#パスタ

★魚醤「いしる・いしり」とイタリア料理のマリアージュ

★魚醤「いしる・いしり」とイタリア料理のマリアージュ

   前回ブログの続き。魚醤はイタリア料理にも欠かせない。とくにパスタとの相性がいい。ペペロンチーノのようにシンプルなオイルパスタの仕上げに数滴添えるだけで天然の旨みというものが加わるから不思議だ。魚醤は隠し味、あるいは名脇役のような調味料なのだ。

   能登の「いしる・いしり」加工業者からかつて聞いた話によると、イタリアの魚醤には2つのタイプがある。それは、「ガルム」と「コラトゥーラ」と呼ばれる。ガルムは、アジやサバ、イワシ、マグロなどの魚をツボに塩と共に入れて発酵させてつくる。熟成期間は20日ほどと短めのようだ。コラトゥーラは、アンチョビの原料でもあるカタクチイワシのみでつくる魚醤で、木の桶に頭と内臓を取り除いて塩を入れて発酵させる。9ヵ月ほど熟成させる。

   魚の内臓を素材として使うということで、ガルムは能登のいしる・いしりと製造方法が近い。能登の加工業者によると、イタリアのガルム加工業者はスペインなどからも魚醤を取り寄せて、加工販売している。そして驚くことに、能登産いしる・いしりも原料を輸出していて、イタリアのガルムとして世界に販売されているそうだ。

   いしる・いしりは能登の郷土料理の隠し味というイメージだったが、オリーブオイルと混ぜてサラダのドレッシングにしたり、パスタはもちろん、魚や肉料理の万能調味料としてグローバルにイタリア料理の隠し味として活用されているようだ。

   そうした能登のいしる・いしりなど発酵食品を活かして、「能登イタリアン」の料理を出すのが、能登町にある民宿「ふらっと」。シェフのベンジャミン・フラットさんはかつてオーストラリアのシドニーのイタリアンレストランでヘッドシェフ(料理長)をしていた。オーストラリアで日本語教師をしていた妻の船下智香子さんと知り合い結婚し、智香子さんの実家がある能登町で民宿を開業した。

   妻の父親がイカの内臓でつくる「いしり」の加工業者だったこともあり、フラットさんはイタリアンと能登の発酵食のマリアージュにのめり込んでいく。一度民宿に訪れた時に、いしりとイカスミを使った手打ちパスタをいただいた。能登で味わう絶品のイタリアンだ。能登の豊かな自然でつくられる「いしる・いしり」と、それに魅了されてつくられるイタリアンの話は尽きない。

⇒22日(日)夜・金沢の天気    はれ

★「納豆カレー」と「香箱がにパスタ」の食感のこと

★「納豆カレー」と「香箱がにパスタ」の食感のこと

   東京の知人から、「金沢には納豆カレーがありますか」と尋ねられ、「えっ、初めて聞いた」と返事すると、「東京では結構はまっている人もいますよ。人気です」と。聞けば、カレーに納豆をトッピングした変わり種メニューのようだ。この手の話を一度聞くと頭に残るタイプなので、さっそく試してみた。

   カレーは能登牛を入れた能登牛カレー。牛の食味を引き立てるため、辛さは普通で控えめ。ごはんは加賀産コシヒカリで、その上に能登牛カレーをかけた。能登と加賀の郷土料理のような雰囲気だ。さらに、トッピングで乗せたのは『そらなっとう』だ=写真・上=。

   金沢の納豆製造会社がつくる、この『そらなっとう』にはちょっとしたストーリーがある。金沢大学のある研究者が、春になると黄砂といっしょにやってくる微生物「黄砂バイオエアロゾル」を研究していた。その中に、食品発酵に関連する微生物が多いこと気づき、大気中で採取した何種類かのバチルス菌で納豆をつくってみた。その何種類かのバチルス菌でつくった納豆の試食会に自身も参加したことがある。2010年12月のことだ。その中で、能登半島の上空で採取した「Si38株」というバチルス菌の納豆は独特のにおいも少なく、豆の風味もあり好評だった。その後、『そらなっとう』として商品化された=写真・中=。JALの機内食にも採用されたことで一躍知られるようになった。

   能登牛カレーとこの納豆の「納豆カレー」を食べてみる。すると、納豆がカレーの風味を邪魔しない。逆に、カレーが納豆の味を包み込まない。お互いが共存しながら、口の中で混ざり合う。なんとも不思議な食感なのだ。納豆好きな人、カレー好きの人がそれぞれ納得して食べることができる。初めて知った食感だった。

   ついでに食感の話題をもう一つ。金沢のイタリンア料理の店に入って初めて、「香箱がにパスタ」というメニューを見た。通常のパスタに比べ1200円も高い。思い切って注文する。クリームパスタに北陸の海などで獲れる香箱ガニ(ズワイガニの雌)の身をトッピングしたものだ。とくに、香箱ガニの外子(卵)と甲羅の中にある内子(未熟成卵)、そしてカニみそ(内臓)がパスタ全体の食感を高める。それに白ワインを注文する。深く趣きのある味わいだった。

   後日、近くのスーパーで香箱ガニを2パック、クリームパスタを買い、自宅で香箱がにパスタをぜいたくにつくってみた=写真・下=。ワインはオーストラリア産の「PET NAT」。自然派のス-クリングだ。パスタ、香箱ガニ、そしてワインのそれぞれの風味が口の中でコンサートを奏でているような楽しい味わいなのだ。ただ、香箱ガニの漁期(11月6日-12月29日)はすでに終わっていて、食べられる時期は限られている。地元産、そして季節限定の食の楽しみの中に、しっとり感、揺さぶり感、日常の幸福感がある。

   ちなみに、聴こえてきた口の中のコンサートはヴィヴァルディ作曲の『四季』「冬」の第一楽章だろうか。たかが「納豆カレー」と「香箱がにパスタ」で、話が長くなってしまった。

⇒11日(水)午前・金沢の天気