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★テレビ局という「ムラ社会」の発想と人権社会の感覚の隔たり

★テレビ局という「ムラ社会」の発想と人権社会の感覚の隔たり

かつて民放テレビ局に籍を置いたことがある自身の読みだが、一連のフジテレビ問題、これは民放の企業風土の問題そのものではないだろう。ある意味で民放はタテ割り社会で、たとえば番組のプロデューサーが番組制作に関わる人選(ディレクターや出演スタッフ)や制作会社の選定など担う。キー局のゴールデン番組ともなれば、おそらく数百人の規模ではないだろうか。なので、スタッフはプロデューサーには逆らえない。番組では絶対的な権力者でもある。言葉は適当でないかもしれないが、番組という「ムラ社会」だ。このムラの中では長(おさ・プロデューサー)に視聴率という数字を献上する従者(ずさ・ディレクター)がいて、中には数字を上げるために「やらせ」や「捏造」という悪さをする者もいる。

今回のフジテレビの一連の問題で焦点となっているのが、ムラの長が女衆(女性社員)に「晩酌の付き合いをせい」と半ば迫ったことだろう。長とすれば、同じムラという共有意識があれば、付き合いは当たり前という身勝手な思惑があったのだろう。そのムラ社会の発想と人権社会の感覚の隔たりが見えてきたのがフジテレビ問題だった。繰り返しになるが、これは民放の企業風土の問題なので、ほかのキー局や系列局などでも起こりうる、あるいは起きていることなのかもしれない。

フジ・メディア・ホールディングスはきのう(31日)、元タレントの中居正広氏と女性とのトラブルをめぐる第三者委員会の調査報告書を公表した。その様子をフジ系のローカル局で視ていた。委員長の弁護士は手厳しく指摘していた。人権侵害の疑いがあるにもかかわらず、フジテレビの社長ら幹部が「プライベートな男女間のトラブル」と即断したことが「対応を誤る大きな要因となった」「経営判断の体をなしていない」と断じていた。また、情報公開のあり方についても、2024年12月に公開した一部報道に対する会社見解について否定すべき部分は否定するという方針ありきで、「問題があったと言わざるを得ない」と指摘した。(※写真は、フジテレビ社長の生中継での記者会見の様子)

午後8時からのBSフジ「プライムニュース」では、冒頭で女性キャスター2人が「反町キャスターからは『状況に鑑み、番組の出演を見合わせたい』との申し出がありました。BSフジとプライムニュースではこれを受け、今夜は2人でお伝えします」と述べていた。第三者委員会の報告書では、反町氏が総理官邸キャップや政治部デスクだった2006年から2008年にかけて、後輩の女性記者2人に対するハラスメント行為があったと報じられている。食事の誘いを女性から断わられると、この女性に対して原稿が遅いなどと叱責のメールを部内共有で送信するなどしていたようだ。その後、キャスターとなり、報道局解説委員長、取締役なども務めることになる。フジテレビのムラ社会がよく見えてくる。

⇒1日(火)夜・金沢の天気  くもり時々あめ

☆「煮え切らない」フジのやり直し会見 なぜ10時間もかかったのか

☆「煮え切らない」フジのやり直し会見 なぜ10時間もかかったのか

  経営の根幹が揺らぐフジテレビの首脳陣の記者会見をテレビで視聴した=写真=。午後4時に始まった会見は日付をまたいで午前2時23分に終了。10時間におよぶ異例の会見だった。休憩は開始から6時間が経過しようとした午後10時前に1回取っただけだったので、「トイレは大丈夫なのか」と視聴する側が案じたほどだった。

  やり直し会見だった。今月17日にフジテレビ社長が出席して会見を開いたものの、会見に出席するメディアを定例会見のメンバーに限定し、また、テレビメディアでありながら動画撮影を禁じた。このことがむしろ火に油を注ぐことになり、スポンサー企業などからCM出稿の差し止めなどが相次いだ。こうした批判を受け、フジはきのう27日午後4時から、あらためて会見を開催した。週刊誌やネットメディアの記者も参加し、会場には191社437人が詰めかけた報じられている。動画撮影も可能だった。

  会見でむしろ気になったのはフジ側というよりメディア側だった。質疑応答では、司会者が「プライバシーの観点からぜひご配慮お願いします」と繰り返し述べていた。会見のテレビ中継とネット配信はプライバシー侵害や保護の観点から、メディア各社が必要な編集を行ったうえで最低10分遅れでの放送・配信のルールで行われたようだ。ただ、質疑応答には記者のヤジや怒声が聞こえ、けんか腰の雰囲気が感じられた。

  会見ではフジの会長と社長の2人が同日付で引責辞任すると発表した。社長は「人権侵害が行われた可能性のある事案に対し、社内での必要な報告や連携が適切に行われなかった。自身が人権への認識が不足していた」と謝罪した。

  会見の印象をひと言で言えば、「煮え切らない」という印象だった。タレントの中居正広氏の女性とのトラブルが週刊文春で報道され、その後フジの編成部長が絡んでいたことや、女性アナも被害者として証言していると報じられていた。社長と会長はこの週刊誌報道を否定していたが、なぜ当事者とされた編成部長が会見に出てその報道を否定しなかったのか。編成部長はテレビ局の番組編成を統括する会社幹部でもあり、顔出して堂々と否定すれば会見に10時間もかからなかったのではないか。

⇒28日(火)夜・金沢の天気    あめ

★侮辱罪の厳罰化とテレビ視聴率の因果関係~参院選まで3日

★侮辱罪の厳罰化とテレビ視聴率の因果関係~参院選まで3日

   きょう7日から改正刑法の一部が施行され、公然と人を侮辱した行為に適用される侮辱罪に、「1年以下の懲役・禁錮」と「30万円以下の罰金」を加えられ、SNS上での誹謗中傷など、悪質な行為への対処がこれまで以上に厳しくなる。

   侮辱罪の厳罰化に向けてこれまで法務省は去年4月、匿名の投稿者を迅速に特定できるように改正プロバイダー責任制限法を成立させ、裁判所が被害者からの申し立てを受けて、SNSなどプラットフォーム事業者に投稿者の氏名や住所などの情報開示を命じることができるようにするなど着々と準備を進めていた。

   この厳罰化のきっかけとなったのが、フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』(2020年5月19日放送)に出演していた女子プロレスラーがSNSの誹謗中傷を苦に自死した事件(同5月23日)だった。

   この事件では、警視庁は侮辱罪の公訴時効(1年)までに、ツイッターで複数回の投稿があったアカウントの中から2人の男を書類送検した。このうち、大阪府の20代の男は女子プロレスラーのツイッターに「性格悪いし、生きてる価値あるのかね」「いつ死ぬの?」などと投稿を繰り返した。東京区検は去年3月、この男を侮辱罪で略式起訴し、東京簡裁は男に科料9000円の略式命令を出した。即日納付され、男はこれ以上罪を問われることはなかった。侮辱罪の罪の軽さが問題視されていた。

   SNS上のこうした侮辱は厳罰化すれば治まるのだろうか。煽った側のメディアの責任は問われないのだろうか。放送より先の3月31日にフジテレビは動画配信サービス「Netflix」で番組を流し、SNS上で炎上した。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及んだ。ところが、5月19日の地上波放送では、問題のシーンをカットすることなくそのまま流した。これが、SNS炎上をさらに煽ることになり、4日後に自ら命を絶った。つまり、結果的にSNS上の誹謗中傷を煽ったはテレビ局側ではなかったか。

   これはテレビ業界全体に言えることだが、よいにつけ悪いにつけSNS上での反響の大きさが視聴率のアップにつながると勘違いしている節がある。表現の自由や報道の自由に水を差すつもりは一切ない。侮辱罪が厳罰化したことの意味を捉えて、テレビ業界は番組によるSNS上での誹謗中傷を相互にチェックする、あるいは情報を共有する組織・システムを構築する必要があるだろう。

(※写真は2020年5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事)

⇒7日(木)夜・金沢の天気    はれ

☆番組の「仕込み」が放送倫理違反になるとき

☆番組の「仕込み」が放送倫理違反になるとき

   テレビ業界ではこれを「仕込み」という。番組側が用意した人物を街角でまたまた見かけた人のように装いインタビューしたり、番組側が用意した質問を視聴者から寄せられた質問として装って番組で紹介することだ。制作者側からすると、番組の流れがスムーズに行くように仕込む、つまり事前に用意しておく。これがなければ「番組に穴があく」ことになる。逆に視聴者側からすれば、こうした仕込みは番組が情報番組であれば、「テレビによる世論操作」と映る。

   きょうの朝日新聞(13日付)によると、テレビ朝日の情報番組「大下容子ワイド!スクランブル」で、番組側が用意した質問を視聴者からと偽った問題があり、BPOの放送倫理検証委員会は12日、放送倫理違反の疑いがあるとして審議することを決めた。番組では、視聴者の質問に答えるコーナーでことし3月以降、番組側が用意した質問を放送当日に視聴者から寄せられた質問のように偽って紹介したことが計117件あった。10月に番組スタッフの指摘で発覚し、番組内で謝罪した。担当した子会社のチーフディレクターを降職とするなど、関係者が処分された。コーナーは10月18日から放送を休止している。

   テレビ朝日公式ホームページの「大下容子ワイド!スクランブル」=写真=をチェックすると、10月21日付「お知らせ」欄で「不適切な演出について」と題して概要を説明している。この「視聴者からの質問にお答えするコーナー」は月曜日から木曜日の番組終了間際に通常2分ほど放送していた。質問を用意したのは番組のチーフディレクターである社外スタッフ(「テレビ朝日映像」所属)。チーフディレクターは、放送に向けた準備のため、それまでに寄せられた意見や質問を踏まえて放送前に想定質問案を作っていた。今年3月以降、その想定質問を視聴者からの質問として放送に使っていた。。これまで放送した質問のうち約2割が想定質問たっだ。

   先ほどBPOの公式ホームページもチェックしたが、審議入りについての記事はアップされていない。番組の仕込み問題については、BPOがことし1月18日付でフジテレビの番組について意見書を公表している。クイズ番組「超逆境クイズバトル!99人の壁」でエキストラを数合わせて出演させていた問題。番組は、得意分野のクイズで全問正解して賞金100万円獲得を目指すチャレンジャー1人と、それを阻む99人が早押しで競う。ただ、実際には99人を集められず、最も多い回で28人、延べ406人のエキストラを参加させていた(2018年10月から25回放送分)。意見書では、「1人対99人」というコンセプトを信頼した多くの視聴者に対して「約束を裏切るもの」と指摘して放送倫理違反と判断した。

   今回審議入りが決まった「ワイドスクランブル」は最新のニュースや時事、社会、経済問題など広範囲に扱う情報番組だ。自身もよく視聴している。番組サイドが用意した「想定質問」を視聴者からの質問として取り上げていたとなれば、「世論誘導」「世論操作」ではないかと不信感が募る。明らかに放送倫理違反だろう。内部告発によって発覚したことは評価できるが、それにしてもテレビメディア全体への信頼を損ねたことは間違いない。

⇒13日(土)午前・金沢の天気       はれ

☆女子プロレスラーの死から1年 テレビの制作現場は

☆女子プロレスラーの死から1年 テレビの制作現場は

   フジテレビが放映した、共同生活をテーマにしたリアリティ番組『テラスハウス』(2020年5月19日放送)に出演していた女子プロレスラーがSNSの誹謗中傷を苦に自死した事件(同5月23日)から1年が経った。警視庁は侮辱罪の公訴時効(1年)までに、ツイッターで複数回の投稿があったアカウントの中から2人の男を書類送検。また、女性の母親からの「過剰な演出」による人権侵害の訴えを受けて、BPO放送人権委員会は6回に及ぶ審理の結果を見解としてまとめ、ことし3月3日付で公式ホームページで公表している。

   問題のシーンは、シェアハウスの同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れて縮ませたとして、「ふざけた帽子かぶってんじゃねえよ」と怒鳴り、男性の帽子をとって投げ捨てる場面だ。放送より先に3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNS上で炎上し、この日、女子プロレスラーは自傷行為に及んだことをSNSに書き込んだ。番組スタッフがこのSNSを見つけ、本人に電話をするなどケアを行っていた。ところが、5月19日の地上波放送では、問題のシーンをカットすることなくそのまま流した。これが、SNS炎上をさらに煽ることになり、4日後に自ら命を絶った。

   BPOの見解は、怒鳴りのシーンは少なくとも相当程度には真意が表現されたものと理解でき、番組制作による演出ではないとして、人権侵害などは認めなかった。しかし、自傷行為など精神的な健康状態への配慮が欠けていたとして、フジテレビ側に放送倫理上の問題があったとの見解を示した。

   書類送検とBPO見解で、この問題は一件落着したのだろうか。問題の根底には、番組制作サイドに「数字」へのこだわりがあったのではないか。自身の経験知でもあるが、テレビの番組制作者は視聴率にこだわる。地上波放送の場合、視聴率の評価基準である全日時間帯は6時から24時であり、この番組は深夜0時以降の放送で視聴率の対象外だった。では、『テラスハウス』の制作者は何の数字にこだわったのか。以下憶測だ。

   リアリティ番組は出演者のありのままの言動や感情を表現し、共感や反感を呼ぶことで視聴者の関心をひきつけ、番組のSNSアカウントにフォロワーの獲得数としてそのまま数字として表れる。視聴率に代わる評価指標のバロメーターだ。数字を獲得すれば、深夜番組から格上げして、プライムタイム(午後7時-同23時)入りも可能だ。制作スタッフはここを狙っていた。なので、ツートされたコメントの内容より、数の多さにこだわった。

   そう考えれば、動画配信サービスのSNS炎上で女子プロレスラーの自傷行為があったことにも配慮せず、放送でそのまま番組を流した理由も分かる。番組はこの事件をきっかけに打ち切りとなった。彼女の死から1年、この事件を教訓にテレビ局の制作現場は変わったのだろうか。(※写真は2020年5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事から)

⇒24日(月)午前・金沢の天気     くもり

☆フジテレビは「課題のデパート」なぜ

☆フジテレビは「課題のデパート」なぜ

   フジテレビは「課題のデパート」なのか。また新たな問題が浮上している。フジ・メディア・ホールディングスは、フジテレビなどを傘下に持ち、放送法の「認定放送持株会社」として認定を受けている。放送局が報道機関として社会に大きな影響力を持つことなどから、外国の法人などが持つ議決権の比率を20%未満に抑える外資規制が定められているが、フジ・メディア・ホールディングスでは2012年9月末から2014年3月末にかけて外国の法人などの比率が20%以上となり、外資規制に違反した状態になっていた(4月8日付・NHKニュースWeb版)。

   単純な話、たとえば中国資本の企業が20%以上の株を持って、フジテレビに「中国に友好的な番組をつくれ」と要求してきたとすると、フジはおそらく呑むしかない。友好的な番組とはニュース番組も含めてのことだ。さらに、その中国資本の企業が番組CMのスポンサーとなって、意に反する番組をつくらせないとなったら、実質的にフジを乗っるような状態になってしまう。もちろん、これはフジテレビだけの問題ではない。すべてのテレビ局に言えることだ。何しろテレビ局は出資者とスポンサーには頭が上がらない。

   外資規制の違反があったからフジテレビの放送免許の取り消しをと言っている訳ではない。人気番組をさまざまに持つテレビ局の電波を停止することは視聴者の楽しみを奪うことになる。それにしても、冒頭で述べたようになぜフジに問題が集中しているのか。NHKと民放連によって設置された第三者機関「BPO」のサイトをチェックすれば、一目瞭然だ。審議案件はフジテレビが圧倒的に多い=写真=。

   BPOの放送倫理検証委員会で審議されたことは、フジが2019年5月から2020年5月まで14回にわたり実施した世論調査で、調査会社の社員が電話をしていないにもかかわらず「電話をした」として架空の調査データが入力されていた問題。また、同局のクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』は100人の参加者から選ばれた解答者1人が、残る99人を相手にクイズで競う番組コンセプトだが、参加者が不足した際、エキストラを出演させて補っていた。

   そして、放送人権委員会が取り上げたのは、このブログでも何度かテーマとした、女子プロレスラーの自死が問題となったリアリティ番組『テラスハウス』(放送:2020年5月19日未明)についての審理だった。

   ではなぜ、放送倫理や人権が問われる問題が発生するのか。女子プロレスラーの自死の問題について放送人権委員会が提起した問題は以下だった。「女性の精神状態を適切に理解するために専門家に相談をするなどのより慎重な対応が求められたのではないか」「制作責任者(チーフプロデューサー)、あるいはその他、社内の然るべき立場にある者の間ではこのことが深刻に受け止められていなかったのではないか」と指摘した。

   女性の自傷行為のケアをしていたのはフジテレビの局員ではなく、番組制作会社のスタッフだった。番組の制作現場は、局の制作プロデューサーやディレクター、制作会社ディレクター、孫請け会社の制作スタッフなど二重、三重の構造になっている。そのため、局の制作責任者は末端にまで目が行き届かず、現場任せの状態になっている。これは憶測だが、外資のチェックも社外スタッフに任せていたのではないだろうか。

   フジの業務の下請け化は番組制作にとどまらず、経理や人事、営業などさまざまなセクションに及んでいるのだろう。人件費の圧縮に腐心したツケが回ってきたのだ。もちろん、これはフジだけの問題ではない、テレビ局全体が問われる話ではある。

⇒9日(金)夜・金沢の天気    はれ

★女子プロレスラー自死問題、TVメディアの禍根は残る

★女子プロレスラー自死問題、TVメディアの禍根は残る

   日本人には禍根を新年度に持ち越さないという暗黙の共通認識のようなものがある。その意味で3月は出来事の決着を促す「判断月」と言ってよいかもしれない。一つの判断が示された。このブログでテレビメディアの演出問題として取り上げてきた、女子プロレスラーの自死とリアリティ番組『テラスハウス』(フジテレビ制作、2020年5月19日放送)について、BPO(放送倫理・番組向上機構)放送人権委員会は30日付で見解をまとめ、公式ホームページで公表した。

   問題となったシーンは、シェアハウスの同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れて縮ませたとして怒鳴り、「ふざけた帽子かぶってんじゃねえよ」と男性の帽子をとって投げ捨てる場面だ。放送より先に3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNS上で批判が殺到した。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及び、それをSNSに書き込んだ。番組スタッフがこのSNSを見つけ、本人に電話連絡をとってケアを行っていた。ところが、フジテレビは5月19日の地上波の本放送で、SNSで批判された問題のシーンをカットすることなく、そのまま流した。女子プロレスラーは5月23日に自ら命を絶った。 女性の母親は娘の死は番組内の「過剰な演出」による人権侵害としてBPOに申し立てていた。

   放送人権委員会は9月15日に審理入りを決定、6回の審理を重ね今月30日付で委員会決定の通知と見解の公表を行った。審理の論点は7点。「本件放送に過剰な演出はあったか」「予告編や未公開映像、副音声が視聴者に対する過剰な煽りとなっていなかったか」「帽子のシーンを台本によらない自然な行動として放送したことに、人権侵害や放送倫理上の問題はあるか」「出演にあたって締結した同意書兼誓約書が、女性の自由な意思表明や行動を過度に抑制する要因となったか」「Netflix 配信後の経緯において、本件放送を行ったこと自体に人権侵害や放送倫理上の問題はあるか」「Netflix 配信後の、フジテレビの女性への対応に問題はなかったか」「女性が亡くなった後のフジテレビの対応に問題はあるか」

   自身が注目していたのは、上記の「Netflix 配信後の経緯において、本件放送を行ったこと自体に人権侵害や放送倫理上の問題はあるか」の点だ。5月19日の地上波の放送でもSNS炎上が予想されたにもかかわらず、なぜ動画修正の措置などを講じなかったのか。追い詰められた出演者とテレビ局がどう向き合ったのか、だ。

   この点についての委員会の見解はこうだ。「出演者の身体的・精神的な健康状態に放送局が配慮すべきことは社会通念上当然のことであり、場合によっては契約の付随義務等として法的な義務ともなるのであって、出演者へのこうした配慮は放送倫理の当然の内容」と、放送倫理上の問題と判断した。その上で、「女性の精神状態を適切に理解するために専門家に相談をするなどのより慎重な対応が求められたのではないか」「制作責任者(チーフプロデューサー)、あるいはその他、社内の然るべき立場にある者の間ではこのことが深刻に受け止められていなかったのではないか」と指摘している。

   女性の自傷行為のケアをしていたのはフジテレビの局員ではなく、番組制作会社の制作スタッフだった。番組の制作現場は、局の制作プロデューサーやディレクター、制作会社ディレクター、孫請け会社の制作スタッフなど二重、三重の構造になっている。そのため、局の制作責任者は現場に目が行き届かず、ある意味で現場任せになりがちな構図がある。

   もう一つの問題が数字だ。地上波放送の場合、視聴率の評価基準である全日時間帯は6時から24時であり、この番組は深夜0時以降の放送で視聴率の対象外だった。リアリティ番組は出演者のありのままの言動や感情を表現し、共感や反感を呼ぶことで視聴者の関心をひきつけ、SNSコメントとしてそのまま現れる。共感であれ反感であれ、コメント数の多さが番組の視聴率に代わる評価指標のバロメーターとなる。そこで、テレビ的な発想で、SNSコメントの数を稼ぎたかったのではないか。結果的に、5月19日の地上波放送はそのまま流された。

   女性は享年22歳、プロレスラーとして知名度を得て、プロ意識も身につけただろう。縮んだコスチュームに怒りを感じて自身が演じたシーンであるがゆえに、テレビ局側に映像の修正を求めることはおそらくしなかった、できなかった。しかし、女性には「テラハから出てけ」「反吐が出そう」「ゴミ女」「出ていけクソブス女」「てか死ねやくそが」「花死ね」といった容赦ない誹謗中傷(BPO見解)が降り注がれた。耐えきれなかったのだろう。プロの自覚と誹謗中傷、このジレンマは相当なものであったことは想像に難くない。しかし、このジレンマの辛さは、現場任せの制作責任者とは共有されることはなかった。

   女子プロレスラーをツイッターで中傷したとして東京区検は30日、大阪府の20代の男を侮辱罪で略式起訴した。東京簡裁は同日、男に科料9000円の略式命令を出し、即日納付された(3月31日付・朝日新聞)。女性の自死問題の件はこれで決着したのだろうか。3月を期して収束したのだろうか。テレビ局の禍根は残したままではないだろうかか。(※写真は2020年5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事から)

⇒31日(水)午後・金沢の天気     はれ

☆放送倫理と人権問題、テレビが問われること

☆放送倫理と人権問題、テレビが問われること

   まるで不祥事のデパ-ト、そんな印象を抱いた。このブログでも何度か事例を引用しているBPO(放送倫理・番組向上機構)の公式ホーページをチェックすると、フジテレビの案件が目白押しになっている=写真=。BPOは、放送の言論と表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を守るため、放送への苦情や放送倫理上の問題に対応するNHKと民放による独自の組織だ。

   BPOがトップで掲載している項目は、フジテレビが実施した世論調査で架空の回答が入力され、報道番組で伝えていた問題が結審したとの内容だ。フジは2019年5月から2020年5月まで14回にわたり実施した世論調査で、調査会社の社員が電話をしていないにもかかわらず「電話をした」として架空の調査データが入力されていた。調査を委託した会社が再委託した、いわゆる「孫請け」の会社だった。問題の発覚を受け、同局は架空の調査をもとに報じたニュース(18回分)を取り消した。この問題を審議してきた放送倫理検証委員会はきのう10日に結審した。

   意見書によると、NHKと民放が定めた放送倫理基本綱領などに照らし合わせ、「世論調査の業務を委託先の調査会社に任せたままにし、架空データが含まれた世論調査結果を1年余りにわたり報じたもので、市民の信頼を大きく裏切り、他の報道機関による世論調査の信頼性に影響を及ぼしたことも否めない」として、この件は重大な放送倫理違反に当たると判断した。SNSを主舞台とする、いわゆる「ネット世論」が拡大するなど、多種多様な情報が錯綜している。世論調査の信頼性を確保するためには「世論調査の外部への発注から納品、データの分析、ニュース原稿作成に至るプロセスは、それ自体が取材活動であり、担当者にはジャーナリストとしての目線が欠かせない」と述べ、調査の現場に行く、数字をチェックする、緊張感のある対応を求めている。

   同じく放送倫理違反があったと結論づけられた審議案件。同局のクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』は、100人の参加者から選ばれた解答者1人が、残る99人を相手にクイズで競う番組コンセプト。だが、参加者が不足した際、エキストラを出演させて補い、クイズへの解答もさせていなかった。コンセプトを逸脱した状態は2018年7月から1年余り続き、告発を受けて2020年4月に同局は番組ホームページ上で事実関係を公表するとともに謝罪していた。放送倫理検証委員会の審議はことし1月18日に結審した。

   意見書によると、番組制作にあたってプロデューサーが6人配置されていたにもかかわらず、お互いが「見合う」カタチになっていて、エキストラによる補充の常態化に警鐘を鳴らすスタッフがいなかった。欠員は想定外でなく想定内として番組制作の数日前にエキストラの補充を手配業者に発注していた。「視聴者との約束を裏切るものであった」と放送倫理違反を結論づけている。

   3つ目が、女子プロレスラーの自死が問題となったリアリティ番組『テラスハウス』(放送:2020年5月19日未明)についての審理だ。問題となったシーンは、同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れたとして怒鳴り、男性の帽子をはたく場面だ。放送より先に3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNSコメントで批判が殺到した。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及び、それをSNSに書き込んだ。フジの番組スタッフがこのSNSを見つけ、本人に電話連絡をとっていた。ところが、フジは5月19日未明の放送で、SNSで批判された問題のシーンをカットすることなく、そのまま流した。女子プロレスラーは5月23日に自ら命を絶った。 女性の母親は娘の死は番組内の「過剰な演出」による人権侵害としてBPOに申し立てた。

   放送人権委員会はことし1月19日までに3回の審理を重ねている。これまでの関係者のヒアリングで、母親はSNS上で誹謗中傷が集中したあと娘が自傷行為を行ったことは、「SOSを出していたのであり、フジテレビが適切に対応していれば娘が命を落とすことはなかった」などと訴えた。また、女子プロレスラーの知人は当時の様子について、女性とのやり取りから制作スタッフに不信を抱いていたようだと感じたなどと述べた。一方、フジテレビ側は、社内調査を行った結果から、番組に過剰な演出はなく女性を暴力的に描いたことはないとして主張した。

   審理が始まって新たな展開があった。警視庁は12月17日、女子プロレスラーを中傷する投稿をSNSで行ったとして、侮辱容疑で大阪府の20代の男を書類送検した。ツイッターアカウントに「性格悪いし、生きてる価値あるのかね」「いつ死ぬの?」などと投稿し繰り返し、公の場で侮辱した疑い(2020年12月17日付・時事通信Web版)。

   フジに限らず、番組の不祥事は制作スタッフの緩みやスキを突いて出てくる。放送倫理と人権問題として放送する側が問われる。緊張感を持って制作しなければ、番組は立たない。

⇒11日(祝)午後・金沢の天気     はれ    

☆『テラスハウス』、故意に「侮辱」を煽ったのか

☆『テラスハウス』、故意に「侮辱」を煽ったのか

   フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』に出演した女子プロレスラーが自死した問題で新展開があった。読売新聞Web版(12月16日付)が報じている。警視庁は近く、ツイッターで女子プロレスラーを中傷したとして、大阪府の20歳代の男を侮辱容疑で書類送検する方針。女性に匿名の誹謗中傷は数百件に上ったが、中でもこの男が女性のツイッターの投稿に対し、「生きている価値あるのかね」「いつ死ぬの?」などと複数回にわたって返信の書き込みを繰り返し、公の場で侮辱した疑い。警視庁では、摘発して処罰の可否を問う必要があると判断した。

   問題のシーンは『テラスハウス』の38話で、同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れたとして怒鳴り、男性の帽子をはたく場面だ。この38話は3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNSコメントで批判が殺到した。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及び、それをSNSに書き込んだ。フジの番組スタッフがこのSNSを見つけ、本人に電話連絡をとっている。ところが、フジは5月19日未明の放送で、SNSで批判された問題のシーンをカットすることなく、そのまま流した。女子プロレスラーは5月23日に自ら命を絶った。 

   女性の母親は、娘の死は番組内の「過剰な演出」がきっかけでSNS上に批判が殺到したためだとして、人権侵害があったとBPO(放送倫理・番組向上機構)に申し立てを行った(7月15日)。番組でプロレスのヒール(悪役)のキャラクターを演じるよう指示され、「番組内に映る虚像が本人の人格として結び付けられて誹謗中傷され、精神的苦痛を受けた」として、人格権の侵害を訴えた。併せて、「全ての演出指示に従うなど言動を制限する」などの条項を含む「誓約書兼同意書」によって自己決定権が侵害され、人権侵害に相当すると訴えた。

   これに対し、フジテレビ側は7月31日付で内部調査の検証報告を公式ホームページで掲載した。聞き取りを番組のプロデューサー、ディレクター、制作現場のスタッフ、出演者、女子プロレスラーの所属事務所の関係者ら27人に対して行った。番組について「予め創作した台本は存在せず、番組内のすべての言動は、基本的に出演者の意思に任せることを前提として制作されていた」としたうえで、調査では「制作者が出演者に対して、言動、感情表現、人間関係等について指示、強要したことは確認されなかった」としている。

   BPO放送人権委員会は遺族からの申し立てを受け、これまで10月20日と11月17日の2回審理を行っている(BPO公式ホームページ)。今回の警視庁の書類送検によって、今後の審理ではSNS上に批判が殺到した理由、さらに、なぜ5月19日にそのまま放送したのか、フジの姿勢が問われるのではないだろうか。故意に「侮辱」を煽ったのかどうかだ。

(※写真は5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事)

⇒16日(水)夜・金沢の天気    くもり

★テレビ局は追い詰められた出演者とどう向き合ったのか

★テレビ局は追い詰められた出演者とどう向き合ったのか

          先ほどニュースを見て、「これは警察の忖度か」と思わず考え込んだ。多額の負債を抱えて倒産した磁気治療器販売「ジャパンライフ」が、顧客に虚偽の説明をして現金をだまし取ったとして、警視庁の捜査本部は18日朝、元会長ら14人を詐欺容疑で逮捕した。「ジャパンライフ」は2015年に元会長に届いた安倍総理主催の「桜を見る会」の招待状を顧客勧誘セミナーで見せびらかして参加者を信用させていたと、去年12月の参院本会議でも問題になっていた。安倍退陣と菅政権発足を見計らった絶妙なタイミングなのだ。

   ようやくこの問題が動き出した。フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーがことし5月23日に自死した問題で、BPO放送人権委員会は遺族からの申し立てを受け、審理入りを決定した(9月15日付・BPO公式ホームページ)。番組で女子プロレスラーが演じた、同居人男性の帽子をはたくシーンは番組制作側の「やらせ」だったのかどうかが問われる。委員会は遺族とフジテレビが提出する書面と、双方へのヒアリングをもとに審理を行い、その結果を「勧告」または「見解」としてまとめ、双方に通知した後に記者会見で公表する予定だ(同)。

   問題のシーンは『テラスハウス』(38話)で、同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れたとして怒鳴り、男性の帽子をはたく場面だ。この38話は3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNSコメントが批判が殺到した。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及び、それをSNSに書き込んだ。番組スタッフがこのSNSを見つけ、本人に電話連絡をとっている。5月18日の地上波放送では、SNSで批判された問題のシーンをカットすることなく、そのまま流された。女子プロレスラーが自死したのは5月23日だった。

   BPOに対し女性の母親は7月15日に申し立てを行い、番組でプロレスのヒール(悪役)のキャラクターを演じるよう指示され、「番組内に映る虚像が本人の人格として結び付けられて誹謗中傷され、精神的苦痛を受けた」として、人格権の侵害を訴えていた。また、「全ての演出指示に従うなど言動を制限する」などの条項を含む「誓約書兼同意書」によって自己決定権が侵害され、人権侵害に相当すると訴えていた。

   これに対し、フジテレビ側は7月31日付で内部調査の検証報告を公式ホームページで掲載した。聞き取りを番組のプロデューサー、ディレクター、制作現場のスタッフ、出演者、女子プロレスラーの所属事務所の関係者ら27人に対して行った。番組について「予め創作した台本は存在せず、番組内のすべての言動は、基本的に出演者の意思に任せることを前提として制作されていた」としたうえで、調査では「制作者が出演者に対して、言動、感情表現、人間関係等について指示、強要したことは確認されなかった」としている。

   また、同意書兼誓約書に関しては、出演契約であり労働契約のように「指揮命令関係に置くものではない」としている。動画配信サービス後の自傷行為から放送後にいたる間は、番組スタッフが本人と連絡を取り、ケアにより、「精神状況が比較的安定していることを確認している」とも主張している。

   BPO放送人権委員会の審議のポイントはいくつかあると推測する。一つは、フジテレビ側はなぜ内部調査だったのか、第三者委員会を設置して客観的視点から調査を行うべきではなかったか。もう一つは、「Netflix」での配信をきっかけにSNSによる批判が殺到し女子プロレスラーが自傷行為に及んだ。地上波の放送でもSNS炎上が予想されたにもかかわらず、なぜ動画修正の措置などを講じなかったのか。テレビ局として追い詰められた出演者とどう向き合ったのか、問われるところだろう。BPOの審理に注目したい。

(※写真は5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事)

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