#中国

☆静かなる年末年始(3)「略奪の方程式」

☆静かなる年末年始(3)「略奪の方程式」

   それにしても不思議だ。映画『劇場版 鬼滅の刃』の大ヒットで興行収入が歴代2位などとメディア各社が報じているが、これと新型コロナウイルスの関連性を取り上げているメディアを見たことがない。20代の感染がまん延しているのに、「上映を禁止すべき」といった論調が見当たらないのはなぜだろう。素朴な疑問だ。

   このブログで何度も中国漁船による日本海のEEZ(排他的経済水域)の大和堆での違法操業によるスルメイカの乱獲問題を取り上げてきた。その数量は、国立研究開発法人水産研究・教育機構によると、中国漁船が15万㌧を漁獲していると推計している。これは、日本漁船による昨年度の漁獲量の10倍以上に当たる(10月15日付・日刊水産経済新聞Web版)。中国側の漁船団は、漁業権は北朝鮮から購入したもので、その中には大和堆も含まれていると北朝鮮の主張をタテに取り、違法操業を続けるだろう。これが中国による、スルメイカの「略奪」の方程式ではないだろうか。

   中国に「略奪」される資源はこれだけではない。大手繊維メーカー「東レ」の子会社が中国に輸出していた炭素繊維が、長年にわたって許可なく中国国内のほかの企業に流出していたことがわかり、経済産業省は外国為替法に基づいて警告し、再発防止と輸出管理の徹底を求めた。炭素繊維は鉄よりも軽くて丈夫で、航空機や自動車などに幅広く使われていて、高性能な製品は軍事転用も可能なため輸出の際には国の許可を取り輸出先や使いみちを厳しく管理する必要がある。経済産業省は、東レの子会社に対して行政指導の中で最も重い警告を行い、再発防止と輸出管理の徹底を求めた(12月22日付・NHKニュースWeb版)。

   そして、日本の領土も「略奪」のターゲットだ。11月24日、来日した中国の王毅外相、茂木敏充外務大臣の共同記者会見=写真、外務省公式ホームページ=で、茂木氏は「尖閣周辺の日本の立場を説明し、中国側の前向きな行動を強く求めた」と話したのに対し、王氏は「ここで一つの事実を紹介したい。真相が分かっていない一部の日本の漁船が絶え間なく釣魚島の水域に入っている。中国側としてはやむを得ず非常的な反応をしなければならない。敏感な水域における事態を複雑化させる行動は避けるべき」と。つまり、尖閣周辺の主権を侵害しているのは日本側だと堂々と会見で述べたのだ。   

   中国は南シナ海の南沙諸島で「九段線」と称して広大な海域の領有権を主張し、人工島の建設を進めその主張を既成事実化しようとしている。王氏の発言は、同じ論法を今度は尖閣諸島で展開する布石だろう。日米安保条約第5条(アメリカの対日防衛義務)の尖閣諸島への適用をにらんで、「漁業基地化」するというのが中国側のシナリオではないだろうか。

   日本の首都・東京で堂々と尖閣の領有権を主張したのだから、中国側としては粛々と次なる一手を打つだけだ。日本は新型コロナウイルスと東京オリ・パラの対応に追われている。今が先手を打つチャンスと読んでいるのだろう。

⇒26日(土)朝・金沢の天気    あめ

★荒れる日本海、違法操業の「主役交代」

★荒れる日本海、違法操業の「主役交代」

   まもなく冬将軍が到来する季節。海も荒れると必ずニュースになっていた日本海沿岸への北朝鮮からの漂着船の記事を今季はまだ見ていない。今年は何かが起きているのか。上の写真は2018年1月16日に金沢市下安原町の海岸に打ち上げられた北の木造船だ。この目で確かめようと、現場に赴いたのは同17日午前。現場は防風林を抜けて100㍍ほど歩くと砂浜が広がり、警察の捜査で青いビニールシートが覆いかぶさっていたので、現物と分かった。

   全長16㍍、幅3㍍ほど。このような小さな船で日本海のイカの好漁場である大和堆(日本のEEZ内)に繰り出し、違法操業をしてたのか。船内をのぞくことができた。ハングル文字で書かれた菓子袋などが散乱し、迷彩服もあった。ひょっとして軍人が乗っていたのではないかと勘ぐった。警察発表によると、この船の中から7人の遺体が見つかり、さらに漂着船から15㍍ほど離れたところにさらに1人の遺体があった。もし、同じ乗組員なら計8人となる。冬の日本海は荒れやすい。命がけで、なぜそこまでして漁に固執する必要があったのだろうか。上からの命令だったのか、など当時は思った。

   今季はどうか。第九管区海上保安本部の公式ホームページをチェックしても、北の漂着船はゼロだ。なぜ今年は木造船が漂着しないのか。単純な話で、能登半島沖のEEZ(排他的経済水域)で違法操業を行っているのは北朝鮮の漁船ではなく、中国の漁船なのだ。海上保安庁が監視活動を継続しているが、ことしに入り11月4日時点で、延べ4137隻の中国漁船に退去勧告を発している(11月5日付・NHKニュースWeb版)。

   10月6日付のこのブログでも取り上げたが、日本海のスルメイカの漁場、大和堆周辺で大量の中国漁船が違法操業を行っている=写真・下=。去年までは北の漁船による違法操業(2019年の警告数4007隻)が圧倒的に多かったが、今年は中国漁船の違法操業が去年より倍増している。

   中国は北朝鮮海域での制裁決議違反が問題視されているにも関わらず、北朝鮮の漁業海域での漁業権を購入し、中国の遠洋漁船全体の3分の1にも相当すると見られる大量の船団を送り込んで漁業資源を漁っている。北朝鮮の漁業海域で漁業資源をほぼ取り尽くし、次に狙ってきたのが日本海のEEZというわけだ。中国の漁船は北の小型と違って大型の鋼船で、釣りではなく、底引き網で漁獲する。そして、北朝鮮から漁業権を買って同国のEEZで操業していると称して、日本のEEZで違法操業をしている(11月24日付・時事通信Web版)。

   違法操業の主役が交代し、これから何が起きるのか。水産庁が大和堆西部の特定の海域に入るのを当面、自粛するようイカ釣り漁船側に要請して、「日本のEEZなのになぜだ」と漁業者の反発を買った(10月20日付・朝日新聞Web版)。日本海の荒波が激しくなってきた。

⇒9日(水)夜・金沢の天気   くもり 

☆勇気ある発言

☆勇気ある発言

           これは実に勇気のある発言だと感じ入った。ロイター通信Web版日本語(11月27日付)によると、WHOで緊急事態対応を統括するマイケル・ライアン氏が、新型コロナウイルスの起源が中国「外」とする主張について、かなりの憶測だという見方を示した。 中国は国営メディアを使って「コロナの起源が中国」との見方を否定する情報の拡散を続けている。

   さっそくWHO公式ホームページをチェックすると、27日の記者会見の動画が掲載されている。30分過ぎごろからのオンラインによる記者の質問で、「中国は、ウイルスは去年暮れに武漢の海鮮市場で確認されたが、それ以前に海外に存在していたと主張しているが、WHOの見解を述べてほしい」(意訳)と。これに対し、ライアン氏は「コロナウイルスが中国で発生しなかったとの主張はかなりの憶測で、公衆衛生の観点から、ヒトの感染が確認された場所から調査を始めるべきことは明白だ」(意訳)と述べ、WHOとしてウイルスの起源を調べるため、専門家らを武漢の食品市場に派遣する方針だと述べた。

   パンデミック以降、WHOの記者会見をたまにチェックしているが、ライアン氏は3月18日の会見では、アメリカのトランプ大統領が新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼んでいることについて、「ウイルスを特定の国に関連させないよう言葉遣いに注意することが重要だ」と批判した。当時は中国寄りの発言との印象だったが、今になって考えれば、実に的を得た回答ではある。科学的な論拠を経ずに、政治が外交プロパガンダとしてウイルスを使うことに違和感を隠さない、そのような人柄を感じる。

   ただ、余計な心配かもしれないが、かなり「外圧」が今後、ライアン氏にかかるのではないだろうか。中国からだ。そもそも、WHOと中国の関係性が疑われたのは今年1月23日だった。中国の春節の大移動で日本を含めフランスやオーストラリアなど各国で感染者が出ていたにもかかわらず、この日のWHO会合で「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」宣言を時期尚早と見送った。同月30日になってようやく緊急事態宣言を出したが、テドロス事務局長は「宣言する主な理由は、中国での発生ではなく、他の国々で発生していることだ」と述べていた(1月31日付・BBCニュースWeb版日本語)。

   さらにWHOが中国寄りの姿勢を露わにしたのは今回の年次総会だった。WHOに加盟していない台湾がオブザーバーとしての参加を目指し、中南米の国も参加を求める提案をしていたが、総会の議長は非公開での協議で提案の議論は行わなかった。このため、台湾のオブザーバー参加は認められなかった。台湾の参加はアメリカや日本などが支持した一方で、中国は強硬に反対していた(11月10日付・NHKニュースWeb版)。テドロス氏を通じた、中国からのライアン氏への圧力は心配ないのか。

⇒30日(月)午後・金沢の天気   はれ時々くもり 

★「尖閣」をめぐる次なる狙い

★「尖閣」をめぐる次なる狙い

   きのう24日、来日した中国の王毅外相、茂木敏充外務大臣の共同記者会見の様子をテレビで見ていて、多くの視聴者は「日本はなめられたものだ」と憤ったのではないだろうか。茂木氏は「尖閣周辺の日本の立場を説明し、中国側の前向きな行動を強く求めた」と話したのに対し、王氏は「ここで一つの事実を紹介したい。真相が分かっていない一部の日本の漁船が絶え間なく釣魚島の水域に入っている。中国側としてはやむを得ず非常的な反応をしなければならない。敏感な水域における事態を複雑化させる行動は避けるべき」と。つまり、尖閣周辺の主権を侵害しているのは日本側だと、堂々と会見で述べていた。

   王氏の来日の目的はこれだと察した。当初は、中国の人権問題をめぐって日本は「日米豪印戦略対話(QUAD)」を推進する立場でもあり、それを切り崩すための来日が目的かと推測した。ではなく、「尖閣をめぐる宣戦布告」が目的だったと、この発言で直感した。では、次に中国が打ってくる戦術はなんだろう、と考える。日本の漁民によって中国の主権が侵害されているとの論法なので、おそらく中国側は尖閣に漁民を住まわせるための住居地をつくる。そして、通信機器や沿岸の整備を行い漁業の基地化を進めて既成事実化していくのではないだろうか。

   中国は南シナ海の南沙諸島で「九段線」と称して広大な海域の領有権を主張し、人工島の建設を進めその主張を既成事実化しようとしている。同じ論法を今度は尖閣諸島で展開する布石ではないだろうか。ただし、軍事基地にすると、アメリカを刺激するので漁業基地化だ。菅総理は今月12日、バイデン次期大統領との電話会談で、「バイデン次期大統領からは、日米安保条約第5条(アメリカの対日防衛義務)の尖閣諸島への適用についてコミットメントをする旨の表明があった」と述べていた。日米安保条約第5条をにらんで漁業基地化するというのが中国側のシナリオではないだろうか。

   日本の首都で堂々と尖閣の領有権を主張したのだから。あとは粛々と次なる一手を打つだけだ。日本は新型コロナウイルスと東京オリ・パラの対応に追われている。そのうち大震災も発生するだろう、今が先手を打つチャンスと読んでいるのだろう。実にしたたかな、日本をなめた外交ではある。

   外務省公式ホームページに掲載されている内閣官房領土・主権対策企画調整室の資料=写真=によると、1919(大正8)年冬、中国・福建省の漁船が尖閣沖で遭難して魚釣島に漂着した。その際、尖閣に住んでいた日本人の住民は中国漁民を救護した。当時の中華民国駐長崎領事は翌1920年5月に感謝状を贈ったが、そこには「日本帝国沖縄県八重山郡尖閣列島」と記されている。100年前の史実である。

⇒25日(水)夜・金沢の天気    くもり

★数字の裏読み、深読み、独り歩き

★数字の裏読み、深読み、独り歩き

    数字には納得できるものと納得できないものがある。さらに納得できたとしても、「さらに裏の潜むもっと大きな数字もあるだろう」と思わせるものもある。日本と中国の相互意識を探る第16回日中共同世論調査(実施=言論NPO、中国国際出版集団)の結果だった。17日付のNHKニュースWeb版の記事を引用しながら数字を読んでみる。

    調査は9月と10月に18歳以上を対象に行われ、日本は全国で1000人、中国は北京や上海など10都市で1571人からの回答をもとにしている。記事によると、中国に「良くない」という印象を持つ日本人は前回に比べ5ポイント増の89.7%に上った。その理由として、中国公船などによる「尖閣諸島周辺の日本領海や領空の侵犯」が同6ポイント増の57.4%で最も多く、以下、「国際的なルールと異なる行動」49.2%、「南シナ海などで行動が強引・違和感」47.3%で、中国による一方的な海洋活動が対中感情を悪化させている。設問はメディアで報道される内容に沿っている。

   一方、中国人で日本に対する印象が「良くない」と答えたのは52.9%で前回と横ばいだった。「良くない」理由は、「侵略の歴史 きちんと謝罪・反省せず」74.1%、「魚釣島・周辺諸島『国有化』で対立」53.3%、「米国と連携し包囲しようとしている」19.7%となっている。良くない印象の理由の設問はおそらく中国側が独自に作成したものだろう。その設問の内容は国内での反日教育をベ-スにしたものや、2012年9月に日本が尖閣諸島を国有化したこと、経済圏構想「一帯一路」のシーレーンをめぐる動きなど、いわゆる国策をベースにしたものだ。

   以下は深読み、裏読み、憶測である。「89.7%」をどう読むか。率直に中国で独り歩きをする危険な数字ではないだろうか。その大前提には中国人と日本人ではまったく情報は共有されないという事情がある。たとえば、日本人が「良くない」とする一番の理由である中国公船の尖閣周辺での航行について、日本で大きな問題となっていることは中国では報じられていないだろう。つまり、なぜ「良くない」のか理解されない。

   今回のアンケート調査の数字は中国でどのように報じられるのだろうか。憶測だが、「中国嫌いの日本人は89.7%」「日本嫌いの中国人は52.9%」の表現だろか。すると、「なぜ中国嫌いの日本人が多いのだ」と、今度は数字が独り歩きをして、逆に中国での反日感情を煽る可能性も出てくる。あるいは、数字は政治的に利用されることもあるだろう。

   折しも、「自由で開かれたインド太平洋」のもと日本、アメリカ、インド、オーストラリアの4ヵ国の海軍と海上自衛隊がインド近海での共同訓練を行っている。中国とすれば、格好の「口撃」材料だろう。「中国嫌いの日本人89.7%が敵に回っている」とプロバガンダにされる、かもしれない。

⇒18日(水)朝・金沢の天気     はれ

☆世界の研究者を誘惑する中国「千人計画」

☆世界の研究者を誘惑する中国「千人計画」

   このところ気になるニュースのキーワードの一つが「千人計画」だ。ことし7月にアメリカ政府は、テキサス州ヒューストンにある中国総領事館について、中国が科学技術の先端情報を違法に収集するための拠点だったとして閉鎖措置に踏み切った。ビッグニュースとなったが、そのときに知った言葉が「千人計画」だった。

   中国の「千人計画」は、世界レベルの理工系人材1000人を高待遇で国外から引き抜き、中国の経済発展に貢献させるのが狙いとされる。2008年から中国が肝入りで行っている研究人材の囲い込みプロジェクトで、外国人を対象とした計画のほか国外で研究成果を上げている中国人を呼び戻す取り組みでもある。ただ、アメリカ政府は、このプロジェクトに関わった研究者が「経済スパイ」の役割も担わされ、中国に軍事や科学技術が盗み取られているとにらんでいる。

   その典型的な事例が、ことし2月に摘発されたハーバード大学の教授のケースだった。「China’s Lavish Funds Lured U.S. Scientists. What Did It Get in Return?」。ニューヨーク・タイムズWeb版(2月6日付)=写真=で詳細な経緯が記されている。教授はハーバード大学化学・化学生物学部のチャールズ・リーバー氏で、ナノサイエンス・ナノテクノロジーの分野で世界最先端の研究を行っている化学者だ。

   記事を要約すると、教授は中国政府からの学術・研究協力の名目で多額の研究資金などを受け取っていたことを報告していなかったとして、アメリカ司法省は1月下旬、リーバー教授を「重大な虚偽、架空請求、詐欺」の容疑で訴追(逮捕は2019年12月10日、その後、21種類の生物学的研究を中国に密輸しようとした罪で起訴)していた。記事から、その厚遇ぶりがうかがえる。教授は中国の武漢理工大学の「戦略科学者」として2011-16年までの雇用契約を結び、5年間で毎月5万㌦(540万円)の研究費と年間15万㌦(1620万円)の生活費を支給されていた。さらに、教授には「武漢理工大・ハーバード大共同ナノテクノロジー研究所」の設立費として150万㌦(1億6200万円)の資金も提供されていた。この魅力的な研究資金による囲い込みが「千人計画」だ。

   アメリカ司法省は、リーバー教授が中国側と契約を結んでいた時期と、アメリカ国防総省と国立衛生研究所から研究資金を受け取っていた期間が重なっていたことを問題視した。教授が中国と、アメリカ国防総省と国立衛生研究所からダブルで研究資金を受け取っていたころ、武漢理工大学に出向いていたのだ。教授はアメリカ国防総省と国立衛生研究所からの受託でどのような研究をしていたのか、記事では詳細は記されていない。単純に、生物化学兵器を連想させる、のだが。そして、研究と言うより、アメリカ国防総省での生物学的研究の成果・情報を中国に持ち込ませることが、中国側の狙いだったのか。さらに気になるのは、リーバー教授の生物学的研究の中国への持ち込みが、武漢でのコロナウイルスの感染拡大とどう関連があるのか、だ。

         アメリカの捜査当局はアメリカの71機関で、中国当局によって180件もの知的財産権が盗用された疑いがあるとして捜査を行っている。

⇒23日(金)朝・金沢の天気   あめ

★「死なばもろとも」中国の不動産バブル

★「死なばもろとも」中国の不動産バブル

   中国のマンションの建設ラッシュはすさまじいと実感したことがある。世界農業遺産(GIAHS)の国際ワークショップで中国を訪れた2012年8月のことだった。降り立った上海市や会議が開かれた浙江省紹興市などは高層マンションが立ち並んでいた。見学ツアーで同省青田県の山あいの村でもマンション建設が進んでいて、新築マンションの看板がやたらと目についた=写真=。

   移動のバスの中で、中国人の女性ガイドに尋ねた。「なぜ山あいでマンションが建っているんですか」と。すると笑顔で答えてくれた。「日本でも結婚の3高があるように、中国でも女性の結婚条件があります」と。それによると、1つにマンション、2つに乗用車、そして3つ目が礼金、だとか。マンションは1平方㍍当たり1万元が相場という。1元は当時のレートで12円だったので円換算で12万円となる。1戸88平方㍍のマンションが人気というから1056万円だ。それに乗用車、そして礼金。礼金もランクがあって、基本的にめでたい「8」の数字。つまり、8万元、18万元、88万元となる。この3つの「高」をそろえるとなると大変だ。

   当時もマンションは投資対象になっていたが、ガイド嬢の話を聞いて、結婚の条件としてのマンション需要となるとさらにすそ野は広がると納得した。その中国のマンションの「不動産バブル」、最近異変が起きているようだ。

   中国の不動産大手「中国恒大集団」は今月7日から1ヵ月間、すべての不動産物件を30%値引きする方針を示し、ニュースになった。同社は同業他社との比較で多額の負債を抱えており、負債比率の削減を目指している(9月7日付・ロイター通信Web版日本語)。このニュースでいよいよ中国の不動産バブルは崩壊かとの印象も抱いた。そして、今月25日のニュース。中国恒大集団がデフォルト(債務不履行)の可能性について中国当局に警告した。同社が求める深圳上場を当局が認めなければ、中国の50兆㌦(5274兆円)規模の金融システムが動揺する恐れがあるとしている。中国恒大は広東省政府に宛てた8月24日付書簡で、資金不足を回避し、上場を確実にするために必要な再編案への支持を求めた。この書簡をブルームバーグは確認した(9月25日付・ブルームバーグWeb版日本語)。

   証券取引所に上場できなければ、破産するぞと脅しているとの印象だ。さらに、50兆㌦規模の中国の金融システムを揺るがすぞ、と。「死なばもろとも」だと。

   中国政府は2008年のリーマンショック後に、やみくもに成長を追い求めずに安定をめざす「新常態(ニューノーマル)」経営を企業に求めているが、常に投資が先行する不動産の場合は簡単ではないだろう。「3高」の結婚の条件が今でも変わっていなければ、買いのチャンスかもしれないが。

⇒28日(月)午前・金沢の天気    はれ時々くもり

☆2020秋の胸騒ぎ~中

☆2020秋の胸騒ぎ~中

   このブログでは日本海のEEZ(排他的経済水域)内の大和堆での北朝鮮の違法操業について述べてきた。そのつど、海上保安庁の公式ホームページをチェックしているが、尖閣諸島における中国公船の動向に関しても詳細な報告がされていて目を引く。

    食料危機が加速させる中国漁船の領海漁り

   中国が尖閣諸島の領有権を主張したのは1971年と言われる。1968年に尖閣諸島での海底調査で、石油や天然ガスなどの地下資の可能性が確認されて以降のことである。領土問題ではなく、「資源問題」の側面もある。2012年9月に日本が尖閣諸島を国有化してから年々中国公船の絡みが激しくなっている。

   尖閣諸島をめぐるもう一つの資源が漁業資源である。カツオやマグロなどが獲れ、島ではカツオ節の生産も行われていた。中国が領有権を主張してから、中国漁船も押し寄せてくるようになった。2010年9月7日に海上保安庁の巡視船2隻が、退去命令を無視して違法操業を続けていた中国漁船に体当たりされるという衝突事件があった。この問題はさらに中国から日本へのレアメタルの輸出制限へと通商問題へと展開した。2016年8月には、200隻余りの中国漁船が接続水域で操業して、漁船と中国海警局の船が領海に繰り返し侵入するなど、周辺での中国漁船の漁は続いている。ことし5月には、尖閣諸島周辺の領海で操業していた日本漁船を中国海警局の船が追い回すという事件があった。

   この秋に大量の中国漁船が再び尖閣周辺に来るかもしれないという胸騒ぎがしている。それは、中国で顕在化しつつある食料危機だ。習近平国家主席が「飲食の浪費を断固阻止する」との指示を出し、新型コロナウイルス感染の世界的まん延は「警鐘」だと指摘し食料問題に危機意識を持つよう訴えた(8月20日付・共同通信Web版)。中国における食料問題は6月以降、中国各地で断続的に豪雨災害が続いていて、水田などの耕作地が冠水被害が広がっている。習氏は今月18-19日に安徽省の被災地を視察している(同)。習氏が「飲食の浪費を断固阻止する」の指示を出すほど、危機感がひっ迫しているとも受け取れる。

   陸で打撃を受けて想定されるのは、タンパク源を確保するための水産資源の確保ではないだろうか。すでに、中国は北朝鮮海域での制裁決議違反が問題視されているにも関わらず、北朝鮮の漁業海域での漁業権を購入し、中国の遠洋漁船全体の3分の1にも相当すると見られる大量の船団を送り込んで漁業資源を漁っている(7月27日付・ブログ「北の漂着船、グローバル問題に」)。北朝鮮の漁業海域が枯渇すれば、次に中国漁船が船団を組んで漁りにくるのは、おそらく尖閣諸島周辺や日本海のEEZだろう。

   すでに、中国政府は「日本の海上保安庁は(尖閣周辺で)1隻の日本漁船すら航行するのを止められなかった」と批判。「数百隻もの中国漁船の(尖閣周辺での)航行を制止するよう(日本が)要求する資格はない」と領海侵入を予告している(8月2日付・産経新聞Web版)。もちろん、日本の領海やEEZだけでなく、中国が実効支配し、ベトナムやフィリピンが領有権を主張している南シナ海でも「漁業紛争」に及ぶかもしれない。

(※写真は、2010年9月7日に尖閣諸島海域で中国漁船が海上保安庁の巡視船が衝突する様子。海上保安官がユーチューブに映像を公開した)

⇒21日(金)午前・金沢の天気     はれ

☆大統領選を質すツイッター社の社会実験なのか

☆大統領選を質すツイッター社の社会実験なのか

   まさに前代未聞の展開になっている。今月27日付のブログで、BBCニュースWeb版(27日付)の記事「Twitter tags Trump tweet with fact-checking warning」(ツイッターがトランプ氏のツイートにファクトチェックの警告をタグ付け)を取り上げた。トランプ大統領の投稿のうち、26日付で11月の大統領選挙でカリフォルニア州知事が進める郵便投票が不正につながると主張した件で、ツイッター社は誤った情報や事実の裏付けのない主張と判断し、「Get the facts about mail-in ballots」とタグ付けした。大統領のツイートと言えども、事実関係が怪しいツイ-トはファクトチェックの警告をする、との同社の新たな方針だろう。

   これに対しトランプ氏は27日、SNSを規制もしくは閉鎖するとけん制した。ツイートで「共和党はソーシャルメディアプラットフォームが保守派の見解を全面的に封じ込めていると感じている。こうした状況が起こらぬよう、われわれはこれら企業を厳しく規制もしくは閉鎖する」「今すぐ行いを改めるべきだ」と述べた(27日付・ロイター通信Web版日本語)。 

   ツイッター社もひるんではいない。29日にトランプ氏のツイートを初めて非表示にした。ミネソタ州ミネアポリスで今月25日、アフリカ系アメリカ人の男性が警察官に首を押さえつけられて死亡する事件が起きた。騒動が広がり、トランプ氏は「略奪が始まれば(軍による)射撃も始まる」という部分が個人または集団に向けた暴力をほのめかす脅迫に当たるとツイッター社は判断した。ただ、削除ではなく、「表示」をクリックすれば読める。すかざす、トランプ氏はツイートで同社を牽制した=写真・上=。「“Regulate Twitter if they are going to start regulating free speech.”」(言論の自由を規制しようとしているなら、ツイッターを規制せよ)

   表現が適切ではないかもしれないが、大統領選に向けた論戦がそっちのけになり、トランプ氏のツイートをめぐる攻防に、有権者やSNSユーザーの関心が集まり始めている。どちらが正しいかという評価ではなく、どちらが勝つかというリング観戦の様相になってきた。

   トランプ氏は28日、SNSを規制する大統領令に署名した。連邦通信品位法(CDA)の第230 条ではプラットフォーマーがコンテンツ発行者として保護される一方で、コンテンツの「管理権限」を与えている。これが撤廃されると、ファクトチェックの警告などは法的な根拠を失い、訴訟が多発するのではないだろうか。一方のトランプ氏とすると、この戦いが大統領選のライバルである民主党のバイデン氏に票が流れ込むという事態になれば、ほとぼりが冷めるまではツイートは休止ということになるかもしれない。

   ツイッター社のファクトチェック方針は、ある意味で「きれいごと」ではある。というのも、大統領選が本格的に始まれば、対立候補を誹謗中傷するネガティブ・キャンペーンがヒートアップする。2016年の大統領選では、クリントン陣営は「トランプはKKK(白人至上主義団体クー・クラックス・クラン)と組んでいる」とキャンペーンを張り、トランプ陣営は「クリントンは錬金術師だ」と映画までつくり相手陣営を攻撃した=写真・下=。アメリカの選挙風土は​相手の落ち度を責める、まさにデスマッチではある。このデスマッチにはテレビメディアも参戦する。FOXテレビは共和党、CNNは民主党がその代表選手だろう。

   誹謗中傷合戦の選挙状況にファクトチェックは通用するのだろうか。もし、こうしたアメリカの大統領選の状況をなんとか改革したい、質したい、論戦で有権者に訴える本来の大統領選であって欲しいと、ツイッター社が壮大な社会実験に挑んだのであれば、それはそれで一目を置きたい。

⇒30日(土)夜・金沢の天気    くもり