#テラスハウス

★侮辱罪の厳罰化とテレビ視聴率の因果関係~参院選まで3日

★侮辱罪の厳罰化とテレビ視聴率の因果関係~参院選まで3日

   きょう7日から改正刑法の一部が施行され、公然と人を侮辱した行為に適用される侮辱罪に、「1年以下の懲役・禁錮」と「30万円以下の罰金」を加えられ、SNS上での誹謗中傷など、悪質な行為への対処がこれまで以上に厳しくなる。

   侮辱罪の厳罰化に向けてこれまで法務省は去年4月、匿名の投稿者を迅速に特定できるように改正プロバイダー責任制限法を成立させ、裁判所が被害者からの申し立てを受けて、SNSなどプラットフォーム事業者に投稿者の氏名や住所などの情報開示を命じることができるようにするなど着々と準備を進めていた。

   この厳罰化のきっかけとなったのが、フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』(2020年5月19日放送)に出演していた女子プロレスラーがSNSの誹謗中傷を苦に自死した事件(同5月23日)だった。

   この事件では、警視庁は侮辱罪の公訴時効(1年)までに、ツイッターで複数回の投稿があったアカウントの中から2人の男を書類送検した。このうち、大阪府の20代の男は女子プロレスラーのツイッターに「性格悪いし、生きてる価値あるのかね」「いつ死ぬの?」などと投稿を繰り返した。東京区検は去年3月、この男を侮辱罪で略式起訴し、東京簡裁は男に科料9000円の略式命令を出した。即日納付され、男はこれ以上罪を問われることはなかった。侮辱罪の罪の軽さが問題視されていた。

   SNS上のこうした侮辱は厳罰化すれば治まるのだろうか。煽った側のメディアの責任は問われないのだろうか。放送より先の3月31日にフジテレビは動画配信サービス「Netflix」で番組を流し、SNS上で炎上した。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及んだ。ところが、5月19日の地上波放送では、問題のシーンをカットすることなくそのまま流した。これが、SNS炎上をさらに煽ることになり、4日後に自ら命を絶った。つまり、結果的にSNS上の誹謗中傷を煽ったはテレビ局側ではなかったか。

   これはテレビ業界全体に言えることだが、よいにつけ悪いにつけSNS上での反響の大きさが視聴率のアップにつながると勘違いしている節がある。表現の自由や報道の自由に水を差すつもりは一切ない。侮辱罪が厳罰化したことの意味を捉えて、テレビ業界は番組によるSNS上での誹謗中傷を相互にチェックする、あるいは情報を共有する組織・システムを構築する必要があるだろう。

(※写真は2020年5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事)

⇒7日(木)夜・金沢の天気    はれ

☆侮辱罪の厳罰化 誹謗中傷煽るテレビ側も問われる

☆侮辱罪の厳罰化 誹謗中傷煽るテレビ側も問われる

   先ほど午後6時42分に、能登半島の珠洲市で震度5弱の揺れがあった。人的被害は報道されていないが、同市で開催されている奥能登芸術祭の野外作品などに影響がないか気になった。
                 ◇

   公然と人を侮辱した行為に適用される侮辱罪の厳罰化が動き出す。きょう16日午後、法務省は法制審議会を開き、刑法の「侮辱罪」に懲役刑を導入する刑法改正などについて諮問した。現行「30日未満の拘留か1万円未満の科料」の法定刑を、「1年以下の懲役・禁固音または30万円以下の罰金」とする。厳罰化にともない、公訴時効も現行の1年から3年に延長する。

   とくに、ネット上の誹謗中傷での対策が求められていて、法務省はことし4月、匿名の投稿者を迅速に特定できるように改正プロバイダー責任制限法を成立させ、裁判所が被害者からの申し立てを受けて、SNSなどプラットフォーム事業者に投稿者の氏名や住所などの情報開示を命じることができるようにするなど、侮辱罪の厳罰化について着々と準備を進めてきた。

   侮辱罪の厳罰化が動き出したきっかけは、フジテレビが放映したリアリティ番組『テラスハウス』(2020年5月19日放送)に出演していた女子プロレスラーがSNSの誹謗中傷を苦に自死した事件(同5月23日)だったといわれている。

   この事件では、警視庁は侮辱罪の公訴時効(1年)までに、ツイッターで複数回の投稿があったアカウントの中から2人の男を書類送検した。このうち、大阪府の20代の男は女性のツイッターアカウントに「性格悪いし、生きてる価値あるのかね」「いつ死ぬの?」などと投稿を繰り返した。東京区検はことし3月30日、この男を侮辱罪で略式起訴した。東京簡裁は同日、男に科料9000円の略式命令を出し、即日納付された。男はこれ以上罪を問われることはなかった。侮辱罪の罪の軽さが問題視されていた。

   ある意味で当事者でもあるテレビ局側はどう対応するのか問われる。放送より先に3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNS上で炎上し、この日、女子プロレスラーは自傷行為に及んだ。ところが、5月19日の地上波放送では、問題のシーンをカットすることなくそのまま流した。これが、SNS炎上をさらに煽ることになり、4日後に自ら命を絶った。つまり、結果的にSNS上の誹謗中傷を煽ったはテレビ局側ではないのか。

   テレビ業界全体のこととして、よいにつけ悪いにつけSNS上での反響の大きさが番組の視聴率の向上につながると勘違いしている節がある。表現の自由や報道の自由に水を差すつもりは一切ない。侮辱罪が厳罰化したことの意味を捉えて、テレビ業界は番組によるSNS上での誹謗中傷を相互にチェックする体制づくりを構築する必要があるのではないだろうか。

⇒16日(木)夜・金沢の天気     はれ時々くもり

☆女子プロレスラーの死から1年 テレビの制作現場は

☆女子プロレスラーの死から1年 テレビの制作現場は

   フジテレビが放映した、共同生活をテーマにしたリアリティ番組『テラスハウス』(2020年5月19日放送)に出演していた女子プロレスラーがSNSの誹謗中傷を苦に自死した事件(同5月23日)から1年が経った。警視庁は侮辱罪の公訴時効(1年)までに、ツイッターで複数回の投稿があったアカウントの中から2人の男を書類送検。また、女性の母親からの「過剰な演出」による人権侵害の訴えを受けて、BPO放送人権委員会は6回に及ぶ審理の結果を見解としてまとめ、ことし3月3日付で公式ホームページで公表している。

   問題のシーンは、シェアハウスの同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れて縮ませたとして、「ふざけた帽子かぶってんじゃねえよ」と怒鳴り、男性の帽子をとって投げ捨てる場面だ。放送より先に3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNS上で炎上し、この日、女子プロレスラーは自傷行為に及んだことをSNSに書き込んだ。番組スタッフがこのSNSを見つけ、本人に電話をするなどケアを行っていた。ところが、5月19日の地上波放送では、問題のシーンをカットすることなくそのまま流した。これが、SNS炎上をさらに煽ることになり、4日後に自ら命を絶った。

   BPOの見解は、怒鳴りのシーンは少なくとも相当程度には真意が表現されたものと理解でき、番組制作による演出ではないとして、人権侵害などは認めなかった。しかし、自傷行為など精神的な健康状態への配慮が欠けていたとして、フジテレビ側に放送倫理上の問題があったとの見解を示した。

   書類送検とBPO見解で、この問題は一件落着したのだろうか。問題の根底には、番組制作サイドに「数字」へのこだわりがあったのではないか。自身の経験知でもあるが、テレビの番組制作者は視聴率にこだわる。地上波放送の場合、視聴率の評価基準である全日時間帯は6時から24時であり、この番組は深夜0時以降の放送で視聴率の対象外だった。では、『テラスハウス』の制作者は何の数字にこだわったのか。以下憶測だ。

   リアリティ番組は出演者のありのままの言動や感情を表現し、共感や反感を呼ぶことで視聴者の関心をひきつけ、番組のSNSアカウントにフォロワーの獲得数としてそのまま数字として表れる。視聴率に代わる評価指標のバロメーターだ。数字を獲得すれば、深夜番組から格上げして、プライムタイム(午後7時-同23時)入りも可能だ。制作スタッフはここを狙っていた。なので、ツートされたコメントの内容より、数の多さにこだわった。

   そう考えれば、動画配信サービスのSNS炎上で女子プロレスラーの自傷行為があったことにも配慮せず、放送でそのまま番組を流した理由も分かる。番組はこの事件をきっかけに打ち切りとなった。彼女の死から1年、この事件を教訓にテレビ局の制作現場は変わったのだろうか。(※写真は2020年5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事から)

⇒24日(月)午前・金沢の天気     くもり

☆フジテレビは「課題のデパート」なぜ

☆フジテレビは「課題のデパート」なぜ

   フジテレビは「課題のデパート」なのか。また新たな問題が浮上している。フジ・メディア・ホールディングスは、フジテレビなどを傘下に持ち、放送法の「認定放送持株会社」として認定を受けている。放送局が報道機関として社会に大きな影響力を持つことなどから、外国の法人などが持つ議決権の比率を20%未満に抑える外資規制が定められているが、フジ・メディア・ホールディングスでは2012年9月末から2014年3月末にかけて外国の法人などの比率が20%以上となり、外資規制に違反した状態になっていた(4月8日付・NHKニュースWeb版)。

   単純な話、たとえば中国資本の企業が20%以上の株を持って、フジテレビに「中国に友好的な番組をつくれ」と要求してきたとすると、フジはおそらく呑むしかない。友好的な番組とはニュース番組も含めてのことだ。さらに、その中国資本の企業が番組CMのスポンサーとなって、意に反する番組をつくらせないとなったら、実質的にフジを乗っるような状態になってしまう。もちろん、これはフジテレビだけの問題ではない。すべてのテレビ局に言えることだ。何しろテレビ局は出資者とスポンサーには頭が上がらない。

   外資規制の違反があったからフジテレビの放送免許の取り消しをと言っている訳ではない。人気番組をさまざまに持つテレビ局の電波を停止することは視聴者の楽しみを奪うことになる。それにしても、冒頭で述べたようになぜフジに問題が集中しているのか。NHKと民放連によって設置された第三者機関「BPO」のサイトをチェックすれば、一目瞭然だ。審議案件はフジテレビが圧倒的に多い=写真=。

   BPOの放送倫理検証委員会で審議されたことは、フジが2019年5月から2020年5月まで14回にわたり実施した世論調査で、調査会社の社員が電話をしていないにもかかわらず「電話をした」として架空の調査データが入力されていた問題。また、同局のクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』は100人の参加者から選ばれた解答者1人が、残る99人を相手にクイズで競う番組コンセプトだが、参加者が不足した際、エキストラを出演させて補っていた。

   そして、放送人権委員会が取り上げたのは、このブログでも何度かテーマとした、女子プロレスラーの自死が問題となったリアリティ番組『テラスハウス』(放送:2020年5月19日未明)についての審理だった。

   ではなぜ、放送倫理や人権が問われる問題が発生するのか。女子プロレスラーの自死の問題について放送人権委員会が提起した問題は以下だった。「女性の精神状態を適切に理解するために専門家に相談をするなどのより慎重な対応が求められたのではないか」「制作責任者(チーフプロデューサー)、あるいはその他、社内の然るべき立場にある者の間ではこのことが深刻に受け止められていなかったのではないか」と指摘した。

   女性の自傷行為のケアをしていたのはフジテレビの局員ではなく、番組制作会社のスタッフだった。番組の制作現場は、局の制作プロデューサーやディレクター、制作会社ディレクター、孫請け会社の制作スタッフなど二重、三重の構造になっている。そのため、局の制作責任者は末端にまで目が行き届かず、現場任せの状態になっている。これは憶測だが、外資のチェックも社外スタッフに任せていたのではないだろうか。

   フジの業務の下請け化は番組制作にとどまらず、経理や人事、営業などさまざまなセクションに及んでいるのだろう。人件費の圧縮に腐心したツケが回ってきたのだ。もちろん、これはフジだけの問題ではない、テレビ局全体が問われる話ではある。

⇒9日(金)夜・金沢の天気    はれ

★女子プロレスラー自死問題、TVメディアの禍根は残る

★女子プロレスラー自死問題、TVメディアの禍根は残る

   日本人には禍根を新年度に持ち越さないという暗黙の共通認識のようなものがある。その意味で3月は出来事の決着を促す「判断月」と言ってよいかもしれない。一つの判断が示された。このブログでテレビメディアの演出問題として取り上げてきた、女子プロレスラーの自死とリアリティ番組『テラスハウス』(フジテレビ制作、2020年5月19日放送)について、BPO(放送倫理・番組向上機構)放送人権委員会は30日付で見解をまとめ、公式ホームページで公表した。

   問題となったシーンは、シェアハウスの同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れて縮ませたとして怒鳴り、「ふざけた帽子かぶってんじゃねえよ」と男性の帽子をとって投げ捨てる場面だ。放送より先に3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNS上で批判が殺到した。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及び、それをSNSに書き込んだ。番組スタッフがこのSNSを見つけ、本人に電話連絡をとってケアを行っていた。ところが、フジテレビは5月19日の地上波の本放送で、SNSで批判された問題のシーンをカットすることなく、そのまま流した。女子プロレスラーは5月23日に自ら命を絶った。 女性の母親は娘の死は番組内の「過剰な演出」による人権侵害としてBPOに申し立てていた。

   放送人権委員会は9月15日に審理入りを決定、6回の審理を重ね今月30日付で委員会決定の通知と見解の公表を行った。審理の論点は7点。「本件放送に過剰な演出はあったか」「予告編や未公開映像、副音声が視聴者に対する過剰な煽りとなっていなかったか」「帽子のシーンを台本によらない自然な行動として放送したことに、人権侵害や放送倫理上の問題はあるか」「出演にあたって締結した同意書兼誓約書が、女性の自由な意思表明や行動を過度に抑制する要因となったか」「Netflix 配信後の経緯において、本件放送を行ったこと自体に人権侵害や放送倫理上の問題はあるか」「Netflix 配信後の、フジテレビの女性への対応に問題はなかったか」「女性が亡くなった後のフジテレビの対応に問題はあるか」

   自身が注目していたのは、上記の「Netflix 配信後の経緯において、本件放送を行ったこと自体に人権侵害や放送倫理上の問題はあるか」の点だ。5月19日の地上波の放送でもSNS炎上が予想されたにもかかわらず、なぜ動画修正の措置などを講じなかったのか。追い詰められた出演者とテレビ局がどう向き合ったのか、だ。

   この点についての委員会の見解はこうだ。「出演者の身体的・精神的な健康状態に放送局が配慮すべきことは社会通念上当然のことであり、場合によっては契約の付随義務等として法的な義務ともなるのであって、出演者へのこうした配慮は放送倫理の当然の内容」と、放送倫理上の問題と判断した。その上で、「女性の精神状態を適切に理解するために専門家に相談をするなどのより慎重な対応が求められたのではないか」「制作責任者(チーフプロデューサー)、あるいはその他、社内の然るべき立場にある者の間ではこのことが深刻に受け止められていなかったのではないか」と指摘している。

   女性の自傷行為のケアをしていたのはフジテレビの局員ではなく、番組制作会社の制作スタッフだった。番組の制作現場は、局の制作プロデューサーやディレクター、制作会社ディレクター、孫請け会社の制作スタッフなど二重、三重の構造になっている。そのため、局の制作責任者は現場に目が行き届かず、ある意味で現場任せになりがちな構図がある。

   もう一つの問題が数字だ。地上波放送の場合、視聴率の評価基準である全日時間帯は6時から24時であり、この番組は深夜0時以降の放送で視聴率の対象外だった。リアリティ番組は出演者のありのままの言動や感情を表現し、共感や反感を呼ぶことで視聴者の関心をひきつけ、SNSコメントとしてそのまま現れる。共感であれ反感であれ、コメント数の多さが番組の視聴率に代わる評価指標のバロメーターとなる。そこで、テレビ的な発想で、SNSコメントの数を稼ぎたかったのではないか。結果的に、5月19日の地上波放送はそのまま流された。

   女性は享年22歳、プロレスラーとして知名度を得て、プロ意識も身につけただろう。縮んだコスチュームに怒りを感じて自身が演じたシーンであるがゆえに、テレビ局側に映像の修正を求めることはおそらくしなかった、できなかった。しかし、女性には「テラハから出てけ」「反吐が出そう」「ゴミ女」「出ていけクソブス女」「てか死ねやくそが」「花死ね」といった容赦ない誹謗中傷(BPO見解)が降り注がれた。耐えきれなかったのだろう。プロの自覚と誹謗中傷、このジレンマは相当なものであったことは想像に難くない。しかし、このジレンマの辛さは、現場任せの制作責任者とは共有されることはなかった。

   女子プロレスラーをツイッターで中傷したとして東京区検は30日、大阪府の20代の男を侮辱罪で略式起訴した。東京簡裁は同日、男に科料9000円の略式命令を出し、即日納付された(3月31日付・朝日新聞)。女性の自死問題の件はこれで決着したのだろうか。3月を期して収束したのだろうか。テレビ局の禍根は残したままではないだろうかか。(※写真は2020年5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事から)

⇒31日(水)午後・金沢の天気     はれ

☆『テラスハウス』、故意に「侮辱」を煽ったのか

☆『テラスハウス』、故意に「侮辱」を煽ったのか

   フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』に出演した女子プロレスラーが自死した問題で新展開があった。読売新聞Web版(12月16日付)が報じている。警視庁は近く、ツイッターで女子プロレスラーを中傷したとして、大阪府の20歳代の男を侮辱容疑で書類送検する方針。女性に匿名の誹謗中傷は数百件に上ったが、中でもこの男が女性のツイッターの投稿に対し、「生きている価値あるのかね」「いつ死ぬの?」などと複数回にわたって返信の書き込みを繰り返し、公の場で侮辱した疑い。警視庁では、摘発して処罰の可否を問う必要があると判断した。

   問題のシーンは『テラスハウス』の38話で、同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れたとして怒鳴り、男性の帽子をはたく場面だ。この38話は3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNSコメントで批判が殺到した。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及び、それをSNSに書き込んだ。フジの番組スタッフがこのSNSを見つけ、本人に電話連絡をとっている。ところが、フジは5月19日未明の放送で、SNSで批判された問題のシーンをカットすることなく、そのまま流した。女子プロレスラーは5月23日に自ら命を絶った。 

   女性の母親は、娘の死は番組内の「過剰な演出」がきっかけでSNS上に批判が殺到したためだとして、人権侵害があったとBPO(放送倫理・番組向上機構)に申し立てを行った(7月15日)。番組でプロレスのヒール(悪役)のキャラクターを演じるよう指示され、「番組内に映る虚像が本人の人格として結び付けられて誹謗中傷され、精神的苦痛を受けた」として、人格権の侵害を訴えた。併せて、「全ての演出指示に従うなど言動を制限する」などの条項を含む「誓約書兼同意書」によって自己決定権が侵害され、人権侵害に相当すると訴えた。

   これに対し、フジテレビ側は7月31日付で内部調査の検証報告を公式ホームページで掲載した。聞き取りを番組のプロデューサー、ディレクター、制作現場のスタッフ、出演者、女子プロレスラーの所属事務所の関係者ら27人に対して行った。番組について「予め創作した台本は存在せず、番組内のすべての言動は、基本的に出演者の意思に任せることを前提として制作されていた」としたうえで、調査では「制作者が出演者に対して、言動、感情表現、人間関係等について指示、強要したことは確認されなかった」としている。

   BPO放送人権委員会は遺族からの申し立てを受け、これまで10月20日と11月17日の2回審理を行っている(BPO公式ホームページ)。今回の警視庁の書類送検によって、今後の審理ではSNS上に批判が殺到した理由、さらに、なぜ5月19日にそのまま放送したのか、フジの姿勢が問われるのではないだろうか。故意に「侮辱」を煽ったのかどうかだ。

(※写真は5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事)

⇒16日(水)夜・金沢の天気    くもり

★テレビ局は追い詰められた出演者とどう向き合ったのか

★テレビ局は追い詰められた出演者とどう向き合ったのか

          先ほどニュースを見て、「これは警察の忖度か」と思わず考え込んだ。多額の負債を抱えて倒産した磁気治療器販売「ジャパンライフ」が、顧客に虚偽の説明をして現金をだまし取ったとして、警視庁の捜査本部は18日朝、元会長ら14人を詐欺容疑で逮捕した。「ジャパンライフ」は2015年に元会長に届いた安倍総理主催の「桜を見る会」の招待状を顧客勧誘セミナーで見せびらかして参加者を信用させていたと、去年12月の参院本会議でも問題になっていた。安倍退陣と菅政権発足を見計らった絶妙なタイミングなのだ。

   ようやくこの問題が動き出した。フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーがことし5月23日に自死した問題で、BPO放送人権委員会は遺族からの申し立てを受け、審理入りを決定した(9月15日付・BPO公式ホームページ)。番組で女子プロレスラーが演じた、同居人男性の帽子をはたくシーンは番組制作側の「やらせ」だったのかどうかが問われる。委員会は遺族とフジテレビが提出する書面と、双方へのヒアリングをもとに審理を行い、その結果を「勧告」または「見解」としてまとめ、双方に通知した後に記者会見で公表する予定だ(同)。

   問題のシーンは『テラスハウス』(38話)で、同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れたとして怒鳴り、男性の帽子をはたく場面だ。この38話は3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNSコメントが批判が殺到した。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及び、それをSNSに書き込んだ。番組スタッフがこのSNSを見つけ、本人に電話連絡をとっている。5月18日の地上波放送では、SNSで批判された問題のシーンをカットすることなく、そのまま流された。女子プロレスラーが自死したのは5月23日だった。

   BPOに対し女性の母親は7月15日に申し立てを行い、番組でプロレスのヒール(悪役)のキャラクターを演じるよう指示され、「番組内に映る虚像が本人の人格として結び付けられて誹謗中傷され、精神的苦痛を受けた」として、人格権の侵害を訴えていた。また、「全ての演出指示に従うなど言動を制限する」などの条項を含む「誓約書兼同意書」によって自己決定権が侵害され、人権侵害に相当すると訴えていた。

   これに対し、フジテレビ側は7月31日付で内部調査の検証報告を公式ホームページで掲載した。聞き取りを番組のプロデューサー、ディレクター、制作現場のスタッフ、出演者、女子プロレスラーの所属事務所の関係者ら27人に対して行った。番組について「予め創作した台本は存在せず、番組内のすべての言動は、基本的に出演者の意思に任せることを前提として制作されていた」としたうえで、調査では「制作者が出演者に対して、言動、感情表現、人間関係等について指示、強要したことは確認されなかった」としている。

   また、同意書兼誓約書に関しては、出演契約であり労働契約のように「指揮命令関係に置くものではない」としている。動画配信サービス後の自傷行為から放送後にいたる間は、番組スタッフが本人と連絡を取り、ケアにより、「精神状況が比較的安定していることを確認している」とも主張している。

   BPO放送人権委員会の審議のポイントはいくつかあると推測する。一つは、フジテレビ側はなぜ内部調査だったのか、第三者委員会を設置して客観的視点から調査を行うべきではなかったか。もう一つは、「Netflix」での配信をきっかけにSNSによる批判が殺到し女子プロレスラーが自傷行為に及んだ。地上波の放送でもSNS炎上が予想されたにもかかわらず、なぜ動画修正の措置などを講じなかったのか。テレビ局として追い詰められた出演者とどう向き合ったのか、問われるところだろう。BPOの審理に注目したい。

(※写真は5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事)

⇒18日(金)朝・金沢の天気    あめ

☆検証報告「確認されず」で済むのか

☆検証報告「確認されず」で済むのか

   フジテレビの番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーがことし5月23日に自死した問題で、フジテレビは7月31日付で検証報告を公式ホームページで掲載している。それによると、調査は社内の関係部門を横断する メンバーによる内部調査で、一部に弁護士も加わった。聞き取り調査の対象者は番組のプロデューサー、ディレクター、制作現場のスタッフ、出演者、女子プロレスラーの所属事務所の関係者ら27人におよんだ。

   問題となった38話は、同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れたとして怒鳴り、男性の帽子をはたく場面だ。この場面のいきさつについて検証報告では以下のように記載されている。「一部の報道等では、制作側が木村花さんに対して、プロレスのヒール(悪役)のキャラクターを演じるよう指示しており、木村花さんのSNSを炎上させる意図があったと伝えられています。しかし、制作側からそのようなキャラクター設定を求めるような指示をしたことは確認されませんでした」。いわゆる「やらせ」はなかったとしている。

   むしろ、この検証報告で注目したのは、SNSでの炎上と自傷行為を制作側はどのようにとらえていたのか、という点だ。以下報告を要約する。動画配信サービス「Netflix」で38 話が配信された3月31 日は、SNSコメントは2万2421件を記録した。それまで番組へのコメントは配信後1日で6千から8千だったので38話の場合は異常に多かった。さらに、ネガティブなコメントの割合は配信直後の1時間は40%だった。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及び、それをSNSに書き込んだ。番組スタッフがこのことをSNSで知り、本人と連絡して無事であることを確認している。

   この時点で5月18日の地上波の放送が決まっていた。本来ならば、SNS炎上の第2波を防ぐために問題の一部シーンをカットするなどの配慮があってもよかったのではないだろうか。そうした救済措置もないまま予定通り放送される。「5月18日に地上波で38話が放送された際にも、同じスタッフが木村花さんと連絡をしており、SNSにネガティブなコメントがあるとの話を聞きましたが、この場のやり取りでは、猫を飼い始めたなどの話を聞いており、木村花さんが元気で、深刻に悩んでいる様子は無いものと認識しました。」(検証報告)。その5日後に自死にいたる。

   問題シーンのカットもせずそのまま地上波で放送したのは、番組スタッフとすれば「ネット配信で事前に視聴者の話題を煽り、本命の地上波放送で視聴率を上げる」という狙いがあったのではないかと勘繰らざるを得ない。これに関して以下の説明がある。

   「制作スタッフが出演者のSNSを炎上させる意図を持つ要素があるかについても調査しましたが、そのようなことは確認されませんでした。例えば、視聴率および配信数を向上させることを目的とし得るかどうかについても確認しましたが、出演者のSNSの状況と地上波放送の視聴率 、フジテレビが行うインターネット配信の視聴数の間には、過去のエピソードを含む一連のデータを検証しても、何ら相関が見いだされず、そのような動機を持つことはないと考えます。また地上波放送については、放送時間帯が深夜0時以降であり、視聴率の主要な評価基準の一つである全日時間帯(6時から24時)に含まれておりません 」(同)

   検証報告では契約書についても触れている。「出演者および所属事務所と、上記『同意書兼誓約書』を締結しておりますが、これは一般に出演契約と言われるものであり、労働契約ではないとのことでした。損害賠償に関する規定についても、契約違反しただけでなく、それによって番組の放送、配信が中止された場合について定めたものです。これは、現実的には、出演者による犯罪が起きるなどの重大な事態しか想定され得ず、制作側としては、そのような事が起きないようにするための抑止力として捉えていました」

   この文面を読んでふと思った。以下憶測である。本人は5月18日の地上波放送を中止してほしかったに違いない。それを番組スタッフ、あるいは所属事務所の関係者に頼み込んだ。しかし、「番組の放送を中止した場合、損害賠償が請求される」と聞かされ、諦めざるを得なかった。そして放送後、SNSにネガティブコメントが届き、自らをさらに追い詰めることになった。

   遺族はBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会に人権侵害の審査を申し立てている(7月15日付・共同通信Web版)。フジテレビ側とすると、審査入りの決定を前に、検証報告を公表しておきたかったのだろう。BPOの審査が決定し、審議が始まれば、おそらく真っ先にフジテレビ側が問われるのは、なぜ内部調査だったのか、第三者委員会を設置して客観的視点から調査を行うべきではなかったか、と。

(※写真はイギリスのBBCニュースWeb版が報じた女子プロレスラーの死=5月23日付)

⇒2日(日)午後・金沢の天気     はれ

★演出なきリアリティ番組はあるのか

★演出なきリアリティ番組はあるのか

   フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーが5月23日に自死した事件がいまだにくすぶっている。視聴者から批判が殺到したビンタのシーンは番組スタッフの指示と母親が証言した(「週刊文春」7月2日発売号)。フジテレビ側は社長が今月3日の記者会見で「一部報道にスタッフが“ビンタ”を指示したと書かれているが、そのような事実は出てきていない」「感情表現をねじ曲げるような指示は出していないということだ」と述べている(フジテレビ公式ホームページ「6月度社長会見要旨」)。真向から対立している。

   番組のシナリオ台本はなかったとは言え、番組には必ずディレクターが立ち会い、視聴者の反応を意識した構成が練られていただろう。「台本なき演出」があったと考えるのが普通だ。

   かつて、テレビマンとして番組制作にかかわっていた。ドキュメンタリ-番組を制作するに当たって気をつけていたことは、「演出」の気持ちにかられないようにすることだった。なぜならば、ドキュメンタリーは事実を構成する番組なので、「演出」あるいは「やらせ」はタブーである。ところが、ディレクターとしては番組のストーリー性を常に考えるので、つい「こんなシーンがあると映像の流れ的にはリアリティがあっていいんだけれどな・・・」などと思ってしまう。番組の完成度を高めたいのだ。

   そのような思いを戒める「事件」が起きた。1992年に放送されたNHKスペシャル『禁断の王国・ムスタン』(9月30日・10月1日放送)。ムスタンはネパール領の自治王国で、「テレビ未踏の番組」が触れ込みだった。視聴率は14%をさらい、さすがNHKと好評を博した。それが一転、「やらせ番組」の代名詞の烙印を押されることになる。

   翌年1993年2月3日付の朝日新聞でスクープ記事が出た。疑惑はいくつもあった。登場した「国境警備兵」は実際は警察官だった。映像中の「少年僧の馬が死んだ」は実際は別の馬だった。「高山病に苦しむスタッフ」の映像は実際は演技だった。「岩石の崩落、流砂現象」のシ-ンは取材スタッフが故意に引き起こした、などの「やらせ」疑惑だ。NHKも内部調査を行い、「過剰な演出」「事実確認を怠り誇張した表現」と認めた。同年3月、電波行政を所管する郵政省(現・総務省)はNHKに対し虚偽報道であるとして大臣名で厳重注意の行政指導を行った。

   その後も、関西テレビの『発掘!あるある大事典Ⅱ』では捏造が発覚した。2007年1月7日放送「納豆でヤセる黄金法則」はアメリカの大学教授の研究をもとに「DHEA」と呼ばれるホルモンにダイエット効果があるとの説を紹介し、納豆に含まれるイソフラボンがその原料になるとし、被験者8人全員の体重が減ったとの内容だった。週刊朝日が関テレに質問状を送ったことがきっかけに、番組を制作会社に任せていた関テレが独自調査。コレステロール値や中性脂肪値や血糖値の測定せず、血液は採集をするも実際は検査せずに数字は架空といった捏造が明るみに出た。さらに、大学教授の日本語訳コメント(ボイス・オーバー)はまったく違った内容だったことが発覚した。

   結局、番組は打ち切りに。関テレも一時、民放連の除名処分を受ける事態になった。ある意味でこれは民放の構造的な問題ではなかったかと察している。当時、制作会社は制作9チーム(150人)で1チームが2ヵ月に1本の制作を担当していた。科学データが実証されるのを待っていると時間が必要で、放送に穴を空けることにもなりかねない。時間に追われたディレクターは「とりあえず、絵だけ撮れ」とカメラマンに指示したのだろう。「体にいいですよ」という番組の結論を導くために捏造したデータやコメントを構築していくことになった。

   話は冒頭に戻る。「リアリティ番組」と銘を打つから、演出だ、やらせだ、捏造だと批判を浴びる。最初から「娯楽バラエティー番組」にしておけば、演出は許される。そして、出演者も視聴者もそれほど抵抗感はなかったのではないか。番組づくりと演出はテレビ制作者の永遠の課題ではある。

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