#トキ放鳥

★本州最後の一羽のトキ「能里」が残した教訓

★本州最後の一羽のトキ「能里」が残した教訓

   本州最後の一羽のトキは愛称「能里(のり)」と呼ばれていた。能登半島で生息していたが、国の指示で1970年1月に捕獲され、繁殖のために佐渡トキ保護センターに移された。しかし、翌71年3月13日にケージの金網でくちばしを折ったことが原因で死んでしまった。もう半世紀も前のことだが、能登の人たちの中には、「昔ここには能里が飛んで来とった」と今でも懐かしそうに話すシニアの人たちもいる。

   こうした能登のトキへの想いが伝わったのだろう、環境省は去年8月、佐渡市で野生復帰の取り組みが進むトキについて、本州で放鳥を行う候補地として能登半島と島根県出雲市を選定し、能登での放鳥は2026年以降と発表した。これを受けて、石川県は先月15日に発表した2023年度の当初予算案で、放鳥のための生息の環境づくり関連費として1億360万円の「トキ予算」を盛り込んだ。また、国連が定める「国際生物多様性の日」である5月22日を「いしかわトキの日」と決め、県民のモチベーションを盛り上げる。(※写真は石川県歴史博物館で展示されている「能里」のはく製)

   トキ放鳥のムードが盛り上がる中で、懸念も増している。このブログでも何度か取り上げた、能登半島で進む風力発電の増設計画についてだ。長さ30㍍クラスのブレイド(羽根)の風車が能登には現在73基あるが、新たに12事業・171基が計画されている。

   自然保護の観点から懸念されるのはバードストライク問題であり、景観上もふさわしくない。そして、地域住民への影響もある。去年7月で開催された「能登地域トキ放鳥推進シンポジウム」(七尾市田鶴浜)で、地元の環境保護団体の代表と立ち話で意見交換をした。代表が住む地域の周囲には10基の風車が回り、「風が強い日の風車の風切り音はとてもうるさく、滝の下にいるような騒音だよ」「これ以上、増設する必要はない」と強調していた。

   石川県は今月5日、能登でのトキの放鳥に向けた「ロードマップ」案を作成。それによると、能登の9つの自治体などと連携し、トキが生息できる環境整備として700㌶の餌場を確保する方針で、化学肥料や農薬を使わない水田など「モデル地区」を設けて生き物調査を行い、拡充していく。

   能登はトキが営巣するのに必要なアカマツ林が豊富だ。そして、リアス式海岸で知られる能登は平地より谷間が多い。警戒心が強いとされるトキは谷間の棚田で左右を警戒しながらドジョウやタニシなどの採餌行動をとる。豊富な餌を担保する溜め池と水田、営巣に必要なアカマツ林、そしてコロニーを形成する谷という条件が能登にはある。佐渡に次ぎ、能登半島が本州のトキの繁殖地となることを期待したい。

⇒12日(日)午後・金沢の天気    はれ

☆トキが再び能登の空に舞うとき

☆トキが再び能登の空に舞うとき

   では、能登が放鳥候補地に選定されたとして、トキの生息は可能化なのか。2007年、金沢大学の「里山里海プロジェクト」の一環として、トキが再生する可能性を検証するポテンシャルマップの作成に参加したことがある。珠洲市や輪島市で調査地区を設定した。まず始めたのは生物多様性の調査だった。奥能登には大小1000以上ともいわれる水稲栽培用の溜め池が村落により維持されている。溜め池は中山間地にあり、上流に汚染源がないため水質が保たれている。ゲンゴロウやサンショウウオ、ドジョウなどの水生生物が量、種類とも豊富である。溜め池の多様な水生生物は疏水を伝って水田へと分配されている。

    また、能登はトキが営巣するのに必要なアカマツ林が豊富である。また、能登はリアス式海岸で知られるように、平地より谷間が多い。警戒心が強いとされるトキは谷間の棚田で左右を警戒しながらドジョウやタニシなどの採餌行動をとる。豊富な食糧を担保する溜め池と水田、営巣に必要なアカマツ林、そしてコロニーを形成する谷という条件が能登にあることが分かった。ただ、14年前の調査なので、その後の環境に変化はあるかもしれない。

   2011年6月に「能登の里山里海」が世界農業遺産(JIAHS)に認定されて10年になる。候補地に選定されることで、トキの放鳥が里山里海のあり様を描く次なるメルクマールになるに違いない。

(※写真のトキは1957年に岩田秀男氏撮影、場所は輪島市三井町洲衛)

⇒11日(水)夜・金沢の天気    くもり