#中国

★中秋の名月なれど チャイナリスクの暗雲

★中秋の名月なれど チャイナリスクの暗雲

   今夜は「中秋の名月」だ。天候が変りやすい北陸では名月を拝めないことが多い。なにしろ芭蕉の句がある。「名月や北国日和定なき」(『奥の細道』)。今夜は中秋の名月を期待していたけれど、あいにく雨で拝むことができなかった。福井・敦賀で詠んだ句とされる。しかし、今夜はすっきりと見ることができた=撮影:午後7時45分=。しかも、平成25年(2013)以来、8年ぶりの満月というから、まさに名月だ。  

   時代劇のドラマで中秋の名月のカットがよく使われる。大事件や裏切り、画策、謀反、旗揚げなど不吉な出来事の予兆のシーンとして、ウオーッという犬の鳴き声や風に揺れるススキの穂とともに名月が浮かんで出てくる、あのカットだ。きょうの名月もひょっとして。  

   連休明けのきょう21日の日経平均株価は取り引き開始直後からほぼ全面安。終値は先週末より660円安い2万9839円だった。終値が3万円を割り込むのは9月7日以来だ。そして、日本だけでなくアメリカ株も全面安となるなど、世界同時株安の様相だ。その原因と報じられているのが「チャイナリスク」。中国の不動産大手「中国恒大集団」の経営悪化が原因と言われる。日本円で33兆円におよぶ巨額の負債を抱えているとされ、中国経済全体や金融システムに影響を及ぼすのではないかとの懸念が強まっている。

   その予兆は昨年から顕著になっていた。恒大集団は負債比率の削減を目指しすべての不動産物件を30%値引きすると発表(2020年9月7日付・ロイター通信Web版日本語)、このころから危機説が浮上した。もともと、中国当局が不動産価格の過度な高騰を警戒し、市場を引き締めたことが資金繰りが悪化した原因の一つとみられている。そして、本格的にデフォルト(債務不履行)となれば、リーマン・ショック級の信用崩壊が発生し、不動産資産が下落するだろう。不動産を担保にしてビジネスをしている人たちが金融機関の強引な貸しはがしに合うケースも増えるだろう。こうなると、資金繰りが全体に悪化し、不況へと突入する。

   では、中国政府による恒大集団の救済はあるだろうか。習近平政権は「共同富裕」を掲げ、貧富の格差解消を進めている。ある意味で不動産バブルを煽ってきたとも言える恒大集団に助け舟を出せば人民の反発を招くことになるかもしれない。

⇒21日(火)夜・金沢の天気      はれ

☆アフガン政変で見えたアメリカのドライなリセット

☆アフガン政変で見えたアメリカのドライなリセット

   アフガニスタンにおける政変で、クローズアップされているのが「自主防衛」という言葉ではないだろうか。アメリカにとって、アフガンは「保護国」であって同盟国ではない。なので、アメリカはトランプ政権下の2020年2月、タリバンとの和平交渉で「アメリカは駐留軍撤退」「タリバンは武力行使を縮小」で合意。そして、バイデン大統領は今年4月に同時多発テロ事件から20年の節目にあたる「9月11日」まで完全撤退すると表明していた(4月14日付・BBCニュースWeb版日本語)。

   では、タリバンが一方的に合意を破って首都カブールに進攻したのであれば、アメリカは駐留軍撤退の合意を破棄すべきではないか、との世界の論調も高まるだろう。現に、アメリカ世論は揺れている。ロイター通信はタリバンが首都カブールを制圧した後の16日に実施した世論調査を17日に公表した。バイデン大統領への支持率は46%で、先週の53%から7ポイント低下し、1月の就任後で最低を記録した(8月18日付・時事通信Web版)。一方で、アメリカのイプソス社が16日に行った世論調査では、アフガン駐留軍の完全撤収の判断には、61%が支持すると回答した。野党・共和党支持者に限っても支持(48%)が不支持(39%)を上回った(同・読売新聞Web版)。

   アメリカの世論がこれほど動くのも、歴代政権が支援してきたアフガンの民主政権を守れなかったのではないかとの国民の評価が分かれ、一方で、アメリカ軍と協力するはずの民主政権の「自主防衛」の有り様が問われた。このニュースは世界中に流れた。ロシア通信は16日、アフガンのガニ大統領が、車4台とヘリコプターに現金を詰め込んで同国を脱出したと伝えた。在アフガニスタンのロシア大使館広報官の話としている(同・共同通信Web版)。多額の現金に関してはフェイクニュースとの見方があるものの、軍の総司令官でもある大統領が抵抗勢力と戦わずして高跳びしたことは事実である。言うならば「無血開城」。これでは、アメリカ軍も手出しようがない。

   このアフガンの事態を見て、緊張しているのは台湾だろう。アメリカと台湾は1954年に「相互防衛条約」を締結し強固な同盟関係を結んだ。しかし、1979年のアメリカと中国の国交樹立を機に翌年1980年に条約は失効し、アメリカ軍の司令部や駐留軍は台湾から撤退した。ただ、アメリカは中国との軍事バランスの見地から、1979年にアメリカの国内法である「台湾関係法」を制定し、有事の際は日本やフィリピンのアメリカ軍基地からの軍隊の派遣を定めている。その代わりに台湾はアメリカから武器を購入するという、「柔らかな同盟」だ。

   今回のアフガンの政変で台湾側は危機感を持った。NHKニュースWeb版(8月18日付)によると、蔡英文総統は18日、与党・民進党のオンライン会議で「台湾の唯一の選択肢は、より強大になり、より団結し、よりしっかりと自主防衛することだ。自分が何もせず、ただ人に頼ることを選んではいけない」と述べた。そして、民主と自由の価値を堅持し、国際社会で台湾の存在意義を高めることが重要だと強調した。

   蔡氏があえて「自主防衛」を持ち出したのは、台湾をアフガンの二の舞にしてはならないという確固たる決意の表れだ。一方で、中国は今回のアフガンのように民主政権ならば何が何でも守るというスタンスではないアメリカのドライな一面を理解した。今後、中国は台湾海峡での海上封鎖といった緊張状態を仕掛けて、あるいは融和策を台湾に持ち掛けて、アメリカの出方をうかがうのではないか。その上で、アメリカ世論の動向も読みながら、「柔らかな同盟」を踏みつぶしにかかってくる。裏読みではある。 (※写真は、The White House公式ホームページより)

⇒19日(木)午後・金沢の天気   くもり時々あめ

☆中国人の不動産熱と「寝そべり族」

☆中国人の不動産熱と「寝そべり族」

   中国の人々の熱い投資熱を感じたことがある。10年前のことだ。2012年8月、浙江省紹興市で開催された「世界農業遺産(GIAHS)の保全と管理に関する国際ワークショップ」(主催:国連食糧農業機関、中国政府農業部、中国科学院)に参加し、日本と中国のGIAHSについて意見交換や、隣接する青田県などを視察した。青田県方山郷竜現村を訪れたとき、田舎に不釣り合いな看板が目に飛び込んできた。川べりに建設予定の高層マンションの看板だった。

   中国人の女性ガイドに聞くと、マンションは1平方㍍当たり1万元が相場という。1元は当時12円だったので、1戸161㎡では円換算で1932万円の物件である。確かに、村に行くまでの近隣の都市部では川べりにすでにマンションがいくつか建っていた=写真=。夕食を終え、帰り道、それらのマンションからは明かりがほとんど見えない。おそらく、買って値上がりするのを待つ投資向けマンションなのだろう。前年の2011年6月に訪れた首都・北京でも夜に明かりのないマンションがあちこちにあった。

   同じ女性ガイドに「中国はマンションブームなのですか」と問いかけると、このような話を披露してくれた。「日本でも結婚の3高があるように、中国でも女性の結婚条件があります」と。中国の「3高」は、1つにマンション、2つに乗用車、そして3つ目が礼金、だと。マンションは1平方㍍当たり1万元が相場という。中国ではめでたい「8」の数字でそろえるので、1戸88平方㍍のマンションが人気。となると、1056万円だ。そして、18万元の乗用車、さらに8万元の礼金。この3つの「高」をそろえるのは大変だ。

   上記の話を思い出したのは、いま中国の若者の間で広がっているとされる、あえて頑張らない「タンピン(寝そべり)」現象がある一方で、習近平国家主席が共産党創立100年の式典で「われわれは党創立100年の目標である貧困問題を解決した。生産力が劣っていた状況から、経済規模で世界2位になるという歴史的な進歩を実現した」(7月1日付・NHKニュースWeb版)と拳を振り上げて強調した、いまの中国のギャップだ。

   習氏の世代は、極限の貧困や飢餓などを体験しながらも社会のはしごをよじ登ってきた。しかし、いまの若者たちは過当競争や長時間労働に耐えて、車の所有やマンション投資、結婚して子どもを持つという、いわば「人生の勝ち組」を目指すことにむしろ違和感や無力感を抱いているのではないだろうか。逆に言えば、習氏が「小康社会」と語ったように、それだけ国が豊かになったという証(あかし)なのかもしれない。

⇒2日(金)午後・金沢の天気   くもり時々はれ

★WHOテドロス氏「ワクチン寄付」集めの裏読み

★WHOテドロス氏「ワクチン寄付」集めの裏読み

   WHOのテドロス事務局長の発言がまた波紋を呼んでいる。 テドロス氏が14日の記者会見で、一部の高所得国が子供に対する新型コロナウイルスワクチンの接種を始めたことについて、医療従事者らもまだ接種できていない低所得国への寄付を優先すべきと述べたと報じられた(5月15日付・時事通信Web版)。テドロス氏の発言内容を詳しく知りたくて、WHOの公式ホ-ムページをチェックした=写真=。問題の発言は以下だ。

   I understand why some countries want to vaccinate their children and adolescents, but right now I urge them to reconsider and to instead donate vaccines to COVAX. (意訳:私は、一部の国が子供や青年にワクチンを接種したい理由を理解しているが、今、彼らに再考を促し、代わりにCOVAXにワクチンを寄付することを強く勧めしている)。

   ワクチン供給のわずか0.3%しか低所得国に届いていない状況の中で、アメリカが接種年齢をこれまでの16歳以上から12歳以上に拡大したことを受けての発言だろう。そのテドロス氏の発言が波紋を呼ぶ背景には、中国がある。WHOは今月7日に中国国有製薬大手「中国医薬集団(シノファーム)」が開発した新型コロナウイルスワクチンの緊急使用を承認している。治験などから推定される有効性は79%。中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)のワクチンについても審査中で、近く結果が発表される見通し(5月8日付・同)。

   上記からあるストーリーが浮かぶ。COVAXはWHOが中心となってワクチンを共同購入する組織だ。WHOの公認ワクチンを中国から購入することで低所得国に分配したいとテドロス氏は考えているに違いない。あるいは、中国から入れ知恵があったのかもしれない。中国側もこれまでのワクチン外交からワクチンビジネスに本格的に参入したい思惑があるだろう。

    さらにスト-リーは展開する。WHOによる低所得国へのワクチン寄付の要請は真っ先に日本に向かってくる。そう懸念する論拠は以下だ。昨年2020年5月16日、テドロス氏とIOCのバッハ会長は「スポーツを通して健康を共同で促進していく覚書(MOU)」を交わしている。その中で、オリンピックなど国際スポーツイベントの開催にあたっては、WHOからガイドライン(この場合は助言)が示される。つまり、パンデミックの下で東京オリンピックを開催するしないの「決定権」を握っているのはWHOなのだ。

   テドロス氏がオリンピック参加国でもある低所得国にワクチンが行き渡らない状態ではオリンピックは開催できないと言えば、バッハ会長も従わざるを得ないだろう。そこで、テドロス氏の意向を受けたバッハ氏が今度は東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本会長にWHOへのワクチン寄付を要望してくることは想像に難くない。

   そうして集められた世界からの寄付金で中国製のワクチンが購入されるシステムが出来上がる。同時に、中国としては、来年2月の北京冬季五輪はワクチンが世界に行き渡った状態で開催する、世界史上で類を見ない大会だと豪語するだろう。中国製ワクチンの緊急使用をWHOが承認したのはその布石だった。裏読みではある。

⇒15日(土)夜・金沢の天気      あめ

★中国のワクチン外交 「WHOお墨付き」の裏読み

★中国のワクチン外交 「WHOお墨付き」の裏読み

   WHOの「中国寄り」、またか。時事通信Web版(5月8日付)によると、WHOは中国国有製薬大手、中国医薬集団(シノファーム)が開発した新型コロナウイルスワクチンの緊急使用を承認した。治験などから推定される有効性は79%という。中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)のワクチンについても審査中で、近く結果が発表される見通し。

   WHOの公式ホームページをチェックする。「WHO lists additional COVID-19 vaccine for emergency use and issues interim policy recommendations」のページに承認に至った経緯を紹介している。以下、ポイント。シノファームのワクチンに関しては、WHOは製造施設の現地査察を行った。WHOの予防接種に関する戦略的諮問グループ(SAGE)は入手可能なすべての証拠に基づいて、症候性および入院性疾患に対するワクチンの有効性はすべての年齢層を合わせて79%と推定した。ただし、臨床試験に登録された高齢者(60歳以上)がほとんどいなかったため、この年齢層での有効性を推定できなかった。高齢者とそれ以外の年代で有効性が異なるという分析結果と理論的な根拠はない。

   要は、緊急使用として有効性79%のワクチンを承認した。データは中国の生産現場を訪れて入手したもので、WHOが独自に医療現場で治験に立ち会って得たデータではない。60歳以上の高齢者への有効性についてのデータはない。つまり、消去法でのデータだ。

   実は中国のワクチンの有効性を疑うニュースが以前報じられていた。イギリスのBBCニュースWeb版(2021年4月12日付)は「Chinese official says local vaccines ‘don’t have high protection rates’」の見出しで伝えている=写真=。中国の疾病対策センター(CDC)のトップが4月10日の記者会見で、中国で現在使われているワクチンについて、「予防できる確率はあまり高くない」と述べ、「効果を高めるため、いくつかのワクチンを混合させることを政府として検討している」と述べた。しかし、その後、トップは予防効果が低いとした点について、「完全な誤解」と発言を撤回した。

   BBCは同じ記事で、中国のシノバックのワクチンを事例に有効性の数値を上げている。ブラジルでの臨床試験の結果で有効性は50.4%、トルコとインドネシアで実施された臨床試験の中間結果では有効性は65~91%だった。WHOはワクチン承認の条件として、50%以上を目安としている。

   アメリカのファイザーやモデルナ、イギリスのアストラゼネカなど欧米のワクチンの有効性は90%前後かそれ以上と報じられている。中国CDCのトップが「予防できる確率はあまり高くない」と発言して1ヵ月、それから各段にワクチンの有効性が向上したとは考えにくい。WHOはシノファームの「79%」の論拠をもっと明確に示すべきだろう。

   WHOはワクチンを途上国や貧困国などへ配分できるよう、国際的な枠組み「COVAX」を立ち上げたが、製薬メーカーが欧米に偏っており、ワクチン供給がままならない状況に陥っている。焦りを感じたWHOのテドロス事務局長による緊急措置だろう。が、もう一つのシナリオを裏読みしてみる。

   中国のオリンピック委員会はIOCのバッハ会長に、今夏の東京五輪と来年の北京冬季五輪の参加者にワクチンを提供したいとの申し出を行った(2012年3月11日付・ロイター通信Web版日本語)。新疆ウイグルなど少数民族や香港での統制強化が問題視されて欧米などで北京五輪ボイコットの動きに反応したのだろう。このとき、バッハ氏は「WHOのお墨付きが必要だ」とアドバイスしたのではないだろうか。そこで、習近平国家主席はWHOのテドロス氏に依頼。今月7日にテドロス氏から緊急使用ということで承認は可能との連絡が入った。するとさっそく習氏はバッハ氏に電話をし、「IOCと引き続き連携し、東京五輪の開催を支持したい」と表明した(5月7日付・共同通信Web版)。

   時間的なタイミングを読めば、上記のようなストーリーもできるのだ。中国はこれから「WHOのお墨付きがある」と大手を振ってワクチン外交を展開することだろう。

⇒9日(日)午前・金沢の天気     あめ後はれ

☆WHOテドロス事務局長の再選めぐるキナ臭さ

☆WHOテドロス事務局長の再選めぐるキナ臭さ

   WHOにまたキナ臭さが漂ってきた。AFP通信Web版日本語(5月4日付)は、「WHOのテドロス事務局長は再選を目指している」とアメリカの医療専門メディア「スタット・ニュース」の記事を引用して伝えている。テドロス氏はエチオピアの保健相と外相を歴任し、2017年にアフリカ出身者として初めてWHO事務局長に就任した。WHO事務局長は任期5年で2期まで務めることができる。1期ごとに加盟国の投票で選ばれる。

   テドロス氏への不信感が世界で広まったのは、「中国寄り」の露骨な振る舞いが新型コロナウイルスをきっかけに露わになったことから。中国の春節の大移動で日本を含めフランスやオーストラリアなど各国でコロナ感染者が拡大していたにもかかわらず、2020年1月23日のWHO会合で「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」宣言を時期尚早と見送った。同月30日になってようやく緊急事態宣言を出したが、テドロス氏は「宣言する主な理由は、中国での発生ではなく、他の国々で発生していることだ」と述べた(同1月31日付・BBCニュースWeb版日本語)。日本やアメリカ、フランスなど各国政府は武漢から自国民をチャーター機で帰国させていたころだった。

   その宣言後の記者会見でテドロス氏はさらにこう述べた。「私は先日中国に渡航し、習近平国家主席のリーダーシップを目の当たりにした。他の国も見習うべきだ。中国国外の感染者数が少ないことについて、中国に感謝しなければいけない」(同1月31日付・日経新聞Web版)。アメリカの当時のトランプ大統領は「WHOは中国に完全に支配されている。WHOとの関係を終わらせる」と脱退を表明し7月6日付で国連に正式に通告した(同7月8日付・共同通信Web版)。世界的な署名サイト『Change.org』でもテドロス氏解任キャンペーンが展開され、100万を上回る署名が集まった(同5月10日現在)。

   母国エチオピアでもテドロス氏への疑惑が起きている。エチオピア軍の参謀長は2020年11月19日の記者会見で、政府軍と対立している同国ティグレ州の政党「ティグレ人民解放戦線(TPLF)」にテドロス氏が武器調達を支援していると批判した。同月4日、TPLFが政府軍の基地を攻撃したのに対して、アビー首相(2019年ノーベル平和賞受賞者)が反撃を命じ、戦闘が続いていた。テドロス氏はティグレ人でTPLFの支援に回っているとエチオピア政府は不信感を募らせている(同11月19日付・AFP通信Web版日本語)。テドロス氏はTPLFへの武器調達を支援しているとの疑惑を否定した(11月20日付・同)。

   そのエチオピアではことし6月5日に国政選挙が行われる。選挙は当初2020年8月を予定していたが、新型コロナ対策を優先して実施を延期していた。アビー首相と政権与党「繁栄党」に対する国民の支持を占う選挙となる(2021年2月5日付・JETROWeb版)。この選挙で引き続き与党が政権運営を担えば、政府や軍の反発を買っているテドロス氏の2期目は危うくなる。また、中国寄りのテドロス氏がWHOの最高責任者として居座ることを国際世論が許すかどうか。そして、開発途上国に多額の債務を負わせる投資プロジェクト「一帯一路」をエチオピアでも展開する中国はこの局面をどう操るのか。キナ臭いストーリーの展開に注目したい。

(※写真は2020年8月21日のWHOの記者ブリーフィング=WHO公式ホームページ)

⇒4日(祝)夜・金沢の天気    くもり

★アメリカ死神と北斎パロディ画の共通点

★アメリカ死神と北斎パロディ画の共通点

   きょう5月1日は立春から数えて88日目、「八十八夜」だ。いにしえより、この日に摘んだ茶は上等なものとされる。「夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が茂る・・・」と文部省唱歌の『茶摘み』の歌を思い出す。さらに、この茶摘みの唄からもう一つ思い出すのが、「ズイズイ ズッコロバシ ごまみそズイ 茶壺におわれて トッピンシャン ぬけたら ドンドコショ」という童謡だ。二つの歌の背景を探る。

   江戸時代、お茶は最高級品だった。「お茶壺道中」という言葉があった。幕府が将軍御用の宇治茶を茶壺に入れて江戸まで運ぶ行事を茶壺道中と言った。この道中は、京の五摂家などに準じる権威の高いもので、茶壺を積んだ行列が通行する際は、大名といえども駕籠(かご)を降りなければならない、というルールだった。街道沿いの村々には街道の掃除が命じられ、街道沿いの田畑の耕作が禁じられた。「ズイズイ ズッコロバシ ごまみそズイ 茶壺におわれて トッピンシャン ぬけたら ドンドコショ」というわらべうたは、田植えなどの忙しい時期に余分な作業を強いられるお百姓たちの風刺を歌ったものだった。世の中には裏と表の表層があるものだ。

   これも裏と表の表層とも言えるかもしれない。在日中国大使館が先月29日付のツイッターで、「アメリカが『民主』を持って来たらこうなります」という日本語のコメントとともに、アメリカを死神になぞらえた画像を掲載した。アメリカの国旗を模した服を着た死神が、イラクやリビア、シリアなどと書かれた扉を開けて回り、部屋の中からは血が流れ出ている=写真・上=。このツイートは現在削除されているが、なぜ在日中国大使館がこのような画像をわざわざ掲載したのか解せない。その背景を憶測する。

   単純な見方をすれば、アメリカのバイデン大統領が先月28日に行った就任100日目の施政方針演説で、中国の習近平国家主席のことを「autocrats」(独裁者)と称したことではないかと推測できる。これに反発して、アメリカこそ民主主義を無理強いしようとしてイラクやリビア、シリアなどを混乱に落とし込んでいる死神だ、と。それにしても、タイミングが良すぎる。中国御用達のイラストレーターにこの画像を制作させたものであることは推察できるが、これは以前から作成していて、アップロードのタイミングを見計らっていたのではないだろうか。

   もう一つ、絶妙なタイミングがある。日本政府が東電福島第一原発で増え続けるトリチウムなど放射性物質を含む処理水を海へ放出する方針を決めた(4月13日)。すると、中国と韓国が反発し、中国外務省の趙立堅副報道局長が26日付のツイッターで、葛飾北斎の「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」を模したパロディ画像を投稿して批判した=写真・下=。

   アメリカ死神と北斎パロディ画の両作品の作者はおそらく同一人物で日本に在住する中国御用達のイラストレーターではないだろうか。アメリカ死神の画像では「アメリカが『民主』を持って来たらこうなります」という日本語のコメントがついているが、なぜ中国語、あるいは英語ではなかったのだろうかと考えると、単純な話が、作者は日本人なのだろうと推測する。犯人探しをするつもりはまったくない。ただ、作品を中国側に売り込むのではなく、パロディ画作家として自立する道を拓いてほしい、ただそう思っただけである。

⇒1日(土)夜・金沢の天気     あめ

☆サイバー攻撃 中国vs日米の構図

☆サイバー攻撃 中国vs日米の構図

   まるで、日米首脳会談が終わるのを待っていたかのようなタイミングだ。警視庁は20日、日本に滞在歴がある中国共産党員でシステムエンジニアの30代の男が、サイバー攻撃に使ったレンタルサーバーを偽名で契約していたとして私電磁的記録不正作出・供用の容疑で書類送検した(4月20日付・NHKニュースWeb版)。2016年からJAXAや防衛関連の企業など、日本のおよそ200に上る研究機関や会社が大規模なサイバー攻撃を受け、警察当局の捜査で、中国人民解放軍のサイバー攻撃専門部隊の指示を受けたハッカー集団「Tick」によるものと分かった(同)。

   中国には2017年6月に施行した「国家情報法」がある。11項目にわたる安全(政治、国土、軍事、経済、文化、社会、科学技術、情報、生態系、資源、核)を守るために、「いかなる組織および国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助および協力を行い、知り得た国家情報活動についての秘密を守らなければならない。国は、国家情報活動に対し支持、援助及び協力を行う個人および組織を保護する」(第7条)としている。端的に言えば、政府や軍から要請があれば、ハッカー集団やファーウェイなど中国企業はハッキングやデータ提供に協力せざるを得なくなる。国民に要請の対象となる。

   この中国の動きを警戒して、アメリカでは2018年8月に「国防権限法」を施行し、中国のハイテク企業5社からアメリカの政府機関が製品を調達するのを2019年8月から禁止している。2020年8月からは、5社の製品を使う各国企業との取引も打ち切るなど徹底している。日本では、警視庁公安部が2017年4月に「サイバー攻撃対策センター」を設置し、専門知識を持った100人が所属していて、主に政府機関や企業などへの海外からのサイバー攻撃について捜査を行っている。今回の中国によるサイバー攻撃の調査も対策センターが追跡していた。

   今回の警視庁の発表は、冒頭で述べた日米首脳会談が終わるの待っていたタイミングだった。共同声明「“U.S. – JAPAN GLOBAL PARTNERSHIP FOR A NEW ERA”(新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ)」では、サイバー攻撃について盛り込んでいる。「We also highlighted the importance of strengthening bilateral cybersecurity and information security, a foundational component of closer defense cooperation, and of safeguarding our technological advantages. (日米両国はまた、より緊密な防衛協力の基礎的な要素である、両国間のサイバーセキュリティおよび情報保全強化並びに両国の技術的優位を守ることの重要性を強調した)」

   アメリカのFBIも、情報通信や宇宙関連の企業から機密データを盗み出したとして、中国のハッカー集団をこれまで複数回起訴している。共同声明を受けて、警視庁はFBIと連携を強化するカタチで中国人民解放軍のサイバー攻撃専門部隊やハッカー集団と対峙していくことになるだろう。尖閣諸島の領海侵入を含め、中国との関係はすでに曲がり角に入っている。

⇒20日(火)午後・金沢の天気   はれ

★中国ディストピア物語の成功ストーリー

★中国ディストピア物語の成功ストーリー

          前回の続き。中国が台湾の領空と海域で軍事訓練を繰り返し、長距離ミサイルを配備するなど攻撃能力を強化していると報道されている。「一つの中国」を掲げ台湾の吸収・併合をもくろむ理由は何か。先の大戦にまでさかのぼって考察してみたい。

   日中戦争では、中国の国民党軍と共産党軍が「国共合作」(1937年)による統一戦線で日本軍に抗戦した。このとき、共産党指揮下の紅軍は国民党軍に編入されて「八路軍」と称して戦っている。日本への降伏要求の最終宣言であるポツダム宣言(1945年7月26日)はアメリカ大統領のトルーマン、イギリス首相のチャーチル、中華民国政府主席の蒋介石の3人の書名で出され、これに日本が無条件で受諾した。この歴史的事実からも分かるように、実際に当時の日本軍に対し勝利を収めたのは国民党による中華民国政府だった。

   第二次世界大戦で勝利した、いわゆる連合国は戦時中から戦後処理問題などをテーマに協議を重ねていて、この協議体が戦後に国際連盟に代わる国際機関としての国際連合へと展開していく。1945年年10月に51ヵ国の加盟国で設立され、国連憲章による安全保障理事会の常任理事国はアメリカ、イギリス、フランス、ソビエト連邦、そして中華民国の5ヵ国が就いた。

   しかし、戦後の1946年から再び中国では国共内戦が始まり、1949年10月に中華人民共和国が成立、中華民国政府は台湾に逃れた。このため、中国代表権をめぐって国連でも論争が続き、1971年10月のいわゆる「アルバニア決議」によって、国連における中国代表権は中華人民共和国にあると可決され、中華民国(台湾)は安保理常任理事国の座から外され、国連を脱退することになる。ただし、国連憲章の記載は未だに、中華民国が国連安保理常任理事国であり、中華民国がもつ常任理事国の権限を中華人民共和国が継承したと解釈されている(Wikipedia「アルバニア決議」)。

   現在の中国共産党は抗日戦争に勝利したとして、2015年に「中国人民抗日戦争ならびに世界反ファシズム戦争勝利70周年記念行事」の大々的な軍事パレードを行っている。そして、今年2021年7月に中国共産党は創立100周年を迎える。

   ここからは憶測だ。上記の国共合作での国民党軍編入のもとでの抗日戦、蒋介石署名のポツダム宣言、中華民国が国連安保理常任理事国であることなどは中国共産党にとって不都合な歴史であり、この際、修正したいのではないだろうか。しかし、台湾に中華民国がある限りそれは難しいが、完全に吸収・合併し「一つの中国」にすることで置くことで輝かしい歴史を再構築できる。そう、習近平国家主席は発想しているかもしれない。

   中国では、5月1日の労働節(メーデー)と10月1日の国慶節に「建国の父」の毛沢東とともに、孫文の肖像画を掲げて「革命の先駆者」として仰いでいる。しかし、台湾の国民党も党と中華民国の創立者である孫文を「国父」と仰いでいる。中国共産党にとって、「革命の先駆者」と「建国の父」を堂々と掲げて創立100周年の成功ストーリーを創り上げるためには、台湾が邪魔になっていることは想像に難くない。7月までに中国は台湾に対してどう動くのか注視したい。

⇒2日(金)夜・金沢の天気     はれ

☆4月1日「中国ディストピア物語」

☆4月1日「中国ディストピア物語」

           今の中国の動きをメディアを通じてウオッチしていると「歴史ドキュメンタリー映画」を鑑賞しているようで、実に緊張感がある。あえてタイトルを付すれば、「中国ディストピア物語」だろうか。この場合のディストピア(dystopia)は自由が奪われる世界のたとえで、ユートピアと真逆な意味を込めている。

   最近のディストピア・ストーリーをいくつか。沖縄県の尖閣諸島の沖合で、中国海警局の船2隻が3月29日午前4時すぎ、日本の領海に侵入した。2隻は南小島の沖合で操業していた日本漁船2隻に接近する動きを見せたため、海上保安本部が巡視船を周囲に配備し漁船の安全を確保した。2隻は9時間にわたり領海内を航行したあと午後1時すぎに領海から出た。尖閣諸島の沖合で中国海警局の船が領海に侵入したのは、今年に入って11件目(3月29日付・NHKニュースWeb版)。

   「ここは我が国の領海だ」と主張して、漁船を追いかけ回す。南シナ海でもベトナムやフィリピンの漁船に対して同じことをしている。そのうち、民兵が乗った何百隻という「漁船」が尖閣諸島に来て上陸。小屋など建て居座る。漁民を守るためと称して海警局も上陸し灯台など造る。これを機に尖閣の実効支配に入る。見事なストーリーだ。

   ミャンマー国軍による弾圧強化で週末に市民100人以上が死亡した事態を受け、国連安全保障理事会は31日、イギリスの要請で緊急会合を開いた。ブルゲナー国連事務総長特使(ミャンマー担当)は、国境付近で国軍と武装勢力の戦闘が激化しており、「前例なき規模の内戦に陥る可能性が高まっている」と警告。「多重の破滅的状況」を回避するため共同行動を安保理に促した。一方、中国の国連大使は声明で、民主主義への移行を促しつつ、「一方的な圧力や制裁の訴えは緊張や対立を深め、状況を複雑化させるだけだ。建設的ではない」と主張した。安保理が今後、新たな声明を出す可能性はあるが、制裁など強力な措置で一致するのは難しいのが現状だ(4月1日付・時事通信Web版)。

   香港やウイグルにおける人権弾圧問題で国際批判を浴びている中国は国連の常任理事国の座にある。常任理事国であれば問題を起こしても国連では問われない。2020年5月、アメリカは中国による香港国家安全維持法(国安法)は人権侵害にあたるとして安保理の開催を提案したが、中国は「純然たる中国の内政問題だ」として拒否した。仮に安保理で決議がされても、拒否権を発動すれば成立しない。

   中国のディストピア・ストーリーは国連に関与を強めることだ。WHOのテドロス事務局長の有り様をウオッチすれば一目瞭然だ。さらにその先に描く夢は「国連本部を北京に」だろう。チャンスが到来した。「アジア系住民人へのヘイトクライムが多発するニューヨークを脱出しよう」と運動を起こす。

   4月1日、今年は自粛気味だがエイプリルフールの日。「中国ディストピア物語」を夢想してみた。(※写真は国連本部公式ホームページより)

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