#兼六園

☆ドングリ実らぬ秋の山 クマ出没警戒アラート

☆ドングリ実らぬ秋の山 クマ出没警戒アラート

   「クマが出るので注意を」。石川県はきのう、メディアなどを通じてツキノワグマ出没警戒情報を出した=写真・上=。県庁公式サイトによると、ことし1月から8月までに報告されたクマの目撃情報は208件で、過去最多のペースで増えている。クマ出没警戒情報が出されるのは15人の人身被害が出た2020年以来だ。

   ふだんは山奥にいるクマが人里に降りてくるのは、エサ不足が主な原因とされる。とくに冬眠前になるとクマも必死にエサを探し求めて人里に降りてくる。そのエサとなるブナの実のドングリが、県が調査した24ヵ所中16ヵ所で「大凶作」ないし「凶作」だった。このことから、秋の深まりとともにクマの出没頻度が高まると予測される。

   クマは場所を選ばない。これまで金沢市内のいろいろなところに出没している。金沢の野田山は加賀藩の歴代藩主、前田家の墓がある由緒ある墓苑だ。市街地とも近い。お供え物の果物を狙って出没する。なので、「お供え物は持ち帰ってください」との看板が随所にかかっている=写真・下=。

   クマは中心街にも出る。兼六園近くの金沢城公園で、たびたび出没していたことから、捕獲用のおりを仕掛けたところ体長1㍍のオスがかかったことがある(2014年9月)。周辺にはオフィスビルなどが立ち並ぶ。

   クマは柿が大好物だ。一度食べたら、また翌年も同じところに柿を食べにくると言われる。知人から聞いた話だ。痩せたクマが金沢市街地の民家の柿木に登って、無心に柿の実を食べていた。通報を受けたハンターが駆けつけたが、その無心に食べる姿を見て、「よほどお腹がすいていたのだろう」としばらく見守っていた。満足したのか、クマが木から下りてきたところをズドンと撃った。クマはたらふく食べることができてうれしかったのか、目に涙が潤んでいたという。

    クマの出没は県内では金沢や加賀地方を中心だが、その余波が能登地方にも及ぶ。まもなくキノコ採りのシーズンを迎えるが、出没警戒情報が出されるとクマの出没が比較的少ない能登地方に金沢や加賀地方のキノコ採りの人々がやってくる。能登の人々にとっては迷惑な話なのだが、能登の人たちが目指しているキノコはコノミタケと地元で呼ぶホウキダケの仲間だ。コノミタケと能登牛のすき焼きは季節の料理として人気がある。

   一方、金沢や加賀地方からやってくる人たちは、能登ではゾウゴケ(雑ゴケ)と呼ぶシバタケがお目当て。目指すものが異なるので、山でトラブルになったという話は余り聞いたことがない。ただ、マツタケがはえる山には縄を張って、立ち入りを警告する山主もいる。クマの話がいつの間にかキノコに逸れた。

⇒13日(火)午後・金沢の天気   はれ

★兼六園の未来にスタンバイ 名木の後継木

★兼六園の未来にスタンバイ 名木の後継木

   先日兼六園に立ち寄った。本格的な冬を迎える前にすでに雪吊りなどが施されていた。国の特別名勝である兼六園。ミシュラン仏語ガイド『ボワイヤジェ・プラティック・ジャポン』(2007)で「三つ星」の最高ランクを得ている。広さ約3万坪、兼六園の名木のスターと言えば、唐崎松(からさきのまつ)だ。高さ9㍍、20㍍も伸びた枝ぶり。冬場の湿った重い雪から名木を守るために施される雪吊りはまず唐崎松から始まる。加賀藩の第13代藩主・前田斉泰(1811~84)が琵琶湖の唐崎神社境内(大津市)の「唐崎の松」から種子を取り寄せて植えたものと伝えられ、樹齢190年と推定される。近江の唐崎の松は、松尾芭蕉(1644-94)の「辛崎( からさき )の松は花より朧(おぼろ)にて」という句でも有名だ。

   兼六園の名木のスターであっても、植物はいつかは枯れる。あるいは、台風で折れたり、雷が落ちれば名木の寿命は尽きる。跡地には次なる唐崎松が植えられることになる。兼六園の管理事務所の隣地に唐崎松の世継(よつぎ)がすでにスタンバイしている=写真・上=。事務所では後継木(こうけいぼく)と呼ぶ。幹の根の辺りがくねって、すでに名木の片鱗を感じさせる。この後継木は、かつて加賀藩主がそうしたように、大津市の唐崎の松の実生を植えたもの。「本家」の世継でもある。

   その横に、これも名木のスターである根上松(ねあがりのまつ)の世継が植えてある=写真・下=。根上松は三本の幹をむき出しの根っこが支え、樹齢は210年といわれる。盛り土を徐々に取り除き、カタチづくった松だ。世継の松はこれから盛り土が除かれ、根上松の様相を現すのだろう。

   兼六園と命名したのは、日本史に出て来る「寛政の改革」で有名な松平定信とされる。定信が中国・宋の詩人、李格非の書いた『洛陽名園記』(中国の名園を解説した書)の中に、名園の資格として宏大(こうだい)、幽邃(ゆうすい)、人力(じんりょく)、蒼古(そうこ)、水泉(すいせん)、眺望(ちょうぼう)の6つの景観を兼ね備えていることと記されていたのにヒントを得て「兼六園」と名付けたと伝えられる。

   兼六園の樹木は一代限りではない、何百年という歴史を考えて、未来の歴史を創らなければならない。それを創っていくのはまさに「人力」だ。今回歩いてそんなことを考えた。

⇒16日(木)夜・金沢の天気   あめ

☆カニ、雪吊り、紅葉 金沢の立冬の風景

☆カニ、雪吊り、紅葉 金沢の立冬の風景

   きょうは二十四節気の「立冬」にあたる。冬の気配が山や里だけでなく、街にも感じられるころだ。ただ、金沢は快晴で気温も昼過ぎには20度近くあった。それでも、金沢の街の景色は着実に冬に向かっている。

   きのう(6日)冬の味覚、ズワイガニの漁が解禁された。けさの地元紙の朝刊一面を飾っていたのが「最高級の加能ガニ初物 『輝』1号 500万円」(北國新聞)や「加能ガニ 最高級ブランド デビュー 金沢の初競り、ギネス記録並ぶ」と派手な見出しだ。それぞれに写真も大きく掲載されている。オスのズワイガニは鳥取では「松葉ガニ」、福井では「越前ガニ」、石川では「加能ガニ」と称され、地域ブランドのシンボルにもなっている。ただ、石川の加能ガニの知名度はいま一つ。そこで県漁業協同組合では重さ1.5㌔以上、甲羅の幅14.5㌢以上、甲羅が硬く身が詰まっているものをことしから最高級品「輝(かがやき)」として認定することで全体の底上げを狙っている。その「輝」の第一号が昨夜の初競りで500万円の値がついた。記事によると、重さ1.88㌔、甲羅の幅15.6㌢だった。

   ちなみに、松葉ガニの最高級ブランド「五輝星(いつきぼし)」は2019年に500万円で落札され、ギネスの世界記録にも認定されている。上記の「ギネス記録並ぶ」の意味はそれと同額で並んだとの意味だ。きょう午後、金沢市民の台所、近江町市場に行ってきた。店頭に並ぶカニは庶民の食卓に上るものだ。それでも、1匹7万5000円の値札のものが数匹並んでいた=写真・上=。店員が「輝の一歩手前のヤツですがどうですか」と声をかけきた。よく見ると、値札には重さが1.4㌔、甲羅の幅14.5㌢と書かれている。甲羅の幅はセーフだが、体重が100㌘足りないため、「輝」の認定には漏れたようだ。それでも1匹7万5000円は庶民にとっては高根の花だ。県内のズワイガニの漁期は、メスの香箱ガニが12月29日まで、オスの加能ガニは来年3月20日まで。いまは「ご祝儀相場」もあるだろうから、もう少し値段が落ち着いてから買い求めることにした。

   近江町市場からの帰りに兼六園近くを車で通った。コロナ禍も収まりつつあり、日曜日ということで観光客でかなりのにぎわいだった。とくに、金沢21世紀美術館と交差点の対角線上に位置する真弓坂口は混雑していた。入り口の左右のマツの木に雪吊りが施されている=写真・中=。

   金沢の雪はさらさら感のパウダースノーではなく、湿っていて重い。このため、庭木に雪が積もると「雪圧」「雪倒」「雪折れ」「雪曲」といった雪害が起きる。金沢の庭師は樹木の姿を見て、「雪吊り」「雪棚」「雪囲い」の雪害対策の判断をする。この季節にテレビのニュースで放映される雪吊りは「りんご吊り」という作業だ。五葉松などの高木に施される。松の幹の横にモウソウチクの柱を立てて、柱の先頭から縄を17本たらして枝を吊る。パラソル状になっているところが、アートでもある。兼六園の800ヵ所で雪吊りが施される。

   ついでに、兼六園近くの紅葉の名所も走行した。金沢市役所近くにある「しいのき迎賓館」(旧県庁)と「四高記念館」に挟まれた通りで、「アメリカ楓(ふう)通り」と呼ばれている=写真・下=。紅葉が青空に映えてこの季節の人気スポットだ。樹木のアメリカ楓は別名で、正式には「モミジバフウ」。原産地がアメリカだったことからアメリカ楓と呼ばれている。空を見上げると赤と青のコントラスが目に映える。そして、下の道路を見ると落ち葉がたまっている。まもなく始まる道路の落ち葉かきがアメリカ楓通りの冬支度でもある。

⇒7日(日)夜・金沢の天気      はれ

☆カキツバタの「ため息」

☆カキツバタの「ため息」

   そろそろ金沢の兼六園のカキツバタが見ごろを迎える時節だ。毎年5月中ごろになると、カキツバタが咲く曲水の周囲=写真=には早朝から市民が三々五々訪れる。中には、かがんで耳に手をあて、じっと開花を眺めている人もいる。言い伝えだが、「カキツバタは夜明けに咲く。その時に、ポッとかすかな音がする」という。その花音を聞いたことがあるという人生の先輩が「美女のため息のよう」と自慢げに話していたので、自身もこれまで何度か早朝の兼六園で耳を傾けたことある。花咲く瞬間は見ることができたが、残念ながら「ため息」は聞いたことがない。ただ、「兼六園にカキツバタの花音を聞きに行く」、なんと風流な言葉か。その兼六園がしばらく閉鎖されるとのニュースが流れてきた。

   石川県の谷本知事はきのう(9日)新型コロナウイルスの対策本部会議を開き、これまでの石川独自の「非常事態宣言」をさらにレベルアップさせた「緊急事態宣言」(期間は今月31日まで)を発令した。県内ではGW明けから感染者が増え、8日に80人の感染者が出るなど直近1週間の新規感染者は306人となり、県のモニタリング指標でもっとも深刻なステージ4の基準(285人)を初めて超えた。県内の累計感染者は2869人、死者は85人に上る(石川県庁公式ホームページ)。

   緊急事態宣言の概要は、▽午後8時以降の外出自粛の呼びかけ、▽デパートや映画館、遊園地など85業種への営業時間の短縮を依頼、▽金沢市の飲食店では酒類の提供は午後7時、営業は同8時、▽兼六園、いしかわ動物園、のとじま水族館などの県有施設は閉園・閉館、▽時差出勤や自転車通勤の推進、午後8時以降の勤務の抑制やテレワークの促進、など人の流れを抑える対策だ。

   兼六園が今月31日まで閉鎖となると、カキツバタの観賞は6月までお預けとなる。感染拡大が止まらなければ、6月も緊急事態が延長となる可能性だってある。ワクチンが行き渡るまで、この緊急事態の繰り返しだろう。そのワクチンも金沢市では65歳以上の接種の予約受付が6日に始まっているが、きょうコールセンターに10回電話しても、いっこうに繋がらない。まるで見捨てられたような心境だ。

   「捨てられて   また咲く花や   かきつばた」(正岡子規)。人の心は花の色のように移ろいやすく、見飽きたカキツバタを捨てる人もいる。それをそっと拾って愛でる人もいて、カキツバタは人々の心に咲き続ける、という意味だろうか。なんともうらやましい花だ。 

⇒10日(月)午後・金沢の天気    くもり   

★満開の桜 兼六園に何思う

★満開の桜 兼六園に何思う

   金沢の兼六園は日本三名園の一つと言われ、国の特別名勝に指定されている。毎年この桜の時期に入園料を無料にしていて、今年もきのう27日から無料開放(4月2日まで)が始まった。きょう正午ごろ、兼六園へ満開のソメイヨシノを見学に行ってきた。時折小雨が降る、どんよりとした天気だったが、金沢城をバックに満開の桜は光彩を放っていた=写真・上=。

   兼六園の桜はソメイヨシノだけではない。桜だけでも20種410本に及ぶ。一重桜、八重桜、菊桜と花弁の数によって分けられている桜だ。中でも「国宝級」は曲水の千歳橋近くにある兼六園菊桜(けんろくえんきくざくら)だ=写真・下=。学名にもなっている。兼六園菊桜の見事さは、花弁が300枚にもなる生命力、咲き始めから散るまでに3度色を変える華やかさ、そして花が柄ごと散る潔さである。兼六園の桜の季節を200本のソメイヨシノが一気に盛り上げ、兼六園菊桜が晩春を締めくくる。桜にも役どころというものがある。

   上記で述べた「国宝級」というのも、兼六園菊桜はかつて国の天然記念物に指定されていた。その初代の兼六園菊桜(樹齢250年)は1970年に枯れ、現在あるのは接ぎ木によって生まれた二代目だ。実は兼六園では「名木を守る」ため、台風で名木が折れた場合に備え、次世代の子孫がスタンバイしている。

   これは兼六園管理事務所の関係者から聞いた話だが、子孫とは、たとえば種子からとることもあるが、名木のもともとの産地から姿の似た名木をもってくる場合もある。たとえば、兼六園きっての名木である唐崎松。これは、滋賀県大津市の「唐崎の松」から由来する。歌川広重(安藤広重)が浮世絵『近江八景之内 唐崎夜雨』に描いた名木である。近江の唐崎松は2代目だが、第13代加賀藩主・前田斉泰(在位1822-1866)が近江から種子を取り寄せて植えたのが現在の兼六園の唐崎松だ。

   二代目の兼六園菊桜は桜の園を守る主役ではある。あと100年もすれば国の天然記念物に指定されるだろう。兼六園で桜を眺めながら四季の移ろいを感じ、曲水の流れや、玉砂利の感触を楽しんだ。人が変り、時代が変わっても、兼六園は変わらない。五感を満たす時空と空間、壮大な芸術作品、それが兼六園だ。

⇒28日(日)午後・金沢の天気     くもり時々あめ

☆金沢悲喜こもごも、兼六園の間近で火の手

☆金沢悲喜こもごも、兼六園の間近で火の手

   金沢に住む一人としてうれしいニュースがあった。民間のシンクタンク「森記念財団都市戦略研究所」がまとめた政令指定都市など109の都市と東京23区を対象にした都市ランキングで、金沢市が前年より順位を一つ上げ8位となり、今年もトップ10にランクインした。金沢は「文化・交流」分野でイベントの開催数などの「ソフト資源」が高く評価され、また、「研究・開発」分野で金沢大学などの研究拠点の論文数なども評価さた(9月21日付・NHKニュースWeb版)。ちなみに、ランキングの1位は京都市、以下、大阪市、福岡市、横浜市、名古屋市、神戸市、仙台市と続く。大学が都市ランキングに寄与できたことはうれしい。

   一方で残念なニュースもあった。きのう21日午前中、兼六園と金沢城近くの道路を自家用車で通ると、車も人もとても多かった。連休中とあってマイカーでの観光客が多かった。そして、午後3時ごろ、消防車のサイレンがけたたましく鳴った。その時、大学の研修に参加していた。休憩時間だったので、スマホをチェックすると、「兼六園近くで火災」と。兼六園と大学は直線距離にして4㌔余りなのでサイレンがよく聞こえた。

   火災の現場は兼六園の桂坂近くの飲食店だった。金沢城に向き合った、いわば兼六園の正面入り口近くだ。午前中の観光のにぎわいを見ていたので、市民よりむしろ観光客が騒然となったことは想像に難くなかった。夕方のテレビを見ると、兼六園には直接的な被害はなかったが、園内に煙が立ち込め、逃げ惑う観光客が多く見られた。テレビ局のインタビューに「黒煙がどんどん押し寄せてきて恐ろしかったです」と、男性の観光客は汗をぬぐっていたシーンが印象的だった。

   政府の観光支援事業「Go To トラベル」がこのところ順調なだけに、今回の火災は金沢観光に水を差さしたのはないかと懸念している。「Go To トラベル」は1人1泊当たり1万4千円が上限の割引額があり、加賀温泉(山代、山中、片山津、粟津)や能登の和倉温泉の高級旅館がにぎわいを見せている。宿泊客の観光ルートが金沢であり、兼六園だ。また、来月からは東京発の「Go To トラベル」も解禁となるため、観光客は今後増えるだろう。

   今回の火災が全国ニュースとなっただけに、兼六園が敬遠されるのではないだろうかと案ずる。直接的な被害はなかったにせよ、多くの人は「兼六園火災」とイメージしているだろう。4連休最終日のきょうも通常通り開園している。

⇒22日(祝)午前・金沢の天気    くもり時々はれ