#ゼレンスキー大統領

☆国連安保理の機能不全を問いただしたゼレンスキー演説

☆国連安保理の機能不全を問いただしたゼレンスキー演説

   ついに、ウクライナのゼレンスキー大統領が国連安保理でオンライン演説を行った。メディア各社の報道によると、安保理に対して強烈なメッセージを発した。「”Are you ready to close the UN? And the time of international law is gone? If your answer is no, then you need to act immediately,” he said, adding that “accountability must be inevitable”.」「”We are dealing with a state that turns its veto at the UN Security Council into the right to [cause] death,” he said.」(6日付・BBCニュースWeb版)=写真=。

   国連の果たす役割は終わってしまったのか、国際法の時代は終わったのか、もし答えがノーなら、直ちに行動をとってほしいとゼレンスキー氏は述べた。安保理の拒否権が『死の権利』とならないよう、国連のシステムは直ちに改革されなければならないと語った。

   国際法や国連憲章の違反を無視してウクライナ侵攻を続けるロシアだけでなく、香港やウイグルにおける人権弾圧問題で国際批判を浴びている中国も常任理事国だ。常任理事国の座にあれば問題を起こしても国連では問われない。拒否権を発動すればよいだけだ。これが「世界平和の番人」安保理の現実の姿だ。

   機能不全に陥っている国連安保理を痛烈に批判したゼレンスキー氏に対し、拍手を送った日本人も多かったのではないだろうか。ウクライナ侵攻以前の調査だが、アメリカの世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」は、創設75年の国連の実績について世論調査(2020年6-8月)を行った。調査対象国は日本、韓国、オーストラリア、アメリカ、カナダ、デンマーク、ドイツ、オランダ、イタリア、スウェ―デン、ベルギー、フランス、スペイン、イギリスの14ヵ国で、その中で日本は国連に対する好感度が最も低かった。「好感を持つ」は29%で、「好感を持たない」が55%と半数を占めた。CNNは「Americans think the UN is doing a good job. Japanese people disagree.」と伝えた(2020年9月22日付・Web版)。

   日本人には解せないもう一つ国連の姿がある。国連憲章(第53、107条)の「敵国条項」だ。日本はいまだに第二次世界大戦の「敵国」だ。ある国を攻撃する場合は国連安保理の承認が必要だが、「敵国」に再侵略の企てがあるとみなせば先制攻撃が可能で、安保理の承認は不要という規定だ。ロシアや中国はいつでも日本に対する先制攻撃が可能なのだ。 

   ゼレンスキー氏の演説に戻る。ロシアに対して猛烈に非難した。前日にみずから訪れた首都キーウの北西の町ブチャについて、「ロシアが犯した第2次世界大戦後、最も恐ろしい戦争犯罪だ。ロシア軍と彼らに命令を下した者に直ちに法の裁きを下さなければならない」。そして市民の遺体だとするおよそ1分間の映像が、スクリーンに映し出された(6日付・NHKニュースWeb版)。

  このあと各国からもロシアの責任を厳しく問う声が相次ぎ、このうちアメリカの国連大使は「ロシアがいかに人権を尊重していないかが日々明らかになっている」と述べ、ロシアの国連人権理事会の理事国としての資格を停止すべきだと呼びかけた(同)。さらなる制裁の発動が重要だ。

⇒6日(水)午後・中能登町の天気   くもり

☆これは噛みそう ウクライナ地名の呼称変更

☆これは噛みそう ウクライナ地名の呼称変更

          「キエフ」を「キーウ」に、「チェルノブイリ」を「チョルノービリ」に。政府は文書で使用、あるいは発表するウクライナの地名について呼称を変更すると発表した。これまで使っていた地名はロシア語の発音に基づく表記だったことから、ウクライナ語の発音に基づくものへと変更する。

   外務省公式ホームページをチェックすると、「報道発表」のページ(3月31日付)に「ウクライナの首都等の呼称の変更」と題して経緯の説明が記載されている。それによると、「ロシアによる侵略を受け、日本政府としてウクライナ支援およびウクライナとの一層の連帯を示すための行動について幅広く検討を行ってきたところです」「適切な呼称についてウクライナ政府の意向について照会を行っていたところ、今般、ウクライナ側から回答が得られた」と。

   地名の呼称変更をニュースで知って、当初はゼレンスキー大統領やウクライナ政府からの要望によるものかとも考えたが、どうやら日本側からの提案のようだ。そして、外務省の報道発表では「決意」のようなものも述べられている。

「ロシアによる侵略は、明らかにウクライナの主権および領土の一体性を侵害し、武力の行使を禁ずる国際法の深刻な違反であり、国連憲章の重大な違反です。我が国は、引き続きウクライナおよびウクライナ国民に寄り添い、事態の改善に向けてG7を始めとする国際社会と連携して取り組んでいきます」

   外務省とすれば、ゼレンスキー大統領がアジアで初めての国会演説(オンライン、3月23日)を日本で行ったことの意義を重く受け止めているのかもしれない。日本側のこの動きに関して、ゼレンスキー大統領はさっそくにツイッター=写真=で反応している。

私たちの都市の名前について、時代遅れのソビエト音訳を廃棄して、正しいウクライナ語の形式を受け入れる時が来た。 日本と岸田総理には感謝する。呼称変更については、私たちも他の国の人々が日本に続くことを勧めていく」(グーグル翻訳をもとに意訳)

   ロシアによるウクライナ侵攻の一連の動きをたどってみると、表現は適切ではないかもしれないが、ゼレンスキー氏やプーチン氏という役者が立ち振る舞う、勧善懲悪のドラマのようだ。話は冒頭に戻るが、きょうの紙面によると、「オデッサ」は「オデーサ」、「ドニエプル」は「ドニプロ」となる。「チェルノブイリ原発」の呼び方は脳裏に焼きついているので、「チョルノービリ原発」とすらすらと口元から出るまでは時間がかかる。いらぬ心配だが、国会論戦で政治家が、ニュース番組でアナウンサーやキャスターがけっこう噛む(言い間違える)のではないか。

⇒1日(金)と午前・金沢の天気   くもり時々はれ   

★ゼレンスキー流「外交の舞台・日本公演」のメッセージ

★ゼレンスキー流「外交の舞台・日本公演」のメッセージ

   前回ブログの続き。昨夜はテレビ各局が夜のニュース番組で、けさは新聞各紙が一面でウクライナのゼレンスキー大統領のオンラインによる国会演説を大きく取り上げている=写真=。それにしてもゼレンスキー氏の演説はデジタル時代を感じさせる。これまでは、各国元首による国会でのスピーチは国賓として招かれた際の歓迎行事というイメージだった。それが、「飛行機で15時間」のウクライナから、しかもオンラインによる生中継で。でも、よく考えてみれば、新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークやオンライン会議は当たり前になっている。国会でリモート演説があっても当然だろう。

   もちろん、ゼレンスキー氏は国賓ではなかったが、緊急を要する国際情勢の中で日本はG7の一員としてウクライナを支援している。その当事国の大統領から感謝の意を表したいとオファーがあれば、断る理由はないだろう。外交上の決まりで元首のスピーチの通訳はそれぞれの国の通訳者が行っている。今回も在日ウクライナ大使館の職員がゼレンスキー氏の演説を同時通訳した(24日付・朝日新聞)。

   前回のブログでも述べたが、ずいぶんと手慣れたシナリオライターが周囲にいると直感した。ゼレンスキー氏はこれまでアメリカ、イギリス、ドイツ、イタリアなどの議会でもオンライン演説をしているが、それぞれの国の歴史や文化、出来事を心をつかむフレーズを演説に織り込んでいる。

   今回自身の心に刺さったフレーズは、「ウクライナに対する侵略の津波を止めるためにロシアとの貿易禁止を導入し、各企業が撤退しなければならない」(※同時通訳を文章化)と述べたことだった。「ツナミ」、これは東日本大震災における津波被害を念頭に置いた言葉だったのではないだろうか。時期としても3月11日の発生日を意識したものだろう。「津波」は日本人にとってインパクトがある言葉だ。

   「2019年私が大統領になって間もなく、私の妻が目がよく見えない子どもたちのためにオーディオブックのプロジェクトに参加した。日本の昔話をウクライナ語でオーディオブックにしたのです」「日本の文化は本当にウクライナ人にとって非常に意味深い。距離があっても、価値観がとても共通している。心が同じように温かい」(同)。

   大統領の演説となれば、世界観や歴史観、国際戦略が散らばめられ、遠い政治の世界をイメージする。が、ゼレンスキー氏の演説には庶民目線を含めて実に多様な視点が盛り込まれている。それはなぜか。ゼレンスキー氏の経歴とつながっているのかもしれない。前職はコメディアンや役者などタレントだった。その中で自ら大統領を演じたテレビ番組を制作し、その脚本も書いていた(Wikipedia「ウォロディミル・ゼレンスキー」)。

   視聴者や観客に「受ける」、「気を引く」、「次も見てもらう」といった感性が才能として備わっているのだろう。ゼレンスキー氏にとっては今回のオンライン演説は外交という舞台であり、日本公演という感覚だったかもしれない。そう考えると、演説はシナリオライターが書いたものではなく、自作で練ったものなのだろうか。それしても、連日のように世界に発信するメッセージパワーには脱帽する。

⇒24日(木)午前・金沢の天気     くもり時々はれ

☆時の人ゼレンスキー大統領の名スピーチ

☆時の人ゼレンスキー大統領の名スピーチ

   さきほどウクライナのゼレンスキー大統領のオンライン演説をNHKの中継で視聴した。ずいぶんと手慣れたシナリオライターが周囲にいると直感した。ゼレンスキー氏はこれまでアメリカ、イギリス、ドイツ、イタリアなどの議会でもオンライン演説をしているが、それぞれの国の歴史や文化に応じて、その国の国民や議員の心をつかむフレーズを演説に織り込んでいる。

   アメリカ連邦議会(今月16日)でのオンランスピーチでは、1941年のパールハーバー(真珠湾攻撃)や2001年の同時テロを思い出せと言い、公民権運動のキング牧師の言葉で知られる「I have a dream」を想起させるかのように、「I have a need」と述べて、ロシアへの制裁強化を強く訴えた。厳しいことも言っている。ドイツ連邦議会のビデオ演説(同17日)では、支援に感謝を示しながらも「ウクライナのNATO加盟の要望をはぐらかし、ウクライナとEUの間に『新たな壁』をつくることに加担してきた」と苦言を呈した(17日付・時事通信Web版)。

   午後6時からのスピーチに耳を傾ける。12分間ほどの演説だった。印象に残ったフレーズをいくつか。「ウクライナと日本は飛行機で15時間かかるが、お互いの自由を感じる気持ちに差はない。生きる意欲に差はない。日本がすぐに援助の手を差し伸べてくれたことに感謝している」「日本はアジアで初めてロシアに圧力をかけた」とロシアに対する制裁の継続を求めた。

   そして惨状を訴えた。「ウクライナではすでに数千人が犠牲になり、そのうち121人は子どもだ」「殺された人をきちんと葬ることさえできない。家の庭や道路、可能なところで埋葬している」と現地の状況を語った。

   さらに、ロシアがウクライナのチェルノブイリなどの原発を攻撃したことに触れ=写真=、「ロシアは核物質の処理場を戦場に変えた。戦争のあとにこの処理にどれほどの時間がかかるか想像してみてほしい」と訴えた。このとき、ひょっとして世界で唯一の被爆国である日本の「ヒロシマ」「ナガサキ」のことに触れるのかと脳裏をよぎったが、アメリカへの配慮もあったのだろう、話はそこには行かなかった。「ロシアがサリンなどの化学兵器を使った攻撃を準備している報告を受けている。さらに核兵器が使われた場合に世界はどうなるのか」とロシアの大量破壊兵器に危機感を示した。

   共感したのは国連の改革についてだった。「国際機関が機能しなかった。国連安全保障理事会も機能しなかった」と指摘した。そして、「日本のリーダーシップが大きな役割を果たせると思う」と期待感をにじませた。最後は、「ウクライナに栄光あれ、日本に栄光あれ」と締めくくった。名演説だった。ロシアは日本の隣国であり、北方領土という問題を抱える。スピーチを聞いていて他人事ではないと実感した。

⇒23日(水)夜・金沢の天気   あめ