#プーチン大統領

★「まるで独裁者の宴」詭弁を弄するロシア大統領

★「まるで独裁者の宴」詭弁を弄するロシア大統領

    ロシアがまた詭弁を弄している。イスラエルとパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスの戦闘激化を受け、国連安全保障理事会は今月13日、非公開で対応を協議した。 会合ではロシアが人道的停戦を要求する決議案を配布。ロシアのネベンジャ国連大使は会合後、報道陣を前に「安保理はこの流血に終止符を打つため行動しなくてはならない」と主張。決議案は全ての暴力とテロ行為を非難し、人道支援の円滑な提供を求める内容で、ネベンジャ国連大使は全国連加盟国に対し共同提案国になるよう呼び掛けた(14日付・時事通信Web版)。

   ロシアが国連安保理で他国の停戦を呼びかけ、一方で自国はウクライナへの侵略行為を続けている。まったく説得力のない決議案で、共同提案国になる必要はない。以下、憶測だが、ネベンジャ国連大使の決議案はウクライナ侵攻から他国の目を逸らし、自らを正当化する策ではないか。おそらくこの決議案はプーチン大統領の命令によるものだろう。

   ウクライナのゼレンスキー政権をネオナチ政権と呼び、その侵攻を「祖国の未来のため、ナチスを復活させないための戦い」と強調し、侵攻を始めた。相手をナチス呼ばわりすれば、武力侵攻などすべてのことが正当化されるとの詭弁だ。国連安保理での決議案も、自ら始めた戦争を棚に上げて他国の戦争を非難する。まさに、プーチン大統領の「独裁者の宴」のようだ。    

  ICC(国際刑事裁判所)はことし3月、プーチン大統領とマリヤ・リボワベロワ大統領全権代表について、ウクライナ侵攻で占領した地域の児童養護施設などから少なくとも何百人もの子どもたちロシアに連れ去ったとして、国際法上の戦争犯罪の疑いで逮捕状を出した(3月18日付・NHKニュースWeb版)。同日のCNNニュースWeb版日本語によると、ゼレンスキー大統領はICCの逮捕状について、「我が国の法執行当局で進行中の刑事手続きでは、ウクライナの子ども1万6000人以上が占領者(ロシア)によって強制連行されたことが既に確認されている」と述べている。   

   一方、ロシア側は戦闘地域から子どもを「保護している」と主張している。保護を理由に子どもたちをロシアに連れて行く行為。まるで、子どもたちを「戦利品」のように扱っている。

(※写真は、第二次世界大戦での対ドイツ戦勝記念日式典で演説を行ったプーチン大統領。相手をナチス呼ばわりして武力侵攻を正当化した=2022年5月9日付・BBCニュースWeb版)

⇒14日(土)夜・能登の天気    くもり

★プリゴジン氏「墜落死」はプーチン大統領の「粛清」なのか

★プリゴジン氏「墜落死」はプーチン大統領の「粛清」なのか

   ロシアには「チーストカ(чистка、粛清)」の歴史がある。あのソビエト連邦時代の最高指導者だったスターリン(1878-1953)は国内の反革命や不正者を徹底的に弾圧したことで歴史上で知られる。粛清は、ある意味で敵の脅威をつくり出すことで国民を恐れさせ、団結させることにあるとされる。たった一日とは言え、私兵を率いて政府軍に盾突いたプリゴンジ氏はプーチン大統領にとっては、いわゆる「反逆者」だ。はたしてプーチン氏は彼を許すだろうか。

   その結末が、プリゴジン氏が搭乗していた自家用ジェット機が今月23日、モスクワ北西のトベリ州で墜落し、乗客乗員10人全員死亡したことだ。ジェット機はモスクワからサンクトペテルブルクに向かっていた。

   この事故について、アメリカの複数のメディアは機内に仕掛けられた爆発物が爆発したことによって墜落した可能性があると伝えている。24日付の「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、「Early Intelligence Suggests Prigozhin Was Assassinated, U.S. Officials Say」の見出し=写真=で、アメリカ政府当局者の初期段階の分析として、機内に仕掛けられた爆発物が爆発したか、あるいは破壊工作がなされたことによる墜落と見られると報じている。また、イギリス政府当局者のコメントとして、ロシアの連邦保安庁(FSB)が関与した可能性が高い、と伝えている。

   「ニューヨーク・タイムズ」は、欧米の政府当局者の初期段階の分析としてジェット機内に仕掛けられた爆発物が有力な原因だとする一方、不純物が混ざった燃料が爆発を引き起こした可能性もあると報じている。

   この事故について、プーチン大統領は24日、ウクライナ東部ドネツク州の親ロシア派の代表と会談した際、「犠牲者の家族に哀悼の意を表したい」「プリゴジン氏のことは1990年代初めからよく知っている。複雑な運命を背負った男だ。人生で重大な過ちを犯したが、私の求めには必要な結果も達成した。才能のある人物だった。彼はきのう、アフリカから戻ったばかりでここで何人かの関係者と会っていた」などと述べ、プリゴジン氏の死亡を認めた(25日付・NHKニュースWeb版)。

   以下は憶測だ。プーチン大統領はプリゴジン氏の遺体があったとしてもおそらく遺族には引き渡さずに、完全に消去するのではないだろうか。ロシアの粛清方法は、墓などをつくらせずに、地上に存在したことを消すことだ。

⇒25日(金)夜・金沢の天気   はれ

☆粛清へと向かうのか 「プリゴジンの乱」の余波

☆粛清へと向かうのか 「プリゴジンの乱」の余波

   たった一日とは言え、私兵を率いて政府軍に盾突いたプリゴンジはプーチン大統領にとっては、いわゆる「反逆者」だ。はたしてプーチン氏は彼を許すだろうか。ロシアには「チーストカ(粛清)」の歴史がある。あのソビエト連邦時代の最高指導者だったスターリン(1878-1953)は反革命や不正者を徹底的に弾圧したことで歴史上で知られる。粛清は、ある意味で敵の脅威をつくり出すことで国民を恐れさせ、団結させることにあるとされる。プーチン大統領も国民の団結の「道具」として、プリゴジンの粛清を行うのではないか、との読みもある。(※写真は、6月25日付・BBCニュースWeb版)

   たとえは適切でないかもしれないが、ロシアにはもう一つの粛清の方法がある。それは墓などをつくらず、地上に存在したことを消去することだ。第二次世界大戦で、ヒトラー率いるドイツ軍は1945 年5月 8 日に無条件降伏したが、ヒトラーは降伏前の4月30日に自決する。遺体はヒトラーの遺言によって焼却されたものの、焼け残った遺体は当時ベルリンを占領していたソ連軍によって東ドイツのマクデブルクに運ばれ、ソ連諜報機関の事務所前の舗装の下に埋められた。1970年になって、ネオナチの崇拝目的になることを怖れ、遺体を再び焼却して遺灰をエルベ川に流したとされる(Wikipedia「アドルフ・ヒトラーの死」より)。

   この粛清の方法はロシアだけではない。第二次大戦後、極東軍事裁判(東京裁判)で死刑判決を受けた元総理の東條英機ら7人のA級戦犯の遺骨もそうだった。アメリカ軍は1948年12月23日、東京・巣鴨プリズンから遺体を運び出し、横浜市内の火葬場で焼かれ、遺骨は別々の骨つぼに納められた。そして、小型の軍用機に載せられ、上空から太平洋に散骨されている。

   また、ニューヨークの同時多発テロ(2001年9月11日)の首謀者とされたオサマ・ビン・ラディンに対する斬首作戦が2011年5月2日、アメリカ軍特殊部隊によって実行された。パキスタンのイスラマバードから60㌔ほど離れた潜伏先を奇襲して殺害。DNA鑑定で本人確認がなされた後、アラビア海で待機していた空母カール・ビンソンに遺体は移され、海に水葬された。

   遺骨が遺族に返還され、墓がつくられることになれば、その墓が将来、聖地化や崇拝の地になることを想定しての処置なのだろう。「死をもって罪をあがなう」という発想ではなく、存在証明を許さないのだ。プリゴジンの処遇をめぐっての書き出だしだったが、話がずいぶんと逸れた。

⇒29日(木)夜・金沢の天気    くもり時々あめ

★宗教画を強制移設 「聖戦」勝利はプーチンの願い

★宗教画を強制移設 「聖戦」勝利はプーチンの願い

          ロシアをめぐる騒々しいニュースは、「プリゴジンの乱」だけではないようだ。BBCニュースWeb版(今月5日付)は「Ukraine war: Holy Trinity painting on display in Moscow」の見出しで、ロシアでもっとも有名な宗教画とされる「聖三位一体」がプーチン大統領の命令で、国立美術館からモスクワ大聖堂に移され展示されたことが物議を醸している、と伝えている=写真=。

   宗教画は「イコン(Icon)」と称され、聖三位一体のイコンは15世紀初頭に描かれたもので、旧約聖書の一場面でとされる。16世紀にモスクワ教会はこれをイコンと定めて保管してきたが、ロシア革命の後は宗教活動が認められなくなったため、1929年から国立トレチャコフ美術館で所蔵されていた。それをプーチン大統領がロシア正教の総本山であるモスクワ大聖堂に強制的に移設し、6月4日から一般公開している。

  ただ、このイコンは壊れやすく、美術館ではこれまで温度と湿度が制御された部屋に置かれ、修復チームがメンテナンスを行ってきた。まさに、「it was like a person in intensive care(集中治療室にいる人のような)」状態だった(BBCニュースWeb版)。それほど破損が危ぶまれる作品を、プーチン氏はなぜ移設を命令したのか。

   ロシア正教の総主教はウクライナ侵攻を「holy war.(聖戦)」と称して、プーチン氏を支持してきた。そして、総主教は「This icon returns to the Church at a time when our Fatherland is confronting massive enemy forces」と信者に語っている。つまり、戦争中にイコンを大聖堂に戻すとロシアが勝利する、と。

   BBCはこう締めくくっている。「To make Russians believe that God is on their side. And to make them forget that it was their country that invaded Ukraine.」。プーチン大統領の狙いは、イコンがここにある限り敵国に勝てるとロシア人に信じさせる。それは、ウクライナを侵略したのはロシアであることを彼らに忘れさせるため、なのかもしれない、と。

   モスクワ大聖堂に展示されている聖三位一体のイコン。プーチン氏はイコンが奇跡をもたらすと本当に信じているのだろうか。

⇒27日(火)夜・金沢の天気    くもり時々あめ

★たった1日の「プリゴジンの乱」でもプーチンは許すか

★たった1日の「プリゴジンの乱」でもプーチンは許すか

   BBCニュースWeb版(25日付)はそのことを、「Prigozhin was adamant this was “a march for justice”, not a coup. Whatever it was, it came to an end very fast.」と伝えている=写真=。プリゴジンは、これはクーデターではなく「正義のための行進」であると断固として主張した。それが何であれ、それは非常に速く終わった。BBCはじつに簡潔な表現で伝えている。

   ウクライナへの軍事侵攻をめぐり、ロシア国防省を非難する民間軍事会社ワグネルは24日朝にロシア南西部のロシア軍の拠点に入った。これに対し、プーチン大統領は同日午前、緊急テレビ演説を行い、ワグネルの行動は「我が国民を後ろから刺す」「裏切り」と非難した。これに対し、ワグネル創設者のプリゴジン氏は、この行動はロシア国民のためで、「正義のための行進」だと述べ、モスクワへと北上を続けた。

   それが一転、部隊を引き返す。プリゴジン氏は24日夜(日本時間の25日午前2時すぎ)にSNSの音声メッセージで、「われわれは正義の行進に出た。しかし、ロシア人の血が流れることへの責任を自覚し、部隊を拠点に戻すことにした」と、流血の事態を避けるための決断だと述べた(25日付・NHKニュースWeb)。

   一連のニュースに注目していて、プリゴジン氏は反乱者なのか英雄なのかと思っていたが、どうやらただの反乱者のようだ。メディア各社の報道をまとめると、ロシアと同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ大統領がプリゴジン氏と直に協議を行い、プリゴジン氏がルカシェンコ大統領の申し出を受け入れた。プリゴジン氏をベラルーシに亡命させる。ワグネルの部隊はロシア国防省に組み入れる。プーチン大統領は緊急テレビ演説で「国家反逆罪と見なす」「全員処罰すると」と述べていたが、ロシア大統領府の報道官は、プリゴジン氏ならびにワグネルの戦闘員に対して、「罪は問わない」と表明した。

   以下は憶測だ。プリゴジン氏は現政権にたった一日とは言え、反旗を翻した反乱者であることは事実である。この「プリゴジンの乱」をプーチン大統領は許すだろうか。今後プリゴジン氏はベラルーシに逃れるとは言え、将来、同調する勢力が現われ再び反旗を翻すとも限らない。プーチン氏はそう考えるのではないか。覚悟なき反乱の報い、その顛末はどうなる。

⇒25日(日)夜・金沢の天気    くもり

☆ドローン攻撃が本当なら 「恥ずべきはクレムリン」

☆ドローン攻撃が本当なら 「恥ずべきはクレムリン」

   モスクワのクレムリン上院宮殿の建物の上にある旗ざおの近くでドローンが撃ち落された映像が世界のニュースになっている。メディア各社の報道によると、ロシア大統領府は3日、「2機の無人機が夜、首都モスクワのクレムリンにある大統領府を攻撃しようとした。無人機は軍や特殊部隊によってレーダーで無力化され、クレムリンの敷地内に破片が落下した。被害は出ていない」と発表した(NHKニュースWeb版)。

   また、ロシア大統領府は無人機による攻撃の試みはウクライナのゼレンスキー政権によるものだとして、「ロシアの大統領を狙ったテロ行為だ」と主張。そのうえで「ロシアは適切な時期と場所で報復する権利がある」と報復措置を取るとしている(同)。

   これに対して、ウクライナ大統領のスポークスマンは「ゼレンスキー大統領が以前に何度も述べたように、ウクライナは他国を攻撃するのではなく、自国の領土を解放するために自由に使えるあらゆる手段を使用している」と述べ、ドローンによるクレムリンへの攻撃を否定している(CNNニュースWeb版)。

   アメリカのブリンケン国務長官はワシントン・ポスト紙主催の会合で、何が起きたかは「全く分からない」とし、事実関係を確認すると表明。「ロシアの言うことをうのみにはしない」とも述べ、ロシアの主張に懐疑的な見方を示した(共同通信Web版)。クレムリンでのドローン撃墜がロシアの偽旗作戦(自作自演)かどうかを判断する決定的な証拠は見当たらないものの、だからと言って、証拠が見当たらなければそれが直ちにウクライナによる攻撃であることの証拠にはならない。 むしろ、証明すべきはロシア側の責任だろう。

   上記に関連して、BBCニュースWeb版(4日付)の論調はロシア側の矛盾を突いている=写真=。「Kremlin drone attack is highly embarrassing for Moscow」の見出しで、クレムリンが言っていることが真実であり、プーチン大統領を狙ったものだとすれば、それはクレムリンにとって「非常に恥ずかしい事件」ではないのか、と質している。要約すると、記事の写真にもあるようにクレムリンの空域は厳重な警備下にある。なぜ、ロシア軍はクレムリンに飛来するまでこのドローンを迎撃しなかったのか、大きな疑問が残る。むしろ、この矛盾を解明すべきではないのか、と。

           確かに、ウクライナのドローンが突然、クレムリンに現れたとすれば、それはなぜなのか、ロシアが証明しなければ、「やはり偽旗か」と世界のロシアに対する不信の念は一層深まる。

⇒4日(木)午後・金沢の天気    はれ  

☆ウクライナの子どもたちを「戦利品」のように扱うロシア

☆ウクライナの子どもたちを「戦利品」のように扱うロシア

   ICC(国際刑事裁判所)は先月3月17日、ロシアのプーチン大統領とマリヤ・リボワベロワ大統領全権代表について、ウクライナ侵攻で占領した地域の児童養護施設などから少なくとも何百人もの子どもたちロシアに連れ去ったとして、国際法上の戦争犯罪の疑いで逮捕状を出した(3月18日付・NHKニュースWeb版)。

   同日のCNNニュースWeb版日本語によると、ウクライナのゼレンスキー大統領はICCの逮捕状について、「我が国の法執行当局で進行中の刑事手続きでは、ウクライナの子ども1万6000人以上が占領者(ロシア)によって強制連行されたことが既に確認されている。だが、強制移送者の実数ははるかに多い可能性がある」と述べ、「そうした犯罪行為はテロ国家の最高指導者の指示なしには不可能だ」との見方を示した。

   では、連れ去れた子どもたちはロシアでどのように扱われていたのか。AFP通信などで断片的に伝えられているニュースを総合すると、以下の様になる。子どもたちは東部ハルキウや南部ヘルソン両州などから不法に連れ去られていった。子どもたちの多くは、里子(養子)になるか孤児院に行くかを自分で判断することになる。

   一方、ロシア側は戦闘地域から子どもを「保護している」とし、家族と再会できるよう手続きを進めていると主張している。クライナの孤児380人がロシアの里親に引き渡された。養子になった子どもはウクライナ国籍を維持するとともに、ロシア国籍も与えられた。

   また、施設に入ると、朝6時に起床し、体操のあと朝食。その後は勉強をしたり、ゲームをしたりする時間もあるようだ。時にはダンスパ-ティーやモスクワ市内の見学もあるようだ。ただ、このケースはロシア政府が「慈悲深い救援者」と宣伝するプロパガンダに使われている。実際は子どもたちに再教育や軍事訓練などが課せられているとの見方もある。

   保護を理由に子どもたちをロシアに連れて行く行為そものが、子どもたちを「戦利品」のように扱っている。これはICCが指摘する戦争犯罪というより、ジェノサイド(民族抹殺)の行為に相当するのではないだろうか。

(※写真は、第二次世界大戦での対ドイツ戦勝記念日式典で演説を行ったプーチン大統領。相手をナチス呼ばわりして武力侵攻を正当化した=2022年5月9日付・BBCニュースWeb版)

⇒10日(月)午後・金沢の天気     はれ

☆際立つ「カントリーリスク」中国・ロシア・日本

☆際立つ「カントリーリスク」中国・ロシア・日本

   中国とロシアで、いわゆる「カントリーリスク」が際立ってきた。証券業界などでよく使われるこの言葉は、投資する国や地域において、政治や経済、社会情勢などの変化に起因するリスクのことを指す。テロ行為や紛争が起こり、政権交代によって政策や法律が変わりやすい国々はカントリーリスクが高いということになる。

   ある意味で中国はカントリーリスクの高い国と言える。NHKニュースWeb版(3月27日付)によると、中国外務省の報道官は同日の記者会見で「日本人1人に対し、法律に基づいて捜査している。この日本人はスパイ活動に関わり、中国の刑法と反スパイ法に違反した疑いがある」と、拘束して取り調べを行っていると述べた。拘束されたのは製薬会社「アステラス製薬」の現地駐在の50代の男性社員。中国側は、具体的にどういう行為が法律に違反したかなど、詳しい内容については明らかにしていない。男性は駐在期間を終え、帰国間際だったとの報道もある。(※写真・上、中国・北京の天安門)

   反スパイ法だけでなく、中国には国家安全法や国会情報法、国防動員法といった「法のリスク」がある。よく指摘されるのは、国防動員法の場合は中国政府が有事と判断すれば、中国のあらゆる組織と人的資本、資金などが政府の統制下に置かれる。「あらゆる組織」には中国に進出している日本企業なども含まれる。中国政府が台湾の統一を「有事」と判断した段階でこの法が適用される。投資目的に中国に進出した企業にとってリスクは高まっているのではないだろうか。

   そして、ロシアのカントリーリスクは「プーチン・リスク」だ。ロイター通信Web版日本語(3月31日付)によると、ロシア産業貿易省は同日、トヨタ自動車のサンクトペテルブルク工場が国営の自動車・エンジン中央科学研究所(NAMI)に譲渡されたと表明した。同省は「今回の合意は、工場の建物・設備・土地の所有権の完全な譲渡を意味する」と表明した。トヨタ自動車サイト(同日付)も、NAMIへの譲渡による移管を完了したと発表している。譲渡額は明らかにしていない。(※写真・下、2016年12月16日、日露首脳会談後の安倍総理とプーチン大統領による共同記者会見=総理官邸、NHK中継画像)

   この背景には、ウクライナ侵攻がある。トヨタ自動車サイトによると、ロシアに経済制裁が科されたことにより、ロシア国内からの部品調達が滞り、去年3月に同工場の操業を停止。その後、稼働再開に向けて生産ラインの保全など行っていたが、侵攻が予想外に長引き、9月に生産事業そのものを停止した。同工場が稼働したは2007年12月だった。ソ連崩壊(1991年)で混乱に陥った政治経済を安定軌道に乗せたと定評があったプーチン大統領がウクライナ侵攻で国際批判を浴びることになるとは、当時は想像すらできなかっただろう。それにしても、譲渡した工場で何が生産されるのだろうか。

   ところで、日本にはカントリーリスクはないのか。ある。自然災害(地震、津波、台風など)というリスクだ。東日本大震災では原発事故によるリスクが世界的に知れ渡った。そして、中国やロシア、北朝鮮などに囲まれるポジション(立地)もリスクとみなされているかもしれない。

⇒2日(日)午後・金沢の天気     はれ

☆ウクライナ侵攻1年 世界の流れをどう読む=下

☆ウクライナ侵攻1年 世界の流れをどう読む=下

   ロシアによるウクライナ侵攻からきょう24日で1年となった。ロシアが掲げる「偽旗(にせはた)=false flag」は世界から不信感を買った。偽の国旗を掲げて敵方をあざむいたり、被害者を装ったり、降参したふりをして相手のスキを突いたりと相手方を騙す意味で使われる。

          ~ディープフェイク vs ITアーミー 戦いはデジタル戦に~

   去年3月11日にロシアの要請で国連安全保障理事会の緊急会合が開かれ、ロシアの国連大使は「ウクライナで渡り鳥やコウモリ、シラミなどを利用した生物兵器開発計画があり、テロリストに盗まれ使われる危険性が非常に高い」「生物兵器の開発にはアメリカが関与している」「同様の研究は悪名高い旧日本軍731部隊も行った」と一方的に主張し、まさに偽旗を掲げた。

★ウクライナ侵攻1年 世界の流れをどう読む=上

★ウクライナ侵攻1年 世界の流れをどう読む=上

   ロシアによるウクライナへの侵攻は今月24日で1年を経過することになる。終わりの兆しが見えない。そして、世界はいったいどこに向かって流れていくのか、和平なのか大戦なのか、不透明な潮流を読んでみる。

   ~国連安保理は機能不全 ロシアは核兵器かざし孤立深める~

   このテーマを描いたとき、「国連安全保障理事会は機能しているのか、なぜその役割を果たさないのか」という素朴な疑問が浮かぶ。ロイター通信Web版日本語(23日付)によると、 国連のグレテス事務総長は22日に開催された国連総会緊急特別会合で、ロシアによるウクライナ侵攻は国連憲章および国際法に違反していると述べた上で、「核兵器を使用するという暗黙の脅迫を耳にしている。いわゆる核兵器の戦術的使用は全く容認できない。今こそ瀬戸際から退くべきだ」とロシアの脅迫を非難した。

   23日に開催される緊急特別会合では、決議案を採択する予定で、ロシアに対し軍の撤退および敵対行為の停止を再び求めるとみられる。国連総会での決議に法的拘束力はないが政治的な影響は大きい(同)。では、国連の安全保障理事会はどう機能しているのか。(※写真・上は国連安全保障理事会の会議室=国連広報センター公式サイトより)

   国連安保理は日本時間21日午前、北朝鮮の相次ぐミサイル発射を受けた緊急会合を開いた。日米欧などは北朝鮮の安保理決議違反を厳しく非難したが、中国とロシアは米韓の軍事演習などが緊張を高めていると北朝鮮を擁護。安保理として一致した対応は取れなかった(21日付・東京新聞Web版)。ロシアによるウクライナ侵攻も同様で、ロシアは常任理事国で拒否権があるため、安保理は法的な拘束力がある決議を何一つ成立させていない。

   国連に対する評価は世界的に低下している。ピュー・リサーチ・センターが去年6月に発表したアメリカ国内の調査で、「国連の影響は弱まっている」が39%だった。「変わらない」が46%、「強まってる」が16%だった。ウクライナ侵攻を仕掛けたロシアに非難声明すら出せない国連安保理への憤り、そして無力感ではないだろうか。

   ロシアのプーチン大統領はさらに戦況を煽る宣言を出した。NHKニュースWeb版(23日付)によると、ロシア大統領府は「祖国防衛の日」と呼ばれる軍人をたたえるロシアの祝日にあわせて、プーチン大統領の動画のメッセージを公開。この中で、「ことし、大陸間弾道ミサイル『サルマト』の実戦配備を行う。また極超音速ミサイル『キンジャール』の大量製造を継続していく。そして、海上発射型の極超音速ミサイル『ツィルコン』の大量供給を始める」と述べ、ロシア軍が保有する陸や海そして空軍の核戦力を増強していくと宣言した。

   プーチン大統領は21日に行った年次教書演説でも、アメリカとの核軍縮条約「新START」の履行停止を表明。ウクライナへの軍事支援を強めるアメリカなどを牽制する狙いとみられる(同)。ロシアは核兵器をかざし、国際的にますます孤立を深めている。

⇒23日(木)午後・金沢の天気      はれ