#タリバン

☆タリバンの容赦ないジャーナリスト狩り

☆タリバンの容赦ないジャーナリスト狩り

    実にいたましい記事だ。そして、この記事の写真を見るとタリバンは獲物を狙う「山賊」のようにも見える。ドイツ国際放送「Deutsche Welle」(DW)は19日、アフガニスタン国籍の同社記者の家族がタリバンによって射殺されたと報じている=写真=。記事は、「Journalists and their families are in grave danger in Afghanistan. The Taliban have no compunction about carrying out targeted killings as the case of a DW journalist shows.」(意訳:アフガンではジャーナリストとその家族が重大な危険にさらされている。DWのジャーナリストのケースが示すように、タリバンは標的を絞って殺害を実行し、そこには何らの妥協もない)と報じている。

   DW記事によると、射殺されたのは「ストリンガー」と呼ばれる、アフガンで採用された現地記者の家族だ。記者はドイツの本社に来ていた。タリバンはその記者を探して家から家へ捜索を行っていた。家族を探し出して、射殺した。以下憶測だが、記者がドイツの本社にいることを家族から聞いて、見せしめに家族を射殺したのだろう。もともと記者本人を殺害するために探していた。

   タリバンによる「ジャーナリスト狩り」はこれだけではない。記事によると、アフガンの民間テレビ局ガルガシュトテレビの記者はタリバンに誘拐され、民間ラジオ局パクティア・ガグラジオの責任者は射殺されている。ドイツの週刊ニュース紙「Die Zeit」に投稿していた翻訳者が今月に入って射殺されている。そして、世界的にも有名なインドの写真家のデニッシュ・シディキ氏(ピューリッツァー賞受賞者、ロイター通信写真記者)が7月16日にカンダハルで武装勢力によって殺害されている。

   ドイツジャーナリスト協会(DJV)は、欧米のメディアで働いているストリンガーの家族が殺害されたことを受けて、「同僚が迫害され、殺害されている間、ドイツはぼんやりと立っていてはならない」と声明を発表して、ドイツ政府に迅速な行動を取るように求めている。また、国際ジャーナリストのNGO「国境なき記者団(RSF)」は国連安全保障理事会に対し、アフガンにおけるジャーナリストへの危険な状況に対処するための非公式の特別セッションを開催するよう要請した。

   では、なぜ、タリバンがジャーナリスト狩りを行っているのか。イスラム原理主義のタリバンが目指すところは、最高意思決定機関を据えた政教一致の体制だろう。ところが、世界のジャーナリストは権力への監視という重要な役割を担っていると自負している。タリバンにとっては、政権批判は忌み嫌う欧米の文化と映るのだろう。「山狩り」のように徹底したジャーナリストの排除を狙っているのではないだろうか。

⇒21日(土)午後・金沢の天気      くもり時々あめ

☆アフガン政変で見えたアメリカのドライなリセット

☆アフガン政変で見えたアメリカのドライなリセット

   アフガニスタンにおける政変で、クローズアップされているのが「自主防衛」という言葉ではないだろうか。アメリカにとって、アフガンは「保護国」であって同盟国ではない。なので、アメリカはトランプ政権下の2020年2月、タリバンとの和平交渉で「アメリカは駐留軍撤退」「タリバンは武力行使を縮小」で合意。そして、バイデン大統領は今年4月に同時多発テロ事件から20年の節目にあたる「9月11日」まで完全撤退すると表明していた(4月14日付・BBCニュースWeb版日本語)。

   では、タリバンが一方的に合意を破って首都カブールに進攻したのであれば、アメリカは駐留軍撤退の合意を破棄すべきではないか、との世界の論調も高まるだろう。現に、アメリカ世論は揺れている。ロイター通信はタリバンが首都カブールを制圧した後の16日に実施した世論調査を17日に公表した。バイデン大統領への支持率は46%で、先週の53%から7ポイント低下し、1月の就任後で最低を記録した(8月18日付・時事通信Web版)。一方で、アメリカのイプソス社が16日に行った世論調査では、アフガン駐留軍の完全撤収の判断には、61%が支持すると回答した。野党・共和党支持者に限っても支持(48%)が不支持(39%)を上回った(同・読売新聞Web版)。

   アメリカの世論がこれほど動くのも、歴代政権が支援してきたアフガンの民主政権を守れなかったのではないかとの国民の評価が分かれ、一方で、アメリカ軍と協力するはずの民主政権の「自主防衛」の有り様が問われた。このニュースは世界中に流れた。ロシア通信は16日、アフガンのガニ大統領が、車4台とヘリコプターに現金を詰め込んで同国を脱出したと伝えた。在アフガニスタンのロシア大使館広報官の話としている(同・共同通信Web版)。多額の現金に関してはフェイクニュースとの見方があるものの、軍の総司令官でもある大統領が抵抗勢力と戦わずして高跳びしたことは事実である。言うならば「無血開城」。これでは、アメリカ軍も手出しようがない。

   このアフガンの事態を見て、緊張しているのは台湾だろう。アメリカと台湾は1954年に「相互防衛条約」を締結し強固な同盟関係を結んだ。しかし、1979年のアメリカと中国の国交樹立を機に翌年1980年に条約は失効し、アメリカ軍の司令部や駐留軍は台湾から撤退した。ただ、アメリカは中国との軍事バランスの見地から、1979年にアメリカの国内法である「台湾関係法」を制定し、有事の際は日本やフィリピンのアメリカ軍基地からの軍隊の派遣を定めている。その代わりに台湾はアメリカから武器を購入するという、「柔らかな同盟」だ。

   今回のアフガンの政変で台湾側は危機感を持った。NHKニュースWeb版(8月18日付)によると、蔡英文総統は18日、与党・民進党のオンライン会議で「台湾の唯一の選択肢は、より強大になり、より団結し、よりしっかりと自主防衛することだ。自分が何もせず、ただ人に頼ることを選んではいけない」と述べた。そして、民主と自由の価値を堅持し、国際社会で台湾の存在意義を高めることが重要だと強調した。

   蔡氏があえて「自主防衛」を持ち出したのは、台湾をアフガンの二の舞にしてはならないという確固たる決意の表れだ。一方で、中国は今回のアフガンのように民主政権ならば何が何でも守るというスタンスではないアメリカのドライな一面を理解した。今後、中国は台湾海峡での海上封鎖といった緊張状態を仕掛けて、あるいは融和策を台湾に持ち掛けて、アメリカの出方をうかがうのではないか。その上で、アメリカ世論の動向も読みながら、「柔らかな同盟」を踏みつぶしにかかってくる。裏読みではある。 (※写真は、The White House公式ホームページより)

⇒19日(木)午後・金沢の天気   くもり時々あめ

★「冥府魔道」タリバンの行く道

★「冥府魔道」タリバンの行く道

   アフガニスタンの政権を奪還したタリバンについて、メディアによって頭につける説明が異なる。読売新聞は16日付の紙面までは「旧支配勢力 タリバン」と表現していたが、17日付からは「イスラム主義勢力 タリバン」と。朝日新聞も18日付の紙面では「イスラム主義勢力 タリバン」と表現しているが、17日付までは「反政府勢力 タリバーン」としていた。18日付一面の「おことわり」で名称を「タリバーン」から「タリバン」に変更したとしている。イギリスのBBCは一貫して「militants」、武装勢力と表現している。

   ところが、見落としもあるかもしれないが、アメリカのニューヨーク・タイムズやCNNは「タリバン」と名称だけで記事にしている。「説明をつけるまでもない、あのタリバンが」と言っているようでむしろ迫力がある。2001年9月11日のニューヨークでの同時多発テロ事件で、ブッシュ大統領はタリバンが首謀者のオサマ・ビン・ラディンをかくまっていると非難して、アフガンへの空爆を始めた。アメリカにとって、「テロの温床」タリバンのイメージは20年経った今も変わっていないのだろう。

   同じ20年前の2001年3月、タリバンはバーミヤンの巨大石仏を爆破した。1400年以上前の仏教文化を伝え、日本では歴史教科書でも紹介されていた貴重な遺跡だっただけに破壊は衝撃的だった。なぜ、タリバンは巨大石仏を破壊したのか。当時タリバンのスポークスマンといわれたアブドゥル・サラム・ザイーフ氏の回想録がAFP通信Web版日本語(2010年2月26日付)の記事で紹介されている。以下引用。   

「回顧録によると、タリバンがバーミヤン石仏を破壊しようとしていた2001年、日本は破壊をやめさせようと最も熱心に働きかけてきた国だった。スリランカの僧侶らを伴ってザイーフ氏を訪れた日本の公式代表団は、石仏を解体して海外に移送し再度組み立てる案や、石仏の頭からつま先まですっかり隠してその存在を視認できないようにするなどの保存策を提案したという。

 代表団は、アフガニスタン人は仏教徒の先祖にあたり、仏教遺産を守る責任があると説いたが、ザイーフ氏はアフガン人にとって仏教は『空虚な宗教』だと返答。『われわれを先祖と見なし従ってきたのなら、われわれがイスラム教という真の宗教を見つけたときに、なぜその例に従わなかったのか』と反問し、イスラム教への改宗を暗に迫ったという。」

   タリバンが今でも「イスラム教を真の宗教」とし、仏教のことを「空虚な宗教」とさげすんでいるのであれば、再度バーミヤンの爆破に及ぶかもしれない。そして、次の政府に議会があるのか、ないのか。さらに、アフガンで2009年に制定された「女性に対する暴力排除法」は法として守られるのかどうか。何の公約もなく、武力で政権を勝ち取った勢力に何が期待できるのだろうか。「テロの温床」だけにはなってほしくない。

(※写真は、「暴力的な歴史があるがゆえにタリバンの公約は曇って見える」と伝える8月17日付・ニューヨーク・タイムズWeb版)

⇒18日(水)午後・金沢の天気    くもり

☆アフガニスタンとオリンピック

☆アフガニスタンとオリンピック

   「アフガニスタン」で思い起こすのは、1980年のモスクワオリンピックだ。1979年、イスラム原理主義が勢力を伸ばしていたアフガニスタンで、当時のソ連のコントロールのもとにあった政権があやしくなってきた。そこでソ連のブレジネフ書記長は政権を支えるために同年12月に大規模な軍事介入に踏み切った。いわゆる「アフガン侵攻」だ。このアフガン侵攻は西側に衝撃を与え、モスクワオリンピックを日本を含む西側諸国がボイコットする事態にまで展開した。

   それでもアフガンに駐留を続けるソ連を、1981年に就任したアメリカのレーガン大統領は「悪の帝国」と名指しで非難した。その後、アメリカがアフガンに介入したのは、2001年9月11日のニューヨークでの同時多発テロ事件だった。ブッシュ大統領はアフガンで政権を握っていたタリバンが、テロ事件の首謀者のオサマ・ビン・ラディンをかくまっていると非難。10月にはアメリカ主導の有志連合軍がアフガンへの空爆を始め、タリバン政権は崩壊。大規模な捜索にもかかわらず、ビン・ラディンを捕捉できなかった。10年後の2011年5月2日、隣国パキスタンに逃げ込んでいたビン・ラディンの潜伏先をアメリカ軍特殊部隊が探し出して殺害している。

   この時点でアメリカ軍がアフガンに駐留する大義はなくなった。オバマ大統領はビン・ラディン斬首作戦の後の9月、10年間で3兆㌦の財政赤字を削減する方針を打ち出し、アフガンやイラクからのアメリカ軍撤退によって軍事費を1兆1千億㌦削減すると示していた。さらに、トランプ政権下の2020年2月、アメリカとタリバンによる、「アメリカは駐留軍撤退」「タリバンは武力行使を縮小」との和平交渉が合意。そして、バイデン大統領は今年4月に同時多発テロ事件から20年の節目にあたる「9月11日」まで完全撤退すると表明していた(4月14日付・BBCニュースWeb版日本語)。

          ところが今月に入り、アメリカとタリバンによる和平合意とは裏腹に事態は一変する。タリバンは首都カブールに進攻し、日本時間の16日朝、政府に対する勝利を宣言した。一方、2014年から政権を担ってきたガニ大統領は出国し、政権は事実上、崩壊した(8月16日付・NHKニュースWeb版)。

   では、タリバンによって合意が破られたとして、アメリカは駐留軍を継続するだろうか。以下は憶測だ。バイデン氏は予定通り「9月11日」までに完全撤退を終えるだろう。アメリカの国益にならないアフガンの国内紛争に駐留軍を無期限に留めることに意義を感じてはいないだろう。ましてや、政権を担ってきた大統領はすでに国外に高跳びしている。

    この隙間を狙って、タリバンとの友好関係をいち早く築こうとしているのが中国だ。BloombergニュースWeb版日本語(8月17日付)によると、王毅外相はタリバンが当時のガニ政権への攻勢を強めていた先月下旬、天津市でタリバン代表団と会談。王外相は、タリバンがアフガン統治で「重要な役割」を果たすことが期待されていると表明した。

   憶測だが、中国はイスラム教徒の少数民族ウイグル族が多く住む新疆ウイグル自治区での監視を強化している。アフガンと新疆ウイグル自治区は隣接している。タリバンによる「イスラム首長国」の国名変更を後押しすることを条件に、ウイグル自治区には手を出さないようにとの約束を交わしているのかもしれない。いずれにしても、中国はこれからのアフガンの後ろ盾を狙っている。

   テロや女性への抑圧を支持し世界から長らく疎外されてきたタリバンを「国」として認めることができるかどうか。おそらく、アメリカはいったんアフガンとは離れて、国としては認めないだろう。中国に同調する立場、アメリカに同調する立場、今後アフガン問題がこじれると北京オリンピックのボイコットへと発展するのかもしれない。歴史は繰り返す。

(※写真は、国外退避を求め、離陸しようとするアメリカ軍機に乗り込もうとする人々。カブールの空港で=CNNニュースWeb版)

⇒17日(火)午後・金沢の天気     あめ