#ニュース砂漠

★メディアの生き残り戦略 「広告」から読む

★メディアの生き残り戦略 「広告」から読む

   新聞や雑誌など、いわゆる「紙媒体」の市場が縮小している。日本の週刊誌の草分けとして100年の歴史を持つ週刊朝日がことし5月最終週の発行をもって休刊すると、朝日新聞が報じたのは1月19日付だった。1950年代には100万部を超える発行部数があったものの、去年12月の平均発行部数は7万4000部にとどまり、広告費も落ち込んでいた。アメリカでも、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年以降で日刊や週刊の地方紙など360紙余りが廃刊となり、情報が届けられない「ニュース砂漠(news deserts)」が広がっている。

   ただ、メディアがそのまま消え失せるのではなく、紙媒体からインターネットメディアへと転換を図ってる。冒頭の週刊朝日もユーチューブで「週刊朝日チャンネル」を開設し、今月21日に配信を始めている。編集長とデスクが出演する動画を視聴すると、休刊の大きな理由として発行部数の減少もさることながら、広告収入の落ち込みがダメージとなったと説明している=写真・上=。電通がきのう24日に発表した「2022年 日本の広告費」を見ても、その傾向が数字として表れている。

   以下、電通公式サイトから引用する。2022年(1-12月)における日本の総広告費は7兆1021億円で、2007年に記録した7兆191億円を上回り、過去最高となった。前年比では104.4%となり、コロナ禍での落ち込みから再び成長軌道に回復したといえる=グラフ、電通「日本の総広告費推移」=。

   広告費は過去最高となったものの、新聞や雑誌などの紙媒体の数値は落ちている。雑誌は1224億円で前年比93.1%、新聞は3697億円で96.9%となっている。ちなみに、電波メディアのテレビ(地上波、BS・CS)は1兆8019億円と前年比98.0%で下降。これは、2021年の東京オリンピック・パラリンピックは広告増に寄与したのものの、2022年はその反動減という面もあるだろう。ラジオは1129億円で102.1%と伸ばしている。

   一方で、デジタル社会を反映して、インターネット広告費は3兆912億円と好調で前年比114.3%だ。インターネット広告費が2021年に2兆7052億円となり、マスコミ4媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)の広告費(2兆4538億円)を初めて上回り、その後、続伸している。こうなると、紙媒体に続き、テレビいよいよ凋落かと思ってしまう。ところが、テレビそのもののデジタル化が進んでいる。

   インターネット回線へ接続されたテレビ端末であるコネクテッドTVが普及し、普及率は50%を超えているといわれる。さらに民放テレビ動画プラットフォーム「TVer」でテレビやPC、スマホ、タブレットでレギュラー番組や見逃し配信など600もの番組が視聴できる。1台のテレビで地上波番組もネット動画もシームレスに視聴できる時代になった。これを背景に、インターネット広告費のテレビメディア関連動画広告は350億円と前年比140.6%も伸びている。今後さらに伸びるのではないか。

   マスコミ4媒体のデジタル広告費は1211億円と114.1%とこれも二桁の伸びだ。もはや、デジタルなしにはメディアの存続はありえないという状況だ。

⇒25日(土)夜・金沢の天気   くもり時々あめ

★「ニュース砂漠」広がるアメリカ

★「ニュース砂漠」広がるアメリカ

   アメリカのメディアの現状を理解する上で興味深いが調査報告がノースウエスタン大学の公式サイトに掲載されている。「As newspapers close, struggling communities are hit hardest by the decline in local journalism」の見出し=写真・上=で、新型コロナの感染拡大が始まった19年末以降で日刊や週刊などを合わせた地方紙が360紙超が廃刊となっていて、過去17年間では地方紙全体の4分の1以上にあたる2514紙を失ったとしている。「ニュース砂漠(news deserts)」がアメリカ全土に広がっていて、「草の根の民主主義」の危機と訴えている。

   地方紙が廃刊に追い込まれる理由として、社会のデジタル化と、リーマン・ショックやコロナ禍による広告収入の減少が原因としている。確かに、地元で何が起きているかを住民が知ることができない「ニュース砂漠」化は地域に深刻な問題をもたらすかもしれない。実例がある。

   カリフォルニア州ベル市(3万5000人)では1998年ごろに地元紙が休刊となり、市役所に記者が来なくなった。2010年にたまたま同市を訪れた「ロサンゼルス・タイムズ」の記者が市の行政官(事務方トップ)の年俸を聞いて驚いた。オバマ大統領の年俸の2倍に相当する78万7000㌦を受け取っていた。市議会の承認を得て、議員や警察署長、公務員給与も引き上げ、まさにお手盛りの高額給与。低所得の労働者が住民の大半で、住民の6分の1が生活保護レベルの貧困を強いられている市で起きていた出来事だった。メディアの記者が入ればチェックできた行政の汚職が10年余りはびこっていた。(※写真・下は、ベル市幹部の汚職摘発を報じるロサンゼルス・タイムズ紙=2010年7月23日付)

   新聞紙だけでなく、記者も激減した。1990年代に5万6千人とされたが2014年には3万8千人に減った(アメリカ連邦通信委員会=FCC)。新聞だけでなく、ネット動画配信が普及し、コードカッティング(Cord Cutting)と呼ばれる「テレビ離れ」も深刻で、テレビ業界の経営も危ぶまれている。

   アメリカのこうしたアナログメディアの減少による、「ニュース砂漠」「取材空白地」といった現象は日本でも起こりうるのか。そもそも新聞の収入構造がアメリカと日本では異なる。アメリカの新聞は販売収入が2割、広告収入が8割とされ、経営は広告に左右されやすい。日本は戸別配達が普通で販売収入が7割、広告収入が3割であり、経営は広告に左右されにくいとされる。が、購読者の減少などで苦戦が強いられているのが現状だ。

   テレビはどうか。「2021年 日本の広告費」(電通)によると、インターネット広告費が2021年に2兆7000億円となり、マスコミ4媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)の広告費(2兆4000億円)を初めて上回った。テレビ広告費は巣ごもり・在宅需要などで前年比で二桁増となったものの、先行きは楽観できない。日本のアナログメディアも遠からず、アメリカの後追いをすることになりかねない。

⇒12日(月)午後・金沢の天気    はれ