#スボード・グプタ

☆プラごみ国際条約動き出す 日本海に必要な汚染対策条約

☆プラごみ国際条約動き出す 日本海に必要な汚染対策条約

   プラスチックごみによる汚染問題は世界各地で深刻化している。排出や廃棄を規制する国際条約づくりがようやく動き出した。朝日新聞Web版(7日付)によると、去年3月の国連環境総会で、2024年内に法的拘束力のある汚染対策条約をつくる方針で合意。11月から12月に各国政府代表がウルグアイに集まり、第1回の交渉会合を行った。ことしは5月の第2回で条約に盛り込む内容の議論を始め、11月に第3回を開く。ことし中に法的拘束力のある枠組みをつくる方針で、2025年以降に条約を採択する予定という。

   これまでの交渉で、プラごみの削減だけでなく、プラスチックの生産から廃棄までのライフサイクル全体で削減に取り組む方向で一致している。削減に向けた国別行動計画を作る方針で、対策に必要な資金の仕組みづくりも協議する、という(7日付・朝日新聞Web版)。

   以下は日本海側に住む一人としての希望だ。対岸国の不法投棄をどう解決すればよいか、そうした条約の枠組みも併せてつくってほしい。たとえば、「地中海の汚染対策条約」とも呼ばれるバルセロナ条約は21ヵ国とEUが締約国として1978年に発効している。日本海にも沿岸各国との汚染対策条約が必要ではないだろうか。

   データがある。石川県廃棄物対策課の調査(2017年2月27日-3月2日)で、県内の14の市町の海岸で合計962個のポリタンクを回収した。そのうちの57%に当たる549個にハングル文字が書かれ、373個は文字不明、27個は英語、10個は中国語、日本語は3個だった。沿岸に流れ着くのはポリタンクだけではない。漁具や漁網、ロープ、ペットボトルなど、じつに多様なプラごみが漂着する。去年はロシア製の針つきの注射器が大量に流れ着いて全国ニュースになった。医療系廃棄物の不法投棄は国際問題だ。

   大陸側に沿って南下するリマン海流が、朝鮮半島の沖で対馬海流と合流し、山陰や北陸など日本の沿岸に流れてくる=写真・上=。とくに能登半島は突き出ているため、近隣国の漂着ゴミのたまり場になりやすい。2021年の奥能登国際芸術祭の作品づくりのため能登を訪れたインドの作家スボード・グプタ氏は能登の海岸に大量の海洋ごみが漂着していることに驚き、地域の人たちの協力でごみを拾い集めて作品を創った=写真・下=。作品名「Think about me(私のこと考えて)」。大きなバケツがひっくり返され、海の漂着物がどっと捨てられるというイメージだ。日本海の汚染対策条約が今こそ必用だと実感している。

⇒7日(土)午前・金沢の天気    くもり  

★アートとSDGs

★アートとSDGs

   前回の能登半島の珠洲市で開催された「創造都市ネットワーク日本(CCNJ)現代芸術の国際展部会シンポジウム」の続き。シンポジウムの前半は奥能登国際芸術祭の総合ディレクター、北川フラム氏の基調講演。後半は「里山里海×アート×SDGsの融合と新しいコモンズの視点から」をテーマにパネル討論だった。このテーマのキーワードは「里山里海×アート×SDGs」。能登半島は2011年に国連食糧農業機関(FAO)から世界農業遺産(GIAHS)に認定された。そのタイトルが「能登の里山里海」だった。さらに市は独自に2017年に奥能登国際芸術祭を開催し、2018年には内閣府の「SDGs未来都市」に登録されるなど、「持続可能な地域社会」を先取りする政策を次々と打ち出している。

   討論会のファシリテーターは自身が務め、パネリストは泉谷満寿裕珠洲市長、国連大学サスティナビリティ高等研究所OUIK事務局長の永井三岐子氏、金沢21世紀美術館学芸部長チーフ・キュレーターの黒澤浩美氏、金沢市都市政策局SDGs推進担当の笠間彩氏の4人。前回のブログの冒頭でも述べた、「アートとSDGsは果たしてリンクできるのか」とパネリストに投げかけた。里山里海とアートはこれまでもこのブログで紹介してきたようにインスタレーション(空間芸術)でつながる。SDGsは貧困に終止符を打ち、地球の環境を保護して、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを呼びかける国連の目標だが、SDGsの17の目標の中に「アート」「芸術」という文字はない。

   アートとSDGsは果たしてつながるのか。すると、討論の中で「アーチストもSDGsをどう創作・表現するか迷っている」という言葉が出た。ハタと気がついた。アーチストもSDGsを表現しようと試行錯誤している。珠洲市は「SDGs未来都市」に登録されている、作家もそのコンセプトを表現しようとするはずだ。思い当たる作品が浮かんだ。

   インドの作家スボード・グプタ氏の作品「Think about me(私のこと考えて)」がある。大きなバケツがひっくり返され、海の漂着物がどっと捨てられるというイメージだ=写真=。プラスチック製浮子(うき)や魚網などの漁具のほか、ポリタンク、プラスチック製容器など生活用品、自然災害で出たと思われる木材などさまざまな海洋ゴミだ。ガイドブックによると、これらの漂着ごみのほとんどが実際にこの地域に流れ着いたものだ。地域の人たちの協力で作品が完成した。グプタ氏の創作の想いが海洋ゴミを無くして海の自然と豊かさを守ろうという意味と解釈すれば、まさにSDGsだ。

   奥能登国際芸術祭ではインスタレーションの視点で楽しんだが、SDGsの視線で作品を見たことはなかった。アートには無限の可能性や、社会を豊かに変えていくことができる芸術の力があるのではないか、と今さらながら感じ入った次第だ。

⇒22日(土)夜・金沢の天気      くもり

☆「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~4~

☆「さいはて」のアート 美術の尖端を歩く~4~

     「奥能登国際芸術祭2020+」では海の環境問題をテーマにした作品を鑑賞した。大陸と向き合う能登半島の海沿いは「外浦(そとうら)」と呼ばれる。その外浦の笹波海岸にインドの作家スボード・グプタ氏の作品「Think about me(私のこと考えて)」がある。大きなバケツがひっくり返され、海の漂着物がどっと捨てられるというイメージだ=写真・上=。プラスチック製浮子(うき)や魚網などの漁具のほか、ポリタンク、プラスチック製容器など生活用品、自然災害で出たと思われる木材などさまざまな海洋ゴミだ。ガイドブックによると、これらの漂着ごみのほとんどが実際にこの地域に流れ着いたものだ。

    日本海の海洋ごみ問題を訴える「Think about me」

           前回(2017年)の奥能登国際芸術祭でも同じ海岸で、深澤孝史氏が「神話の続き」と題する作品=で、この地域に流れ着いた海洋ごみを用いて、神社の鳥居を模倣して創作した=写真・下=。古来より、強い偏西風と荒波に見舞われる外浦の海岸には、大陸から流れ出たものを含めさまざまな漂流物が流れ着く。大昔は仏像なども流れてきて、「寄り神」として祀られたこともあるが、現在ではそのほとんどが対岸の国で発生したプラスチックごみや漁船から投棄された漁具類だ。

   データがある。石川県廃棄物対策課の調査(2017年2月27日-3月2日)によると、県内の加賀市から珠洲市までの14の市町の海岸で合計962個のポリタンクが漂着していた。ポリタンクは20㍑ほどの液体が入るサイズが主で、そのうちの57%に当たる549個にハングル文字が書かれ、373個は文字不明、27個は英語、10個は中国語、日本語は3個だった。ポリタンクだけではない。医療系廃棄物(注射器、薬瓶、プラスチック容器など)の漂着もすさまじい。環境省が2007年3月にまとめた1年間の医療系廃棄の漂着は日本海沿岸地域を中心に2万6千点以上あった。

   漂着物は目に見える。もっと問題なのは一見して見えない、大きさ5㍉以下のいわゆる、マイクロプラスティックではないだろうか。ポリタンクやペットボトル、トレーなどが漂流している間に折れ、砕け、小さくなって海を漂う。マイクロプラスチックを小魚が飲み込み、さらに小魚を食べる魚にはマイクロプラスチックが蓄積されいく。食物連鎖の中で蓄積されたマイクロプラティックを今度は人が食べる。単なるプラスティックならば体外に排出されるだろうが、有害物質に変化したりしていると体内に残留する可能性は高いとされる。

   ポリタンクや医療系廃棄物の不法な海洋投棄は国際問題だ。「地中海の汚染防止条約」とも呼ばれるバルセロナ条約は21ヵ国とEUが締約国として名を連ね、1978年に発効した。条約化を主導したのは国連環境計画(UNEP)だった。UNEPの研究員アルフォンス・カンブ氏と能登の外浦で意見交換したことがある。そのとき、彼が強調したことは日本海にも汚染防止条約が必要だ、と。あれから15年余り経つが、汚染はさらに深刻になっている。日本海の汚染防止条約が今こそ必用だと実感している。スボード・グプタ氏の作品は海洋汚染を「自分事」として考えることが必要だと訴えているのではないか。「Think about me」と。

⇒8日(水)午前・金沢の天気     あめ