same concern as many other people and organisations about the well-being and safety of Peng Shuai.」で文章は始まるが、この「We」が誰と誰なのか。11月21日付の文章では「Today, IOC President Thomas Bach held a video call with three-time Olympian Peng Shuai from China.」とバッハ会長の名前が記されていた。一体どのようなIOCチームが彭選手と話したのか。

   記事では、「私たちは、彭選手の幸福と安全について、他の多くの人々や組織と同じ懸念を共有しています。これが、ちょうど昨日(12月1日)、IOCチームが彼女とビデオ電話を行った理由です。私たちは彼女の幅広いサポートを提供し、彼女と定期的に連絡を取り合い、すでに1月の個人的な会合を持つことで合意しました」など記している。この記事を読めば、おそらく誰もが「演出めいている」と感じる違いない。「IOC Statement」として公式に発表するのであれば、IOCの誰と誰が彭選手と連絡を取って無事を確認したのか、実名を公表すべきだろう。11月21日のときは、バッハ会長のほかに中国オリンピック委員会の李玲蔚副主席とIOC選手委員会のエマ・テルホ委員長(フィンランド)の2人も参加したと報じられていた。この2人なのか。

   IOC声明に先立って、WTA(女子テニス協会)のスティーブ・サイモンCEOは1日、公式ホームページで声明を発表し「中国の指導者たちはこの非常に深刻な問題に信頼できる方法で対処していない」などとして「香港含む中国で開催されるすべての大会を直ちに中止する」ことを明らかにした。さらに声明では「彭選手の居場所は明らかになったが、彼女が安全で自由かということや、検閲されたり強制や脅迫されていることに深刻な疑問を抱いている」としたうえで、現在の状況を踏まえて「来年、中国で大会を開催した場合、すべての選手やスタッフがリスクに直面する」などとして大会を開催した場合の安全性に懸念を示した(12月2日付・NHKニュースWeb版)。

   冒頭で「IOCバッハ会長の悪あがき」と述べたが、WTAの事例にならって、ほかのスポーツ団体や参加予定国が北京オリンピックを辞退することにならないか、おそらくIOCと中国は懸念したのだろう。再度バッハ会長がテレビ電話で会話するとさらなる悪評が立つ。そこで、IOCチ-ムは彭選手と連絡を取り合って無事を確認していると演出を図ったのだろう。ホームページでの掲載もバッハ会長の指示、あるいは中国側の依頼だろうが、むしろ逆効果ではないか。

⇒2日(木)夜・金沢の天気   はれ

★「お先棒担ぎ男爵」IOC会長への厳しい目線

★「お先棒担ぎ男爵」IOC会長への厳しい目線

   前回のブログの続き。 中国の元副首相に性的関係を強要されたとSNSで告発し、その後行方が分からなくなっていた女子テニスの彭帥選手がIOCのバッハ会長とビデオ通話を行ったことについて批判が噴出している。

   ロイター通信(日本語版、22日付)によると、女子テニスのツアーを統括するWTAの広報担当者は「動画で彭選手を確認できたのはよかったが、彼女の健康に問題がないかや、検閲や強制を受けずにコミュニケーションできるかという点についてWTAの懸念を軽減したり、解消したりするものではない」と述べた。IOCとのビデオ通話については「この動画で、彼女の性的暴行疑惑について検閲なしに完全かつ公正で透明な調査を行うという、われわれの要求が変わることはない。それがそもそもの懸念だ」とIOCを批判した。

   BBCニュースWeb版(22日付)も「WTA says concerns remain for Chinese tennis star after IOC call」(22日付・BBC)の記事で、アスリートの声として「IOCが中国当局の悪意のあるプロパガンダと基本的人権と正義に対するケアの欠如に加担している」と紹介している。

   また、NHKニュースWeb版(23日付)は、人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」は声明を発表し、バッハ会長が彭選手とテレビ電話で対話したと発表したことについて「中国政府のプロパガンダを助長してはならない」と、IOCの対応を批判したと報道している。さらに、テレビ電話の場がどのように経緯で設定されたのかIOCは説明していないと指摘したうえで「IOCは、言論の自由を侵害し、この問題を無視しようとする中国当局と積極的な協力関係に発展した。人権侵害者との関係を重視しているようだ」とのHRWの批判を紹介している。

   そこで、HRWの公式ホームページでこの声明=写真=をチェックすると、中国ではこれまで人権派弁護士やジャーナリスト、ノーベル平和賞受賞者、香港の出版社経営者、実業家らを当局の法に反したとして強制的に失踪していると人権侵害の広がりを指摘している。その上で、IOCに対して以下の要請を行うとしている。「ビデオ電話に関する声明を撤回する」「中国政府の関与の詳細を含め、テレビ電話に致る経緯など公に説明する」「中国政府に対し、彭選手の主張に対する独立した透明な調査を開始する」「中国政府に対し、彭選手が望むなら中国を離れることを許し、中国に残っている家族に報復しないよう強く求める」など。

   HRWのIOCへの要請はまっとうだ。理解しやすい。「一蓮托生」という言葉ある。バッハIOC会長が「お先棒担ぎ男爵」、あるいは「プロパガンダ男爵」として中国とこのまま運命をともにするのか。あるいは、悔い改めて、「ビデオ電話に関する声明を撤回する」のか。この議論はなかなか止まないだろう。北京オリンピックまであと70日余り。

⇒23日(火)夜・金沢の天気      あめ