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★テレビ業界の落日なのか 寄付金の着服など相次ぐ不祥事

★テレビ業界の落日なのか 寄付金の着服など相次ぐ不祥事

   驚いたことに、きのう28日にテレビメディアの不祥事が相次いで公表された。鳥取県のローカル局「日本海テレビ」と大阪の準キー局「読売テレビ」、2局は日本テレビの系列局だ。

   日本海テレビは山陰地方を放送エリアとしている。同社のプレスリリース「弊社元幹部社員の不正について」(28日付)によると、経営戦略局長は2014年から全国ネットのチャリティー番組『24時間テレビ』への寄付金を10年にわたって264万円、さらに同社の売上金など853万円の合計1100万円余りを着服していた。今月27日付で懲戒解雇とし、28日に鳥取警察署に被害届を出した。局長は今月初めに税務調査があり、着服の発覚を恐れて自ら申告。社内調査で寄付金の着服が発覚した。

   24時間テレビの寄付金は、金融機関に運ぶまで社内で一時的に保管されていて、その一部を持ち出して自らの銀行口座に入れていた。24時間テレビは1978年に放送を開始し、慈善事業を展開してきた。その由緒ある番組に泥を塗っただけでなく、寄付した人々の善意を踏みにじった行為だ。

   また、読売テレビのプレスリリース「当社社員の不正行為について 」(28日付)によると、制作局で管理職を務める40代の管理職社員は2020年4月から23年6月にかけて、関西ローカルの音楽番組『カミオト夜』の制作をめぐり、外部の番組制作会社に架空経費、総額1383万円を読売テレビに請求させていた。このうち877万円を管理職社員が着服、残り506万円は別番組の経費に充てる不正をしていた。

   管理職社員は自ら飲食した際の領収書を月ごとにまとめて制作会社に渡し、その分の現金を受け取っていた。制作会社は「追加演出費」や「追加撮影費」の名目で読売テレビに請求していた。まさに、自作自演の不正請求だ。読売テレビは管理職社員を28日付で懲戒解雇処分。また、番組『カミオト夜』を年内で休止する。

   テレビ業界で制作現場の管理職という地位は、番組に関して絶対的な権限を有している。タレントの配置や制作会社の選定などさまざまだ。そうした権限を悪用すれば、勝手し放題となる。今回の不正行為はその象徴的な出来事だろう。デジタル社会の進展で、視聴者のテレビ離れはさらに進む。テレビ業界の落日のような光景だ。

⇒29日(水)夜・金沢の天気   あめ時々くもり

☆「リアルタイム配信」でテレビ業界はどう変わる

☆「リアルタイム配信」でテレビ業界はどう変わる

   笑福亭鶴瓶が楽屋で「テレビは変わると何年言うてんねん」とつぶやく番宣=写真=が面白い。ようやく、民放テレビの「リアルタイム配信」が動画配信サービス「TⅤer」で始まった。きのう11日からいわゆる「ゴールデンタイム」や「プライムタイム」と呼ばれる、午後7時から11時の高視聴率の時間帯での番組を放送と同時にインターネットでも視聴できるようになった。去年10月2日から日本テレビのリアルタイム配信はスタートしていたが、今回はテレビ朝日、TBS、フジテレビ、テレビ東京の4局に加え、大阪の準キー局の5局も加わって、10局のリアルタイム配信が楽しめるようになった。

   「ようやく」と述べたのも、放送とネットのリアルタイム配信は、NHKが先行して2020年4月1日から「NHK+(プラス)」で始めているので、民放の新サービスはNHKに比べれば2年遅れでもある。

   民放とすれば、タイミングがよかった。新型コロナウイルスの感染拡大による「巣ごもり」や「在宅ワーク」でテレビの広告需要が高まっている。電通の「2021年 日本の広告費」によると、2021年「テレビメディア広告費」の地上波テレビは1兆7184億円で、前年20年に比べて11%も増えている。また、ネット上の「テレビメディア関連動画広告」も249億円とこれも前年比46%と大きく伸長している。リアルタイム配信はPC、スマホ、タブレットのアプリで視聴できるので、ネットの広告需要を今後さらに取り込むチャンスなのかもしれない。

   おそらく番組そのものもネットユーザーを意識したものに変化していくだろう。これまで地上波の番組は、年代を問わず視聴できる最大公約数のような番組づくりだが、ネットユ-ザーを意識するとターゲットに向けて付加価値をつけていくという番組づくりに傾斜していく。そのうち、シニア世代はこうした番組からは視聴者として意識されなくなるかもしれない。

   さらに、ローカル局は「ポツンと一軒家」化するかもしれない。そもそも、ローカル局には放送法で「県域」という原則があり、放送免許は基本的に県単位で1波、あるいは数県で1波が割り与えられている。1波とは、東京キー局の系列ローカル局のこと。しかし、リアルタイム配信によって地方や県境を超えて、PCやスマホ、タブレットで東京キー局のゴールデン番組を視聴する時代になった。同じ番組を放送しているローカル局の視聴率は大幅にダウンするだろう。

   これについて、総務省は救済策を講じている。一つのテレビ局が多数の放送局に出資し、経営支配することを避ける「マスメディア集中排除原則」を緩和する方針で動いている。これによって、東京キー局が系列ローカル局を経営の傘下に収めることになる。これによって、地域ごとにローカル局の経営統合も進むかもしれない。たとえば、北陸3県にそれぞれ同じ系列のテレビ局が存在する必要はない。3つの局を1つに統合して、ゴールデンタイムに独自の番組づくりをするテレビ局を新設してもよい。

   リアルタイム配信でテレビ業界は番組コンテンツ、そして経営の新たな転換点に立ったと言えるのではないか。冒頭の鶴瓶のつぶやき通り、テレビは本気で変わってほしい。

⇒12日(火)夜・金沢の天気     はれ

★CMガタ落ちテレビ業界、同時配信のチャンス

★CMガタ落ちテレビ業界、同時配信のチャンス

   新型コロナウイルスの感染拡大でさまざまな産業に影響が及んでいる。最近、テレビを視聴していても、自社の番組宣伝や通販のCMが多い。4月7日に東京など7都府県で緊急事態宣言が発令されたころは、「ACジャパン(公共広告機構)」が目立った。公共広告はスポンサーの都合でCMを降りた場合に使われるが、番宣や通販CMが目立つということはCM枠そのものがガラガラになっている、ということでもある。では、CM収入がどの程度落ち込んでいるのか、日本テレビホールディングスがホームページで掲載している今年度の有価証券報告書(第1四半期、4‐6月)と決算説明資料をチェックしてみた。

   まず、視聴率である。日本テレビは独自に「男女13-49歳」の個人視聴率を「コアターゲット」として設定して他社と比較した数字を出している。そのコアターゲット視聴率(関東地区、ビデオリサーチ調べ)は「4月クール」(2020年3月30日-6月28日)の調査で、全日(6-24時)が4.7%、プライム(19-23時)7.7%、ゴールデン(19-22時)8.0%と2位以下を大きく離して「3冠」となっている。3冠は2013年7月期から28クール連続。視聴率そのものも、「ステイホーム」など在宅率と連動して伸びている。では、CMはどうなのか。

   テレビ局の放送収入(CM)には2つの枠がある。番組に提供する「タイム」枠と、番組と番組の間で流す「スポット」枠である。第1四半期(4‐6月)の日本テレビの放送収入はタイムが290憶円、スポットが196憶円と、前年同期比でそれぞれマイナス1.1%、同36.6%となっている。とくにスポットの落ち込みが大きい。さらに、スポットを月別で見ると、4月が前年同月比でマイナス24.7%、5月が同40.2%、6月が47.5%と相当な落ち込みだ。民放キーをリードしている日本テレビがこの落ち込みである。

   とはいえ、放送収入の主力であるタイムがマイナス1.1%なのだから、そう案じることもないのではと考えてしまうのだが、むしろ、問題はこれからかもしれない。タイム枠はほとんどが半年契約である。4月に契約したスポンサーが、10月以降も継続するかどうか。提供を降りるスポンサーが、スポット並みに続出するかもしれない。

   放送収入の減少傾向は、コロナ禍とは別次元でも危惧されている。電通がまとめた「2019年 日本の広告費」によると、広告費は6兆9381億円で8年連続のプラス成長だった。中でも、インターネット広告費が初めて2兆円超え、テレビ広告費を上回りトップの座に躍り出た。テレビ広告費(1兆8612億円)は対前年比97.3%と減少した。テレビ広告費の減少要因は、この年の台風などの自然災害や、消費税増税に伴う出稿控えやアメリカと中国の貿易摩擦の経済的影響などで3年連続の減少だった。ことしはコロナ禍が拍車をかけ、線状降水帯など自然災害、さらに米中の対立が貿易にとどまらず安全保障にまで拡大する気配を見せている。第2四半期(7-9月)の決算が気になる。

   テレビ業界も生き残り戦略に特化していくだろう。先に述べた、日本テレビの「男女13-49歳」の個人視聴率を「コアターゲット」とする戦略はその代表ではないだろうか。従来の世帯視聴率は不特定多数の量的な数字だ。ではなく、個人視聴率を用いて若い層や就業・就学者にどれだけ番組のニーズがあるのかを調査しなければ、クライアント(スポンサー)の満足度を最大化することはできない。視聴率にも質的な転換が求められている。

   と同時に、デジタル化への戦略だろう。番組のネット配信を進めなければ、さらなる番組の価値を生み出すことはできない。日本テレビ社長の定例会見(7月27日)の内容がHPで掲載されていて、同時配信について述べている。「今年10月から12月にトライアルを実施する方向で作業を進めている。私どもが考える意義は、視聴環境が大きく変化する中、テレビを持っていない、あるいはテレビを見る機会が少ないデジタルデバイスのユーザーの皆さんに対して、地上波のコンテンツとの接触機会をとにかく促進する、ということ。プライムタイムの番組で、特に権利者の許諾等々、ネットワークのコンディションにかなうものを配信する予定」

   アフターコロナではテレビ業界も大打撃を受けての再出発となるだろう。放送と通信の同時配信のチャンスではないだろうか。そして、これまでの視聴率を取ればなんとかなるという発想ではおそらく生き残れない。テレビ業界そのものが「ポツンと一軒家」化してしまうかもしれない。

⇒16日(日)午後・金沢の天気     はれ