#七尾市

☆復旧は徐々に進むも 罹災証明書めぐり渦巻く不満

☆復旧は徐々に進むも 罹災証明書めぐり渦巻く不満

  元日の能登半島地震から110日が経った。石川県危機対策課のまとめ(4月19日現在)によると、これまで亡くなった人は245人(うち災害関連死15人)、住宅被害は全半壊や一部損壊含めて7万7935棟、避難所生活を余儀なくされている人は市町での1次避難所で2825人、県が用意した避難所(金沢市など)で2232人などとなっている。断水は珠洲市で2830戸、輪島市で1490戸、能登町で260戸の合わせて4580戸に及んでいる。また、県は仮設住宅4600戸を6月末までに完成させるとしている。

  数字だけを眺めると、たとえば珠洲市の断水は当初4800戸(1月4日時点)だったので、遅い早いは別として徐々に復旧している。先日(4月15日)、1930棟の住宅が全半壊した穴水町を訪ねた。仮設住宅の近くを通ると、洗濯物が干してある様子が見えた=写真=。ささやかな光景だが、生活実感が見て取れ、地域の復旧へと動き出しているようにも思えた。

  ただ、これからの復旧・復興に向けて問題となりつつあるのが、罹災証明書をめぐる被災者と自治体の不協和音かもしれない。きょう新聞メディアは能登半島の中心にある七尾市の事例を報じている。同市では住宅3141棟が全半壊、1万312棟が一部損壊となった。行政が出した罹災証明書について、判定に納得できず再調査を求める申請が今月16日現在で2484件(12.8%)にも及ぶ(20日付・北陸中日新聞)。  

  罹災証明書の発行に当たり、それぞれの自治体は損害割合に応じて「全壊」(損傷割合50%以上)、「大規模半壊」(同40%台)、「中規模半壊」(同30%台)、「半壊」(20%台)、「準半壊」(同10%台)、「一部損壊」(10%未満)の6分類で判定している。外観から判定する1次調査に納得がいかない場合は、被災者の立ち会いのもとで、建物の中に入って確認する2次調査を申請できる。ただ、2次調査は建物内を詳しく調べるため、より時間がかかるとされる。

  1次調査に不服が出る背景には、政府の生活再建支援金に大きな差があるからだろう。全壊の場合の支援金は300万円、大規模半壊は250万円、中規模半壊は100万円だが、半壊以下は支給の対象外となる。能登の知人からのまた聞きの話だ。知人の親族の家は一部損壊との判定だった。屋根にブルーシートを施してはいるが、雨の日には家の中で雨漏りがして、住める状態ではない。修繕は順番待ちで、早くて6月と言われ、作業の予定が立っていない。結局、別の親族から紹介された金沢のアパ-トで暮らしている。知人の親族は「このまま金沢で暮らしたい」と言っているそうだ。

  被害が半壊以上ならば公費解体の対象となる。が、準半壊や一部損壊はその対象ではない。先の知人の親族のように一部損壊であっても、雨漏りなどで住めない状態になるケースが多い。新聞記事にあるように、七尾市だけで一部損壊の住宅が1万312棟に及び、2次調査を求める申請が2484件にも達しているというのはまさに、被害認定をめぐる不満や不安が頂点に達しているとも言える。馳県知事は、被災した住宅などの公費での解体・撤去を「来年10月までの完了を目指す」(3月1日会見)としているが、そんな簡単な言葉では片付けられない問題がいよいよ表面化しつつある。

⇒20日(土)夜・金沢の天気    くも

☆能登半島地震 祭りのシンボル「青柏祭でか山」中止に

☆能登半島地震 祭りのシンボル「青柏祭でか山」中止に

   きょう金沢は午前11時で20度の気温だった=写真・上=。そして、金沢地方気象台は北陸地方で「春一番」が吹いたと発表した。急テンポで冬から春へ移ろっている。

           ◇

   能登半島を代表する祭りとして知られ、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている七尾市の青柏祭(5月3-5日)の曳山行事、「でか山」巡行が中止されることになった。新聞メディア各社が15日付で伝えている。   

   地元で「でか山」と呼ばれる山車(だし)の大きさは半端ではない=写真・中=。高さ12㍍だ。ビルにして4階建ての高さになる。そして車輪の直径が2㍍もある。山車としては国内最大級であり、上段に歌舞伎の名場面をしつらえるのが特徴だ。でか山を出すのは「山町(やまちょう)」と呼ばれる府中・鍛冶・魚町の3つの町内会。それぞれ1台の山車が神社に奉納される。(※写真は、七尾市役所公式サイトより)

   報道によると、3町でつくる「青柏祭でか山保存会」が昨夜(14日)総会を開き、でか山巡行の中止を決定した。巡行ルートの道路が地震で大きく破損しており、安全確保ができないとの一致した意見だった。中止は新型コロナウイルス禍の2021年以来3年ぶりとなる。

   でか山巡行はじつにダイナミックだ。何しろ民家の屋根より高いでか山がのっそりと街を練る光景はまさに怪獣映画に出てくるモンスターのようではある。そして、市民が積極的に参加し、にぎやかな雰囲気だ。中でもでか山を引く綱を携える元気な女性グループがいる=写真・下=。粋なスタイルで、なんと表現しようか、オキャンなのである。つまり「おてんば」。祭りを楽しんでいるという表情だ。彼女たちの存在が、この祭りをとてもあか抜けしたイメージにしている。

   今回は中止が決まった。あのオキャンたちには震災にめげず、乗り切っていってほしい。そして、来年また元気な姿を見せてほしいと願うばかりだ。

⇒15日(木)夜・金沢の天気   あめ

★能登半島地震  復旧に向けた動きも徐々に

★能登半島地震  復旧に向けた動きも徐々に

   能登半島地震の発生からきょうで4週間が経った。半島の中ほどに位置し、人口4万7千人と能登で最も大きな自治体である七尾市を訪ねた。同市での最大の震度は6強、中心市街地は6弱の揺れに見舞われ、犠牲者は5人、住宅や店舗の全壊・半壊など被害は1万550棟に及んだ。

   中心街の老舗が並ぶ一本杉商店街を歩くと無残にも倒壊した店も。創業130年の和ろうそくの店で知られる「高澤ろうそく」は、建物が国の有形文化財に登録されているが、今回の地震で軒先が倒壊し、母屋も傾くなど大きな被害を受けた=写真・上=。同店はそれにもめげず、フランス・パリで開かれた世界最大規模のインテリアとデザイン関連の国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」(今月18-22日)に出品し注目を集めたようだ(29日付・NHKニュースWeb版)。復興へのともし火のようなニュースだ。

   七尾市の中心街から北側にある和倉温泉に車で移動した。途中でJR七尾線の線路の修復工事が行われていた=写真・中=。金沢駅から七尾駅は今月22日に運転を再開したものの、七尾駅から和倉温泉駅の間は終日運転を取り止めている。レールのゆがみや架線柱が傾斜している箇所もあり、JRは2月中旬の運転再開を目指して復旧作業を進めている。

   和倉温泉街に入ると、いつものにぎわいはなく、閑散としていた。開湯1200年の歴史がある和倉温泉。建物の損壊などで22の旅館すべてが休業に追い込まれている。「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」(旅行新聞社主催)で通算40回総合1位に輝くなど、「おもてなし日本一」の旅館として知られる「加賀屋」でも入り口に立ち入り禁止の規制線がはられていた=写真・下=。入り口には歪んでいるところもあり、建物を眺めると外壁の一部が落ちてる。内部は揺れで食器なども相当に散乱したに違いない。

   ただ、復旧に向けた動きも始まる。七尾市では1万5100戸が断水となっていたが、水道の送水は順次復旧しており、和倉温泉地区への送水は3月中頃の見通しだ(28日付・七尾市役所公式サイト「水道 県・自エリア別一覧及び復旧状況確認表」)。電気はすでに復旧しており、水道の復旧で温泉街に一日も早く活気が戻ることを祈る。

⇒29日(月)夜・金沢の天気   くもり

★能登が輝く祭りシーズン ウイズコロナで3年ぶり

★能登が輝く祭りシーズン ウイズコロナで3年ぶり

   能登では夏から秋にかけて祭りのシーズンとなる。「盆や正月に帰らんでいい、祭りの日には帰って来いよ」。能登の集落を回っていてよく聞く言葉だ。能登の祭りは集落や、町内会での単位が多い。それだけ祭りに関わる密度が濃い。子どもたちが太鼓をたたき、鉦(かね)を鳴らす。大人やお年寄りが神輿やキリコと呼ばれる大きな奉灯を担ぐ。集落を挙げて、町内会を挙げての祭りだ。その祭りが新型コロナウイルスの感染拡大の影響で2020年と21年は軒並み中止だった。3年ぶりでようやく「復活」のめどがついたようだ。

   能登の祭りは派手でにぎやかだ。大学教員のときに、留学生たちを何度か能登の祭りに連れて行った。中国の留学生が「能登はアジアですね」と目を輝かせた。キリコは収穫を神様に感謝する祭礼用の奉灯を巨大化したもので、大きなものは高さ16㍍にもなる=写真=。輪島塗の本体を蒔(まき)絵で装飾した何基ものキリコが地区の神社に集う。集落によっては、若者たちがドテラと呼ばれる派手な衣装まとってキリコ担ぎに参加する。もともと女性の和服用の襦袢(じゅばん)を祭りのときに粋に羽織ったのがルーツとされ、花鳥風月の柄が入る。インドネシアの留学生は「少数民族も祭りのときには多彩でキラキラとした衣装を着ますよ」と。留学生たちは興味津々だった。

   ところで、3年ぶりに祭り再開とは言え、実施に当たってはコロナ対応にかなり気遣っているようだ。地元紙の記事によると、高さ15㍍のキリコを100人の若衆で担ぎ上げ、6基が街中を練る七尾市の石崎奉燈祭(8月6日)では練り歩く範囲を町中心部の広場に限定して実施するようだ。さらに祭りの2日前に関係者のPCR検査を、当日には抗原検査を実施して陰性の人のみ参加とする。そして、祭り当日の飲酒は禁止となる(今月26日付・北國新聞)。

   祭りに酒はつきものだが、大きなキリコを担ぎ上げる際には勢いをつけるために一升瓶を回し飲みしたりするので、禁止となるようだ。石崎奉燈祭は漁師町の若衆が中心なので、ノンアルコールで勢いはつくのかどうか。

   能登のキリコ祭りは2015年4月に、日本遺産「灯り舞う半島 能登 ~熱狂のキリコ祭り~」に認定され、全国から見学や参加希望の祭りファンが増えていた。また、祭りを開催する側もおそらくこれ以上の中止が続くと、伝統行事の祭礼の継承そのものが痛手となること判断したのだろう。冒頭の「盆や正月に帰らんでいい、祭りの日には帰って来いよ」の言葉が示すように、過疎化が進行する能登にあって、祭りの継続は集落にとって価値観の共有であり、持続可能な地域づくりに欠かせない祭礼イベントなのだ。

⇒27日(月)午前・金沢の天気    はれ時々くもり

☆爆破予告の犯人を推測する

☆爆破予告の犯人を推測する

   きのう23日午後0時40分ごろ、所用で小松市役所を訪れると、ものものしい雰囲気が漂っていた。正面玄関には警察官が数人いて、玄関を入ったロビーでは市の職員数十人が集まっていた。中には、相手の動きを封じ込める「刺股(さすまた)」を手にしている職人も数人いた。市役所の職員に尋ねると、「市役所に爆破予告があり、警察と協力して警戒態勢に入っています。愉快犯だとは思うのですが、それにしても度が過ぎます」と不快感をあらわにしていた。20日に市役所にメールが届き、「23日午後1時半に火薬を積んだトラックを市役所に衝突させる」などと記載されていた。

   地元新聞などメディア各社の報道をまとめると、爆破予告は小松市役所にとどまらず、石川県庁、七尾市役所や金沢市役所にメールで届いていた。県の行政相談ウェッブサイトには20日午後4時13分、「23日に金沢大学、金沢工業大学、市内の高校計9校、小中学校19校を爆破し、県庁や金沢市役所に火薬を詰め込んだトラックを衝突させる」といったメールが届いていた。同様のメールが届いた七尾市役所では、23日に市内の小中学校14校を臨時休校とし、市役所も午後1時から同2時30分まで閉鎖した。また、庁舎の出入り口には除雪用のトラックを並べて警戒にあたった。

   警察は威力業務妨害で捜査をしているようだが、メディアの報道を読むと、爆破予告に一つの特徴があることが分かる。その一つは、県庁、金沢市役所、小松市役所、七尾市役所にメールを送るということは、県内の地勢(金沢、加賀、能登)をよく知り尽くした「バランス感覚」の持ち主だということだ。これは、県外の人では思い浮かばないだろう。さらに、ずいぶんと大人だ。小松市役所に宛てた爆破予告メールでは、小松空港もその対象に入れているので、空港の利用経験があるのではないだろうか。爆破だけでなく、金沢市役所には給食調理場と浄水場への毒物混入、七尾市役所には水道施設への毒物混入も記載されていた。おそらく、犯人はそれぞれの市の浄水場の場所がどこにあるのを知っている人物ではないだろう。

   石川県の地勢と行政、交通インフラ、水道インフラなどを十分に理解した人物。それは、かなり限られてくる。連休中の20日にメールを出したということは、休日でメールがチェックされないことを知った上で、連休明けの23日に一斉に騒ぎが始まることを楽しみたかった。それも、金沢・加賀・能登と県内一斉に動揺する様子を。「騒ぎをプロデュースする感覚」の持ち主、いったい誰だろう。

⇒24日(木)朝・金沢の天気    はれ時々くもり