★能登さいはての国際芸術祭を巡る~2 丘の上のアート
急な坂道を車で上り、丘の上に立つと眼下に日本海の絶景が広がる。芸術祭のために造られた「潮騒レストラン」に入る=写真・上=。水平線で区切られた空と海のコントラストを眺めながら、食事や喫茶ができる。地元の海で採れるアオサノリとサザエを具にしたパスタは海の香りを漂わせる。
このレストランですごさを感じるのは一見して鉄骨を感じさせる構造だが、よく見るとすべて木製だ。公式ガイドブックによると、ヒノキの木を圧縮して強度を上げた木材を、鉄骨などで用いられる「トラス構造」で設計した、日本初の建造物となっている。日本海の強風に耐えるため本来は鉄骨構造が必要なのかもしれないが、それでは芸術祭にふさわしくない。そこで、鉄骨のような形状をした木製という稀にみる構造体になった。これもアートだ。
海岸線に沿うように長さ40㍍、幅5㍍の細長いレストランを建築設計したのは建築家、坂茂(ばん・しげる)氏。被災地や紛争地で支援活動を続ける建築家としても知られる。ことし5月5日に震度6強に見舞われた珠洲市で、被災した人々
に避難所用の「間仕切り」を公民館に設置した。現地で見学させてもらったが、ダンボール製の簡単な間仕切りだが、透けないカーテン布が張られ、プライバシーがしっかりと確保されていた。
このレストランの横に旧・小学校の体育館を改修した「スズ・シアター・ミュージアム」=写真・下=がある。同市の文化の保存活用のため2021年に開業した民俗博物館。家庭で使用されてきた生活用具を集約し、展示・紹介するとともに、アーティストらによる物語が展開される体験型の施設だ。この地に根付く農林漁業の生業と生活文化、民具、民謡、祭囃子が映像や光、音とともに空間に響き渡る。
⇒26日(火)午後・金沢の天気 くもり時々あめ
このミュージアムのコンセプトは「大蔵ざらえプロジェクト」。珠洲は古来より農業や漁業、商いが盛んだった。当時の文物は、時代とともに使われる機会が減り、多くが家の蔵や納屋に保管されたまま忘れ去れたものが数多くある。市民の協力を得て蔵ざらえした文物をアーティストと専門家が関わり、博物館と劇場が一体化した劇場型民俗博物館としてオープンした。会場そのものも、日本海を見下ろす高台にある旧小学校の体育館を活用している。
てなしに使われた朱塗りの御膳などが並ぶ。地域の歴史や食文化を彷彿させる=写真・中=。「唐箕(とうみ)」が並んでいた。脱穀した籾からゴミを取り除く農具で昔の農村では一家に一台はあった。それを並べて陳列することで、農村の風景が蘇る。そのほか、1960年代の白黒テレビや家電製品も並ぶ。