#中国漁船

☆「あたりめ」がほろ苦く感じるとき

☆「あたりめ」がほろ苦く感じるとき

   先日金沢市内のス-パーで酒のつまみにと思い、「あたりめ」を買った。パッケージには「この商品はするめいかを原料にしています」と書かれてあり、丁寧な商品づくりをしているとの印象だった。ところが、裏面を見ると、「原産国名」が「中国」とある=写真・上=。複雑な思いを抱きながら、あたりめを噛みしめた。

   日本海のスルメイカの漁場は大和堆だ。日本のEEZ(排他的経済水域)なのだが、中国漁船が大挙押しかけ、能登半島などから出漁する日本漁船に打撃を与えている。日本側はスルメイカのイカ釣り漁の漁期を6月から12月と定めているが、日本の漁船に先回りして、中国漁船は4月から大和堆などに入り込んで漁場を荒らしているのだ。

   この中国漁船による違法操業での漁獲は15万㌧(2020年)と国立研究開発法人水産研究・教育機構は推測している。これは、日本漁船による2019年の漁獲量の10倍以上に当たる(2020年10月15日付・日刊水産経済新聞Web版)。日本のイカ釣り漁とは違って、中国漁船は大きな網を2隻の船が対になって引っ張る「二艘曳き」と一網打尽の漁法だ。

   では、どのくらいの数の中国漁船が日本海に入ってきているのか。衛星データで漁船の動きを調査するグローバル海洋保護非営利団体「Global Fishing Watch」(GFW、ワシントン)は、2019年で800隻が北朝鮮海域に入っていると分析している。中国の漁船は集魚灯を使うので、中国からの海洋での照明の動きを追うと、次第に北朝鮮の漁業海域に集まって来る様子が画像で分かる。

   北朝鮮海域に中国漁船が集まるのは、中国の漁業者が北朝鮮から漁業許可証を購入しているからだと言われる。これまで北朝鮮は国連海洋法条約の締約国ではないことをタテにEEZ内で違法操業を繰り返してきた。中国漁船はその「権利」も購入したとの勝手解釈なのだろう、北に取って代わってEEZでの違法操業を行っている。そもそも、北の核実験に対応した2017年の国連制裁決議には漁業権の取引も含まれ、買い取りそものが違反なのだが。

   水産庁の漁業取締船と海上保安庁の巡視船が大和堆を中心に見回りを行っているが、水産庁が中国漁船に対して行った2020年の退去警告数は延べ4393隻と発表している。仮に中国漁船を800隻とカウントすれば、1隻当たり5回以上も警告を発していることになる。中国漁船がこれ以上増えれば、水産庁と海上保安庁の対応能力が追い付かなくなるのではないだろうか。(※写真・下はEEZ内の違法操業船に放水措置を行う水産庁漁業取締船=水産庁公式ホームページより)

   スルメイカを中国から輸入して製造した「あたりめ」だ。そう考えながら噛みしめるとほろ苦さを感じる。中国産のスルメイカがすべて違法と言っているわけではない。

 
⇒17日(土)夜・金沢の天気      はれ

★日本海の現実、空からミサイル、海では漁場荒らし

★日本海の現実、空からミサイル、海では漁場荒らし

   また、日本海で難題だ。きのう6日午前、岸防衛大臣は記者会見で、ロシア海軍が日本海のEEZ内にある大和堆=写真・上=の周辺でミサイル発射訓練を行うことに関して述べた。以下は、防衛省公式ホームページに掲載されている会見内容。

「大和堆の事ですけれども、7日から9日にかけて、ロシア海軍が日本海海域でミサイル発射訓練を実施予定であることを受けて、3日に海上保安庁から日本海海域に航行警報を発出しております。また、これに先立ち、2日、ロシア海軍によるミサイル発射訓練の実施海域の一部にわが国のEEZが含まれていることを踏まえ、外交ルートを通じて、沿岸国であるわが国の権利および義務に妥当な考慮を払うようにロシア側に申し入れを行うとともに、わが国周辺におけるロシア軍の活動を関心を持って注視していることを伝達をいたしました。わが国周辺において、演習や訓練を含めたロシア軍の活動が活発化する傾向にあります」

   日本のEEZにある大和堆はスルメイカの好漁場で、先月6日に能登半島の能登町小木漁港からイカ釣り船団8隻が出航し操業を行っている。このブログを書いているときにも、ミサイル発射訓練が行われるかもしれない。それにしても、日本の漁船が危険にさらされようとしているのに、はっきり発言するタイプの岸大臣にしては、「外交ルートを通じて、沿岸国であるわが国の権利および義務に妥当な考慮を払うようにロシア側に申し入れを行う」とは、言いようがどこか生ぬるい。じつは、国際法では他国の排他的経済水域で軍事演習を行うことは明確に禁じられていない。「抗議をする」などとは言えないのだ。

   ミサイルを発射するのはロシアだけではない。北朝鮮は3月25日、弾道ミサイル2発を日本海に向けて発射した(日本政府が同日発表)。北朝鮮東部の宣徳付近から発射し、いずれも約450㌔飛行。日本の領海域には到達せず、EEZの外に落下した。北朝鮮の弾道ミサイル発射は昨年3月29日以来だった。事前通告なしに発射が繰り返されている。

   さらに、日本のイカ釣り漁船団が大和堆で警戒するのは中国漁船の違法操業だ。その無法ぶりは深刻だ。日本側のスルメイカのイカ釣り漁の漁期は6月から12月だが、4月から多数の中国漁船が大和堆などに入り込んでいて、水産庁は320隻に退去警告を発し、うち91隻に放水措置を行っている(5月27日現在)=写真・下、水産庁公式ホームページより=。つまり、日本の漁船に先回りして、イカ漁場を荒らしているのだ。空からミサイル、海では違法操業。日本の排他的経済水域であるものの、日本の漁船は安心安全な漁ができないでいる。これが日本海の現実だ。

⇒7日(水)午後・金沢の天気       くもり

★「たかがサカキ されど榊」 こだわりの消費者心理

★「たかがサカキ されど榊」 こだわりの消費者心理

   スルメイカ漁の苦難が続く。日経新聞(6月3日付)によると、今月から漁が解禁となったスルメイカの価格が落ちている。函館漁港では生きたままの「いけすイカ」の初競りが1㌔1650円と昨年に比べ25%安く、おととし2019年より68%も下落した。新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言の再延長で飲食店などの需要が振るわない。さらに、日本海の好漁場「大和堆」周辺はEEZ(排他的経済水域)でもあるにもかかわらず、解禁前から大量の中国漁船が押し寄せて違法操業を行っている。イカ釣り漁業者にとってはまさにダブルパンチだ。

   先月29日付のこのブログでも述べたが、中国漁船でインドネシア人が不当に働かされていることが国際問題にもなっている。先日、コンビで酒のつまみを選んでいて、「さきいか」を手に取った。裏面を見ると「中国産」と書かれてあり、違法操業と不当労働行為で得たイカかもしれないと思うと買う気にはなれなかった。

   話は変わる。金沢のスーパーに行くと、フラワーショップのコーナーに並ぶ商品の中にサカキがある。「榊」と漢字で表記されているものが多い。あるショップでは「国産榊 本体価格200円(税込220円)」とあり=写真=、別の店では「榊」と表記され「価格(税込)160円」だった。サカキは普通に庭先に植えられていたり、金沢の里山でも自生している。なぜあえて「国産榊」と表記しているのだろうかとふと疑問に思って、その店の経営者に尋ねたことがある。

   返事は意外な言葉から始まった。「店に並んでいるサカキの90%ほどは中国産なんです」と。仕入れ業者が中国から輸入し、それを全国のショップに卸している。「でも、サカキは普通の観賞用は違いますよね」と、その女性経営者は丁寧に説明してくれた。サカキは古くから神事に用いられる植物であり、家庭の神棚や仏壇に供えられ、そして拝まれるものだ。

   ある日、よく買いに来る客から「これ、どこ産」と聞かれ、女性経営者が「中国産です」と答えると、その客は「サカキなので国内産だと思っていた。外国産に毎日手を合わせるのは違和感がある」と。産する国は違うものの、同じサカキだ。しかし、これは客のこだわりの言葉と理解して、それ以来、店のサカキは能登や金沢など含めて国内産を調達し、「国産榊」として販売するようにした。値段は国産のサカキの方が少し高い。しかし、輸入品は防疫の消毒液がかかるため、長持ちするのは国産だという。

   同じ植物であっても、その植物がどのような思いで育てられたのかということに消費者はこだわるものだ。もし、サカキが日本人と同じ価値観で中国で伝統的に栽培されていれば、国産より価格は高いかもしれない。逆にモノづくりに生産者のこだわりがなければ拒絶される。中国・新疆の綿花畑でウイグル族の人々が強制労働に従事させられていると報じられると、その綿花で製造された衣類はたとえシャツであったとしても着たくない。上記のスルメイカもそうだ。こだわりの消費者心理を理解しない生産者、生産国は見放される時代だ。

⇒4日(金)夜・金沢の天気   くもり

★中国漁船の違法操業と人権問題 日本の打つ手は

★中国漁船の違法操業と人権問題 日本の打つ手は

     中国・新疆ウイグル自治区の少数民族を強制的に働かせてつくった木綿や衣類が問題となって輸入の差し止めや不買運動が世界各地で起きているが、さらに水産業にも飛び火している。アメリカのサリバン大統領補佐官(安全保障担当)はツイッター=写真・上=で「CBP(税関・国境警備局)は 残虐で非人道的な労働慣行に従事していることが判明した中国漁船団全体からの海産物の輸入を防止するための措置をとった」と速報を流した。

    ロイター通信Web版(5月29日付)によると、CBPは中国の大連海洋漁業有限公司からのマグロ、メカジキなどの海産物を全米の税関で差し止めすると発表した。マグロ缶詰やペットフードなど水産加工品にも適用する。調査により、同社に雇われた多くのインドネシア人労働者は当初示された労働条件が大きく異なり、身体的暴力や債務による束縛、虐待的な労働と生活環境が強いられていることが明らかになった。

    中国漁船での虐待問題は以前から問題となっていた。賃金未払いや酷使、暴力といった目に遭うことも、時には命を落とすこともニュースとなっていた。AFP通信Web版日本語(2020年7月10日付)によると、2020年6月、インドネシア人船員2人が中国漁船から海に飛び込んで脱走する事件があった。2人はその後、インドネシア漁船に救助され、虐待と劣悪な環境から逃れるためだったと語った。5月にも、インドネシア人船員3人の遺体が中国船から海に投げられる出来事があった。インドネシア政府はその後、3人は病気で死亡したとの報告を受けたと発表。中国政府は国際法に基づき水葬したと説明した。

   90年ほど前に描かれた小説だが、小林多喜二の『蟹工船』のストーリーにある過酷な労働環境を彷彿とさせる。まるで、現代版蟹工船のような話だ。ウイグルでの少数民族への強制労働とあわせ、現実が見えてくる。

   「板子一枚、下は地獄」と言われるように、漁業は常に危険が伴う労働環境だ。そのため、日本でも慢性的な人手不足に陥っている。イカ釣り漁業の拠点である能登半島の小木漁港でも、インドネシアからの漁業実習生が常時70人ほどいる。貴重な労働力として大切にされている。操業中にケガや病人が出れば、水産庁や海上保安庁の救助船が駆け付ける。地域の文化祭を見に訪れたことがあるが、彼らがステージで歌や演奏を披露をしたり、地元の人たちと溶け込んでいるという印象がある。

   それにしても、中国漁船の無法ぶりは日本海側でも深刻だ=写真・下=。日本側のスルメイカのイカ釣り漁の漁期は6月から12月だが、すでに多数の中国漁船がEEZ(排他的経済水域)である大和堆などに入り込んでいて、水産庁は4月から320隻に退去警告を発し、うち91隻に放水措置を行っている(5月27日現在・水産庁公式ホームページ、写真も)。日本の漁船に先回りして、日本海のイカ漁場を荒らしている。そして、この中国側の漁船に多くのインドネシア人が不当に働かされているに違いない。まさに違法操業と人権問題。日本政府もアメリカと同様に強い措置を講じる段階に入って来たのではないだろうか。

⇒29日(土)夜・金沢の天気    くもり

☆日本海のスルメイカ漁 今そこにある外交問題

☆日本海のスルメイカ漁 今そこにある外交問題

   中国の王毅外相がきょう24日に来日、茂木外務大臣と会談を行うほか、あす25日は菅総理大臣と会談すると報じられている。だったら、ぜひこの問題を取り上げてほしい。中国漁船が大挙して日本海の能登半島の沖にある日本のEEZ(排他的経済水域)の大和堆に入り込んで違法な乱獲を繰り返している。このため、日本海に生息するスルメイカの資源量が急減しているのだ。

   問題は、日本海に独自のEEZを持たない中国漁船は漁ができないが、北朝鮮から漁業権を買って同国のEEZで操業していると称して、日本のEEZで密漁しているのだ(11月24日付・時事通信Web版)。 水産庁が9月末までに退去警告をした船の数は延べ2586隻に上っている。去年までは北朝鮮の漁船による違法操業(2019年の警告数4007隻)が圧倒的に多かったが、今年は中国漁船の違法操業が去年より倍増している。

   中国は北朝鮮海域での制裁決議違反が問題視されているにも関わらず、北朝鮮の漁業海域での漁業権を購入し、中国の遠洋漁船全体の3分の1にも相当すると見られる大量の船団を送り込んで漁業資源を漁っている。北朝鮮の漁業海域で漁業資源をほぼ取り尽くし、次に狙ってきたのが日本海のEEZだろうか。

   以下は憶測だが、中国の狙いはもう一つある。地元紙は中国漁船の違法操業について、「EEZ内に中国の公船が現れているとの情報もある」と伝えている(10月6日付・北國新聞)。漁船の違法操業に紛れて、公船が海底調査を行っている。これは「大和堆の中国所有論」の布石ではないだろうか。中国は今年8月に東シナ海の海底地形50ヵ所について命名リストを公表した。尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺海域のほか、沖縄本島沖の日本のEEZも含まれる。その前、4月には南シナ海でも海底地形55ヵ所や島嶼(とうしょ)や暗礁25ヵ所について命名リストを公表している。

   中国は北朝鮮と共同戦線を組んで、関連海域と海底に主権と管理権があると主張することで、大和堆周辺の海洋管理を主張する。そして、公船を繰り出し、日本の漁船を追い払うつもりだろう。尖閣で行われているパターンである。このことを中国の王毅外相に直接問うべきだ。スルメイカ漁問題こそ、今そこにある日本の外交の危機ではないだろうか。

⇒24日(火)午後・金沢の天気     はれ   

☆日本海、スルメイカ漁の危機

☆日本海、スルメイカ漁の危機

   自身はワイン党でもあり日本酒党でもある。食前酒はワイン、食事は日本酒とともに味わう。最近の傾向で、ワインはシャンパン、あるいはスパークリングワインが多くなってきた。そのつまみに「あたりめ」がよく合う。とくに、スルメイカが絶品で、マヨネーズをちょっとつける。スパ-クリングの泡立ちと、ほどよい固さのあたりめが口の中で妙に混じり合って、独特の食感になる。この「マリアージュ」は発見だった。

   このスルメイカが危機に陥っている。今月6日付のこのブログでも取り上げたが、日本海のスルメイカの漁場、大和堆(EEZ=日本の排他的経済水域)で大量の中国漁船が違法操業を行っているのだ。地元紙は以前からこの問題を取り上げているが=写真=、きょうは全国紙の朝日新聞が掲載している。

   水産庁が9月末までに退去警告をした船の数は延べ2586隻に上っている。去年までは北朝鮮の漁船による違法操業(2019年の警告数4007隻)が圧倒的に多かったが、今年は中国漁船の違法操業が去年より倍増しているのだ。

   記事によると、8月中旬から大和堆周辺で中国の大型底引き網船の違法操業が活発に動き始めた。水産庁の取締船はこれまで違法警告したにもかかわらず退去しなかった漁船に対し放水で警告を発した漁船は329隻に上った。

   中国は北朝鮮海域での制裁決議違反が問題視されているにも関わらず、北朝鮮の漁業海域での漁業権を購入し、中国の遠洋漁船全体の3分の1にも相当すると見られる大量の船団を送り込んで漁業資源を漁っていた。北朝鮮の漁業海域で漁業資源をほぼ取り尽くし、次に狙ってきたのが日本海のEEZではないだろうか。

   憶測だが、中国の狙いはもう一つある。地元紙は中国漁船の違法操業について、「EEZ内に中国の公船が現れているとの情報もある」と伝えている(10月6日付・北國新聞)。漁船の違法操業に紛れて、公船が海底調査を行っている。これは「大和堆の中国所有論」の布石だろう。中国は今年8月に東シナ海の海底地形50ヵ所について命名リストを公表した。尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺海域のほか、沖縄本島沖の日本のEEZも含まれる。その前、4月には南シナ海でも海底地形55ヵ所や島嶼(とうしょ)や暗礁25ヵ所について命名リストを公表している。

   おそらく、中国は北朝鮮と共同戦線を組んで、関連海域と海底に主権と管理権があると主張することで、大和堆周辺の海洋管理を主張する。そして、公船を繰り出し、日本の漁船を追い払う。尖閣で行われているパターンである。スルメイカ漁の危機に、日本の外交が問われている。   

⇒21日(水)朝・金沢の天気    はれ