#不適切発言

☆言葉はリアルタイムに動く

☆言葉はリアルタイムに動く

   「言葉の独り歩き」は今でもよく使われる言葉だ。言葉の本当の意味や前後の文脈が省略されて、言葉のある部分があたかも全体を象徴する言葉として広まる。言葉を発した本人は良くも悪くも「独り歩き」のワンフレ-ズで評価されることになる。この言葉の事例としては悪い意味で使われることが多い。

   朝日新聞Web版(19日付)によると、早稲田大学で16日開かれた社会人向け「デジタル時代のマーケティング総合講座」で、講師を務めた牛丼チェーン「吉野家」の常務取締役企画本部長が、若い女性の誘客を「生娘をシャブ(薬物)漬け戦略」と称して、「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢(むく)、生娘なうちに牛丼中毒にする」などと述べた。この発言がネット上で公開され、吉野家ホールディングスはメディアの取材に「そういった趣旨の発言をしたのは事実」と認め、不適切な発言として謝罪した。

   吉野家公式サイトは「当社役員の不適切発言についてのお詫び」(18日付)を掲載し、「当該役員が講座内で用いた言葉・表現の選択は極めて不適切であり、人権・ジェンダー問題の観点からも到底許容できるものではありません。当人も、発言内容および皆様にご迷惑とご不快な思いをさせたことに深く反省し、主催者側へは講座開催翌日に書面にて反省の意と謝罪をお伝えし、改めて対面にて謝罪予定です」と述べている。

   「シャブ漬け」ではなく「虜(とりこ)にする」という表現だったら言葉が独り歩きをすることもなかったに違ない。おそらく本人はサービス精神が旺盛で、分かりやすい言葉を使ったつもりだったのだろう。社会人向け講義なので少々荒っぽい言葉も許されると勘違いしたのかもしれない。自身の経験知でもあるが、講義をしていてモチベーションが高まってくるとつい余計な言葉が頭に浮かんで使ってしまうことがある。上記のお詫びでは「対面にて謝罪予定」とあるので、記者会見を予定しているようだ。

   同じ石川県出身の森喜朗元総理の発言もこれまで何度か物議を醸してきた。直近だと去年2月3日。東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長だった森氏はJOC臨時評議員会で、「女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言われると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。みんな発言される」と述べた。メディア各社はこの発言を女性差別であり、理事会への女性参画の流れにも逆行すると、世界に向けてニュースを発信した。森氏にはあの「神の国」発言(2000年5月)もある。

   言葉は本人が込めた想いとは裏腹に誤解を生みやすい時代環境になっている。価値観の多様化や、とくに人権意識に富んでいる。語る場にもよるが、政治家や経営者が聴衆に面白く話せば話すほど誤解を生むことにもなりかねない。

   今、NHKニュース速報Web版(12時26分)が入ってきた。「吉野家HD 不適切な発言の役員を解任 都内の大学で女性蔑視の言動と判断」。言葉は独り歩きするだけではない。リアルタイムに動く。

⇒19日(火)午後・金沢の天気    はれ

☆仰ぎ見る富士なれど、世間は騒々しく

☆仰ぎ見る富士なれど、世間は騒々しく

   共同通信社が17、18両日に実施した全国電話世論調査によると、菅内閣の支持率は前回9月の調査と比べて5.9ポイント減の60.5%、不支持率は5.7ポイント増の21.9%だった。日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命拒否問題を巡り、菅義偉首相の説明は「不十分だ」との回答が72.7%に達した(10月18日付・共同通信Web版)。

         NHKが今月9-12日で行った世論調査によると、菅内閣を「支持する」と答えた人は、政権発足後初めての先月の調査より7ポイント下がって55%、「支持しない」は7ポイント上がって20%だった。日本学術会議が推薦した新しい会員の一部を任命しなかったことについて、菅総理が「法に基づいて適切に対応した結果だ」と説明していることに、どの程度納得できるか聞いたところ、「大いに納得できる」が10%、「ある程度納得できる」が28%、「あまり納得できない」が30%、「まったく納得できない」が17%だった(10月13日付・NHKニュースWeb版)。

   各メディアの世論調査では内閣支持率が前回比で減っている。共同とNHKはそれぞれ6ポイント、7ポイントだ。日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命拒否となったことをめぐり、連日メディアで問題視されているにもかかわず、NHKでは支持率55%と高い。菅内閣とすれば想定内のことなのかもしれない。

   この日本学術会議問題をめぐってさまざまな視点から批判や意見があって当然なのだが、まったく解せないのが、静岡県の川勝知事の発言だった。知事は今月7日の定例記者会見で、「菅首相の教養レベルが図らずも露見した。学問をされた人ではない。単位を取るために大学を出た」などと発言した。その後、12日も報道陣に「訂正する必要は全くない」と強調し「(菅首相の)経歴を見ると、学問を本当に大切にしてきたという形跡が見られない」と述べていた(10月16日付・静岡新聞Web版)。このニュースを知って、まるで人格攻撃のようだと感じた。

   静岡県庁の公式ホームページで知事のプロフィルをチェックすると、「昭和50年3月 修士(早稲田大学大学院経済学研究科)」「昭和60年10月 D.Phil.(オックスフォード大学)」とあり、「私は学問を追求してきた」と言わんばかりだ。ただ、「言葉は人格を表す」とよく言われるが、学歴と人格の乖離が目に余る人は私の周囲にもいる。知事は去年12月19日にも、来年度予算に難色を示した県議会の自民党系の最大会派を念頭に「やくざの集団、ごろつきがいる」と発言。県議会2月定例会で撤回、謝罪し「今後、不適切発言はしない」と答弁したばかりだった(同)。

   知事は今月16日にようやく発言を撤回し陳謝した。静岡県公式ホームページには「『富士の国』づくりに向けて」と題したページがある。以下引用する。「富士」の「富」は物の豊かさを、「士」は心の豊かな徳のある人格者を意味しており、その字義をふまえ、我々は物の豊かさと心の豊かさの調和した国をめざして「富国有徳」をもって理念とする。知事には富士山のように仰ぎ見、畏敬の念に打たれる人格者であってほしいと願うのだが。(※写真は、静岡県富士市役所の「フリー写真素材集」より)

⇒19日(月)朝・金沢の天気   くもり