#プラットフォーマー

☆「シャドー・バニング」は是か非か

☆「シャドー・バニング」は是か非か

   前回のブログで「プラットフォーマー」であるIT大手「グーグル」とフランスのメディアとの確執について述べた。昨年のアメリカ大統領選をめぐっても大統領とプラットフォーマーとの確執が続いた。

   2020年5月、ツイッター社は当時のトランプ大統領が、カリフォルニア州知事が進める大統領選挙(11月)の郵便投票が不正につながると主張した投稿について、誤った情報や事実の裏付けのない主張と判断し、「Get the facts about mail-in ballots」とタグ付けしてファクトチェックの警告を発した。これに対しトランプ大統領は「ソーシャルメディアプラットフォームが共和党の見解を全面的に封じ込めている。これら企業を厳しく規制もしくは閉鎖する」とツイートした(2020年5月27日付・ロイター通信Web版日本語)。 

   同じ5月にミネソタ州ミネアポリスで、アフリカ系アメリカ人の男性が警察官に首を押さえつけられて死亡する事件が起き、抗議活動が広がった。トランプ大統領がツイートした内容のうち、「略奪が始まれば(軍による)射撃も始まる」との部分が個人または集団に向けた暴力をほのめかす脅迫に当たるとツイッター社は判断し、大統領のツイッターを非表示とした。削除ではなく、「表示」をクリックすれば読める。すかざす、大統領はツイートで「“Regulate Twitter if they are going to start regulating free speech.”」(言論の自由を規制するなら、ツイッターを規制する)と同社を牽制した。

    アメリカでは、SNS各社は通信品位法(CDA:the Communications Decency Act )230条に基づき、ユーザーの違法な投稿をそのまま掲載したとしても責任は問われない。だからといって、ヘイトスピーチなどを野放しにしておくわけにはいかないというのがSNS各社のスタンスだ。それがピークに達したのが、ことし1月、大統領選に敗れたトランプ氏の支持者らによるアメリカ連邦議事堂への襲撃事件だった。トランプ氏が暴徒を「愛国者だ」などとメッセージを投稿したことから、ツイッターやフェイスブック、グーグルなど各社は公共の安全が懸念されるとしてトランプ氏のアカウントを相次ぎ凍結した。

   そして半年後、トランプ氏とプラットフォーマーとの確執は再び火を噴く。BBCニュースWeb版(7月7日付)によると、トランプ氏は自分は検閲の被害者だとして、グーグル、ツイッター、フェイスブックの3社ならびに各社の最高経営責任者(CEO)を提訴した=写真=。同氏は今回の訴訟について「シャドー・バニング(ソーシャルメディアの運営側が望ましくないと判断したアカウントを公の目に触れにくくする措置)や黙らせる行為、ブラックリスト化や追放、削除といった行為の停止を求める」と述べ、ソーシャルメディア企業と民主党を激しく非難。さらに、「この国の歴史上、これほど責任を免除され守られた人はいない」と批判し、「通信品位法」230条の改正を訴えた。

         そもそも、ソーシャルメディアを政治の舞台で活用したのは、ある意味でトランプ氏だった。2017年1月の大統領就任前からゼネラル・モーターズ社やロッキード社などに対し、ツイッターで雇用創出のために自国で製造を行えと攻撃的な「つぶやき」を連発した。ホワイトハウスでの記者会見ではなく、140文字で大統領の方針を発信するという前代未聞のやり方だった。政治家が競ってツイッターなどソーシャルメディアの活用を始めたのは、トランプ氏が先導したとも言える。

    前回のブログで書いたフランスにおける著作権指令とグーグルとの交渉問題、そして、トランプ氏が訴える「通信品位法」230条の改正と巨大IT企業への提訴。デジタル時代の「あだ花」なのか、あるいは「転換点」になるのか。

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★著作権・商標問題 フランスの苛立ち

★著作権・商標問題 フランスの苛立ち

   紙面やネットでニュースをチェックしていて、おそらくフランス政府は相当に苛立っているのだろうと察した記事を2つ。「シャンパン」と言えば、フランスのシャンパーニュー地方で製造されたスパークリングワインを指すが、日本国内では発泡性ワインそのものを「シャンパン」と言ったりする。フランスではワインの法律(原産地呼称管理法)に規定された条件(生産地、ブドウ品種と栽培方法、伝統的な製造方法、アルコール度数など)、いわゆる「シャンパン製法」を満たして初めて「シャンパン」の商標が与えられる。

   ところが、ロシアではロシア産のスパークリングワインだけに「シャンパン」を名乗ること認める法律が発効し、騒動となっている。フランスのAFP通信(7月6日付・日本語版)によると、この新法は今月2日、プーチン大統領の署名で成立した。フランス産のボトルにフランス語で「シャンパン」と表記することは引き続き可能だが、ボトルの後ろにキリル文字(ロシア語文字)で「スパークリングワイン」と明記することが義務付けられた。

   新法により、フランスの高級ワイン大手「モエ・ヘネシー」はロシア市場への出荷を一時停止しているが、ドンペリニヨンなどの輸出を新法に従って再開すると発表している。また、シャンパン生産者らはロシアの法律の変更を求める外交的な働きかけをするよう嘆願書を政府に提出した。フランスは原産地名称の保護に関するリスボン協定に加盟しているが、ロシアは加盟していない(同)。

   フランスが苛立っているニュースをもう一つ。報道機関がコストをかけてニュースや情報を発掘する。ところが、「プラットフォーマー」であるIT大手はメディアのニュースを「ただ見せ」して広告ビジネスで稼いでいる。AFP通信(7月14日付・日本語)によると、フランスの競争評議会(公正取引委員会)は今月13日、EUの著作権規則に基づいたニュースコンテンツ使用料をめぐり、メディア企業との「誠実な交渉」を怠ったとして、アメリカのIT大手「グーグル」に5億ユーロ(650億円)の制裁金を科すと発表した。(※写真はフランス競争評議会の公式ホームページより)

   EUはデジタル化時代に対応するため、2019年4月に旧来の著作権ルールを見直し、著作権市場がより機能する公平なルールを整備する「著作権指令」を発効した。在日欧州連合代表部の公式ウエッブマガジンの解説によると、「Google、Yahoo!、AOLなどのオンラインサービスプロバイダーが新聞や雑誌の記事を使用する際、記事の発行元が報酬を受けられる新しい権利。例えば、『Googleニュース』で記事が使われた場合、発行元はその記事使用料を要求できる」としている。

   著作権指令に基づき、フランスの競争評議会は昨年4月、メディア各社がグーグルは十分な対価を支払わずに検索結果に記事や動画を表示していると批判したことを受け、グーグルに対しメディア側との「誠実な交渉」を命じた。しかし、同9月、AFP通信などメディア側が使用料支払いに向けた交渉の進展をグーグルが阻んでいるとして、競争評議会に苦情を申し立てていた。

   メディア側との「誠実な交渉」をなぜグーグルが阻んでいるのか。以下憶測だ。世界の検索の9割をグーグルが占め、膨大な検索データを広告ビジネスに活用している。問題となっているのは、検索で表示される記事の使用料についてだ。ニュースを検索すると、記事の断片が出てくる。グーグルはこの断片を「スニペット(snippet)」と称している。報道機関側はこのスニペットの段階ですでに著作使用料が発生しているとしている。

   これに対して、グーグルは「ニュース・ショーケース」のサービスをイギリスやフランスなどで始め、通常のグーグルニュースやネット検索とは別に、契約した報道メディアが提供する記事の見出しや概要を掲載している。グーグルの狙いは、このニュース・ショーケースでの契約料をもってすべての記事の著作使用権とみなしたいのだろう。なので、著作権指令に従う立場より、むしろ個別にメディア各社と契約を結びたいのではないだろうか。指令に従わないグーグルに対して、フランスの競争評議会は苛立ちを深めている。

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