#バイデン大統領

☆アフガニスタンとオリンピック

☆アフガニスタンとオリンピック

   「アフガニスタン」で思い起こすのは、1980年のモスクワオリンピックだ。1979年、イスラム原理主義が勢力を伸ばしていたアフガニスタンで、当時のソ連のコントロールのもとにあった政権があやしくなってきた。そこでソ連のブレジネフ書記長は政権を支えるために同年12月に大規模な軍事介入に踏み切った。いわゆる「アフガン侵攻」だ。このアフガン侵攻は西側に衝撃を与え、モスクワオリンピックを日本を含む西側諸国がボイコットする事態にまで展開した。

   それでもアフガンに駐留を続けるソ連を、1981年に就任したアメリカのレーガン大統領は「悪の帝国」と名指しで非難した。その後、アメリカがアフガンに介入したのは、2001年9月11日のニューヨークでの同時多発テロ事件だった。ブッシュ大統領はアフガンで政権を握っていたタリバンが、テロ事件の首謀者のオサマ・ビン・ラディンをかくまっていると非難。10月にはアメリカ主導の有志連合軍がアフガンへの空爆を始め、タリバン政権は崩壊。大規模な捜索にもかかわらず、ビン・ラディンを捕捉できなかった。10年後の2011年5月2日、隣国パキスタンに逃げ込んでいたビン・ラディンの潜伏先をアメリカ軍特殊部隊が探し出して殺害している。

   この時点でアメリカ軍がアフガンに駐留する大義はなくなった。オバマ大統領はビン・ラディン斬首作戦の後の9月、10年間で3兆㌦の財政赤字を削減する方針を打ち出し、アフガンやイラクからのアメリカ軍撤退によって軍事費を1兆1千億㌦削減すると示していた。さらに、トランプ政権下の2020年2月、アメリカとタリバンによる、「アメリカは駐留軍撤退」「タリバンは武力行使を縮小」との和平交渉が合意。そして、バイデン大統領は今年4月に同時多発テロ事件から20年の節目にあたる「9月11日」まで完全撤退すると表明していた(4月14日付・BBCニュースWeb版日本語)。

          ところが今月に入り、アメリカとタリバンによる和平合意とは裏腹に事態は一変する。タリバンは首都カブールに進攻し、日本時間の16日朝、政府に対する勝利を宣言した。一方、2014年から政権を担ってきたガニ大統領は出国し、政権は事実上、崩壊した(8月16日付・NHKニュースWeb版)。

   では、タリバンによって合意が破られたとして、アメリカは駐留軍を継続するだろうか。以下は憶測だ。バイデン氏は予定通り「9月11日」までに完全撤退を終えるだろう。アメリカの国益にならないアフガンの国内紛争に駐留軍を無期限に留めることに意義を感じてはいないだろう。ましてや、政権を担ってきた大統領はすでに国外に高跳びしている。

    この隙間を狙って、タリバンとの友好関係をいち早く築こうとしているのが中国だ。BloombergニュースWeb版日本語(8月17日付)によると、王毅外相はタリバンが当時のガニ政権への攻勢を強めていた先月下旬、天津市でタリバン代表団と会談。王外相は、タリバンがアフガン統治で「重要な役割」を果たすことが期待されていると表明した。

   憶測だが、中国はイスラム教徒の少数民族ウイグル族が多く住む新疆ウイグル自治区での監視を強化している。アフガンと新疆ウイグル自治区は隣接している。タリバンによる「イスラム首長国」の国名変更を後押しすることを条件に、ウイグル自治区には手を出さないようにとの約束を交わしているのかもしれない。いずれにしても、中国はこれからのアフガンの後ろ盾を狙っている。

   テロや女性への抑圧を支持し世界から長らく疎外されてきたタリバンを「国」として認めることができるかどうか。おそらく、アメリカはいったんアフガンとは離れて、国としては認めないだろう。中国に同調する立場、アメリカに同調する立場、今後アフガン問題がこじれると北京オリンピックのボイコットへと発展するのかもしれない。歴史は繰り返す。

(※写真は、国外退避を求め、離陸しようとするアメリカ軍機に乗り込もうとする人々。カブールの空港で=CNNニュースWeb版)

⇒17日(火)午後・金沢の天気     あめ

☆バイデン大統領 就任100日目の演説

☆バイデン大統領 就任100日目の演説

   テレビニュース(4月29日)がアメリカ、バイデン大統領の施政方針演説の様子を報じていた。演説のキーワードは何かと思い、ホワイトハウスの公式ホームページをチェックする。「Remarks by President Biden in Address to a Joint Session of Congress」(バイデン大統領の上下両院合同会議での演説)と題するページに演説の全文が掲載されていた。

   「アメリカらしい」と感じさせたのが冒頭での言葉だ。「Madam Speaker, Madam Vice President — (applause) — no President has ever said those words from this podium.  No President has ever said those words, and it’s about time.  (Applause.) 」

   演壇に立ったバイデン氏はまず自分の後ろに並ぶナンシー・ペロシ下院議長と上院議長でもあるカマラ・ハリス副大統領にあいさつした。確かに、大統領の議会演説で後ろの上下院両議長がともに女性という光景はアメリカ史上初めてのこと。「Madam Speaker, Madam Vice President」で議場内は拍手や歓声で沸いたに違いない。

   演説で最初に触れたのは、「100年で最悪のパンデミックだ。大恐慌以来最悪の経済危機。南北戦争以来最悪の民主主義への攻撃だ」と表現したコロナ禍への対策だった。演説は就任100日目の日でもあった。「就任100日以内に1億回のワクチンを注射すると約束したのに、100日間で2億2000万回以上のワクチンを接種したことになる」と実績を。そして、アメリカの世帯の85%に1400㌦の救済小切手を送り約束を守ったと強調している。

   次に述べたのが経済の取り組みについての実績だ。「経済はこの100日間で130万人以上の雇用を生み出した。100日でこの数字は史上最多の雇用を創出だ」。そして、産業の内製化の方針を打ち出している。「考えてみてほしい。風力タービンのブレードを北京ではなくピッツバーグで製造できない理由はない」「だから皆さん、アメリカの労働者が電気自動車やバッテリーの生産で世界をリードできない理由はない。私たちの国には世界で最も聡明で訓練された人々がいます」と。産業の内製化はトランプ前大統領も強調していたが、主語を労働者に置いているところが民主党のバイデン氏らしい表現だ。

   中国との関係については、習近平国家主席のことを「autocrats」(独裁者)と称して、習氏との電話会談の印象をこう述べている。「彼をはじめとする独裁者たちは、民主主義が21世紀には独裁国家と競争することはできないと考えている。なぜなら、コンセンサスを得るのに時間がかかりすぎるからだ」と。

   富裕層への課税の話も具体的な数字で述べている。「私は時々、民主党の友達と口論する。あなたは億万長者にも百万長者にもなれるが、相応の分け前は払うべきです、と。昨年、アメリカの大手企業の55社が連邦税を納めなかった。これら55社の利益は400億㌦を超えた。スイスやバミューダ、ケイマン諸島のタックスヘイブンを通じて脱税する企業も多い。利益の海外移転に対する税金の抜け穴や控除の恩恵も受けている。それは正しくない」「2000万人のアメリカ人がパンデミックで職を失った。一方、アメリカの650人のビリオネアは純資産を1兆㌦以上増やした。今その増やした資産は4兆㌦以上の価値になっている」

   後半になって、中国への警戒感をあらわにしている。習氏との電話会談を再度持ちだす。「私は『われわれは、中国との競争を歓迎します。私たちは対立を求めているのではない』と述べ、アメリカの利益を全面的に守ることを明確にした。中国が行っている国有企業への補助金、技術や知的財産の盗用など、アメリカの労働者や産業を弱体化させる中国の不公正貿易の慣行に立ち向かう」「また、私は習氏に欧州におけるNATOと同じように、インド太平洋地域でも強力な軍事的プレゼンスを維持し、紛争を開始するのではなく予防するつもりだと伝えた」

   さらに、安全保障面での言及。「私たちは世界史上最大の戦闘部隊を持っている。私は、息子を戦争地帯で働かせることの意味を知っている40年ぶりの大統領だ」と。国内問題では、「銃暴力の蔓延からアメリカ国民を守るために私は全力を尽くすが、議会も行動を起こす時だ」と強調した。

  「We can do whatever we set our mind to do if we do it together.」(みんなが心を一つにして取り組めば、アメリカにできないことなど何もない)と述べて、66分の演説を終えた。バイデン氏の演説は数字を駆使して、具体的で実に分かりやすい内容だった。性格そのものが演説に表れているのかもしれない。ただ、アメリカ大統領の演説として、刺激的な言葉で国民に訴えてもよいのではないか。たとえば、ジョン・F・ケネディが「Ask not what your country can do for you―ask what you can do for your country.」と語ったように。(※写真は「The White House」公式ホームページより)

⇒30日(金)朝・金沢の天気     はれ時々くもり

★「ヨシ」「ジョー」外交の初舞台

★「ヨシ」「ジョー」外交の初舞台

   菅総理は昨夜、アメリカに向け出発した。ホワイトハウスで16日午後(日本時間17日未明)にバイデン大統領と会談する。おそくら会話の中では、男子ゴルフ「マスターズ・トーナメント」で優勝した松山英樹選手のことがホットな話題として出るだろう。「Matsuyama’s Masters win will make him ‘forever a hero’ 」(マスターズ優勝で松山は永遠のヒーローだ)などとバイデン氏は持ち上げるかもしれない。どのような言葉が交わされるのか注目したい。

   これまで日本の総理とアメリカの大統領はギブ・アンド・テイクの関係で親密さを演出してきた。最近の印象では、安倍氏が来日したオバマ氏を東京・銀座のすし店で接待した。オバマ氏は寿司が好物だった。安倍氏のお酌する姿を覚えている。また、安倍氏はトランプ氏とゴルフ外交を重ねた。面白いと思ったの この写真だ。2019年5月26日付で総理官邸のツイッターに公開された。お笑いコンビのような雰囲気で両氏が映っている。千葉県のゴルフ場で自撮りした写真だ。

   親密さの演出は外交に欠かせない。2016年5月にオバマ氏がアメリカ大統領として初めて被爆地・広島を訪れて慰霊し、核兵器廃絶を訴えた。同じ年の12月、今度は安倍氏がハワイのパールハーバーに赴き、日本軍の攻撃による犠牲者を祀るアリゾナ記念館を慰霊訪問した。安倍氏とトランプ氏は2019年9月、ニューヨークでの首脳会談で日米貿易協定の締結にこぎつけた。日本はアメリカの農産物の関税を撤廃、アメリカは日本製自動車などへの追加関税を当面発動しないことで合意した。外交の演出は外務省の努力や根回しもさることながら、為政者のセンスにもよるだろう。その意味で次の外務大臣に安倍氏をとの論調も時折耳にする。

   さて、菅総理とバイデン大統領の外交演出はどのような見せ方になるのか。日米同盟を強化すること、中国の台頭に連携して対処すること、気候変動の問題やサプライチェーン(供給網)など経済安全保障など課題は多々ある。そして何より、「ヨシ」「ジョー」と互いのファーストネームをうまく呼び合えるのかどうか。

⇒16日(金)午後・金沢の天気    はれ

☆バイデン大統領「My whole soul 」演説の響き

☆バイデン大統領「My whole soul 」演説の響き

   果たしてアメリカは変わるのか。ジョー・バイデン大統領の就任演説がホワイトハウスの公式ホームページ(1月21日付)で全文掲載されている=写真=。演説の中味をチェックすると、率直な感想はやはり78歳の、アメリカ史上最高齢の大統領の、超ベテラン政治家の、ある意味でアンテークな演説なのだ。そう感じたのは以下の箇所だ。

「In another January in Washington, on New Year’s Day 1863, Abraham Lincoln signed the Emancipation Proclamation.When he put pen to paper, the President said, “If my name ever goes down into history it will be for this act and my whole soul is in it.”

My whole soul is in it. Today, on this January day, my whole soul is in this: Bringing America together. Uniting our people. And uniting our nation. I ask every American to join me in this cause. Uniting to fight the common foes we face: Anger, resentment, hatred. Extremism, lawlessness, violence. Disease, joblessness, opelessness.」

以下意訳:別の1月、1863年の元日にエイブラハム・リンカーンは奴隷解放宣言に署名した。紙にペンを走らせた時、大統領はこう言った。「もし私の名が歴史に残るようなことがあれば、これがその理由になる。私は全身全霊をこれに注ぎ込んだ」と。

今日のこの1月の日に、私も全身全霊を込めている。アメリカをひとつにまとめるため。国民の連帯、国の連帯を実現するため。この大義のため、すべてのアメリカ人に協力を呼びかける。怒り、不満、憎悪、過激主義、無法状態、暴力、病気、失業、そして希望の喪失――。こうした敵に立ち向かうため、みんなで連帯してほしい」

   リンカーン大統領の事例の引用もさることながら、「My whole soul 」という言葉にアンテークさを感じる。日本語で「全身全霊」という言葉となるが、古めかしさを感じるのは自身だけだろうか。そして、見逃しているのかもしれないが、演説にはデジタル(digital)という言葉が出てこないのだ。

   大統領選でのトランプ氏との壮絶な闘いの後だけにアメリカ国民に連帯を訴えたのだろう。ただ、アメリカの分断を生み出している一つの要因としてSNSといったデジタル社会の有り様を認識しているのであれば、アメリカの世代間の融和やデジタル社会における国家の存在意義というものを強調すべきなのではないだろうか。「My whole soul」はアメリカ国民の心にどれだけ響いたのだろうか。

⇒22日(金)朝・金沢の天気     あめ