#プーチン大統領

★「コケの一念」プーチン 「コケにされた」グテーレス

★「コケの一念」プーチン 「コケにされた」グテーレス

   よい表現ではないが、「人をコケにする」という言葉がある。コケの意味を国語辞典で調べると、「こけ(虚仮)」は「愚かなこと」「愚かな人」を意味し、例文として「人をこけにする」は「人をばかにする」の意味。慣用句として「こけの一念」があり、「愚か者が、(たとえ笑われようとも)一つのことをやりとげようと専念すること」。「こけの一念岩をも通す」もある(三省堂『現代新国語辞典』)。

   さらにネットで「虚仮」を検索すると、鎌倉時代の仏教書『歎異抄』の一文が出てきた。「道場にはりぶみをして、なむなむのことしたらんものをば、道場へいるべからず、なんどということ、ひとえに賢善精進の相をほかにしめして、うちには虚仮をいだけるものか」(第十三条)。現代語で「念仏の道場に、禁止事項を書いた紙を貼り、このようなことをした者は、道場に入ってはならない、などということは、ただただ外見には真面目な念仏の行者を装って、内心には虚偽をいだいている者ではないのか」(親鸞仏教センター公式サイト)。

   コケの意味を調べようと思ったきっかけは、国連のグテーレス事務総長が26日、ロシアによる軍事侵攻が始まってから初めてロシアの首都モスクワを訪れプーチン大統領と会談した。話し合いは例の20フィート(約6㍍)離れて向かい合って座るテーブルで行われ=写真、27日付・BBCニュースWeb版=、肝心の停戦については協議にも至らなかった。「平和の使者」であるグテーレス氏はプーチン大統領にコケにされたのではないかとの印象だった。

   念のため、国連公式サイトでグテーレス氏とプーチン氏の会談内容をチェックする。「The President agreed, in principle, to the involvement of the United Nations and the International Committee for the Red Cross in the evacuation of civilians from the Azovstal plant in Mariupol.」(意訳:大統領はマリウポリのアゾフスタル工場地下の民間人の避難に国連と赤十字国際委員会が関与することに原則的に同意した)などと掲載されているものの、停戦交渉についての記述はまったく見当たらない。グテーレス氏はこれまで、ロシアの軍事侵攻は一方的な措置で国連憲章に反していると繰り返し述べてきた。それが、会談ではプーチン大統領に完全に無視されたということだろう。

   話は冒頭に戻る。現在のプーチン大統領のやり様をメディアで見る限り、まさに「コケの一念」ではないだろうか。そして、歎異抄にもあるように「外見には真面目な念仏の行者を装って、内心には虚偽をいだいている者」のようにも思える。ここで、ロシア帝国崩壊の一因をつくった人物の一人とされる「怪僧ラスプーチン」をイメージしてしまう。単なる言葉の連想ゲームではある。

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☆「おそい、まずい、高くつく」国連事務総長のプーチン直談判

☆「おそい、まずい、高くつく」国連事務総長のプーチン直談判

   けさこのニュースに触れた多くの人は、「おそい、まずい、高くつく」と感じたのではないだろうか。NHKニュースWeb版(23日付)によると、国連は、グテーレス事務総長が今月26日にロシアの首都モスクワを訪問し、プーチン大統領と面会すると発表した。報道官は「グテーレス事務総長は、プーチン大統領とラブロフ外相の双方と話をする。銃声をやませ市民を助けるために、いま、どのような措置がとれるのか、議論したいと考えている」と述べた。ウクライナ側ともゼレンスキー大統領との個別会談を調整している。 

   国連のグテーレス事務総長がモスクワに行くべき時期は遅きに失しているのではないか。ロシアが軍事侵攻に踏み切った翌日の2月25日の安全保障理事会で、ロシアのウクライナ侵攻を非難する決議案を採決したが、ロシアが拒否権を行使したため否決された。本来ならば、この時点で行くべきではなかったか。首都キーウ近郊ブチャなどで多数の市民の遺体が見つかり、また、東部ドネツク州クラマトルスクの鉄道駅が弾道ミサイルで攻撃され、避難民ら50人が死亡するなど、多数の民間人が犠牲になっている。このような事態に、むしろ国連の存在意義が問われている。

   「まずい」のは、ロシアとウクライナの停戦交渉が難航する中で、国連トップによる仲介が入ったとしても、ロシア側は優位な条件でないと認められないだろう。プーチン大統領は国連がすでに機能不全の状態に陥っていることを理解している。グテーレス氏がロシア寄りの仲裁案を出さない限り、譲歩は引き出せないだろう。おそらくグテーレス氏のモスクワ滞在中もロシア側の軍事攻撃は止まない。

   グテーレス氏はこれまで、ロシアの軍事侵攻は一方的な措置で国連憲章に反している繰り返し述べてきた。ならばなぜ、国連はウクライナに平和維持軍を派遣しないのか。安保理理事国15ヵ国のうち9ヵ国が賛成すれば、平和維持軍の創設は可能だが、常任理事国5ヵ国(中国、ロシア、アメリカ、フランス、イギリス)の1ヵ国が反対すれば否決される(国連広報センター公式サイト日本語)。つまり、グテーレス氏はプーチン氏に「お願いします」としか言えないのだ。

   仮にグテーレス氏の仲介で停戦協定が結ばれたとしても、問題はウクライナの復興だろう。BloombergニュースWeb版日本語(4月22日付)によると、キーウ経済大学の推計では戦争によるウクライナのインフラ損害額は4月11日時点で800億㌦に達し、経済的損失の総額は5640-6000億㌦と見積もっている。アメリカやヨーロッパはロシア制裁の一環として、ロシア中央銀行の外貨準備6400億㌦の半分程度を凍結しており、これを復興費用に充てるべきという意見もある。

   ウクライナの復興コストはそれを使えばよいと思うが、おそらくロシアは停戦の条件として制裁解除を盛り込んでくるだろう。結局、ロシアは復興には手を出さない。そのコストはアメリカやヨーロッパ、日本が負うことになる。「高くつく」とはこのことだ。

   話は冒頭に戻る。NHKニュースWeb版によると、国連はグテーレス事務総長が26日にモスクワを訪問し、ラブロフ外相と会談するほか、プーチン大統領が開くレセプションに出席すると発表している。つい、そのレセプションそのものにリスクはないのかと勘繰ってしまう。

(※写真は、国連安全保障理事会の会議室。バックの壁画はノルウェーの画家ペール・クロフが描いた「灰から飛び立つ不死鳥」=国連広報センター公式サイト日本語より)

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