#テレビ離れ

☆生き残りへと動き出す日本のテレビ業界

☆生き残りへと動き出す日本のテレビ業界

          デジタル時代で帰路に立つ日本のテレビ業界がいよいよ生き残りへと動き出した。2021年11月から議論を重ねてきた総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」は今月6日に「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ(第2次)」を公表した。それによると、「デジタル時代において、放送を取り巻く環境は、インターネット動画配信サービスの伸長等による若者を中心とした『テレビ離れ』など、大きく変化し、情報空間はインターネットを含めて放送以外にも広がっている」と危機感を募らせている。

   一方でデジタル時代のテレビメディアの存在価値を強調している。それは、「インターネット空間では、人々の関心や注目の獲得ばかりが経済的な価値を持つアテンションエコノミーが形成され、フィルターバブルやエコーチェンバー、フェイクニュースといった問題も顕在化している」と問題視。テレビ業界がこれまで積み上げてきた「取材や編集に裏打ちされた信頼性の高い情報発信、『知る自由』の保障、『社会の基本情報』の共有や多様な価値観に対する相互理解の促進といった放送の価値は、情報空間全体におけるインフォメーション・ヘルス(情報的健康)の確保の点で、むしろこのデジタル時代においてこそ、その役割に対する期待が増している」と存在価値を強調している。

   若者世代からはNHKを含めてテレビメディアへの離反があり、民放は広告売り上げが厳しい。とくにローカル民放局が厳しい経営状況に陥るという予測もある。電通がまとめた2022年(1-12月)の日本の総広告費は7兆1021億円で過去最高となった。しかし、テレビ(地上波、BS・CS)は1兆8019億円と前年比98.0%で下降。一方で、インターネット広告費は3兆912億円と好調で前年比114.3%だ。この時代にテレビメディアはどのように生き残るのか。

   今回の「デジタル時代における放送の将来像と制度の在り方に関する取りまとめ(第2次)」では、テレビメディアは電波にこだわらず、インターネットでの番組コンテンツの配信を行う、としている。NHKはインターネットで同時に放送を流す配信サービスをこれまで「補完業務として任意」と位置付けていたが、それを「放送としてネット配信を必須業務」と大転換した。スマホなどネットのみを通じて情報を得る人にもひとしく受け取れるよう努める義務をNHKが負うという考えだ。

   では、その場合にNHK受信料はどうなるのだろうか。提言では「スマホを持って、視聴の意志で負担する」という考えを示している。スマホとNHK視聴はイコールにせず、視聴意志に委ねるという考えだ。今後のその具体策や中身については議論となりそうだ。

⇒11日(月)夜・金沢の天気   くもり

★「ニュース砂漠」広がるアメリカ

★「ニュース砂漠」広がるアメリカ

   アメリカのメディアの現状を理解する上で興味深いが調査報告がノースウエスタン大学の公式サイトに掲載されている。「As newspapers close, struggling communities are hit hardest by the decline in local journalism」の見出し=写真・上=で、新型コロナの感染拡大が始まった19年末以降で日刊や週刊などを合わせた地方紙が360紙超が廃刊となっていて、過去17年間では地方紙全体の4分の1以上にあたる2514紙を失ったとしている。「ニュース砂漠(news deserts)」がアメリカ全土に広がっていて、「草の根の民主主義」の危機と訴えている。

   地方紙が廃刊に追い込まれる理由として、社会のデジタル化と、リーマン・ショックやコロナ禍による広告収入の減少が原因としている。確かに、地元で何が起きているかを住民が知ることができない「ニュース砂漠」化は地域に深刻な問題をもたらすかもしれない。実例がある。

   カリフォルニア州ベル市(3万5000人)では1998年ごろに地元紙が休刊となり、市役所に記者が来なくなった。2010年にたまたま同市を訪れた「ロサンゼルス・タイムズ」の記者が市の行政官(事務方トップ)の年俸を聞いて驚いた。オバマ大統領の年俸の2倍に相当する78万7000㌦を受け取っていた。市議会の承認を得て、議員や警察署長、公務員給与も引き上げ、まさにお手盛りの高額給与。低所得の労働者が住民の大半で、住民の6分の1が生活保護レベルの貧困を強いられている市で起きていた出来事だった。メディアの記者が入ればチェックできた行政の汚職が10年余りはびこっていた。(※写真・下は、ベル市幹部の汚職摘発を報じるロサンゼルス・タイムズ紙=2010年7月23日付)

   新聞紙だけでなく、記者も激減した。1990年代に5万6千人とされたが2014年には3万8千人に減った(アメリカ連邦通信委員会=FCC)。新聞だけでなく、ネット動画配信が普及し、コードカッティング(Cord Cutting)と呼ばれる「テレビ離れ」も深刻で、テレビ業界の経営も危ぶまれている。

   アメリカのこうしたアナログメディアの減少による、「ニュース砂漠」「取材空白地」といった現象は日本でも起こりうるのか。そもそも新聞の収入構造がアメリカと日本では異なる。アメリカの新聞は販売収入が2割、広告収入が8割とされ、経営は広告に左右されやすい。日本は戸別配達が普通で販売収入が7割、広告収入が3割であり、経営は広告に左右されにくいとされる。が、購読者の減少などで苦戦が強いられているのが現状だ。

   テレビはどうか。「2021年 日本の広告費」(電通)によると、インターネット広告費が2021年に2兆7000億円となり、マスコミ4媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)の広告費(2兆4000億円)を初めて上回った。テレビ広告費は巣ごもり・在宅需要などで前年比で二桁増となったものの、先行きは楽観できない。日本のアナログメディアも遠からず、アメリカの後追いをすることになりかねない。

⇒12日(月)午後・金沢の天気    はれ

★テレビ嗜好と司法判断

★テレビ嗜好と司法判断

   この判決でテレビ離れがさらに進むのではないだろうか。 NHKの放送だけ映らないように加工したテレビを購入した東京都の女性が、NHKと受信契約を結ぶ義務がないことの確認を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は24日、請求を認めた一審の東京地裁の判決を取り消し、請求を棄却した (2月24日付・共同通信Web版)。

   放送法では、NHKの放送を受信できるテレビの設置者に契約義務があると規定している。受信料制度に批判的な考えだった女性は2018年、フィルター付きテレビを3千円で購入した。1審の東京地裁は原告の訴えを認め「NHKを受信できる設備に当たらない」と判断して、契約を結ぶ義務はないとする判決を言い渡し、NHKが控訴していた。控訴審判決で裁判長は「加工により視聴できない状態が作り出されたとしても、機器を外したり機能させなくさせたりすることで受信できる場合は、受信契約を結ぶ義務を負う」と判断し、受信契約を結ぶ義務があるとする判決を言い渡した(同)。

   人には好き嫌いの嗜好というものがある。例えば食に限っても、漬物は食べない、ネギは嫌いだ、刺身は食べない、など様々だ。テレビも同じだ。あのチャネルは嫌いだ、ドラマは見たくない、あのキャスターは見たくもない、など。嫌いな人にとっては見たくもない、それが嗜好というものだ。NHKを受信できないようにするためわざわざフィルター付きテレビを購入するのは、相当なNHK嫌いだ。上記の高裁判決は、受信料の公平負担を重視する視点から、そのような機器をテレビに取り付けたのは受信料を払わない口実と判断したのだろう。人のテレビへの嗜好というものを理解していないのではないだろうか。

   今回の判決でNHK嫌いの視聴者の中には、「それだったらテレビを見ない」と反感を持った人もいるのではないだろうか。これを機にテレビ視聴そのものを止めるという人もいるだろう。また、NHKをスクランブル化し、契約者だけが視聴できるようにすればよいと主張する人たちの声も高まるだろう。それでなくても若者を中心にテレビ離れは進んでいる。これは金沢大学での調査だが、テレビをまったく見ないという大学生は17%(2019年・金沢大学での調査)もいる。3年前の16年では12%だった。その理由は、ネットで動画やニュースを見ることができる、と。この判決をきっかけに、さらに若者のテレビ離れが進むのではないだろうか。

   おそらく原告の女性は上告するだろう。最高裁の判断に注目したい。自身はNHK嫌いではない。このニュースの流れを読みたいと思っている。

⇒25日(木)朝・金沢の天気   はれ

☆NHKの「義務化を」の背景を読む

☆NHKの「義務化を」の背景を読む

   自家用車に乗っていてもNHKラジオで時刻ごとの5分ニュ-スをよく聴く。仕事から自宅に戻れば、午後7時や同9時のNHKのニュース番組を視聴する。受信料を払っているからという理由ではないが、自身のNHKへの接触度は高い方だと思っている。そのNHKで違和感があったのが、受信料制度の在り方などを検討する総務省「放送を巡る諸課題に関する検討会」で、NHK側が家庭や事業所でテレビを設置した場合はNHKへの届け出を義務化するよう放送法の改正を要望したというニュースだ(10月17日付・共同通信Web版)。

   NHKは受信契約を結んでいない世帯の居住者の氏名や、転居があった場合は転居先などの個人情報を、公的機関などに照会できるようにする仕組みの導入も求めた。受信契約の対象者を把握することで不払いを減らし、営業経費の削減にもつながるとみている。NHKはテレビがない場合の届け出も求めており、今後、有識者会議で検討する(同)。このニュースを見た視聴者は「NHKの上から目線」を感じたのではないだろうか。

   このNHKの要望で不快感を露わにしたのは民放サイドだ。いわゆる「テレビ離れ」。今月26日、日本テレビの小杉社長は定例会見で、テレビを設置した際のNHKへの届け出を義務化の要望した件について、「テレビ離れに拍車をかけるようなことになってはいけない」と懸念を表明(10月26日付・産経新聞Web版)。また、受信契約を結んでいない世帯の居住者氏名や、転居した際の住所などの個人情報を公的機関などに照会できる制度の導入についても、小杉社長は「視聴者には心理的なハードルがある」と指摘。「(総務省の有識者会議で)有識者の反対の意見が多かったと聞いているが、注視していかないといけないことだ」と述べた(同)。

   NHKも不評を買うことをある程度予想して要望を出したに違いない。その背景にNHKの相当な「焦(あせ)り」というものを感じる。それは、公共放送の有り様が国際的に見直されようとしているからだ。

   たとえば、イギリスの公共放送であるBBCについて、イギリス政府はTVライセンス料(受信料)を廃止し、希望者のみが視聴料を払う課金制(サブスクリプション)の導入など見直し作業を始める意向だという(2020年2月16日付・「The Sunday Times」Web版)=写真=。ジョンソン首相(保守党党首)は昨年12月の総選挙を前に、BBCの受信料制度の廃止と、視聴する分だけ金を払う有料放送型の課金制への移行を検討すると表明していた(2019年12月11日付・時事通信Web版)。選挙に勝利したジョンソン氏はその公約の実行段階に入ったと言える。

   イギリスの場合は、テレビを見たい視聴者は近くの郵便局で1年間有効の受信許可証を購入する。この許可証がなければ、電気屋でテレビそのものが買えないシステムだ。ところが、インターネット時代で、この受信許可モデルは果たして妥当なのか、その見直しがイギリスで起きているのだ。NHKの焦りというのは、日本でも受信料の見直し議論が起きる前に、NHKへテレビ設置の届け出を義務化するなど受信許可モデルを制度として早々に確立したいという意向ではないだろうか。

   BBCは世界の公共放送のモデルのような存在である。NHKにとってはギョーカイの大先輩であり大御所だ。そのBBCが直面する大問題を自らも焦燥感を持って成り行きを見守っているのだろう。NHKの「義務化を」の言葉の背景を探ってみた。

⇒31日(土)午後・金沢の天気    はれ