#トヨタ

☆際立つ「カントリーリスク」中国・ロシア・日本

☆際立つ「カントリーリスク」中国・ロシア・日本

   中国とロシアで、いわゆる「カントリーリスク」が際立ってきた。証券業界などでよく使われるこの言葉は、投資する国や地域において、政治や経済、社会情勢などの変化に起因するリスクのことを指す。テロ行為や紛争が起こり、政権交代によって政策や法律が変わりやすい国々はカントリーリスクが高いということになる。

   ある意味で中国はカントリーリスクの高い国と言える。NHKニュースWeb版(3月27日付)によると、中国外務省の報道官は同日の記者会見で「日本人1人に対し、法律に基づいて捜査している。この日本人はスパイ活動に関わり、中国の刑法と反スパイ法に違反した疑いがある」と、拘束して取り調べを行っていると述べた。拘束されたのは製薬会社「アステラス製薬」の現地駐在の50代の男性社員。中国側は、具体的にどういう行為が法律に違反したかなど、詳しい内容については明らかにしていない。男性は駐在期間を終え、帰国間際だったとの報道もある。(※写真・上、中国・北京の天安門)

   反スパイ法だけでなく、中国には国家安全法や国会情報法、国防動員法といった「法のリスク」がある。よく指摘されるのは、国防動員法の場合は中国政府が有事と判断すれば、中国のあらゆる組織と人的資本、資金などが政府の統制下に置かれる。「あらゆる組織」には中国に進出している日本企業なども含まれる。中国政府が台湾の統一を「有事」と判断した段階でこの法が適用される。投資目的に中国に進出した企業にとってリスクは高まっているのではないだろうか。

   そして、ロシアのカントリーリスクは「プーチン・リスク」だ。ロイター通信Web版日本語(3月31日付)によると、ロシア産業貿易省は同日、トヨタ自動車のサンクトペテルブルク工場が国営の自動車・エンジン中央科学研究所(NAMI)に譲渡されたと表明した。同省は「今回の合意は、工場の建物・設備・土地の所有権の完全な譲渡を意味する」と表明した。トヨタ自動車サイト(同日付)も、NAMIへの譲渡による移管を完了したと発表している。譲渡額は明らかにしていない。(※写真・下、2016年12月16日、日露首脳会談後の安倍総理とプーチン大統領による共同記者会見=総理官邸、NHK中継画像)

   この背景には、ウクライナ侵攻がある。トヨタ自動車サイトによると、ロシアに経済制裁が科されたことにより、ロシア国内からの部品調達が滞り、去年3月に同工場の操業を停止。その後、稼働再開に向けて生産ラインの保全など行っていたが、侵攻が予想外に長引き、9月に生産事業そのものを停止した。同工場が稼働したは2007年12月だった。ソ連崩壊(1991年)で混乱に陥った政治経済を安定軌道に乗せたと定評があったプーチン大統領がウクライナ侵攻で国際批判を浴びることになるとは、当時は想像すらできなかっただろう。それにしても、譲渡した工場で何が生産されるのだろうか。

   ところで、日本にはカントリーリスクはないのか。ある。自然災害(地震、津波、台風など)というリスクだ。東日本大震災では原発事故によるリスクが世界的に知れ渡った。そして、中国やロシア、北朝鮮などに囲まれるポジション(立地)もリスクとみなされているかもしれない。

⇒2日(日)午後・金沢の天気     はれ

☆2021 バズった人、コト~その1

☆2021 バズった人、コト~その1

  「人の噂(うわさ)も七十五日」という言葉はかつて使ったが最近は使わないし、聞くこともなくなった。時代が変わって、「人の噂」はネットやSNS、メールが本流になり、「バズる」という言葉が使われている。「バズってますね」などと自身もやりとりしている。ことしも残り9日。このブログで取り上げた話題を振り返る。題して「2021 バズった人、コト」。

          ~東京オリンピック、トヨタのテレビCMストップはなぜ~

  ことしはオリンピックイヤーだった。東京五輪(7月23日-8月8日)は地元石川県では何といっても、レスリング女子57㌔級の津幡町出身の川井梨沙子選手と、62㌔級の妹・友香子選手がともに金メダルを獲得したことが話題になった。地元紙は姉妹で「金」は日本勢初の快挙と讃えた。北國新聞は連日の特別紙面で「最強の姉 約束の金lと、本紙では「梨沙子連覇 川井姉妹そろって金」と。北陸中日新聞は「川井 姉妹で金 梨沙子連覇」とそれぞれ一面の通し見出しだった=写真=。東京オリンピックの日本勢で、姉妹による金メダルは初めてだったので、日本のオリンピックの歴史に新たなレジェンドをつくったのではないだろうか。     

   コロナ禍でのオリンピックの開催をめぐっては反対意見が盛り上がっていた。東京五輪の中止を求めるオンライン署名サイト「Change.org」の署名は45万筆を超えていた。署名の発信者は弁護士の宇都宮健児氏で、相手はIOCのバッハ会長だった。そして、強烈なメッセ-ジを発したのはトヨタだった。東京オリンピックの大口スポンサーでもあるが、新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない中での開催の是非について世論が割れていることを理由に、オリンピック関連のテレビCMをいっさい見送ると発表した。実際、五輪番組をテレビを見ていてもトヨタのCMを見ることはなかった。

   いまごろになって思うことだが、トヨタはなぜテレビCMを見送ったのだろうか。ワールドワイドな企業であるトヨタにとっては、オリンピックパートナーとしてメディアを通じてブランドイメージさらにアップさせるチャンスだった。そうした広告・ブランディング戦略にたけているはずだ。

   トヨタがCM中止を表明したのは開催4日前の7月19日だった。テレビと新聞による五輪開催へのマイナスな論調を見極めての決定だったのだろう。おそらく、この批判的な論調が開催期間中も続き、そうした論調のマスメディアにCMを出すのは企業にとってマイナスイメージとなると判断したのではないだろうか。ところが、オリンピックが始まると、開催に疑念を呈していたテレビも新聞もまるで「手のひら返し」をしたかのように、「ガンバレ日本」と選手たちの活躍を中心に報道を繰り広げた。トヨタはマスメディアの動向を見誤った。

   コロナ禍でのオリンピックは是か非かという論調は読者や視聴者に分かりやすいので、先頭だってマスメディアはそうした話題を提供する。身を張って五輪を阻止するというスタンスはもともとない。だから、オリンピックが始まってしまえば、マスメディアは五輪一色になる。別の視点から見れば、トヨタは「トヨタイムズ」という、タレントの香川照之が編集長となった自社メディアをホームページや「YouTubeチャンネル」で展開している。マスメディアの動向を観察しながら、自社メディアをどうカタチづくるか試行錯誤しているようだ。

   オリンピック競技を17日間視聴して、印象に残っているのはもちろんアスリートたちの姿だが、番組での解説やコメントなどスタジオのバックで流れていた桑田佳祐の『波乗りジョニー』だった。オリンピック競技場の無観客の状態は当初さみしいとも感じたが、毎日違和感なく視聴できたのもこの曲の高揚感のおかげだったのかもしれない。

⇒22日(水)夜・金沢の天気     くもり

★つまずき迷走する東京オリンピックに七転八起はあるか

★つまずき迷走する東京オリンピックに七転八起はあるか

   このところ、東京オリンピックの開催をめぐる「つまずき」の話題が多い。きのう午後、金沢市にある石川県地場産業振興センターで会議があり、別件で地元テレビ局の関係者と会った。その折、聞いた話。「きょうトヨタがオリンピックのCMを出さないと発表したんです。ギョーカイ(テレビ業界)にはショックが走ってますよ」と。さらに尋ねると、トヨタは東京オリンピックの大口スポンサーでもあるが、新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない中での開催の是非について世論が割れていることから、オリンピック関連のテレビCMを見送ることにしたようだ、と。CMはすでに完成していて、流すだけになっていたが、すべてキャンセルされたという。

   「おそらく他のスポンサーも追随するのでは」と。確かにテレビ業界とすれば、ショックだ。オリンピックのようなビッグイベントはCMの稼ぎ時なのだが、トヨタのキャンセルで、スポンサーの自粛ムードは一気に広がるだろう。「でも、これまでテレビ局側も開催には冷ややかな論調があったよね。返り血を浴びたとうことかな」と返すと、「そう言えるかもしれない」と少々顔をしかめた。それにしても、「ACジャパン」であふれるテレビはいかがなものか。

   東京オリンピックは開会式が4日後に迫っているが、開会式のセレモニー楽曲を担当する作曲家グループの1人が急きょ辞任するというハプニングに見舞われている。大会組織委員会は19日、ミュージシャンの小山田圭吾氏について、過去に雑誌のインタビューで明かした学生時代のいじめの告白をめぐり、本人から辞任の申し出があり受理したと発表した(7月20日付・NHKニュースWeb版)。イギリスのBBCニュースWeb版(7月20日付)も「Composer Keigo Oyamada resigns over bullying at school」の見出しで発信している=写真=。小山田氏は52歳、20数年も前に雑誌で語った「bullying at school」(学校でのいじめ)でなぜ辞任しなければならなかったのか、その背景は何か。

   ネットでさらに調べると、問題の根深さを感じる。問題となったのは、音楽雑誌『ロッキング・オン・ジャパン』(1994年1月号)でのインタビュー。小中学時代の思い出の中で、知的障がい者に対して、「ウンコを喰わしたりさ。ウンコ喰わした上にバックドロップしたりさ」などと笑いながらの語りが綴られている。ほかにも、雑誌『Quick Japan』(1995年8月発行・第3号)の「いじめ紀行」という記事の中や、『月刊カドカワ』(1991年9月号)でも小山田氏は障がい者に対するいじめや罵倒についてインタビューで答えている。

   それにしても、なぜ雑誌の記者は障がい者に対する「いじめ」をテーマにインタビューし掲載したのか。以下憶測だ。おそらく、インタビューした側は、笑いながら語った「いじめ」の話を小山田氏のキャラ(個性)と勘違いしたのだろう。つまり、お笑い芸人の「いじり」程度と捉えた。取材する側にとっては過去のことであり、いじめの現場を見ていたわけではないので、「いじめ」と「いじり」のボーダーラインの見極めがつかなかったのではないか。

   成長過程にあった子どものころの「いじめ」を大人になって自慢気に語る行為はこれまで問題視されてこなかった。しかし、平和の祭典という東京オリンピック・パラリンピックの理念から小山田氏の行動を精査すれば、障がい者への「いじり」や「いじめ」は完全にNGである。ことし3月、オリ・パラの開閉会式の統括責任者を務めるクリエーティブディレクターが、演出チームとのSNS上のやり取りで、出演予定だったタレントの渡辺直美さんの容姿を侮辱するような豚に見立てた、「いじり」の演出案を提案したことが発覚して辞任に追い込まれている。

   そもそも、ことし2月に大会組織委員会の会長だった森元総理が女性蔑視ととれる発言で辞任している。つまずいてばかりの東京オリンピック。果たして七転八起は可能なのか。

⇒20日(火)午後・金沢の天気        はれ時々くもり

☆リアルな富士を眺めてVR会議 「Woven City」の魅惑

☆リアルな富士を眺めてVR会議 「Woven City」の魅惑

   このニュースに世界の人たちが注目したに違いない。トヨタ自動車は23日、静岡県裾野市で計画する、ITでつなぐ次世代都市「Woven City」(ウーブン・シティ)の建設に着手したと発表した。今後、人を住まわせて自動運転をはじめとするAIや通信を活用した実証実験を行い、社会課題の解決に役立つ新たなサービスや製品の開発につなげる(2月23日付・共同通信Web版)。

   豊田社長は昨年2020年1月、デジタル技術見本市「CES 2020」(ラスベガス)でウーブン・シティ構想を発表していた。当時から凝った名称だと感じ入っていた。wovenは weaveの過去分詞で「織られた」という意味合いで、「Woven City」はIT技術と人間社会がタテ糸とヨコ糸のように織り込まれたデザイン都市と解釈している。トヨタ自動車は自動織機の製造にルーツがあり、ネーミングの発想もおそらく繊維から来ているのだろう。さっそくトヨタの公式ホームページをチェックした。

   地鎮祭での豊田氏のあいさつが興味深い。都市開発の場所はトヨタの東富士工場があったところ。「東富士工場のDNA。それは、たゆまぬカイゼンの精神であり、自分以外の誰かのために働く『YOU』の視点であり、多様性を受け入れる『ダイバシティ&インクルージョン』の精神です。これらが『人中心の街』、『実証実験の街』、『未完成の街』というウーブン・シティのブレない軸として受け継がれてまいります」(HP掲載のスピーチ原稿より)

   スピーチが意義深い。この開発の意義を、多くの仲間とともに、多様性を持つ人々が幸せに暮らせる未来を創造することに挑戦する、と意欲的に述べている。人種や言語、障害などを超えて幸せに暮らせる未来都市。では、そのような都市の設計なのか。

   街の広さは約70万平方㍍。住人は約360人でスタートし、2000人以上を想定する。地上に自動運転モビリティ専用、歩行者専用、歩行者とパーソナルモビリティが共存する3本の道を網の目のように織り込み、地下にはモノの移動用の道を1本つくる。高齢者、子育て世代の家族、発明家、起業家の人々に住んでもらう。街にはロボット、AI技術を取り入れた様々な領域の新技術をリアルな場で実証していく。また、世界中の企業や研究者と一緒に取り組み、社会課題の解決に向けた発明がタイムリーに生み出せる環境を目指す(トヨタ公式ホームページ)。

   発表文だけではイメージは沸かないが、地下にモノの移動用の道を1本つくるということは、たとえばスーパーへ買い物に行かなくても、自宅からパソコンで商品を発注すれば、モノが自宅に届くというシステムなのだろうか。足の不自由なシニアや障がい者も自動運転でドアからドアへの移動が可能。どこにいてもAIによる手話や翻訳サービスがあり、多様な人々が対面でのコミュニケーションが取れる。リアルな富士山を眺めながら、オフィスでのリモートワークやVR会議ができる。

   壮大な社会実験の街でもあるウーブン・シティでの暮らしをイメージすると興味は尽きない。住んでみたいという誘惑にかられる。(※写真はトヨタ公式ホームページより)

⇒24日(水)朝・金沢の天気     はれ