#プーチン大統領

☆トルコ・シリア大地震 ロシアが問われる支援か侵攻か

☆トルコ・シリア大地震 ロシアが問われる支援か侵攻か

   トルコ南東部のシリア国境に近いガジアンテプ市付近で6日未明、マグニチュード7.8の大きな地震があった。トルコやシリアの当局によると、両国で確認された死者は5000人以上(7日現在)に上っている。同日午後にも、近くでM7.5の揺れが起きている。救助活動が続く中、死者は今後さらに増すことが確実視されていて、WHOは死者数はその8倍に上る可能性があるとしている(7日付・BBCニュースWeb版日本語)。

   トルコのエルドアン大統領は同国が「この100年で最も甚大な災害」に直面していると述べた。トルコ当局者によると、国内の少なくとも4ヵ所の空港が被害に遭い、建物6200棟余りが倒壊したという。トルコで登録されているシリア難民370万人の多くも被災した(同・BloombergニュースWeb版日本語)。

   今回の一連の地震はトルコ南東部に延びる「東アナトリア断層」で発生した。北側のアナトリアプレートに向かって、南側のアラビアプレートが北上し、断層にひずみがたまる。アメリカ地質調査所(USGS)の分析では、震源の深さはM7.8の地震が17.9㌔、M7.5の地震は10.0㌔と、比較的浅い所で地震が発生したため、震源近くの地表が激しい揺れに見舞われたとみられる(同・読売新聞Web版)。

    震災への各国の救助支援も始まっている。メディア各社の報道によると、日本政府は6日、国際緊急援助隊75人を派遣することを決め、先遣隊の18人がトルコに向け出発。また、警視庁は7日、特殊救助隊に所属する警察官13人と救助犬4頭を派遣することにした。政府の国際緊急援助隊と現地で合流し、捜索や救助に当たる。アメリカのバイデン大統領は6日、エルドアン大統領と電話会談し哀悼の意を表し、トルコはNATOの同盟国でもあり、捜索活動や救助活動を支援すると同時に医療サービスや救援物資を支援を迅速に行うと述べた。

   そして、ロシアのプーチン大統領はシリアのアサド大統領、およびエルドアンと電話会談を実施し、両国に対し救助隊の派遣を申し出た。ロシア大統領府によると、両国はプーチン氏の申し出を受け入れた(6日付・ロイター通信Web版)。ロシア国防省によると、ロシア軍の300部隊がシリアでがれきを片付け、捜索救助活動を支援している(7日付・CNNニュースWeb版)。

   ロシアにとって、トルコとシリアは同盟国でもある。しかし、トルコは2011年の民主化運動「アラブの春」をきっかけに始まったシリア内戦で反体制派を支援し、アサド政権の打倒を主張してきた。そして、トルコはシリア弾圧から逃れた370万人にも上るイスラム教徒の難民を受け入れてきた。ところが、この難民受け入れが重荷となっていた。そこで、ロシアの仲介で関係改善をはかるため去年12月28日、モスクワでトルコとシリアの双方の国防大臣が顔合わせして、シリアの内戦情勢や難民問題について意見交換を行った。次はエルドアン、アサドの両大統領による対談が模索される中での大地震だった。

   以下は私見だ。プーチン大統領はウクライナ侵攻から撤退して、大地震に見舞われた同盟国のトルコとシリアの救援・復興支援に全力を尽くすべきではないか。侵攻と支援の両立は国力が疲弊するだけだ。この際、いさぎよくウクライナから撤退し、トルコとシリアを支援することで地に落ちたロシアの国際評価も高まるのではないか。

⇒7日(火)夜・金沢の天気     はれ

★寒々しい森発言 ウクライナ侵攻で岸田批判のそもそも

★寒々しい森発言 ウクライナ侵攻で岸田批判のそもそも

   国連憲章違反であるにもかかわらず偽旗を掲げてウクライナに侵攻し、国連安保理を拒否権で機能不全に落とし込んでいるロシアに対して世界の多くの国々が疑心暗鬼になっている。これまで中立を掲げてきた北欧のスウェーデンやフィンランドでさえ、NATOの加盟を申請している。ウクライナには負けてほしくないという世界の動向が顕著になっている。

          NHKニュースWeb版(25日付)によると、アメリカのバイデン大統領は25日、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナに対して、アメリカの主力戦車「エイブラムス」31両を供与すると発表した。また、ドイツ政府も、ドイツ製の戦車「レオパルト2」を供与すると発表した。レオパルト2を保有してポーランドやフィンランドなどもウクライナへの戦車供与を表明した。

   現在ウクライナ側が地上戦で使っている戦車は旧ソ連製で、消耗が激しく、砲弾も枯渇気味という。今回、アメリカとドイツが供与する戦車は火砲や機動力面で性能が高く、弾薬補給や修理を継続的に受けられるなどメリットがある(26日付・読売新聞)。日本は軍事支援を行っていないが、越冬のための発電機262台を供与するなど人道や復旧・復興、財政支援を中心に13億㌦の支援を表明している(総理官邸公式サイト「日本はウクライナと共にあります」)。

   こうした欧米や日本のウクライナ支援の動きと裏腹に、気になったのが森喜朗元総理の発言だ。メディア各社の報道によると、東京都内で25日に「日印協会創立120周年記念レセプション」があった。会長に就任した菅義偉前総理があいさつ。岸田総理も来場してあいさつなどして10分ほどで帰った。その後、あいさつに立った森氏はウクライナを支援する日本政府の対応を疑問視し、「こんなにウクライナに力を入れてしまって良いのか。ロシアが負けることは、まず考えられない」と述べた。さらに、「せっかく(日露関係を)積み立てて、ここまで来ている」として、ウクライナに肩入れしすぎれば日露関係が崩壊しかねないとの認識を示した(25日付・共同通信Web版)。

   さらに、「ロシアが負けるってことはまず考えられない。そういう事態になればもっと大変なことが起きる。そういうときに日本がやっぱり大事な役割をしなきゃならん。それが日本の仕事だと思います」(同・朝日新聞Web版)

   森氏の発言は地元・石川県では理解できないことでもない。森氏の父親の故・茂喜氏はロシアのソ連時代に交流関係を築いた先駆者で、町長を務めた根上町(現・能美市)はシェレホフ市と姉妹都市関係を結んだ。茂喜氏の遺言で同市に墓が造られ、森氏が総理だった2001年3月にはイルクーツクで日露首脳会談を行い、当時のプーチン大統領とともに墓参している。父の遺志を引き継ぎ、ロシアとは浅からぬ縁がある森氏はプーチン氏と昵懇の仲と評されている。

   なので、ウクライナ侵攻が勃発したとき、森氏はプーチン大統領を諫(いさ)めに行くべきではないかと地元ではささやかれていた。それもなく、今ごろになって立ち去る岸田総理の背中に向けて石を投げるような今回の発言だ。そして、もしロシアが敗北することになれば、助けるのが「日本の仕事」とまで述べている。実に違和感がある。寒々しい森発言、また物議かもすかもしれない。

⇒27日(金)午前・金沢の天気    くもり   

★北朝鮮の挑発的な弾道ミサイル ロシアの終末的な核兵器

★北朝鮮の挑発的な弾道ミサイル ロシアの終末的な核兵器

   強烈なバトルとなるのか。NHKニュースWeb版(5日付)によると、きのう北朝鮮が中距離弾道ミサイル1発を発射したことへの対抗措置として、韓国軍とアメリカ軍はきょう未明に日本海に向けて地対地ミサイル4発を発射した。韓国軍が公開した映像では、移動式発射台から激しい光と煙を伴って発射されたミサイルが上昇していく様子が確認できる。米韓両軍による北朝鮮への対抗措置は、6月5日に短距離弾道ミサイルを8発発射したときも行っている。

   BBCニュースWeb版(5日付)=写真=も「North Korea fires ballistic missile over Japan」の見出しで日本列島を越えた北朝鮮の中距離弾道ミサイルの発射を伝えている。記事では、「Japan issued an alert to some citizens to take cover.」と、日本でのJアラートによる避難勧告の様子も伝えている。

   それにしても、世界の人々がこの北朝鮮の弾道ミサイルのニュースに接してどのような印象を抱いただろうか。日本を含め東アジアは戦争状態になりつつある、と。おそらく、インバウンド観光などへの影響も今度出てくるのではないだろうか。

   ここは終末期のバトルの様相だ。共同通信Web版(5日付)は、イギリスの『タイムズ(The Times)』の記事を引用して、ロシアのプーチン大統領がウクライナとの国境近辺で核実験を計画し、核兵器を使う意志を示そうとしているとの見方があり、NATOは加盟国に警告した、と報じている。その根拠として、ロシア国防省で核兵器の管理を担う秘密部門に関連があるとみられる列車がウクライナ方面に向けて動き出した、と報じている。

   プーチン氏はウクライナ侵攻についてのテレビ演説(9月22日)で、「西側諸国によるロシアへの核の脅威」と述べ、「反撃すべき兵器を多く持っている」「わが国の領土保全が脅かされるとき、ロシアと国民を守るために、ロシアが持つすべての手段を用いる。はったりではない」と発言していた(同日付・BBCニュースWeb版)。

   「はったりではない」とすれば、いよいよ本気だ。核兵器の使用がヒロシマとナガサキに続き現実となるのか。国連安保理が機能しない、混沌とした21世紀を象徴する展開となるのか。

⇒5日(水)夜・金沢の天気   くもり時々あめ

☆アメリカに渦巻くインフレ プーチンの「はったり」

☆アメリカに渦巻くインフレ プーチンの「はったり」

   アメリカのインフレとロシアの核に世界が翻弄されている。アメリカのCNNニュースWeb版は「Fed goes big again with third-straight three-quarter-point rate hike」の見出しで、FRBが21日まで開いた会合で、0.75%の大幅な利上げを決めたと報じた=写真・上=。3回連続で0.75%という異例の利上げに踏み切り、記録的なインフレを抑え込む姿勢を一段と鮮明にした。

   大幅利上げにより、政策金利の新たな目標は3-3.25%の範囲に決まった。これは世界的な金融危機が発生した2008年以来の高水準。この決定は、インフレと戦うための1980年代以来のFRBの最も厳しい政策だと指摘している。それはまた、住宅や乗用車、クレジットカードなどの借り入れのコストを押し上げることによって、何百万ものアメリカの企業や家計に経済的苦痛を引き起こす可能性が高い、とも述べている。

   今回の決定で円相場は24年ぶりとなる一時1㌦145円台をつけた。3月初めまでは1㌦=115円前後で安定していたが、半年余りで30円も円安が進んだ。日本も翻弄されている。 

   イギリスのBBCニュースWeb版は「Ukraine war: Putin orders partial mobilisation after facing setbacks」の見出しで、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻についてテレビ演説で、予備役など30万人規模の動員を可能とする大統領令に署名した、と報じている=写真・下=。

   さらに、「西側諸国によるロシアへの核の脅威」と述べ、「反撃すべき兵器を多く持っている」、「わが国の領土保全が脅かされるとき、ロシアと国民を守るために、ロシアが持つすべての手段を用いる。はったりではない」と発言。プーチン大統領があらためて核兵器の使用をほのめかしたと報じている。

   ウクライナの猛反撃でロシアの劣勢が顕著となる中、戦況を打開したい考えなのかもしれないが、むしろプーチン大統領の焦りと窮地が浮き彫りになってきた。

   ちなみに、「はったりではない」のBBC記事原文は「It’s not a bluff」と記されている。

⇒22日(木)夜・金沢の天気     はれ

★「天動説」の人々とどう向き合うか

★「天動説」の人々とどう向き合うか

   ロシア人の35%が「太陽が地球のまわりを回っている」と信じている。朝日新聞Web版(8月2日付)は、ロシア政府系の「全ロシア世論調査センター」が発表した調査結果を報道した。国民の科学に対する理解度を測る調査。この天動説を信じる国民の割合は増えていて、この15年間で7ポイント上昇しているという。「初期の人類は恐竜と同時代に生きていた」との回答も21%という。調査は7月9日に電話で行われ、18歳以上の1600人が回答している。

   この記事を読んで、日本では中学の理科で地動説を習うのが、ロシアではこうした宇宙を学ぶ理科教育はないのかと不思議に感じた。何しろ、ロシアはアメリカと組んで国際宇宙ステーション(ISS)を建設するなど、「宇宙大国」のイメージがある。その国の3人に1人が天動説を信じている、とは。

   ただ、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻を見ていると、ロシアを中心に世界は回っている、国境なんてない、という発想のようにも読める。プーチン氏も「天動説」派なのかと憶測したりする。「北海道の権利はロシアにある」と発言したセルゲイ・ミロノフ下院副議長もこの仲間か。

   中国の習近平国家主席も「天動説」派ではないだろうか。南シナ海はオレのものとばかりに島々に軍事基地を造るなどして実効支配。さらに「中国は一つ」なので台湾はオレのものとばかりに、軍事演習として称して台湾周辺や日本のEEZ内に弾道ミサイル11発を放った(今月4日)。そして、「尖閣諸島はオレのもの」と領海侵犯を重ねている。中国の大国意識には、中華は天下(世界)の中心という中華思想がある。脈々と受け継がれるこの思想には「国境」という発想がない。そのうち、沖縄もオレのものと言い出すチャンスを狙っているかもしれない。

   もう一人、北朝鮮の金正恩主席も「天動説」派かもしれない。日本海はオレのもとばかりに、今年に入って前例のないペースでミサイル発射を繰り返していて、3月24日には2017年以来となる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試射も行った。そして、アメリカとの軍事衝突が起これば、北朝鮮は核抑止力を「動員する万全の態勢が整っている」と表明した(7月28日付・ロイター通信Web版日本語)。

   天動説を信じる人たちに、「地動説の科学をコペルニクスやガリレオから学んでください」と進言しても、おそらくもっともらしい反論がかえってくる。「エセ科学を吹聴する人は自分の知識が不十分だと認識する必要がある。あなたこそ学び直しなさい」と逆に説教されそう。

⇒13日(土)午前・金沢の天気    はれ

★安倍元総理国葬にプーチンは顔を出す、出さないの論点

★安倍元総理国葬にプーチンは顔を出す、出さないの論点

   前回ブログの続き。安倍元総理の国葬がきょう閣議決定して、9月27日に日本武道館(東京・千代田区)で執り行われることになった。通算8年8ヵ月の総理在任中はとくに外交分野で存在感を示してきた安倍氏だけに、すでに世界各国から弔問希望の問い合わせが外務省に寄せられているのではないだろうか。

   見方を変えれば、岸田総理にとっては外交力を強化するチャンスとも言える。岸田氏はすでに積極的な外交を展開している。先月下旬にドイツで開催されたG7サミットに出席した後、スペインでのNATO首脳会議に日本の総理として初めて出席した。さらに、岸田氏はアメリカのバイデン大統領との共同記者会見で、来年のG7サミットをアメリカの原爆投下地である広島市で開催すると発表した。その「広島G7サミット」は5月19-21日の開催が正式に決まった。

   岸田氏が初めてNATO首脳会議に参加した大義は、自由主義圏という共有概念のもとで、アメリカやヨーロッパ諸国と軍事的にも連携を強めたいということだろう。ロシアによる偽旗を掲げてのウクライナ侵攻、さらに中国による強引な南シナ海の実効支配と尖閣諸島への領海侵犯を重ねて念頭に置いている。岸田氏は、国葬を外交の舞台として繰り広げることで、安倍氏の遺志を引き継ぐことになると「弔問外交」に意義を見出しているに違いない。

   では、このケースはどうかとふと考えてしまうのは、国葬にプーチン大統領が参列したいと申し込んできた場合、政府はどう対応するのだろうか。報道によると、プーチン氏は今月8日、安倍氏の母、洋子さんと妻の昭恵さん宛てに、「息子であり、夫である安倍晋三氏のご逝去にお悔やみを申し上げます」と弔電を送り、「この素晴らしい人物の記憶は、彼を知るすべての人の心に永遠に残る」と述べた(8日付・朝日新聞Web版)。   

   ロシアのウクライナ侵攻後、日本政府はプーチン氏や親戚、ロシアの富裕層ら507人の資産を凍結。在日ロシア大使館の外交官ら8人を国外追放した。これに対して、ロシア側も、同国に駐在する日本外交官8人を国外退去させ、日本の国会議員384人に入国禁止措置を取った。まさに、日本とロシアは絶縁状態となっている。

   この状況の中で、プーチン氏が「彼を知るすべての人の心に永遠に残る」と参列を希望した場合、日本政府は受け入れるのだろうか。もし受ければ、国際世論は相当ぎくしゃくするに違いない。香港問題やウイグル族への強制労働など中国の人権状況に対する批判から北京オリンピックには主要国の政府関係者が出席しない「外交的ボイコット」が繰り広げられたが、国葬にプーチン氏出席となると、それどころではないだろう。

   逆に受け入れて、ウクライナ侵攻の決着を導き出すという「サプライズ外交」を密かに描いているかもしれない。今後、国葬をめぐる論議はこの点にフォーカスしていくだろう。プーチン氏は顔を出すのか、出さないのか。

(※写真は、2016年12月16日、日露首脳会談後に行われた安倍総理とプーチン大統領による共同記者会見。このとき、安倍氏は「95分間、2人だけで会談を行った」と語っていた=総理官邸、テレビ中継画像)

⇒22日(金)午後・金沢の天気   くもり時々はれ

★「機を逸す」ヒトとコト

★「機を逸す」ヒトとコト

   手を打つべきときのタイミングを逃したのではないか。アメリカのダウ平均株価が800㌦を超える値下げを受けて、きょう14日の日経平均も前日に比べ一時630円安い2万6300円台に落ち込んだ(午前10時過ぎ)。円安も強烈で、きのう外国為替市場で1㌦が135円台前半まで下落した。メディア各社は24年ぶりの円安は、金融不安で「日本売り」に見舞われていた1998年以来と報じている。

   この円売りの背景として上げられるのが、日本とアメリカの金利の差だ。アメリカは物価上昇を抑えるためにFRBが大幅な利上げを行うとの見通しが広まり、日銀が超低金利政策を継続させていて、それぞれの金利差がさらに広がるとの読みから円売りドル買いが加速している。

   ロシアのプーチン大統領もウクライナとの停戦のタイミングを失ったようだ。愛国心に訴えて、ウクライナに侵攻したもののきょうで111日目。むしろ、プーチン氏に誤算が目立つ。日米欧による経済制裁や外資の撤退でロシア国内の経済と雇用環境が悪化することは目に見えている。ソ連崩壊後に匹敵する大打撃を受けることは現実味を増しているようだ。側近の中に、この侵攻にひと区切りをつける提案する人物はいなかったのだろうか。

☆「デフォルト国家」のあがき:2題

☆「デフォルト国家」のあがき:2題

   ウクライナに侵攻しているロシアのプーチン大統領のこの発言は悪あがきの強弁ではないだろうか。BBCニュースWeb版(6日付)=写真=は「Ukraine war: Putin warns over Western long-range weapons」の見出しで、もし欧米諸国がキーウに長距離兵器を送れば、ロシアはウクライナで攻撃する標的のリストを拡大するだろうと、プーチン大統領が国営テレビのインタビューで警告したと報じている。

   もともと、欧米諸国のウクライナ支援は防衛を条件としている。アメリカは最大70㌔離れた目標に命中できる精密誘導ロケット弾を発射するシステム(HIMARS)を供与する計画だが、ロシア国内を攻撃しないという保証をゼレンスキー大統領から得た後で提供する。ドイツもロシア軍の空爆から都市全体を守ることを可能にする防空システム「短距離空対空ミサイル」を提供する(同)。

   BBCの記事を深読みすると、逆にロシアの国内状況が見えてくる。軍事侵攻はきょうで103日目だ。戦争の長期化で苦しくなっている。ロシア国債は国際金融市場でデフォルトとみなされており(6月2日付・NHKニュースWeb版)、金融市場での信用失墜で戦費の調達や軍隊組織そのものが行き詰まっているに違いない。ウクライナに進軍するも、道路に埋められた地雷をチェックする装備が不足しているため多大な損害が出ていて、派兵を拒否するロシア兵が増えている(5月23日付・同)。

   プーチン氏の強弁は国内の経済や軍内部の乱れへのあせりを反映しているのかもしれない。ロシアが脅威を受けた場合はその武器を供与した国を標的にするとは、偽旗作戦の格好の言い分だろう。確たる証拠がなくても、「ウクライナ軍がHIMARSを我が国に撃ち込んだ」とロシアが言い張れば、アメリカに対する攻撃の条件が整う。敵を新たにつくることで国内を引き締めるのは常套手段だ。

   きのう5日午前9時過ぎ、北朝鮮は弾道ミサイルを相次いで発射した。防衛省公式サイト(5日付)をチェックするとミサイルは少なくとも6発。落下したのは北朝鮮東側の沿岸付近および日本海であり、日本のEEZ外だった。きょうの北朝鮮の労働新聞Webなどを検索したが、その記事が見当たらない。5月25日にICBMを含む3発を発射しているが、これも国営メディアは報じていない。これまで発射の成功や核・ミサイル能力の開発を大々的に報じてきたのに、5月4日の弾道ミサイル発射以降は沈黙が続いている。この沈黙は何を意味するのか。

   前日4日に米韓合同演習が行われ、原子力空母「ロナルド・レーガン」が加わった。5日の弾道ミサイルはこれを牽制する狙いがあったとみられるが、それだったらなおさら公表するはずだ。おそらく、国家自体がデフォルト状態に陥っているのではないか。「建国以来の大動乱」と称される新型コロナウイルスとみられる発熱症状の拡大で国全体がロックダウンとなり、それにともなう食糧難と飢え。このような状況下にあるとすれば、国営メディアが弾道ミサイルを報じても、人々は「ミサイルより、食べ物よこせ」とあがき叫ぶだろう。最高権力者はそれが怖いのではないか。

⇒6日(月)夕方・金沢の天気    あめ  

★プーチン演説から読む「時代錯誤」な感覚

★プーチン演説から読む「時代錯誤」な感覚

   きのう9日、ロシアのプーチン大統領は赤の広場で開催した、第二次世界大戦での対ドイツ戦勝記念日の式典で演説を行った=写真、9日付・BBCニュースWeb版=。10分間ほどの演説。サイトで見る限りだが、プーチン氏の顔は腫れていて、病的な表情だと感じた。演説内容の日本語訳が新聞・テレビメディア各社のニュースサイトで掲載されている。読んで浮かんだのは「時代錯誤」という言葉だった。

   ウクライナ侵攻は自分たちを守るための行動だったと正当化している点が気になった。「われわれの責務は、ナチズムを倒し、世界規模の戦争の恐怖が繰り返されないよう、油断せず、あらゆる努力をするよう言い残した人たちの記憶を、大切にすることだ。だからこそ、国際関係におけるあらゆる立場の違いにもかかわらず、ロシアは常に、平等かつ不可分の安全保障体制、すなわち国際社会全体にとって必要不可欠な体制を構築するよう呼びかけてきた」(9日付・NHKニュースWeb版)

   世界を敵に回すような表現だが、これは事実だろうか。「去年12月、われわれは安全保障条約の締結を提案した。ロシアは西側諸国に対し、誠実な対話を行い、賢明な妥協策を模索し、互いの国益を考慮するよう促した。しかし、すべてはムダだった。NATO加盟国は、われわれの話を聞く耳を持たなかった」(同)

   史実をひっくり返すような主張も理解できない。「欧米は、この千年来の価値観を捨て去ろうとしているようだ。この道徳的な劣化が、第2次世界大戦の歴史を冷笑的に改ざんし、ロシア嫌悪症をあおり、売国奴を美化し、犠牲者の記憶をあざ笑い、勝利を苦労して勝ち取った人々の勇気を消し去るもととなっている」(同)

   冒頭の「時代錯誤」と感じる点は、ウクライナのゼレンスキー政権をネオナチ政権と呼び、その侵攻を「祖国の未来のため、ナチスを復活させないための戦い」と強調している点だ。相手をナチス呼ばわりすれば、武力侵攻などすべてのことが正当化されるとの主張だ。そして、自ら始めた戦争を人ごとのように語る理不尽さ、これが時代錯誤なのだ。実に無益な行為だ。

⇒10日(火)夜・金沢の天気    はれ

★世界のど真ん中で岸田総理「核兵器なき世界」訴えるとき

★世界のど真ん中で岸田総理「核兵器なき世界」訴えるとき

   岸田総理は先月26日、地元広島県の平和記念公園で原爆死没者慰霊碑に献花を行った。その際、平和記念資料館でアメリカのエマニュエル駐日大使と面談を行った。岸田氏は、「核兵器のない世界」の実現に向けて日米で協力していきたい旨を述べた。これに対し、エマニュエル氏は核なき世界の実現に向け日米間の連携をさらに深めたいと発言した(外務省公式サイト)。岸田氏は広島1区での当選10回、「ヒロシマ」の思いを知り尽くしている。エマニュエル氏にとっては重い発言だったに違いない。

   2015年5月に行われた核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議で当時外務大臣だった岸田氏の演説。「70年前、私の故郷広島において、一発の原子爆弾が13万人以上の尊い命を奪いました。残された者も後遺症に苦しみ、多くの者がその後命を落としました。『被爆体験は思い出したくないが、2度と繰り返さないために忘れないようにしている』、これは多くの被爆者の思いです。被爆地広島出身の外務大臣として、私は、被爆地の思いを胸に、この会議において『核兵器のない世界』に向けた取組を前進させる決意です」(岸田文雄公式サイト)。2016年5月、当時のアメリカのオバマ大統領の広島訪問が実現した際に岸田氏は原爆ドームなどについて通訳を介さずに英語で説明を行っている

   ロシアによるウクライナ侵攻が始まって70日ほどになるが、プチーン大統領は先月、4月27日の連邦国会で、ウクライナをめぐりロシアにとって戦略的脅威となる国には「電光石火」で報復すると欧米に警告した(29日付・BBCニュースWeb版日本語)。4月20日には、10以上の核弾頭の搭載が可能な新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)をカムチャッカ半島の標的地に落としている。明らかに核兵器の使用を示唆したものだろう。このロシアの動きは、核兵器の拡散を防止することが核兵器の廃絶につながるとの考えのもとで1970年に発効したNPTをその前提から瓦解させるものではないだろうか。

   「ヒロシマ」の岸田総理が世界にその存在感を示すべきときが来た。ニューヨーク、パリ、ロンドンなどで、持論の「核兵器のない世界」の実現に向けて訴えるべきだ。今月22日に来日するアメリカのバイデン大統領と広島・長崎でロシアに向けて「核で威嚇するな、NPTを壊すな」と強く主張すればよい。

(※写真は2016年4月に開催された広島でのG7外相会合=岸田文雄公式サイト)

⇒2日(月)夜・金沢の天気    くもり